第4話 このセカイを回す唯一の魔法
僕がこの世界でもう少しだけ生きてみようと思ったその後、
司たちから逃げるために無理して走ってしまったため、本来退院するはずだった日にちから大幅に伸びてしまった。
実際ある程度屋上で司と話していたあたりから足に激痛が走り、司を困らせてしまった。
司は、自分が無理やり追ったせいだと気にしていたが、彼が追ってこなければこんな気持ちにはならなかったのだから感謝をしても恨みを言う筋合いは僕にはなかったし、そもそも言うつもりもなかった。
医者からは案の定注意を受けたが、僕はどこか上の空だったように思う。
やっぱり司はすごい奴なんだなと改めて思う。
イベストでもえむや類のことを元気づけたりとかしていたし、でもそんな彼でもつらいと思うことがあった。
だけどそれすらも乗り越えるその胆力を見習いたいと思った。
だから、僕も彼のように誰かの助けになれればなと思った。
それが今の僕の生きる理由だ。
入院中は、咲希と楽しく会話をしつつ、司が度々見舞いに来てショーを見せてくれたりした。
退院するときは、司たちと別れることが寂しかったけど、彼らの笑顔に励まされた。
また、僕の引き取り先は、拓くんの叔母の家族が引き取ってくれた。
叔母の家には僕より1歳年下の女の子、由芽がいた。
最初は疎まれるんじゃないのかって気負いしたけど、皆優しく迎え入れてくれた。
なんなら由芽は、お兄ちゃんができてうれしいとまで言ってくれた。
この温かさに僕は思わず涙を流してしまった。
そこから僕は前の小学校が少し遠かったために転校をした。
これは、僕にとってとてもありがたかった。
拓くんのことを知っている人たちの中でうまくできる自信が僕にはなかったからだ。
ただ、残念なことに転校先では、司や他のプロセカキャラは一人もいなくもしかしたら全員に会えるんじゃないかという期待は儚くも砕け散った。
それでも神高なら彼らがいるはずだと気付き、それに向けて猛勉強をした。
まあ、この時点ではまだ神高はできてないんだけどね。
話がそれたが、そのまま僕は中学校に入学した。
ただ叔母家族にはあまり迷惑をかけたくなかったため、中学は公立の学校に入学した。
そこには僕にとって新たな出会いが待っていた。
僕が中学校に上がると、何かが変わることもなく、ただ僕にとって幸せな時間が過ぎていた。
相変わらずプロセカキャラとは接点がなく、気付けば3年生になっていた。
プロセカキャラに会いたかったらビビッドストリートにでも行けたらよかったんだけど、想像よりも100倍怖かった。
ストリートの目の前まではいけるのにそこからは足が石になったかのように動けなかった。
相変わらずの勇気のなさに嫌気がさすが、神高に行けば会えるようになるかと思い、我慢することにする。
由芽の方もいまや中学2年生になり、僕と同じ学校に通っている。
あんなにちっちゃかったのにとたまに言うと怒ってくるが、そう思うほど時が経つのは早かったように思う。
そんな中学3年生の1学期が始まる日のことだった。
「も~、お兄ちゃん。そんな悠長に音楽聞いて。時間見てよ遅刻するよ」
「ん? うわ、本当だ。ありがとう由芽。気づかなかったよ」
由芽に言われ、時間を見ると始業まであと15分だ。今から出ないと走らなければいけない羽目になる。
急いで支度をして僕と由芽は、家から学校へ出発した。道中、由芽が話しかけてきた。
「それにしてもなに聞いてたの? またASRUN? それともCheerful*Days?」
「いや今日はQTってアイドル」
「QT? ああ、愛莉ちゃんの。本当、まさかお兄ちゃんがドルオタになるなんて数年前まで思いもしなかったよ」
「うるさいな。別にいいだろ」
「悪いなんて言ってないじゃん」
いつものように僕は由芽とそんな他愛のない話をする。兄妹仲も比較的にいい方で、お互い気兼ねなく話せるからあっという間に時間は過ぎ中学校の校門が見えてきた。そこで由芽とは別れ、新しいクラスを見るべく中庭に行った。
まわりは友達同士なのか手を合わせて喜んでいるもの。自分の名前を確認してすぐに教室に向かうものなど多種多様だった。
ちなみに僕は、自分の名前を見たらすぐに教室向かうタイプだ。理由は簡単。友達がいないからである。
人間そう簡単には変われないのだなと常々思う。たまにネガティブ思考にもなるし。
けど、変わるって決めたんだ。せめてこの1年間で何かしらの成果を出そう。うん、そうしよう。
そうやって僕は意気込んで教室に向かっていった。
新しい教室に入るとすでに何人かの生徒が思い思いに過ごしていた。
僕は黒板に貼られている座席表を見て指定された席に座る。
それからしばらくすると、体育館に移動し、始業式を行われた。
ここでは、学生ならではの悩み? である校長先生のありがたい話が今日も炸裂していた。
少しの眠気と戦いながらも何とか耐えて今度は体育館から教室に戻っていく。
そこで新しいクラスになったら行う恒例の担任の話の後に自己紹介タイムが始まった。
今更自己紹介なんてと思うかもしないが、僕のいる中学校は1学年150人くらいいるため案外自分たちの同級生を把握できてない。
そのため、新学年になるとクラス内で自己紹介をするのが、伝統的なんだとか。
ただ僕の後ろの席が空いているのが気になった。
僕は上から自分の席を探したから後方の席の人の名前を見てはいないが、名前が書かれていたことは覚えている。
大丈夫かな。不登校とかかな? 少し心配になりながらも今は少しでもこのクラスに馴染めるようにクラスメイトの名前を覚えなきゃとノートを取り出し、自己紹介に耳を傾ける。
「私は、加藤京子。部活は囲碁将棋部に入ってます。1年間よろしくお願いします」
いままた1人1人と自己紹介をしていく。僕はその人たちの名前と第1印象をノートに書き記していく。
「私は、東雲絵名。1年間よろしくね」
し、の、の、め、え、な、っと。……ん? しののめえな? 僕はノートを見ていた目を上げ声のしていた方を見やる。
そこには、左髪を三つ編みにまとめた黒髪、黒目の女性がいた。
そうプロセカの東雲絵名みたいな。というか絵名じゃないか。
まさかここで会えるなんて。仲良くなれるかな。
そんな風に考えているといつの間にか僕の番になっていた。
ここはちゃんと決めないとと思い、昨日のうちに考えた自己紹介を始める。
「僕は、真嶋……」
僕がそこまで言うといきなり教室のドアが開け放たれる。
「ごめんなさい。遅れてしまったわ。まだHRおわってないかしら? ってもう終わってるみたいね」
残念そうな声が皆の注目を集める。
僕もドアの方を見ると、桃色の髪に両サイドの髪をそれぞれリボンで束ねた女性は息をあげながら教室に入ってきた。
あれってもしかして桃井愛莉? あ、そっか確か絵名と仲良くなったのは中学生だったんだっけ。
まさか3年生だったなんて思わなかった。あ、というか僕の自己紹介……。
「ああ、桃井さん。大丈夫ですよ。いま自己紹介をしている途中です。ちょうど1個前の真嶋くんがするところだったので、せきに座って待っていてください」
「分かりました」
先生は簡潔に説明し、女性を僕の後ろの席に座らせる。
その後は一旦くじかれたせいか昨日考えた自己紹介をなにも言うことができなかった。
おかげでごく普通の自己紹介になってしまい、受けもいまいちだった。
そのあと後ろの席である愛莉が自己紹介をする。
「桃井愛莉です。先ほどは遅れてしまってごめんなさい。これからもアイドル活動でなかなか来れないときがあるかもしれないけど、仲良くしてくれると助かるわ」
そういうとみんなが一斉に拍手する。
やはり知名度のあるアイドルなだけあってとりわけ大きかった。
その後、つつがなく自己紹介が終わり担任が教室が去った後、各々思いのままに話し相手を見つけて談笑していた。
僕も話し相手を見つけようと行動しようと腰を上げたその時、後ろから声がした。
「あの、真嶋くんだったかしら」
振り返ると愛莉が席に座ったまま僕に話しかけていた。
「え? あの、一体どうしたんですか?」
「いや、わたしが教室に入った時、邪魔しちゃったみたいだから」
「ああ、別にいいよ」
「そうかしら、何か少し残念そうに見えたから」
僕は思わずギョッとした。
実際、自己紹介をちゃんとするという目的は果たされなかったからだ。
「い、い、いやそんなことは」
「ええと、そんなに緊張しなくていいのよ。アンタとは同級生だし」
「え、えっと、分かった。これからよろしく、あ……桃井さん」
さすがに愛莉呼びは言えなかった。というか勇気がなかった。
「ええ、こちらこそよろしくね。真嶋くん」
まさか初日からプロセカキャラと話せるなんて。感動もんだなあ。
その夜、家に帰ると由芽が話しかけてきた。
「あ、そういやお兄ちゃん。上手くいったの?」
「え? 上手くいったって何が?」
「何がって、自己紹介だよ。昨日、いっぱい考えてたでしょ?」
「え、あ……えっと」
「もういいや」
「なんでだよ」
「どうせ失敗したんでしょ?」
反論したいが、事実は事実なので何も言い返せねかった。
しかし、そんな由芽にアッと言わせるようなことがあったので、それを言いてやることにする。
「でも、今日話し相手ができたんだ」
「へえって。話し相手⁉嘘、あのお兄ちゃんが?」
「言いすぎだろ」
「ち、ちなみに誰と?」
「え? 驚くなよ? なんとあの桃井愛莉だ」
「も、桃井愛莉ってあのQTの⁉」
そういっていきなり由芽に胸倉をつかまれる。く、苦しい。
「な、なんで? なんでお兄ちゃんがあの愛莉ちゃんと? というか愛莉ちゃん私たちの中学にいたの?」
「ちょ、離して。もう、息が……」
その後由芽を宥め、説明をするのに結構な時間がかかってしまったのだった。
それから僕は学校では他の生徒と話そうとするもやはり勇気が足りず、なかなか話せずにいた。
愛莉はというと1週間に1,2回くらい学校に来ている。
その都度僕は、席が近いよしみのようなものなのかは分からないが話す関係が続いた。
そのうち僕がドルオタであり、QTの曲を聞いていることなどを話した。
愛莉はその話を聞くとき時折悲しそうな顔をしていた。
やっぱりバラエティアイドルである自分自身にコンプレックスを抱いているんだな。
でも、これはモモジャンのみんなが解決していくことだから、せめて話し相手として僕は役割を全うしよう。そう僕は思った。
そんなある日。愛莉がいない日のこ昼休みのこと。
僕は購買派であるので、チャイムが鳴るとともにすぐに教室から出ようとした。
すると、男子生徒が複数名が扉の前を陣取っていた。
なんとか避けようとすると、それに反応して男子生徒が道を塞ぐ。
「おい、面貸せよ」
リーダーらしき生徒が僕にそんなことを言う。
本当は逃げたかったが、逃げてもこういう輩は追ってくると分かっているため諦めて指示に従う。
連れられた場所はリンチされる場所として有名な体育館の裏だった。
そこにつくと、リーダーらしき人が話を始める。
「おい、お前最近桃井愛莉と仲がいいらしいんじゃねえか」
「え、えっと」
「どうやってあのアイドルと話してんだ。何か弱みでも握ってんじゃねえのか?」
「そ、そんな」
「うるせえ、いいからその弱みを教えろ」
「な、ないですよ、別に」
「嘘ついてんじゃ、ねえ、よ‼」
相手はイライラしだしたのか僕に向かって蹴りを入れた。
それを機に周りの男子生徒も僕に蹴りを入れ始める。
「いいから、吐け! お前みたいなやつがそんな簡単に桃井愛莉と話せるわけないだろ!」
その言葉を聞いた瞬間僕は少し心が濁りだした。
そうだ。僕みたいなやつがアイドルと、愛莉と話せるなんてこと自体がおかしかったんだ。
僕みたいなやつなんて……
以上が第4話です。
この話から幼少期から中学生へと舞台が変わります。
ここでは、愛莉と絵名の2人をフィーチャーしていければと思います。
ここからは、タイトルはフィーチャーしているキャラの書き下ろし楽曲の歌詞の一部をとっていこうと思います。
また、イベストを参考にしていますが、うろ覚えの部分があります。
なにか間違いなどがあれば、コメント欄などで報告してくれるとありがたいです。
それでは次回中学生-愛莉・絵名編ーをお楽しみに。