白く染まる世界   作:快晴Ⅲ

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第四十六話

「中国が、全ての海を失ったか。」

「ああ。大本営も、補給線への攻撃や中国の援護などを計画しているが、本土防衛もかなり厳しいことになっている。どちらも、非現実的ではないが、現実的ともいえない。」

「難しいところだな。このまま日本が放置すれば、山東半島の方は大丈夫だろうが、遼東半島を突破され、北朝鮮に流れ込まれたら、対馬海峡を通らずに日本海に艦隊を展開することができる。日本海での海上輸送に頼っている日本からすればこれは死活問題だ。だが、今攻撃のために艦隊を編制して、本土防衛を疎かにすれば、本土上陸の可能性も出てくる。今の北朝鮮は無政府状態だ。せめて韓国が統一できればよかったのだが、中国が変に圧力をかけて、中途半端な状態で維持させてる。だが、中国が本気で支援すれば、国際的な孤立を深めて、連携に穴が開く可能性も出てくる。半島を統一できず、中国が支援を行わず、そして行えず。こんな時にもなって、人間は何をやっている。」

「そうだな。人類は、こんな時になっても、一つになれない。」

海に目をやる。遠く離れた海上では、艦娘が訓練をしている。

「何か対応は?」

「現在は、敵の補給線の破壊と、海上での上陸部隊の撃滅を計画している。ただ、九州の方では、二日連続で大規模な戦闘があったから、かなり消耗はしているだろう。」

「俺が行っても・・・いや、魔女の所在が分からない以上、下手には動けないか。えっと・・・何だっけ、第一世代?がいるから、ある程度は大丈夫だろうがな。」

「そうだといいが、昨日長門は、手も足も出なかったと言っていたからなあ。」

「確かに、昨日は俺もあいつの近くで見ていたが、見事に遊ばれていたな。ま、昨日散々に言ってやったから、あいつが馬鹿じゃない限り、変わるだろう。」

「なんか知らない話だなぁ。それはそうと、白霜は訓練はしないのか?今やってるぞ?」

「俺は、あいつらと同じ訓練をしても意味がないからな。」

「そんなことはないだろう。確かに白霜は強いだろうが、毎日の訓練が、さらに技量を成長させる。そして、自分の動きや戦い方をさらに発展させることができる。訓練をおろそかにしてはいけないぞ。」

「ああすまん。そういう意味で言ったんじゃない。それぐらいなら俺だって、毎日やっている。言葉が足りなかったな。俺は、普通の駆逐艦ではない。確かに艦種は駆逐艦だが、厳密には違う。艦隊型駆逐艦と防空駆逐艦という違いがあるように、俺もまた、違う。」

「だとしたら、なにになるんだ?」

「正式な艦種というわけではないのだが、俺は”殲滅型重駆逐艦”。特型や甲型が、敵艦隊の漸減を任されているなら、俺は文字通り、敵艦隊の殲滅を行う。駆逐艦としては異様に大きく、排水量3,000t以上の船体に、5,500t型を上回る武装量。そして、他の追随を許さない、最高50ノットの速力。そして、戦艦を上回る航続距離。1隻ですべてを完結させる。」

「・・・どんだけ詰め込んでるんだ。艦隊の殲滅なんて、1隻の駆逐艦にやらせるようなことではないと思うんだが。」

「仕方ないね。まあ、駆逐艦1隻で複数の戦艦を擁する艦隊を壊滅させることができたら、コストパフォーマンスは最高だろうな。安価なドローンが高価な戦車を破壊するのと同じように。」

「それもそうか。だけど、無理はするんじゃないぞ。沈まれたら困るからな。」

「・・・そうか。悪いが、無理をするな、というのは受け入れられないな。」

「なんでだ?」

「俺の戦う目的は、死ぬこと。つまり、沈むことだ。俺は、わずかでも生きる希望を見つければ全力で足掻くが、希望がなければ、できるだけやってから、潔く沈むさ。」

「どうして・・・?生きれば、また挑戦することができる。帰れば、また行くことができる。そんな、沈む必要なんてないだろう。どうしようもない状況にあるならば、逃げたっていい。何度も何度も挑戦して、最終的に勝つ方が負けて沈むよりもずっといいだろう。」

「提督はさ、本当に艦娘のことを、大事にしてるんだな。ここに帰ってきて、思ったよ。空気が変わったって。確かにまだ、以前の暗い雰囲気は抜けきっていない。でも、ここにいる艦娘の顔は確かに、明るくなっている。死ぬなよ。お前が、本気で艦娘を守りたいと思っているのならば。」

「当たり前だ。俺は、この日本海軍の中に浸透している、人間主義の思想を変える。白霜も同じだ。今まで大変だっただろう。だが、それを俺が変えてやる。今まで、なにを感じて、なにを考えて生きて、戦ってきたのかは知らないが、俺は、いつでも帰って来たいと思える鎮守府を、日本を作る。だから、そんな沈むなんて言うな。もし沈んでしまったら、何もできなくなる。だから、どんなに絶望的な状況でも、生きる希望を失うな。逃げたっていい。むしろ逃げてほしい。俺は、君含めて、艦娘が沈むことに耐えられないから。」

「・・・ありがとう。だけど、その願いは、やっぱり聞き入れられない。今まで、どれだけの艦娘が、お前ら人間の都合で沈んできたと思っている。俺が、どれだけの艦娘の沈没を見てきたと思っている。もう、感覚が麻痺している自覚はある。艦娘の沈没、そして自分の沈没に、なんの抵抗もなくなった。逃げられる状況でも、人間が、提督が、許さなかった。俺だけが、逃げて生き残ることなんてできないさ。逃げれずに沈んでいった艦娘は、逃げて生き残っているやつを見て、どう思うだろうな。今はもう、沈んだ艦娘の数を数えることもやめた。名前を覚えることもやめた。これが、今の俺だよ。もう、誰が沈もうが関係ない。」

「そんな・・・ことは、思わないでくれ。今からでも、変えられる。俺も、全力で協力する。だから、一緒に、変えよう。」

「この日本を変えることができても、俺はもう変えられないさ。お前が、俺の最初の提督だったら、今の俺は、まったく別だったんだろうな。人間と接触し、リンガ泊地に着任してから、何回も提督が入れ替わったが、全員、醜いやつだった。そして、希望をかけていた本土でもこのありさま。人間と接触して、まだ15年ぐらいだが、絶望するには十分な時間さ。なんで、俺たちはこんな連中のために戦って、沈まなければならない?俺はさ、こんな人間は、滅べばいいって、そう思っている。まぁ、それ以上に深海棲艦が嫌いだから、今は人間に協力してるけど。」

「それは・・・本当にすまない。本来提督は、艦娘を指揮し、守るための存在だというのに、鎮守府という閉鎖的な環境が、勘違いを発生させ、それが、艦娘に対する不当な扱いにつながった。もっと早く気づくべきだというのに、気付けなかった。」

「提督が謝る必要はない。あいつらとは違うからな。別の人間が謝罪したところで、なんの意味もない。全ての人間があんなんだとは、思ってはいない。ただ、運が悪かっただけだ。」

「そうか・・・そうだな。はぁ。悪いな。話が長引いてしまった。俺から伝えたいことはもうないから、もう行くよ。白霜は何かあるか?」

「何もないな。」

「そうか。分かった。」

 

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