セカイへの転生   作:小樽垂子

5 / 7
第5話 掴んだその手が痛くないように願っているから

 ……痛い、痛い痛い痛い痛い痛い、痛い。

 体中が悲鳴を上げてる。どうして、なんで、何がいけなかった? 

 僕はこの人たちとは話したことすらなかったのに。

 僕が勇気がなかったせいで話せてなかっただけなのに。

 ……僕が悪いのか? 僕が愛莉としゃべったからか? 僕なんかが頑張ってもがいて、立派なアイドルをやっている愛莉と話してしまったからか? 

 でも、僕は弱みなんて握ってない。

 ……じゃあ、何で愛莉は僕と、僕なんかと話してくれるんだ? 

 

「おい! 起きろ」

「……ゔっ、…………え?」

 

 僕は痛みで意識を取り戻す。

 周りを見ると、未だに怒った顔をしているリーダーの男子生徒やその周りでニヤニヤしている男子生徒が見えた。

 どうやら僕は、あまりにも蹴られすぎたせいか意識を手放してしまったらしい。

 あれからどのくらいたっているのだろうか。

 

「チッ! 5分も眠りこけやがって! いいから吐け! どうやって話してる?」

「……な、んでそんな、ことを」

「あ? んなもん決まってんだろ。お近づきになってあわよくば付き合うんだ。まあ、この花川大翔が告白するんだからOKに決まってるけどな!」

「さすがです。大翔さん!」

 

 花川大翔。確かサッカー部に所属していて自己紹介の話しぶりを聞いていて自信家であるように感じた

 。僕自身名前とかは覚えていてもまだ顔とは一致していない。

 おかげで誰か分からなかった。周りにいるやつらもサッカー部何だろうか? 

 

「まあ、そんなことはどうでもいい。おい、お前いいから早く教えろ。どうやって桃井愛莉としゃべるようになった」

 

 だが、今の彼は自信家というよりは自分に酔っているようにも見える。

 現に手下のように男子生徒を侍らせていたり、発現の節々からみられる自分の言うとおりにならなければ気が済まないというような感情。

 

「……羨ましいな」

 

 そう僕は彼を見て不覚にも少し羨ましいと思った。

 自分にはそのような自信はない。

 他人とずっと一緒にいても自分は自分であるという意思がない。

 だから、そんな風な感情が持てるのが羨ましい。

 

「あ? 何言ってんだてめえ。答えになってねえんだよ。良いから早くい」

「言わない」

「……あ?」

「言わない」

 

 確かに僕は彼が羨ましい。

 だけど、彼の野心は全く羨ましくない。

 俺なら付き合える。いや、むしろ付き合えて当たり前だ。

 これは明らかに愛莉の考えを聞かずに決めていることだ。

 それはもう自信ではなくただの傲慢だ。傲慢な奴は嫌いだ。

 だって、あの嫌な日々を思い出してしまうから。

 前世でも、工事の休憩時間中、同僚を侍らせ、他の人から飯や金を巻き上げていたやつがいた。

 そいつは、最初僕に対してもいい顔をしていたが、格下と判断した途端僕を散々いびった。

 そいつには、俺が強者何だっていう絶対的な自信があった。

 

『俺にかなう奴なんていねえ』

 

 これが彼の口癖だった。僕はそんな奴が嫌いだった。

 現在彼がどうなっているのかは正直どうでもいい。

 でも、花川からは彼と同じようなにおいがした。

 だから、僕は何があっても反抗することにした。

 もうあの時みたいにビクビクなんてしない。僕は変わるって決めたんだ。

 だけど、そんな僕を見て花川くんは腹を立てたらしい。

 

「お前、いい加減にしろよ。お前、どうやら自分の立場が分かってねえみたいだなあ」

 

 そう言って花川くんは僕の胸倉をつかんだ。

 

「決めた。本当は言った時点で見逃すつもりだったが、もう許さねえ。2度と学校へ行きたくならねえようにしてやんよ」

 

 花川くんは、空いている手で拳をつくり、僕を殴ろうとした。

 

「おい、お前ら! そこで何やってる!」

 

 花川くんの拳が僕の顔に到達するギリギリで野太い声が体育館裏で響いた。

 全員がそちらを見やると、そこには担任の先生と体育科の教員がいた。

 

「やばい、先生たちだ。逃げなきゃ」

 

 そう言い、花川くんと手下たちは一目散に逃げだしていった。

 

「おい、お前ら! 逃げるな!」

 

 体育科の教師がそのまま彼らを追っていく。

 担任の先生は僕のもとに来ると話しかけてきた。

 

「真嶋くん、真嶋くん。大丈夫ですか?」

「あ、いえ……大丈夫、です。けど、少し休ませてください」

「真嶋くん。真嶋くん!」

 

 あの場から助かったという安堵がいきなり押し寄せてきたのか、はたまた緊張が途切れたせいなのかは分からないが、僕はまた意識を手放すのであった。

 

 

 まるで水から上がったような感覚を受け、僕は意識を取り戻した。

 まず僕が気付いたのは、ツンと刺す臭いだった。そのあとは段々と視界が開けてくる。

 そこから僕は、今病院にいることが分かった。

 

「あ、起きた」

 

 いきなり聞こえた声の方向へ向けると、そこには東雲絵名がいた。

 

「……なんで、えななんが?」

「話したこともないのにいきなり愛称とかやめてよね。まあでも、なんかいい感じだから許してあげる」

 

 絵名は、一瞬顔を曇らせながらも愛称を聞いてご満悦だったのかフフンと言いそうな雰囲気を醸し出していた。

 

「あの、……結局なんでえななんが?」

「それよ! ちょっと聞いてよ!」

 

 僕が再び問いを投げかけると絵名は急にくらいついてきた。それも物凄い勢いで。あまりの勢いに驚いた僕は、思わず頷いてしまった。それを了承と捉えた絵名は、水が勢いよく流れるように喋りだした。

 

「実は私が先生たちを呼びに行ったんだけど、その後が大変だったの。なんかキミが気を失っちゃったから先生たちが大急ぎで救急車呼ばなきゃいけないからって言って一緒についていった私に見ててくれって言ったの。そこまでは良かったんだけど、そしたら救急隊員に彼女だって誤解されちゃって、抵抗したのにあれよあれよと病院に連れてかれて。そこで学校に電話したら、家族が来るまで一緒にいてやってくれって言われて。もうなんで関係ない私がいないといけないのよ。大体こういうのって家族が一番最初にいるべきなんじゃないの? なんでいないのよ!」

 

 マシンガンのように放たれた言葉は棘が多分に含まれていたが、それでも言葉の節々から優しさが滲み出ているような気がした。

 

「ありがとう」

「……何がよ?」

「先生たちを呼んできてくれて。あのままだったら僕もっとやばかったかも」

「別に、私が気に入らなかったから、言ってやっただけ」

 

 それを聞いて僕はうれしかったと同時に申し訳なさが出てきた。

 だってそのセリフは、愛莉を助けたときに言ったセリフだ。

 これじゃあ愛莉と絵名の仲がなくなってしまう可能性がある。一体どうしたら……。

 

「何よ。黙ってないで何か言いなさいよ」

 

 僕が黙りすぎていたせいでしびれを切らしたのか絵名が話しかけてくる。

 さすがに、ストーリー上では、なんてことは言えないため別の本心を告げた。

 

「……いや、僕もう愛莉から離れようかなって思ってるんだ」

「え?」

「だって、元々は僕なんかが愛莉の近くにいたせいであんなことになっちゃったんだ。このままいけばもしかしたら愛莉にまで迷惑がいくかもしれない。だからそうなる前に離れようと思うんだ」

「なんで、そんなことを言うのよ」

「え? だって、僕なんかが」

「その、僕なんかって言うのをやめなさいよ!」

 

 絵名が唐突に大声を出すので、僕は驚いた。

 けれど、絵名はそんなことを気にもせずに僕に向かって話しかけてくる。

 

「桃井さんの迷惑になるってアンタ何様よ! 見てれば分かる、あの子はそんな簡単に折れない。折れるとしてもよっぽどのことがない限りは! それなのに僕がいるからって、勘違いも甚だしいのよ!」

「でも、僕が一緒にいたから花川くんたちが」

「そんなことない! 悪いのは全部あいつら。アンタ自身が気にする必要はない」

 

 ここまで断言されると僕は何も言うことはできなかった。

 何か言わなきゃと口を開けたとき、ガラッとドアが開いた。

 見ると、そこには叔母さんがいた。

 絵名は叔母さんを一瞥すると、会釈しつつ帰りの準備をして病室から去ろうとした。

 その際に一度こちらを見て話しかけてくる。

 

「じゃあ、また学校で。……あと、もう僕なんかっていう言葉を使わないで。聞いてて桃井さんに失礼だから」

 

 それだけ絵名は言い残して病室を去っていった。

 

 

 それから数日後、僕は松葉杖付きではあるが退院することが決まった。

 あれ以来大きな怪我をしていない僕だったが、松葉杖にすぐに慣れることができた。

 とりあえず、動かないのも落ち着かないので、病院内を散策していた。

 散策を始めて10分くらいが経過した頃、さすがに疲れが見えてきたので近くの待合室で休むことにした。

 周りを見てみると僕以外にも人が少なからずいた。

 年齢層は様々だが、一人気になる子がいた。なんか雰囲気が一人だけ暗いような気がしたのだ。僕は、少し気になってその人に話しかけた。

 

「あ、あの。大丈夫ですか?」

「え?」

 

 その人が僕の声を聞いて顔を上げる。

 その人は女性で灰色がかった銀髪で長髪、目は広い海のようなきれいな青だった。

 

「き、君って」

 

 顔を上げた女の子を僕は知っていた。

 なぜなら、彼女が25時、ナイトコードで。のリーダー、宵崎奏その人であったからである。

 

「わたしのことを知ってるの?」

「え? あ、いや。……ごめん、人違いだったみたい」

 

 あくまで一方通行で知っているため、つい慌ててしまったが、何とか修正できた。

 

「……それより大丈夫? なんか辛そうな顔をしてるみたいだったから」

「え? あ、……心配、かけちゃったみたいだね。でも大丈夫。全部、わたしが悪いから」

 

 それを聞いたとき僕はふと思い出した。

 奏は、自分のせいでお父さんが倒れたって思って気に病んでいる。

 そして、お父さんの言葉に縛られている子だ。

 そのきっかけであるお父さんが倒れたっていうのがこの日だったんだ。

 ……本当は、ここで僕はかかわるべきじゃないんだと思う。

 けど、こんな状態で見過ごすのも後味が悪い。それに何より、司だったら迷わず手を差し伸べるはずだ。だから……

 

「何かあったなら、話してみてくれないかな」

「え?」

「ほら、誰かに話してみたら気が楽になることだってあるし」

「…………。じゃあ、少し聞いてくれるかな?」

 

 奏は少し悩むそぶりを見せたが、僕の提案を受け入れて話をしてくれた。

 話の内容は僕の予想通りお父さんについてだった。

 やっぱり何度聞いても心が苦しくなる話だなと聞いていて思った。

 奏自体は、話を聞いてもらっているおかげか少しずつ張り詰めた表情が柔らかくなっている気がした。

 

「……ありがとう。話を聞いてくれて。おかげで少し楽になったよ」

「別に、僕は何もしてないよ」

「それでも、ありがとう。わたしはもう帰るよ。早く作曲しなくちゃ」

「……そっか。頑張って、応援してる」

「ふふ、ありがとう。……あ、最後に名前を聞いてもいいかな?」

「いいよ。僕は真嶋拓。中3だ」

「あ、同い年なんだ。わたしは、宵崎奏。じゃあ、真嶋さん。ありがとうね。じゃあ」

「うん」

 

 そのやり取りが終わると、奏は待合室から出ていった。

 結局メインストーリーに影響はないぐらいになってよかったなと思いつつもやっぱり司みたいに相手を救うことは難しいんだなと痛感した。

 

「……さて、そろそろ戻るか」

 

 僕はそう自分に言い聞かせるように言って立ち上がり、元来た道で病室に帰っていった。

 

 

 その後、つつがなく退院した僕はお昼からになってしまったがその足で学校に来ていた。

 昼休みの教室に着くと、皆もう事情を知っているのか僕を見ると気まずい雰囲気が流れ込んできた。

 その雰囲気はまるで前世を思い出してしまいそうなほど厭な雰囲気だった。

 少し嫌気がさしていると、絵名が話しかけてきた。

 

「おはよう。もう大丈夫なの?」

「え? あ、うん。一応。でもしばらくは松葉杖での暮らしが続くかな」

「そう。……ま、困ったことがあったら手伝ってあげるから」

「あ、ありがとう」

「別に。気にしなくていいわよ。それじゃあ、私はもう行くから」

 

 そういって絵名は教室から出ていった。

 僕は、絵名と話したことで少し気分が軽くなった。

 後で感謝しないとなと思いながら、席へと向かう。

 今日は仕事がない日なのか愛莉が来ていた。

 愛莉は僕の顔を見ると、悲しそうな顔をしだした。

 やっぱりこんな顔見たくなかったな。と思いつつも今話しかけなかったらもっと悲しませるのかもしれないと思うと僕は話しかけずにはいられなかった。

 

「お、おはよう。桃井さん」

「どうして?」

「え?」

 

 愛莉は挨拶ではなく、疑問を投げかけてきた。

 けれど、それがどういう意味なのか僕には分からなかった。

 

「ど、どうしてってどういうこと?」

「そんなのあなたの今の状況に決まっているじゃない」

「そ、それは僕が悪いんだ。僕が」

「そんなことないわ。わたしが悪いの」

「え?」

 

 なんで、そこで愛莉が悪いってことになるんだ? 別に彼女は悪くない、寧ろ被害者の方だろ。

 

「だって、わたしが花川くんのことを止めきれなかったから」

 

 そのあとの愛莉は堰を切ったように話した。

 

「元々、花川くんは2年生の時からわたしによく話しかけてきたの。最初は普通に話していたんだけど、段々付き合ってほしいとか言いだしてきて、『わたしは、アイドルだからそういうことはできない』って言ったら、機嫌を損ねたのかそこからわたしに対する嫌がらせが始まったの。ちょうどその頃からわたしもバラエティー番組に出るようになったんだけど、そこで花川くんと周りの人たちからいじられて、少し嫌な思いをしたことがあったの。その時は人に助けてもらって、何とか表面上は収まっていたの」

 

 1つまた1つと席と待っていたものが決壊するかのように言葉が紡がれる。

 

「でも、日が経つにつれてどんどん人が私から離れるようになったの。それもいきなりよ。けれど、仕事が忙しくてそのことを気にする余裕がなかった。その結果中2の最後になったらあまり話し相手がいなくなってしまったの。そんなとき、真嶋くんが現れた。まさか、QTの曲を聞いてくれていたりしているなんて思ってもいなかったけど、話し相手がいるって分かっただけでも学校生活が楽しくなったわ。でも、今回の件が起こってしまった。わたしは、誰かに希望を与えるためにアイドルをしているのに。逆に私がいるせいで傷ついている。そんなのもうアイドルじゃあないのよ。だから……ごめんなさい」

 

 そう言うと愛莉は涙をこぼし始める。僕は慌ててティッシュをポケットから取り出し愛莉に渡す。愛莉は素直に受け取り、鼻をチーンとかんだ。数分すると落ち着いてきたのかまた再度話しかけてきた。

 

「ごめんなさい。泣きたいのは真嶋くんなのに」

「べ、別にいいよ。それに」

「それに?」

 

 僕はずっと愛莉の話を聞いて思ったことがあった。だから、それをそのまま彼女に伝えるため口を開く。

 

「それに。僕は桃井さんが悪いなんて思わないよ。だって、悪いのは花川くんたちなんだから」

「でも、それはわたしがいたからで。わたしがいなければこんなことには」

「僕は、桃井さんから、『愛莉ちゃん』から希望をもらってるよ」

「……え?」

「桃井さんはテレビの中だとすごい頑張ってるから応援したくなるし、学校でも必死にみんなに追いつくように努力してる。花川くんもそういうところを見ていたから好きになったんじゃないかな。まあ、行動に問題はあったけど」

「でもわたしなんかが、希望を」

「わたしなんかが、じゃないよ」

「!!」

 

 僕は、一度そこで深呼吸する。確かに、絵名の言った通り自分を卑下する相手を見るのは嫌だなあ。だから……

 

「桃井さんは、いや、桃井さんだから少なくとも僕は希望をもらえたんだ。だから、この一件は桃井さんは悪くないし。関係ない」

「関係ないことはないわよ」

「……確かにそうだけど。少なくとも桃井さんのせいではない。これだけははっきりと言える」

「…………本当にわたしは希望を届けられているかしら」

「うん。少なくとも1人には届いてるよ。その希望が」

「……そう。……分かったわ。ごめんなさい。いきなり辛気臭い感じになっちゃって」

 

 迷いが晴れたのか愛莉は僕に対して謝ってきた。

 

「別にいいよ。その代わり、引き続き仲よくしてくれると嬉しいかな」

 

 愛莉は少しポカンとした顔をしたがすぐに持ち直して、笑顔で答えてくれた。

 

「ええ、もちろん。引き続きよろしくね。真嶋くん」

 

 今回、僕がこんな風に言えたのは絵名が僕に言ってくれたことと奏の話を聞いたことが大きかったと思う。

 そうじゃなかったらきっと愛莉とも疎遠状態になっていたように思える。

 あとでお礼をしなくちゃなと思っていると、昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り出した。

 僕と愛莉はそのことに気づき次の授業の準備をし始める。

 そんな中、僕はふと愛莉がさっきした話が気になり始めた。

 元々花川くんの嫌がらせを止めてくれた人がいたって言っていたけど、恐らくあれは絵名のことだろう。

 なら、なんで絵名と仲良くしていないんだ? 少なくとも絵名は周りに左右されるとは思えない。

 思えば、絵名は愛莉を避けているようにも思えた。

 実際、すぐ教室を出て行っているのが証拠だろう。

 一体、何があったんだ?




久しぶりに投稿しました。
また定期的に出そうと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。