小笠原諸島 父島
「これから潜水艦隊司令部と連絡を取る。いったんここで待機する。交代で警戒を行え。」
「なぁ、なんでここに来たんだ?」
「帰りにも敵の襲撃が予想されるから、潜水艦の哨戒範囲を通ろうって話らしい。ただ、なぜ参謀本部が許可したのかはわからない。あいつらは海軍司令部に、勝手に横須賀の、私たちを含めた艦隊を動かしたことはあまり知られたくはないはずだ。詰め寄られるのは確実だし、私たち第一世代の私的運用は重大な違反行為に当たる。それに、横須賀鎮守府に対し、命令権を行使できるのは海軍司令部しかいない。これは、明らかな越権行為だ。なのになぜ、」
「潜水艦隊への連絡が必要な航路を通ろうとしているのか、か?」
「そうだ。現代潜水艦ならば、私たちのスクリュー音程度は、簡単に聞き分けることができる。ただ、それでも誤射の可能性はある。なにせ、私たちと現代潜水艦の間で直接通信を取ることはできないからな。一度中継器を挟まなければならない。だから、艦娘が潜水艦の哨戒範囲に入るときは必ず連絡が必要だ。それに、潜水艦隊司令部と連絡を取れば、必ず海軍司令部に報告が行く。司令部の管轄だからな。そうしたら、艦隊の勝手な運用が発覚するはずだ。」
「そう考えると不思議だな。あの参謀本部がそんなヘマをするはずがない。何かごまかす方法があるのか?」
「分からない。だが、なにかあるんだろう。私たちも警戒したほうがいい。」
「そうだな。」
「あ、長門さん、深雪さん。一度集まってください。樹希さんの指示です。第一世代艦艇は父島到着後に集まれと。」
「分かった。すぐに行こう。」
「あ、ちょっと待って、向こうで秋雲が雪風と初風の手当てをしてるから、呼んでくる。」
「頼んだ。」
「おーい、秋雲ー。樹希が呼んでるってさー。」
「あーい。こっちもちょうど終わったからすぐ行くわー。・・・お待たせー。」
「よし、行こう。」
「こっちです。」
赤城についていくと、すでに集まっていた。だが、第一世代ではない艦娘も何人かいる。
「ん?第一世代だけじゃないのか?」
「えっと、私たちも集まるように言われて、円卓の騎士の皆さんと一緒に行動するようにと。」
「そうなのか?赤城、何か聞いてるか?」
「いえ、何も。ですが、そのような指示があったということは、一緒に行動したほうがいいでしょう。」
「そうですね。よろしくお願いします。」
そこには、明石、山城、大鳳、高雄を除いた新世第一世代艦艇9人と、戦艦扶桑、霧島、重巡衣笠、軽巡最上、大淀、駆逐艦時雨、磯風の7人。
「どうしてこのメンバーなんだろう。」
「さぁ・・・?」
「何か指示があるのか?」
「はい。母島に、かつて泊地があったでしょう。」
「そうだね。何年か前に放棄されたけど。」
「はい。その泊地です。どうやらそこに何かがあるというか、いるみたいで・・・。」
「はっきりしないな。」
「はい。ですので、今から探索をします。」
「分かった。ならばさっそく行こう。暗くなる前に。」
16人はすぐに出発した。
***
「あそこですね。」
「待て、誰かいるぞ!」
「え⁉あれって青葉じゃない⁉」
「陽炎姉さんもいるぞ!」
「まさか、提督はこれを・・・?」
「とにかく行こう!」
一部が崩落している埠頭に登り、青葉と陽炎と接触する。
「青葉ぁ!」
「ガッサ!久しぶり!会いたかったよぉ!」
「磯風じゃない!久しぶりね!」
「陽炎姉さんが無事で何よりだ。」
「すまない。ここは?」
「破壊された小笠原泊地の跡地よ。そうだ!ちょっとこっちに来て!大変なことになってて!」
「分かった!大淀はこのことを樹希に報告してくれ!」
「はい!」
青葉と陽炎のあとをついていき、案内された先には、たくさんの艦娘がいた。中には、重症を負っている艦娘もいる。ざっと30人くらいか。一体ここは何なんだ。
「動けない人の手当てを頼めるかしら?高速修復材がかなり減ってきてて、もう底を突きそうだし、なによりこんなけがは治せない。」
「分かった。急いで運ぶぞ。大型艦は私たちに任せてくれ。扶桑!霧島!急いで輸送艦に運び込むぞ!」
「はい!」
「秋雲と深雪はここに残って指示を出しててくれ!」
「分かった!」
動けないほどの重症を負っている艦娘は4人。かろうじて動けそうな艦娘が5人いる。移動に手助けが必要な艦娘は合計で9人。
「あ、あの!私たちにも何か・・・。」
「うーん、そうだな。じゃあ、色々教えてもらってもいい?」
「はい!」
「まず、ここには何人の艦娘がいる?」
「27人です。そのうちの4人が全く動けない状態にあります。」
「もともとここにいたの?」
「いえ、全員横須賀鎮守府所属でした。」
「でした?」
「はい。えっと、懲罰艦隊っていうのは知っていますか?」
「いや、知らないかな。」
「横須賀鎮守府には、提督様に必要ないと判断された艦娘が編制される艦隊があって、ここにいるみんなは、その艦隊に所属しました。」
「所属すると何かあるの?」
「所属をはく奪され、わずかな燃料と弾薬の身を積んで、出撃させられます。そして、生きて帰ることは不可能です。」
「そんなことがあったのか・・・。つらかったな。よく生きててくれた。それで、なんでここに集められているんだ?」
「今年に入って、懲罰艦隊の旗艦が変わりまして、その人がここに誘導してくれたので、今年の2月以降に懲罰艦隊に編成されたほぼ全員がここにたどり着きました。ですが、道中で沈んでしまった人たちもいるそうです。」
「そうか・・・。私たちは、横須賀鎮守府から来た。今の横須賀は提督が変わって、環境もよくなっている。提督はやさしいし、ごはんもおいしい。設備の修復も進んでいて、まだ終わったわけではないけど、かなりきれいになったよ。どうかな、戻りたい?」
「・・・分からないです。少なくとも、私にとっての提督は、恐怖の存在ですし、あそこに戻るということにも抵抗があります。」
「せかすわけではないけど、私たちはここにはしばらく来れない。戻りたいのなら、今日戻るしかない。ここにある物資はどれくらい?」
「損傷を治すだけで精いっぱいです。燃料と高速修復材は余裕がありますが、全員を脱出させる量となると足りません。」
「そうか。あまり時間がない。ひとまずは様子見ということでいいかな?」
「はい。」
「じゃあ、せめてみんなの損傷は治そう。入渠棟はある?てか、動く?」
「はい。最初にここに来た時にはきれいになっていたそうです。入渠棟だけ。」
「分かった。じゃあ、資材を少し分けるから、今日はそれで損傷を治して。」
「ありがとうございます。」
そうか・・・。やっぱり、心に傷は残っている。だが、ここに残っていては、確実に全員が死ぬ。どうにかして本土に帰還させないと。横須賀の名前を出したのは失敗だったかな。
以前読んだことがあるssで、青葉さんが衣笠さんを「ガッサ」と呼んでいたので、このssでも「ガッサ」呼びにしているのですが、pixivをみたところ、「ガサ」と呼んでいることがわかったので、ちょっと違うけど許して。