「敵は撤退したらしい。」
「そうなんですか?」
「今回の侵攻はこちらの戦力を減らすことが目的だと大本営は判断した。実際に、絶対防衛線には近づこうとしなかったらしい。」
「それって・・・絶対防衛線の位置がばれているということでは?」
「深海棲艦は、これまでに何度も本土に攻撃をしている。学習したのだろう。どこまで近づけば沿岸砲に砲撃されると。ただ、あれだけの大艦隊を投入したにも関わらず、なぜ一気に押しつぶそうとしなかったのか。九州南部に侵攻してきた艦隊の半分は戦闘海域鳥も南方で待機していた。それに、今回の敵の動き自体、不可解なことが多すぎる。別動隊の突然の進路変更。あれは九州南部で害劇に出た艦隊を挟撃するためのように感じられるが、だとしたらなぜ、待機させていた艦隊を出さなかった?」
「佐世保の艦隊との決戦を避けるためではないでしょうか?佐世保鎮守府の保有する戦力は非常に大きいですし。」
「それもあるだろう。ただ、佐世保も沖縄の防衛で消耗している。あそこに、ここの瑞鶴のような存在がいないのなら、戦力的にも、壊滅させることができたはずだ。なのに、なぜ、動かなかった・・・。」
「考えられることは、何かを警戒していた?」
「だとしたら、なにを?今の人類に、あれだけの大艦隊を壊滅させられるような兵器は存在しない。艦娘も存在しない。
「奴らの目的は一体、何なのでしょうね。」
「分からん。ただ、これが陽動だとしたら、相当まずいことになっているかもしれない。今回の侵攻で、九州の戦力は減少した。おそらく、呉や舞鶴から支援が送られるだろう。だとしたら・・・」
「東日本に回せる戦力が減少する。」
「そうだ。横須賀が以前の状態だったら問題はなかっただろうが、今はこんな有様だ。それに、東北、北海道の大型の拠点が少ない。仙台なき今、東日本の防衛はほとんど不可能だ。」
「いくら円卓の騎士がいるといっても、範囲が広すぎてカバーしきれませんよね。」
「そうだな。これがもし、九州南部の戦力が壊滅していたら、こちら側への増援はほぼ不可能になるだろう。そんな時にあの規模で攻められたら・・・。」
間違いなく、壊滅する。
「提督、深海棲艦が次に侵攻するとしたら、どこになるか、などの予想は?」
「全くわからん。可能性が高いのは、戦力が全くない仙台か、大本営に近い横須賀、千葉のあたりだ。流石に北海道は遠すぎるだろう。もしかしたら、仙台で陽動をかけて、本命は関東、なんてこともあるかもしれないな。」
「・・・汚染海域の影響からか、大規模な南岸低気圧が発生しています。それに隠れてくる可能性があります。」
「低気圧が来る前に侵攻するなら関東、後なら仙台だな。警戒を緩めるな。いつでも出れるようにしておいてくれ。」
「はい。」
***
結局、昨日は何もなかった。嵐の前の静けさってやつかしらね。昨日の作業は全部終わったし、後はエンジンの試験結果を聞くだけだ。
「どう思う?瑞鶴。」
「さぁ?ま、こっちには来るでしょうね。あんな大攻勢を仕掛けておいて、何もしないで帰るなんて、ね。」
「来るとしたら、今日か明後日までかな。」
「低気圧が発生してるらしいしね。それに乗ってくるならそれくらいでしょ。」
「戦いのあとは雪かな?」
深海棲艦との戦争が始まって25年、世界人口は激減し、経済活動が縮小した影響で温室効果ガスの排出が減り、さらに、南半球では異常気象が続いている影響で世界の平均気温は低下。南半球にはもはや光は届かない。ここ数年の深海棲艦の勢力の急拡大で、北半球の中緯度地域でも、気象の乱れが激しくなってきた。一時期は避難用の乗り物や艦娘用燃料の使用増加で温暖化が加速したけれど、今はもう、温暖化なんて言葉が消えかかっている。だから、11月に関東南部で雪が降るなんて、別に大したことではなくなっている。
「試験結果、まとめ終わったぞ。」
「そう?ありがとう。どうだった?」
「まず、一番大きな問題なのが、クランクシャフトに亀裂が入っていたことだな。36時間もぶっ通しで全力運転をするなんてことはないだろうから大丈夫だとは思うがな。」
「でもしばらくは注意してた方がいいね。エンジンを大量に持って行って、いつでもすぐに換装できるようにしておかなくちゃ。」
「後は、二列目のシリンダーの一部が熱で変形していた。これは冷却の問題でもあるな。」
「エンジンカウルと吸気口を工夫するしかないね。冷却器も改良できるかやってみて。」
「分かった。異常といえばそれくらいだな。」
「分かったわ。ありがとう。」
「クランクシャフトはどうにかしておかないと。」
「それもやっておく。」
「よろしくね。」
今回試験したのは、新型のハ-51を改良したもの。前回の試作エンジンは、直径を無理やり小さくするために、シリンダーごと小さくしたおかげで出力が微妙になってしまった。前回は、一列当たりのシリンダーが11機で二列だったが、今回は、8機に減らし、それを三列に変更したものだ。これで、誉とほぼ直径を変えずに、さらなる出力の向上を目指した。目標出力は離床2,680hp、高度10,000で2,400hpは出したい。今のところ、2,640hpまでは実現している。後は回転数や過給機の調整で出力を上げる。水メタノール噴射装置は載せていない。理由はただでさえ重いエンジンがさらに重くなるからだ。これ以上重くなると、米軍機みたいな事故が起こりかねない。それに機動性だって下がる。今制作している戦闘機は、とにかく世界最強のレシプロ戦闘機を目指している。制空戦闘、爆撃機護衛、重爆撃機迎撃、対艦攻撃、対地攻撃。そのすべてを、世界最高水準にする。そして、P-51を超える。高高度性能、上昇能力、最高速度、火力、防御力、加速力、失速耐性、急降下耐性。そして、零戦を上回る機動性。すべてを超える。エンジンの整備性はアツタや誉よりも、悪くなるだろう。量産性も最悪だろう。だけど、少ない戦力で戦果を最大にするために。なにより、もう、何も失わないために。
鎮守府に、警報が鳴り響く。
「意外と早く来たね。まだ朝なのに。」
いや~、今度は風邪を引いちゃってね…。今年に入ってからずっと体調不良だよ〜。こんなんで大会だのテストだの、乗り越えられるでしょうかねぇ。気をつけます。皆様も、急に暑くなり、体調を崩しやすくなる時期ですので、体調には気をつけてください。