「そうです。そのまま風下に向かって、まっすぐに進み続けてください。あなたが揺れれば、航空機は着艦できません。自分の船体構造を理解し、揺れを抑えてかつ、高速で。」
「は、はい。」
航空機着艦訓練。狭い空母の甲板に着陸し、正確に着艦フックを制動索にひっかけなければならない。そのため、非常に高い技量が求められる。そして、艦娘と飛行妖精との精密な連携と高い信頼関係があって、初めて成り立つ。今は、どちらかというと、長いブランクから開けたばかりの翔鶴の訓練の方をメインにやっている。
「飛行甲板、揺れていますよ。しっかりと動かないように保持してください。」
「はい!」
翔鶴型航空母艦は、高速発揮のために、全長に対して全幅がかなり狭いため、高速航行時の横揺れがひどい。その揺れを足で抑制して胴体に伝えないようにし、体幹を意識して、体が動かないようにする。これを、着艦してくる航空機を見て、自分の位置を調節しながら行う。航空機に乗っているパイロット、つまり、飛行妖精は、総飛行時間10,000時間超の熟練パイロットであるため、ほぼ気にしなくていい。
「飛行妖精さんを信じてください。」
左腕の装着している飛行甲板に模した艤装に、航空機が触れ、停止する。エレベーターで、航空機が格納されていき、次が下りてくる。今この鎮守府で、空母着艦が可能な練度を持つ飛行妖精は、瑞鶴と瑞鳳の航空隊を除き、たったの7人だけ。それ以外は、離陸もできない新人ばかり。今は、残っていて、損傷していた零戦を修理して訓練をしている。
「よくできましたね。ですが、これをどんな状況でも、そして、飛行妖精さんが誰であっても、できるようにならないといけません。今日はこれで、訓練を終了します。今日の課題を整理して、次に生かしてください。」
「はい。ありがとうございました。」
***
「そのまま単縦陣を維持!全艦、統制砲雷撃戦用意!」
川内を先頭にして、雪風、初風、時雨、夕立が続く。初風は、この四人の中では、最も最近に建造された艦娘であるが、かなり昔からいた陽炎や雪風と一緒に駆逐隊を組んでいたため、練度は三人にも引けを取らない。相手には、木曽を先頭に、秋雲、深雪が続く。これは実戦と似た環境を再現して行う水雷戦闘訓練。今は、実力と必要な訓練内容を見極めるために簡単なことをやっているが、複雑な動きをしても問題ないところまで来ている。
「敵艦発砲!」
「統制回避、おーもかーじ!」
その声とともに、一切陣形を崩さずに進路を変更し、砲弾を回避する。
「反撃開始!第一射、撃て!」
反撃の砲撃を行う。当然ながら、よけられる。
「魚雷発射位置到達しました!」
「魚雷戦用意!進路変更とーりかーじ!」
魚雷発射のために、側面をさらして、攻撃態勢に入る。ここで、初風がわずかに遅れた。流石に経験の差や疲労が現れたか。
「全艦、魚雷、撃ち方はじめ!」
木曽達に向かって、白い筋が何本も伸びていく。
「主砲、撃ち方始め!魚雷の間をよく狙って!丁寧に!」
魚雷回避のために動くことを予想して、砲撃をする。何発かが直撃して、模擬弾の中に入っているインクが弾ける。
「模擬戦闘、そこまで!」
その声と同時に、攻撃をやめる。
「みんな!すごいじゃん!」
いくら、円卓の騎士が手を抜いているからといっても、砲弾を直撃させた。もちろん、川内は一切攻撃をしていない。
「初風ちゃん、よく頑張ったね。」
「最後の最後に遅れたわ。こんなんじゃだめよ。」
「初風ちゃんは、建造されてまだ6か月しか経っていないんでしょ?差が出ちゃうのは当然だよ。ここまでよくこのペースについてこれたね。」
「一人の遅れが艦隊の生死を決定づけることもある。許容できるものじゃないわ。」
「それをこれからの訓練で補うんだよ。頑張ろうね。」
「・・・そうね。」
すでに日が傾き始めている。いくらかの休憩をはさんではいるが、今日だけでもう、6時間はやっている。
「みんな、帰るよ。今日はこれでおしまい。ストレッチや体操は各自でやってね。休憩も訓練の内だよ。」
「はい!ありがとうございました!」
「雪風、あんたは元気ね。」
初風は意外と息を切らしている。
「そんなことはないですよ!私だってとても疲れていますし、お腹もすきました!」
よく見ると、雪風の肩も、わずかに上下している。長い期間戦ってきた雪風でも、疲れる訓練なのだ。
「みんな早く戻ろうぜー。早くご飯食べたいよー。」
深雪がせかしてくる。そして、全員で鎮守府に戻っているときに、白霜とすれ違った。肩には、巨大な何かを担いでいる。
「ねぇねぇ、その肩に担いでいるのは何?」
「ん?これ?」
「そうそれ。どう見ても艦娘が持つようなものじゃないと思うんだけど。」
明らかに重そうで、体格に不釣り合いなもの。
「簡単に言えば、20.3cm砲。」
「はあ⁉え?白霜って駆逐艦だよね?なんで重巡とおんなじ砲を持ってんの?」
「駆逐艦の主砲じゃ、貫通力の限界が速いからな。紺ぐらいあれば、重巡の弾薬庫程度、簡単に打ち抜ける。」
「いくら何でもオーバースペックでしょ。」
「もちろん、最初に撃った時はタダじゃ済まなかったさ。反動で肩が砕けて、後ろに吹っ飛んだからな。」
「今は大丈夫なの?」
「大丈夫だ。そうでなかったらこんなの使ってない。」
「た、確かにそうだね。」
「まあ、まだまだ扱いが難しい代物だが、かなり重宝してるぞ。」
「なんでそんなもの持って、なんともないの?」
「バグというか矛盾というか・・・、まあそんな感じのを突いている感じだ。」
「どんな感じなの?」
「例えば、お前が一丁の拳銃を持って海に出たとする。そこで何か航行や戦闘に支障は出るか?」
「いやでないけど。」
「なら、その拳銃を、一つの艤装として扱えば?」
「んー、それ相応の砲として乗るわけだから、重くなる?」
「半分正解ともいえるな。」
「どういうことなの?」
「もともとその拳銃は、艤装とは一切関係がなかったものだ。そして、俺たちは船。そんな小さなものを一丁持ち込もうと、大したことはない。あるとすれば、手が塞がるくらいだ。だが、その拳銃を艤装として扱った場合、その拳銃はそれ相応の砲として換算される。ではなぜ、同じ拳銃でも扱いを変えただけでこんな差が出てくるのか。ここまでは分かるか?」
「同じ拳銃でも、ただの拳銃か、換算された砲かで違うってこと?」
「そうだ。そしてその差は、扱いによって変化する。ここだよ。重要なのは。これはもともと、20.3mmの機銃として設計した。人間にとってはそれでも大きいが、船である俺達からしたら、大した障害とはならない。俺はこれを、普段は20.3mmの機銃として扱っているが、撃つ瞬間だけ、20.3cm砲として扱っている。扱い方を一瞬で切り替えてるわけだ。」
「なにそれ・・・。チートじゃん。」
「それは知らん。これはただ敵を沈めるためだけに作ったものだからな。」
「ねえそれってさ!私たちにもできるかな⁉」
「知らん。頑張ればできるんじゃないの?保障はしないが。それに、一瞬だとしても、自分にとって規格を外れた装備を扱うことになる。本来の艤装や自分の体に大きな負荷がかかって危険だ。あまりお勧めはしない。」
「そうなんだ。例えばどんな?」
「さっきも言ったが、骨折したり吹き飛んだり。あとは、重量に耐えられなかった場合、沈没する可能性も十分にある。」
「そんな危険なの・・・?よくできるね。」
「最初は苦労したさ。ある程度扱えるようになっても、実戦では全く当たらなかった。反動が強すぎて照準をずれる。今は大丈夫だが。」
「かなり訓練したんだな。でも魚雷があるから、わざわざそんなもん持たなくてもいいんじゃないか?20.3cmじゃあ戦艦は撃ち抜けないだろうし。」
「戦艦を沈めるためだよ。魚雷は搭載数が少ない。だからこそ、無駄にはできない。魚雷を全て戦艦を沈めるために使って、他の装備で、重巡以下の艦艇を沈める。」
「そうなんだ。考えてるね。」
「考えなければすぐに沈む世界だ。」
「・・・そうだね。」
そういって、横を通りすぎていく。それを目で追って、後ろを見た瞬間、雪風たちが厳しい目で白霜をにらんでいた。
「じゃ、じゃあ鎮守府に帰ろうか!」
***
陸に上がり、艤装をしまってから秋雲達のところに行く。
「ねぇ。」
「うん、分かってる。川内は背中を向けていたから分からなかったと思うけど、あの四人、ずっと白霜をにらんでた。」
「前任の時代に何かありそうだな。かなり溝ができていそうだ。樹希は何か知らないかな?」
「聞いてみよう。」