病院を逃げるように出てから数分後、僕たちはファミレスに来ていた。
なぜファミレスなのかと言われれば、答えるのに困ってしまうがなんとなく奏をあのまま帰すわけには行けないと思ったからだ。
時刻は18時をまわってそろそろ夕飯時なのかファミレスにはそこそこの人がいた。
店員さんに連れられて僕たちは4人席に案内された。
由芽と僕、真向かいに奏という形で僕たちは座った。
お互い先ほどの喧嘩のような形になってしまったので、若干気まずさがある。
その気まずさを払拭するためにとりあえずメニューを開いて、奏に見せた。
それに気づいた奏が「ありがとう」と言ってメニューを見る。
一体どんなものを注文するんだろうと思いながら奏の様子を伺う。
奏は、それに気づいていないのかメニューを見ながら、何か悩んでいるようだった。
(そういや、僕って今プロセカキャラと今ご飯食べるんだよなぁ。……これって奏ファンに怒られないかな?)
「うん、決まったよ」
僕の心配をよそに奏はメニューを指さしており、メニューを見るとラーメンを選んでいた。
「え? ラーメンってファミレスならほかにもあるよ。ほら、ハンバーグとか」
由芽が驚いてメニューにあるハンバーグを見せる。僕自身はそういやゲームでもよくラーメン食べてたなぁと思ってたけど、初見の人はそりゃあ驚くよなぁ。
「え、ええっと。私は、ハンバーグとかは……あんまり」
「あ、そうなんだ。ごめんね、宵崎さん。お兄ちゃんはもう決まった? 決まったよね? じゃあ注文するね~」
え? ちょっと待って。まだメニュー見てすらいないんだけど。
僕の気持ちを無視(意図的に)して由芽はベルを押して、店員さんを呼んだ。
「ご注文をどうぞー」
「え~っと、テリヤキハンバーグのドリンクセットを1つ、ラーメンは……了解です。塩ラーメンを1つ。お兄ちゃんは?」
注文をどんどんしていく由芽とは違い、まったく決まっていない僕はどんどん焦りを覚えた。
店員さんを見るとなんで注文をしないんだろうという目で僕を見ている。
なんとかしなければという思いが増した結果、僕はとんでもないことを言ってしまう。
「……じゃあ、僕も塩ラーメンで」
(や、やっちゃったー! どうしよう。今からでも変えるか? でも今更変えたら変に思われちゃうだろうし。……それに)
ちらっと由芽と奏のほうを見ると、由芽は少し目を見開き、奏は驚いた表情を見せた。
「かしこまりました。それでは、繰り返させていただきます。テリヤキハンバーグのドリンクセットを1つ。塩ラーメンを2つ。以上でよろしいでしょうか」
「あ、あと山盛りポテトもお願いします」
「かしこまりました。ドリンクバーは、出て左にございます。失礼します」
店員さんは注文を聞くのを終えるとすぐに裏へと戻っていった。
「あ、それじゃあ私はドリンク取りに行ってくるね~」
「え? あ、ちょっと待って。ほんと、待って由芽!」
(やばいやばい。由芽を中継させてなんとか場を乗り切ろうと思っていたのに。……一体どうすればいいんだよ)
そう思い、ふとドリンクバーのほうへと視線を向けると由芽が面白いものを見るかのような目でこっちを見ていた。
こっちが見ているのに気付いたのか笑顔でサムズアップしていた。
あいつ絶対にあとで覚えとけよと思いつつ、奏のほうへ顔を向ける。
奏も何を話せばいいのかがわからないのか顔をうつむいている。
今は由芽に頼ることができないこの状況に苦心していると、奏が顔を上げ話しかけてきた。
「なんか、元気な妹さんだね」
「そうだね。ほんと、だれに似たんだか」
「フフ。でも、少しうらやましいな。私には、兄妹はいなかったから」
「そう、なんだ」
「うん」
………………
いや会話が続かないんだけど。一体どうしたらいいの? ある程度事情は知っちゃっているからこそ突っ込みにくいし、かといって話を広げられるような話題は……
「真嶋さん、さっきはありがとう」
何か話題を作ろうと思っていた僕に奏は頭を下げながら言った。
「そ、そんなあれはただ自分が勝手にやったことで、むしろ勝手にファミレスに連れてきちゃって申し訳ないというか」
「ううん、それでもりがとう。あのまま1人でいたらきっと私は立ち直るのにかなりの時間が必要になったと思う。人の存在ってこんなにも温かいんだね」
奏が顔を上げ、目に若干の涙を浮かべながら、ニコっと笑う。
その笑顔はとても言葉じゃ表せることができないくらい美しくさすが人気キャラだなと思った。
「おっまたせ~、あれお兄ちゃんもしかして宵崎さんのこと泣かしたの? うわ、最低ぇ~」
ドリンクバーから帰ってきた由芽が早々にあらぬ疑いをかけてきた。
「そんなことするわけないだろう。ただちょっと話してただけだ」
「ええ、本当かな~。宵崎さん。もしお兄ちゃんに何かされたら言ってくださいね。私がコテンパンにしてやりますから」
「おい」
最早兄妹のじゃれあいとまで言えるくらいの言い合いを奏は笑いながら見ていた。
ちなみにそのじゃれあいは自分たちが頼んだ料理が来るまで続いた。
「そういえばさあ、病院行くときの話に戻るんだけど結局お兄ちゃんはどうしたいの?」
由芽がポテトを手にしながら、僕に聞いてくる。
そういえば話しただけで何も進んでいなかったことに気づいた僕は再び考える。
現状愛莉は僕といた写真で交際疑惑が出て炎上していて、絵名は祖写真をばらまいた張本人だと言ったきり会っていない。
おそらくこのすべての出来事には北上祥子がいる。
彼女を何とかしなければきっと完全にはこの問題は終わらないだろう。
でも、僕自身にできることは限られている。
かといって、僕のやりたいことももう決まっている。
「僕は、あの2人とまた笑いたい。また他愛のない話をしたいんだ。そのためなら、僕は相手が誰だろうと必ず2人の笑顔を取り戻す」
「うわ~、よくそんな歯の浮くセリフ言えるね。さっすがお兄ちゃん。伊達にストーカーしてないね」
「別にストーカーなんて」
親指を立ててニマニマとした表情で僕を見る由芽に訂正を入れようとすると再び話し始めることで僕の話を遮った。
「あ~はいはい、分かってるって。まあでも、その答え妹の私としては百点満点だよ。私も頑張って案出すからお兄ちゃんの敵やっつけちゃおうよ」
ニコっと由芽がそう言った。
「私も、何か手伝えれることがあれば手伝うよ。真嶋さんには助けてもらったし」
由芽に続いて奏も協力の姿勢を見せてくれた。
そうだ、さっき僕は、1人でやらなければという固定概念に陥っていた。
でも、1人じゃだめなら2人はどうだろう。2人がだめなら3人は。
きっと僕だけじゃなしえることができなかったようなことができるようになるんじゃないか。
「2人ともありがとう。今のままだと僕の理想はかなわないと思う。でも、2人がいればとても心強いと思うんだ。だから、よろしくお願いします」
僕は2人に向かって頭を下げた。
それに対して2人の反応は違っていて、由芽の場合は、「まっかせてよ~」というような感じだったけど、奏のほうは「か、顔を上げて」とオロオロしていた。
でも、これでやっと問題が解決へと進んだってはっきりと感じれた。
数日後、夏休みの前日の始業前、特別教室等にあるとある空き教室で。
私は、祥子の命令で朝から呼び出されていた。
「ねぇ~、絵名。肩揉んでよ~」
「はぁ? なんでそんなことしなくちゃいけないわけ?」
「そんなこと言わないでよ~。ね?」
そう言って祥子は、スマホを私のほうへと向ける。
そのスマホには音声データがありそこには私が祥子に従うと言っている私の声が録音されていた。
「……こんなものなかったら」
「まあまあそう言わないで。相変わらず私に対して全然心開いてくれないよね~そんなんだから~、雪平先生にも見捨てられるじゃないw」
軽い挑発だとわかってはいてもそれでも腹が立つ。でも、従うしかない。だって、私は愛莉とあいつを裏切った。それに絵に関しては私が急に辞めたから雪平先生もきっと見放しているよね。
「あれ~、言い返さないの~。つまんないな~、まあいいや。早く肩揉んでよ~」
祥子は私が反論しないことに不服そうではあったけど、すぐにいつもの調子に戻って再び私に”お願い”をしてきた。
正直やりたくはないけど、明日から夏休みだ。
少なくとも1か月は会わなくてもいい。
そう思いながら私は、祥子の肩をもみ始める。
「あ、そうだ~。絵名今日の終業式終わったらまたここに来てよ~」
「は、なんでそんな」
「いいから~、いいから~。ね」
まためんどくさいことになりそうな感じだけど今日さえ耐えればしばらくは大丈夫なんだから。
——————————————————————————————————————――――――――――――――――――――
終業式が終わり、ホームルームが終わって僕は絵名の姿を探す。
ここ数日は話しかけようにも避けられているみたいで全然絵名とは話せていない。
愛莉も未だに学校には来ていなくてあれっきり姿すら見ていない。
でも、今日こそ絵名と話がしたい。明日になれば夏休みになる。
そうなれば話すこと自体が厳しいだろう。
「あ、いた。おーい、えななん!」
周りを見渡すとちょうど絵名が教室を出ようとしているのが見えた。
なんとか絵名をつかまえようと大きな声で絵名を呼んだが、聞こえていなかったのかはたまた無視されたのか振り返ることなく教室を出る。
今日を逃せば話すチャンスがずいぶん先になるので、急いで支度をして絵名を追いかける。
けど、少し遅かったのか見失うか見失わないかくらいの絶妙な距離になってしまっていた。
それでも、何とか追いつこうと必死に追いかける。
「あれ、おっかしいな。多分こっちの方角に行ったと思うんだけど」
それから数分経って空き教室の多い特別教室棟にたどり着いた僕は、完全に絵名を見失ってしまっていた。
特別教室棟に入ったところまでは見たからそう遠くはないはずだ。
そう思い諦めずに探していこうと思った時だった。
「はあ? どういうことなのよ!?」
近くで絵名の声がした。どうやら空き教室で誰かと話をしているらしかった。
すぐに僕は絵名の声がしたほうへと向かった。
一体誰と話しているんだろうと少し教室をのぞいてみると、絵名と複数人の女子を控えさせているリーダー格のような女子がいた。
よく見てみると絵名はそのリーダー格の女子をものすごい形相でにらみつけていた。
(あいつがもしかして話に出ていた北上祥子かな?)
そう思っていると、絵名が再び声を荒げる。
「あんた正気? 私に援交をしろって頭おかしいんじゃない?」
「……は?」
この時僕の中で何かが切れたような気がした。
以上で10話です。そろそろこの章も佳境です。
どうぞお楽しみください。