白く染まる世界   作:快晴Ⅲ

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第一話

2044年8月12日 リンガ泊地

「ここはもうだめだな。」

2年前から始まった深海棲艦の大規模攻勢により、戦線は崩壊しかかっていた。パラオとトラック島は既に撤退した。敵の目的はフィリピン、日本本土と南方の資源地帯の寸断だ。完全に孤立した。新型の深海棲艦の出現、そして我々の想像を超える物量、もうここは放棄したほうがいいのだが、提督は「本土と南方の輸送路を維持し、侵攻を食い止めるのだ」とか言っているが、お前は英雄にでもなろうとしているのか?もう完全に手遅れだよ。ここには自分を含め残り16隻しかいない。さらに戦艦は零、航空戦力は損傷した軽空母が一しかいない。脱出すら難しい。やれと言われればやれるが、敵の意識がこっちに向いたら、それこそこの泊地は終わる。役立たずとかお前らが弱いとかいろいろわめいているが提督、お前がまともな艦隊運用を行わなかったからだぞ。まぁ、頭の悪いあいつには分からないと思うがな。さて、急ぐか。脱出の準備を。もう人間は信用できない。バレないように、確実に、本土へ移動する。急がないとな、本当に本土から切離される。

 

2044年10月13日

 明日、リンガ泊地を出る。明日にした理由は二つ。一つ目は前回の敵の大規模補給から時間が空いていること。二週間置きに補給を行っていて、前回は10月4日、10日空いた。輸送船団は時々来ているが、補助艦艇合わせて2,000隻以上集まっている。物資の消費量は相当な量になるだろう。二つ目は、本土の艦隊がフィリピン奪還のために大規模攻勢を10月15日にかけることだ。敵戦力はおそらくフィリピン東方海域に集中する。本土戦力に期待はしていないが。ただ、やるなら明日しかない。本土戦力が敗れれば、敵は台湾や沖縄の攻略を開始するだろう。そうなったら、自分はともかく、他の艦娘が突破できない。もう、限界が近い。脱出を偽装するための別の作戦計画はもう提督に提出した。本土戦力が敵艦隊をフィリピン東方海域に引きつけたあとに敵輸送船団を叩くといった内容だ。明日の出撃で泊地の物資は尽きるだろう。自分を含め残り13隻、なるべく多く脱出させる。

 

2044年10月14日

 今日が実施日だ。この泊地に思い入れはない。今までの提督はほぼ全員クソだった。最初だけだったな、良かったのは。今回の提督はむやみに艦娘を沈めることはしなかった。そこだけは褒めてやろう。ただ、あいつは補給を軽視した。弾薬ゼロで出撃とか、バカなのか?あいつは。大破したら入渠させないし。まぁ、他のやつと大して変わらないか。今回はちゃんと燃料、弾薬は満載した。あいつもそこは分かってるか。

 さて、05:30、時間だ。

「全艦隊、抜錨、出撃せよ。」

俺を先頭に13隻の艦隊が単縦陣でまだ暗い海を航行する。内3隻が損傷してる。この3隻に本土到達は無理かな。

「よし、全員聞け。今から作戦の概要を説明する。」

「えっ?作戦って… もう説明されたけど…」

「いや、それじゃない。概要と言ってもほぼ沿岸しや島伝いに移動するだけだが。まず、目的はお前たちを本土に脱出させる。」

「っていうことは… あそこから離れられるっていうこと?」

「そうだ。そのための作戦だ。」

「じゃあ…じゃあ!もう、苦しまなくても…?」

「さあな。本土にも同じような提督がいるかも知れん。今までと変わらないかもな。」

「では、あなたはどうするのですか?それに、私達が脱出した事があの提督にバレたら絶対に面倒くさいことになりますよ?それに深海棲艦も多くいます。彼らがすんなり通すとは思えませんが。」

「それは大丈夫だ。今日は本土戦力がフィリピン東方海域に大規模攻勢をかける。深海棲艦の注意はそちらに向いているはずだ。提督に関しては俺が始末しとく。俺も陽動に行って、その後リンガ泊地に戻る。あとは提督達を殺して、重要資料を焼却、泊地ごと破壊する。その後に脱出する。お前らは味方に合流したら、泊地が壊滅して脱出したと言え。誰かが沈んでも止まるな。心苦しいかもしれないが無視しろ。とにかく進め、会敵してもなるべく振り切れ。いいな?」

「…分かりました。」

「変わる…かな?また同じだったら…」

「それでも、少しでも希望を持ちましょう。変わるように。」

「と、いうことだ、あとは頼んだ。」

「分かりました。…ありがとうございました。」

「…じゃあね。」

「急げ、早くしろ。」

 

「さて、行ったか。 …タイミングが難しいな。早すぎれば離脱しきれない。ただ、遅くなると襲撃されるかもしれない。電探も最高性能は発揮出来ない。対空電探は最大80kmといったところか。半分以下。対水上電探はもっと短くなる。40kmいったら御の字だな。」

 

「電探に感有り!12時の方向、距離36,000!数14!戦艦を含んでいる可能性大!」

「もうか…、クソ!早い!全艦、回避運動、面舵一杯!」

 

ドォン… ドゴォン!

直後、さっきまでいた場所に着弾。

「敵弾、着弾!至近及び夾叉無し!」

「全艦増速、砲雷撃戦用意、左砲戦展開。」

「了解!」

「速力35ノットに到達、これ以上は無理だ!」

「かまわん。敵艦隊に肉薄する!」

「駆逐艦4、前面に展開、まもなく射程圏内!」

「主砲照準固定、距離23,000、仰角調整、砲撃用意!」

「砲撃用意!」

「射程圏内に到達。」

「全艦、攻撃始め!」

「打ちーかたー始め!」

ダァン、ダダァン!

「再装填急げ、第二射用意」

「第二射用意!」

「ってーー!」

ダァン、ダダァン!

「駆逐艦撃破!さらに軽巡2、駆逐艦2接近!」

「主砲1番2番は引き続き小型艦を狙え。3番4番は戦艦を狙う。左水雷戦用意!」

「了解、10時の方向前部1番から4番、続いて後部1番から4番発射用意!」

「魚雷発射用意!」

 

「敵戦艦接近、距離9,000、  …8,5000、  …8,000、  …7,500、  …7,000、  …6,5000!魚雷発射用意!」

 

「魚雷、発射!」

「ってーー!」

白く伸びる航跡、一直線に戦艦に向かっていく。 そろそろ、という時、

「水柱を確認!直撃、前方3、後方4、敵戦艦、速力低下!」

「了解、このまま離脱する。」

すると、2隻の駆逐艦が立ちはだかる。

「邪魔だ…!」

腰につけている刀を抜く。そして…

「ッシ!」

鋭く息を吐きながら刀を振るい、きり裂いた。

「全速離脱!」

 

18:45 リンガ泊地

提督室

コッコッ

「…入れ」

「失礼します。」

「んで、どうだった?」

いきなり聞いてくるか。今さら隠す必要もない。ただ事実をいうだけだ。

「まず、戦果です。戦艦4、重巡3、軽巡3、駆逐艦17撃破です。」

「ホォー、なかなかやるじゃないか、さすがはこの俺が育ててきただけあるな。」

別にお前に育てられた覚えはないけどな。

「次に、こちらの損害ですが…、 私を除き、全艦沈没です。」

「はぁ? …おい、どういうつもりだ?俺が育てた艦隊が全滅?お前が立てた作戦だろう、どうしてくれる!」

「確かに、作戦の立案は私ですが、承認したのは提督ですよ?」

「うるさい!口答えをするな!お前は懲罰房に行ってろ!おい!話を聞いてるのか!」

情緒不安定か?なんか色々喚いているが無視して拳銃を抜く。お前の話?誰が聞くか。

そして、頭に銃口を向け一度、引き金を引いた。衝撃、静寂

「なんだ今の音は!提督か?」

憲兵だな。3人か?まあいい。

ドアが開く。引き金を3回引く。全員倒れる。

「さて、あとは整備員合わせて23人だったかな?すぐに終わらせるか。」

 

2044年 10月15日

「これで、重要資料の焼却は終わりっと。向こうはどうかな?」

「おーい、終わったかー?」

「あぁ、今ちょうど終わったところだ。」

「わかった。こっちも設備の移転が全て終わった。あとは残りの資材の運搬だけだ。と言っても、量が少ないからもうすぐ終わる。今はゆっくりしてもいいだろう。」

「その後は、建物を破壊して、周辺海域の掃討をやったら本土に向かう、だな。 …19年か… 長かったな。結局、人間に初めて会ったのはここに来てから7年くらいした時だったな。あの頃はどんなものか分からなかったが…、まさか、こんなに欲深い連中だとはね。」

「こんなんで、戦争に勝てるのかねぇ? 君はこれからどうしたい?」

「それは…、本土にいったらっていう意味では無さそうだな。結局戦い続けることになるだろうから。…そうだな…、深海棲艦との戦争が終わったら、人類を滅ぼすことにするよ。そのほうがこの星にとってもよさそうだ。で、人類を滅ぼしたら俺も沈む。」

「そうか…、理由を聞いても?」

「結局さ、深海棲艦も艦娘も人類の戦争で沈んだ船や人間の怨念や魂だろ?人類はそのツケを払わされている状態じゃない?今って。そのツケの回避のために艦娘が存在しているのなら、俺達は人間の身勝手に付き合わされている。人間同士で殺し合って、この星を傷つけて、地球が人間に牙をむいたら今度は全力で反抗する。艦娘は人間のために戦わされる。まあ、俺は人間よりも深海棲艦のほうが嫌いだけどね。あいつらがいなければ俺は生み出されることもなかったし、人間と協力することもなかった。だから、深海棲艦を滅ぼすまでは、人間と協力する。しなきゃ、勝つことすら出来ない。その後は敵だけどね…。」

「そうか…。」

 

「…一つ気になることがある。」

「なんだ?」

「5年前のことだ。」

「っ…それがどうした?」

「あの時、俺は確かに沈んだ。今でもその感覚が残っている。」

「……気の所為じゃないか?あの時は自沈未遂をするほど追い詰められていた。幻覚でも見たんじゃないか?」

「…そうか。…確かに、あの時の俺はかなり追い詰められていた。伊澄も沈んで…。」

「…あまり気にしすぎるな。」

「今でこそ慣れたが、あの空気感は異常だった。」

「その慣れも異常だがな…。」

「…もういい。移動する準備をしよう。」

 

 




長くなってしまいました。一話で完結させたくて…。
次はいよいよ2045年の日本です。
新たな仲間、新たな敵、新たな生活が始まる。
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