やっぱりあれ、天馬咲希だよな?いやでもあれはゲームの中のキャラであって、現実にいるはずが。
でも、あんな派手な見た目な子供そうそういないしな。いやけど……。やばい、混乱してきた。
僕は拓くんへの罪悪感よりも目の前にゲームのキャラが目の前にいることへの混乱の方が強くなってしまっていた。
だが、それだけ僕にとっては衝撃的な出来事なのだ。いや、まだ確定したわけじゃない。名前だってたまたま同じ名前なだけなのかもしれない。
僕がそう考えを巡らせていると看護士はその少女への検査が終わった後おもいだしたかのように語りかけていた。
「あ、そういえば昨日から新しい子がこっちに来たんだよ。」
「え、誰々?」
「落ち着いてよ咲希ちゃん。今から自己紹介してもらうから。ほら拓くん自己紹介して。」
「え?はい。僕は、…………真嶋……拓です。」
僕自身が拓くんの名前を使うことに引け目を感じながら自己紹介をする。少女はニコッと笑い、反応を返す。
「たくくん、だね。アタシは、天馬咲希だよー。よろしく。」
「天馬、咲希。」
明らかに似ている見た目、一人称がアタシ、そして何より名前の一致。
頭はそこから考察をたてるが、理解が拒もうとする。
しかし、認めざるを得ないだろう。ここはプロセカの世界であることを。
それからは、咲希の話相手のような感じになり、よく話すようになった。
そこから僕は司と同学年であることやレオニのメンバーと既に交流を持っていることなどが分かった。
だが、僕自身はほとんど相手に自分のことを明かしていなかった。
それは、元々拓くんが何をしていたのかが分からないというのもあるが自分自身のことを話しても相手は嫌な思いをするだけかもしれない、と思ったからだ。
よく自己嫌悪に陥ってしまうような僕の話を聞いて咲希に悪影響が出てしまえば今後のストーリーにかかわる可能性もあると考えたからだ。
しかし、そのことについて咲希は快く思っていないようで、僕がはぐらかした時とかは頬を膨らませ、不満を露わにしていた。
それから数日後、僕にとって大きな出会いが待っていた。
数日後、いつものように咲希と話をしていると突然勢いよくドアが開け放たれた。
驚いてドアの方を見ると、咲希に似た男の子が両親らしき人たちを連れ病室に入ってきた。
「咲希!来たぞ!」
「あ、お兄ちゃん!」
咲希が嬉しそうに男の子に向かって笑った。お兄ちゃんってことはつまり。
「咲希。オレが来るまで寂しくなかったか?」
「大丈夫だよ。お兄ちゃん。たくくんがいてくれたから寂しくなかったよ。」
「たく?」
そういって男の子がこちらの方を向く。一体なんだろうと思っていると、男の子がこちらに近づいてくる。
「お前がたくか……」
「そ、そうですけど」
なんだろう、なんか文句とか言われるのかな。なんて思っているといきなりニコッと笑顔をつくった。
「咲希の話し相手になってくれたこと感謝する。」
「え?」
僕は一瞬戸惑ったが、すぐに立て直す。
「全然大丈夫だよ。僕も暇だったし、むしろありがたかったよ。」
「それならよかった。む、オレとしたことが自己紹介を忘れていたな。オレは天馬司。将来スターになる男だ。」
プロセカ内で何回も聞いた自己紹介を目の前でされ、少しだけ興奮した。
「ぼ、僕はた……真嶋…………。」
一瞬、本当の名前を言いそうになった。
でもそれじゃあ駄目だ。それは、ただの逃げなんだ。
それに本当の名前も家族からもらったものだ。
最初は家族から愛されている証拠だと思った。
だから、他の人に劣等感を感じていても、家族がいるからと思って生きていた。
別に構ってもらわなくていい、喋る機会が少なくたっていい。
ただただ、僕のそばにいるだけでよかった。けど、捨てられた。
それは、もう僕のことはいらないって言っているようなものだった。
その事実が一層僕の心を濁していく。
それに、拓くんについても何も僕は償っていない。
そんな僕は名前すら与えられていない空っぽな人間だ。
ああ、やっぱりあの時死んだままだったらよかったなあ。
なんなら今日にでもまた自殺してしまおうか。
そんな悪感情が僕を染めきろうとしたとき、ふと誰かが触れたような感覚がした。
気づくと司が僕の手を握っていた。
「おい、大丈夫か?顔色が悪いぞ。」
その言葉を聞いて司の両親たちも僕の様子を見に来る。
「あらま、本当。大丈夫、お医者さん呼ぼうか?」
「もしかして痛い所とかあるか?」
ああ、やっぱり天馬家の人たちは優しいんだなと思う。
こんな見知らぬ僕を心配してくれるような人たちだからだ。
でもその優しさは今の僕にとってはただの甘い毒だった。
僕は咄嗟に司の手を払い、ベッドから降り、病室から飛び出した。
「え?ちょっとたくくん?」
「おい、待ってくれ!」
他にも驚いた声が鼓膜を震わせたが、僕の足は止まらなかった。
痛いはずなのに、数日前までは立つことすら難しかったのに。
今は一切の痛みを感じなかった。
あのままあの場所にいたらきっと僕は救われていたのだろう。
生きていいんだって思えたんだろう。でもそれはだめなんだ。
ただでさえ何もない僕が、一人の命を奪った僕が、そんな救いを受け入れちゃダメなんだ。
病院内を走り回り、たどり着いた先は屋上だった。
フェンスはなくあるのは子どもが屋上から落ちないようにする簡単な手すりだけ。
子供になってしまった僕でも頑張れば乗り越えられそうだなと思い、すぐに手すりの方に向かう。
そんな時、誰かに後ろから手を握られた。
慌てて振り向くと、そこには息が上がっている司がいた。
僕は再度振り払おうとするが、なかなか振り払うことができなかった。
それでも何とか逃げ切ろうと模索しているとき、司が僕に問かけてきた。
「何でお前は今、そんなつらそうな顔をしているんだ?」
「……つらい?」
「ああ、まるで誰かに助けてほしいって顔を……。」
「助けてほしいって?」
「え?そうd」
「誰が助けてほしいなんて言ったんだよ!」
その言葉を聞き、僕は思わず人生で出したことがないくらい大きな声で激昂する。
「僕は、助けてほしいって、救ってほしいなんて一言も言ってない!僕は死ななきゃダメなんだ!こんな、こんな僕は、夢とか希望を持てない僕なんか!」
「そ、そんなこと」
「あるよ!……あるんだよ。自分に価値を見出せなくてやりたいこともないんだ。そんな奴がのうのうと生きちゃダメなんだよ。」
「だ、だめだよ。まだ、死んじゃ。こ、これから見つかるかもしれないし……。」
「これから?これからなんて思ってたら一生見つからないよ。そんなのぼくが一番わかってる。大体司には、スターになるっていう夢がちゃんとあるじゃないか!でも!僕にはそんな大層なものはないんだ。それに君だってずっと咲希のためにって我慢し続けれている。そんなきみの方が生きるべきだし、救われるべきなんだ。」
「………………。」
僕が言った言葉に司も心当たりがあったのかうつむいて黙り込む。やがて司の目が潤んでくる。それをみてハッと我に返る。
「ごめん。僕もそこまで言うつもりじゃ……。」
「違う!」
「え?」
司は涙を流しながらまっすぐこちらを見つめてきた。
「オレは、お前のことをちゃんと考え切れていなかった。それなのに、ひどいことを・・・」
「そ、そんな。僕こそごめん。きみに八つ当たりなんてこんな僕がしちゃ・・・」
「それだ!」
「え?」
「その〝こんな僕なんか〟と思っているお前を、自信を無くしてしまっているお前を、本当はまだ生きたいと思っているお前に気付けなかったオレはスターになんてなれない。」
「そんなことないよ。司はすごいんだから……」
「ある!さっきお前が言っていただろう。自分に価値が見いだせない、と。俺だってなあるんだ。」
「え?」
まさかの言葉に僕は驚く。あの司でさえも思ったことがあるのかと。
「妹の咲希が苦しんでいるとき、オレは何もしてやれない。病院にいてもずっとそばにいられない。そんな自分を呪いたくなった。だからせめて妹が、咲希の目の前ではちゃんとお兄ちゃんでいられるようにしているだけだ。オレは強くなんてないただの弱い男だ。」
それを聞いたとき頭を殴られたような衝撃を覚えた。司でさえもそう思うならもしかしたら、皆僕と同じような悩みを抱えているんじゃないかと。そう頭がささやいてくる。
「でも、それが本当だったとしても僕は決して許されてはいけない罪を。」
「それこそ、生きなければいけないだろう!」
「え?」
「お前がどんなことをしたのかは分からない。でも、これだけは言える。償いたいなら生きろ。オレがこの前読んだ本でもそう言っていた。」
「……そんな身勝手な」
僕は少し司の純粋さに腹を立てる。
「そんなことで償いになるわけないじゃないか!」
「なる!お前がちゃんとそのことを忘れずに、そしてまっとうに生きれば。」
「……本当にそれで償えるの?」
「ああ。」
「こんな僕が生きててもいいの?」
「もう〝こんな〟なんていうな。お前だからこそ生きるんだよ。」
そう言われたとたんストンと何かが胸の中で落ち着いたような気がした。
「ねえ。司。」
「ん?なんだ。」
「僕は、真嶋拓。」
「……そうか。よろしくな。拓!」
正直今も罪悪感は消えないし、こんな僕がって思うけど、少しだけでも変わろうと思えた。
こんな気持ちは今までで初めての気持ちだった。
この気持ちを胸に俺はまた0からこの人生を始めようと思った。
「そういえば、あの説得も全部本の受け売りでしょ?」
「む、バレてしまったか。」
これが僕のこの世界でのはじめての友達、そして恩人である司との出会いだった。