白く染まる世界   作:快晴Ⅲ

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地獄の終わりと戦いの始まり
第三話


2045年 10月18日

 約二週間ぶりの帰投、二日に出撃して、全員沈んでからは帰らずにソロモン諸島に行っていた。本土侵攻の準備を少しでも遅らせるためだ。輸送艦を20隻くらい沈めたかな。最近ソロモン諸島での会敵が増えている。準備が着々と進んでいるのだろう。ただ、いくら報告しても提督は動こうとしない。やる気が全くないようだ。と、いうか、この状況すら理解できてないのでは?いっそのこと、提督を替えてもらった方がいいか?もう殺してもいいかな?提督を替えるには一番手っ取り早いが、そうしたら、周りの人間も始末する必要がある。一気にできるかな。全員殺したら俺はすぐに脱出したほうがいいか。早い方がいいか?今日やってしまおうかな。

 横須賀が見えてきた。あいつらの生死に興味はないが、あまり目の前では沈まれたくない。沈んだ報告もあまりしたくない。気が重い。誘導の妖精が出てきたが無視して埠頭に向かう。思いっきりジャンプして埠頭に飛び乗る。艦娘に何かあったときにすぐに引き上げられるよう、低く設計されているから飛び乗りやすい。歩きながら艤装を格納する。そのまま本棟、提督室に向かう。本当に気が重い。引き返したいが、そのまま歩く。…だいぶ恨まれてるな。そういうのは提督に直接言えと。みんな暇なのかな、そんな建物の陰から見てる時間を訓練に使えば沈まずに済むのに。…今ちょうど走っている航空母艦 瑞鶴みたいに。弓道場以外にいるなんて珍しいな。

「今、あんたが考えていること、当てて見ようか?私が弓道場以外にいるなんて珍しい、でしょ。」

「よくわかったな。お前を探す時は真っ先に弓道場に行くようにしてるし、そのたびにいるし。」

「私だって弓道だけをやっているわけじゃないわよ。それだけじゃ強くなれないし。」

「…はぁ。みんながお前みたいな性格してくれるといいんだがな。」

「あんたとは違うわよ。私は加賀さんを越えたいだけ。」

「それでも強さを追っていることには変わりない。…さっきから気配を消そうとしながら聞き耳を立てているそこの瑞鳳もな。」

航空母艦 瑞鳳、この鎮守府唯一の軽空母だ。本当は緑の服を着ているはずなのだが、彼女自身の戦闘スタイルとこの鎮守府の環境のせいで、青黒く染まっている。

「も〜、いっつもばれちゃうんだから。なんでそんなに気が付くのが速いの?」

「お前が気配を消すのが下手なだけだ。俺に気づかれないようにしたいなら存在ごと消す気でやれ。」

「無理でしょ、そんなこと。 …まぁ、確かにこの鎮守府では、強ければ戦力として必要とされるから、言外に沈めといわれることはないと思うけど。」

「ここにいる全員に気づいてほしいんだがな。」

「あんたはだいぶ嫌な役回りを押し付けられているからね。」

「おかげで処刑人なんて呼ばれてるよ。」

「みんなから結構恨まれてるよ?本当に淡々と沈めてくから。」

「こっちだって好きでやっているわけじゃない。恨むなら命令を出している提督を恨んでほしい。 ・・・まぁ、他人の生死に興味のない俺が適任すぎるというのもあるんだろうが。」

「そういう性格してるからねー。提督さん、結構気に入ってるよ。」

「本当に気持ち悪い。じゃあ、そろそろ報告に行くから。」

「頑張ってねー。」

「あんたもつらいわね。」

・・・

「あの人には悪いけど、あの役目を押し付けられなくてよかったよ。私がみんなから恨まれちゃう。」

「あの人がいなかったら、今頃瑞鳳が恨まれてるんじゃない?結構適任でしょ。以前もやってたし。私も何回かやったことがあるからわかるけど、本当につらいわよ。」

「そうそう。帰って来た時、すごい睨まれたもん。私だってあんなことをするために強くなっているわけじゃないし。」

「ほんっとにあの提督はクズだよ。なんで提督になれたかな。」

「さあ?でも数年前までは戦況が結構やばかったから、とにかく戦力を増やせ、みたいな空気感があったからねぇ。それに3年前に壊滅したラバウル泊地の若い提督が昇進して、英雄みたいになってるから、たとえ艦娘を沈めてもとにかく戦果を上げようって必死になってるんでしょ。」

「それは十分にあり得るわね。ラバウルの壊滅からまた戦況が悪化したから、その空気感を加速させたのかも。いわゆるゾンビ戦法ってやつね。これが効率悪いってことを提督達は分かっているのかしら。」

「分かっていないでしょ。いまだにやってるし。 …ところで、瑞鶴は走りにいかなくていいの?」

「そうね、そろそろ行かないと。じゃあね。」

「私もついてっていい?」

「あんたはまだ怪我が治ってないでしょ!最近怪我が多かったし、入渠もまともにしてないんだから、おとなしくした方がいいんじゃない?」

「大丈夫でしょ、もう10日たったんだし、いたくないからさ。」

「また痛くなって、傷が開いても放っとくよ。」

「いいよいいよ。勝手に走った私の責任だから。」

 

***

 

コッコッ

「白霜です。」

「入れ。」

いつもより低い声、不機嫌だな。めんどくさい。誰だよ。

「失礼します。」

部屋に入りざっと見まわす。羽黒がいないな。まぁ、今日はその方が好都合だ。

「報告にやって参りました。」

「さっさと済ませろ。」

「はい。まず、リストの五人は全員沈没しました。」

「そうか、他には?」

「ソロモン諸島海域に進出し、戦艦2、重巡4、駆逐艦26、潜水艦8、輸送艦20を撃沈です。」

「そうか。それで最後か?」

「はい。そうです。」

「それだけか。」

どんだけ戦果に飢えているんだ、命令の実行だけで帰ってきていいものを、さらに敵艦を沈めたんだぞ。お前はどれだけやれば満足するんだ。

「…少ないな。」

…うん。今日やろう。

「ご期待に応えられず、申し訳ありません。」

「お前はそれで許されると思ってるのか!」

急に机をたたきながら立ち上がり、怒鳴ってくる。つばが飛んできそうだからやめてくれ。

なんで不機嫌になったんだ。俺がいない間に何があったんだ。

…うん。今日やらないと後悔するな。

「だいたい、お前は人間様に仕えている自覚があるのか!このわしがいるから、お前はここに居られているというのに!前々から思っていたが、お前の態度にはわしへの感謝がこもっていない!」

誰がお前に感謝なんかするか。はぁ、もうやるか。

「おい!何とか言え!そして、ここにいられる感謝とそれに値する戦果を持ってこれない謝罪をしろ!」

うるさい、

右腰のホルスターに手を伸ばし、銃を抜き、提督に向ける。

「はあ?なんの真似だ!おい、憲兵!今すぐここにきてこいつを取り押さえろ!」

廊下から足音が聞こえてくる。まだ遠いな。

引き金を引くために力を入れた時、聞こえた。

「ん?」

車、トラックか?にしてはいつもの輸送トラックとは音が違う。それに数も多い。神経を研ぎ澄まし、外の様子をうかがう。鎮守府の正門前に止まった。そして、次々と人が車から降りてくる。

憲兵がドアを開け、取り押さえようとしてくる。襲い掛かってきた4人を殴り倒した。

「クソッ!」

そう言いながら廊下に出る。

「おい!待て!」

怒鳴られるが無視する。

数が多いな。

外に向かっていると、数人の小さい艦娘に出会った。にげてきたらしい。

「あっ、し、白霜さん!なんか、外に人がいっぱい・・・!」

適当に近くのドアを開ける。印刷室か、ちょうどいいな。

「いったんここに入ってろ。」

全員が部屋に入り、ドアを閉める。憲兵はもうこの建物に入ってくる。・・・来た!

「とまれ!」

銃を構えながら叫ぶ。

「鎮守府侵入許可証または面会許可証を提示しろ!」

「私たちは憲兵だ!この鎮守府を支配している悪しき人間を逮捕しに来た!銃を置いて手を挙げろ!抵抗するな!撃つぞ!」

「ならば逮捕状を提示しろ!それがなければ鎮守府への不法侵入として我々が貴様らを逮捕する!」

「お前に見せる必要はない!ここを通さないのならば構う必要はない!全員撃て!」

発砲される。艤装展開、一瞬だけ前面に防弾版を出して銃弾を防ぐ。

「なっ!防いだ!?まさか艦娘か!?」

反撃のために4発撃ち、二列に並んでいる内の前の四人の銃に当てて弾き飛ばす。

「いかにも、俺は艦息だ。この鎮守府全員逮捕か?」

「いや、艦娘は逮捕しない。そこを通してくれるか。」

「…逮捕状を提示しろといったはずだ。」

「分かった。 …これが逮捕状だ。」

「確認した。提督はここから四つ目のドアの部屋にいる。」

「分かった。」

そういって走っていった。そして、その場に残った人が一人。

「お前か?羽黒。」

「…なんで、助けなかったんですか?」

「助けるとして、どうやって?助けた後はどうする?そこまで考えたか?お前は何か行動したか?」

「…」

「だんまりか。いっつもそうだよな。結局人任せ。自分は安全なところから仕返しが帰ってこないところにわめくだけ。命令を変更してほしければ提督に言えと何度言ったらわかる?それに助けても、そいつは鎮守府にいることができない。どこに置いておく?負った傷は?直すための資材と施設は?ただかくまうだけでは、いずれ死ぬ。生かすにしても、残った全員に負担になる。お前はそこまで考えたか?ただ感情的になっただけか?」

「…そこまでは。」

「そうか…。 ただ、お前には他にも仲間がいるだろう。そいつらと協力しようとは考えなかったのか?すべてお前ひとりでやる必要はない。それに、お前は、提督に訴えたことがあるか?訴えたとしても、そこで終わってないか?」

「訴えましたよ。ただ、何も聞き入れてくれなかったんです!しかも、そのあとに人間様に歯向かった罰として…」

そういって、両肩を抱き、身震いをする。

「はぁ…、それ以上はいい。 …で、お前は訴えただけで終わりか?」

「は?」

「だから、ただ訴えてそれ以上は何もしてないのか?」

「ッ!だから、だから、訴えたらに人間様に歯向かったといって…」

「そういうことを言ってるんじゃない。訴えて聞き入れられなかったのなら、別の手段は使わなかったのか?」

「別の?」

「そうだ。俺たちには人間にはない、艤装、軍艦としての力がある。それは使わなかったのか?訴えて、聞き入れられなかったといって引き下がったらそれで終わりだ。暴力という荒い方法にはなるが、人類にとっての最終手段だ。」

「そんな方法できるわけがないじゃないですか!そもそも、あなたは」

「俺は、 これまでに提督という人間を二人殺した。どちらも、ここと似たような人物だった。もし一度引き下がってしまえば、完全に舐められる。お前には仲間がいる。全員で協力して徹底的に歯向かえ。そうしなければ、何もできなくなる。何も受け付けてくれなくなる。この鎮守府にいる艦娘全員がそれだけの覚悟を持って、現状を変えたいと願ったら、できたことじゃないか?精神的に苦しいとは思うが。」

「…」

また黙った。仕方ないとは思うが、もうちょっと考えてもらわんとな。

「おい!いい加減に放せ!何なんだお前らは!」「おとなしくしろ!」

提督か、やっと捕まったか。提督が俺たちを見つける。

「羽黒!貴様の仕業か!こんなことをしていいと思っているのか!」

「ヒッ!」

提督の前に立つ。

「お前、今日は命拾いしたなぁ。憲兵隊が来るのがあと五分遅かったらお前、死んでたよ?実は今日、お前を殺そうかなって思っていたんだよね。」

「何だとッ!?」

「早く来い!」

後ろから俺が気絶させたこの鎮守府所属の憲兵が運ばれてくる。

「---了解。全員を車に乗せろ。あぁ、そうだ。私は少し話をしてくるから、ーあぁ、ーあぁ、頼んだ。」

終わったのか?

「全員の拘束が完了しました。所属の艦娘を全員食堂に集めています。さあ、行きましょう。」

「羽黒は一緒に行け。俺は、瑞鳳と瑞鶴を呼んでくる。あの二人はどうせ弓道場にいるだろうから。では、憲兵さん、お願いします。」

「分かりました。そちらをお願いします。では、羽黒さん、行きましょうか。」

「はい。」

 

***

 

「どうしたのよ?」

「多分司令部の憲兵隊が突入して、人間全員を拘束した。話があるらしいから、食堂に集まれと。」

「そう。じゃあ、すぐに行こっか。」

 

***

 

「これで全員か?」

「はい。」

「では、みんな、この鎮守府を支配していた人間は全員拘束した。これから、二度とこんな状況にならないことを約束しよう。そして、助けが遅くなってしまい申し訳ない。彼女、羽黒さんがいなければ、我々はこの惨状を知ることすらできなかった。我々は立場上、これ以上この鎮守府に関わることができない。今後の方針が決まるにはまだ時間がかかる。それまではゆっくりしていてほしい。同じ人間として改めて謝罪する。本当に申し訳ない。これ以降、こんなことが起こらないよう最善を尽くす。今後の方針が決まり次第、大本営から通達が行く。新たな提督や運用体制は慎重に議論したうえで決定する。それまでは各自、体を休めてゆっくりしていてくれ。短いが、以上だ。では。」

憲兵が退場する。

「終わったの?」「もう出撃はないんだね?」「よかった…。」

食堂内がざわめきとわずかな高揚に包まれる。無理もない。あんな、いつ沈むかもわからないような地獄みたいな環境に閉じ込められていたんだ。

「いや、分かんねえぞ。また同じようなやつが送られてくるかもしれねえ。」

「そうだな。もう人間は信用ならない。」

まぁ、そういう声もあるよな。ああいう人間しか見たことないやつが大半だから、信用しないやつが出てきても当然だ。

「あれっ、どこ行くの?」

「出撃だ。」

「えー?せっかく提督達どっか行ったんだし、少しは休もうよー。」

「俺には大して関係ない。今まで通りを続けるだけだ。それに、今停滞したら、今後すぐに取り返しのつかないことになる。せめて、この鎮守府の戦力が回復するまでは遅らせなければならない。」

「…そう。そういうことならいってらっしゃい。」

 

 

 




めっちゃ長くなってしまった。やっと本編開始です!長かったー次回は視点が変わり、白霜から新しい別の提督にかわります。次の提督はちょっと訳ありですが、とても優しい性格、という設定ですのでご安心を。
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