北上祥子。
隣のクラスにいるらしいが、僕の通っている中学校は5組まであるため自分自身は同じクラスになることはなかったが、彼女が行ったことがシナリオ破綻を招いている。
あゆみの転校や絵名が愛莉のもとから離れたこと。
この2つが何より大きい。
北上祥子がなんでこんなことをしたのかは、現状、何もわからない。
ただ、もし転生者だったとしたら? プロセカを知っていてストーリーもある程度読んでいなければいけないが、一応筋は通る。
僕はキャラの成長とかを考えるとあくまでシナリオは守るべきだと思っているが、そう思わない人もいるかもしれない。
そういう人たちがもしキャラたちに危害を加えている現状、いったい僕に何ができるんだろう。
「ま、真嶋くん? やっぱり聞いても楽しくなかったわよね」
「あ、いや。ごめん。ちょっと考え事をしてて」
ずっと考え事をしていたせいか、近くにいる愛莉のことを放置してしまっていた。
申し訳なさから僕は謝り、ふと自分の中で出した答えを愛莉に言った。
「ねえ、桃井さん。ちょっと僕もその北上さんに会ってみようと思うんだけど……」
「ッ!! 駄目。また絵名みたいに離れられたら、せっかく久しぶりに友達ができたのに。失うなんて……」
思った通りではあったが、まだ失った傷は癒えてはいなかったらしい。
それでも頑張ってアイドルをやっていたなんて。
あゆみのこともあったのかもしれないけれど、それでも強い子なんだなと思った。
だからこそ僕は、その愛莉を悲しませた北上祥子を許せなかった。
「大丈夫。僕は、桃井さんとはもっと話したいし。離れるわけにはいかないから」
「でも、絵名も大丈夫って言って……結局」
僕は今にも泣きだしそうな愛莉の手を握ってお互い向き合った状態を作った。
正面から愛莉の顔を見て僕は宣言する。
「桃井さん。僕は、絶対……絶対に『愛莉ちゃん』を裏切らないから。今は信じてもらえないかもしれないけど、一人のファンとしてそして何より『愛莉ちゃん』の友達の一員として必ず離れないから」
そう言うと、愛莉の眼は大きく開いた。
かと思うとすぐに破顔して笑顔を見せ、急に僕を抱きしめてきた。
僕は驚いてしまって、何も言うことができなかった。
「真嶋くんがそこまで言うなんて、……分かったわ。わたしは、あなたのことを『拓くん』のことを信じるわ。だから……必ず戻ってきなさいよ」
愛莉のその言葉を聞いて僕は安心する。何とか説得できてよかった。
名前まで読んでもらえたし……名前!?
「え!? 桃井さん。今僕のこと名前で……」
そういった時つい押しのけるような形になってしまった。
「あ、ごめん」
「別にいいのよ拓くん。それに私のこと『愛莉ちゃん』って言ったじゃない。だから意趣返しって意味もあるけど、……友達だもの。名前呼びは当たり前よ。拓くんも『愛莉ちゃん』って呼んでもいいわ。あ、なんなら『愛莉』でもいいわよ」
「え? いや、……じゃあ、愛莉ちゃんで」
「ええ、よろしくね。拓くん」
まさかこんな展開になるとは思わなかったが、彼女の笑顔を見るとそれもありだなと思った。
ただ、呼び捨てはハードルが高すぎて言える日は来ないんだろうなと心の中で思った。
昼食を食べ終えて愛莉が屋上でライブのためのダンス練習をするからと言っていたので別れた後、自分の教室に向かうとちょうど絵名が教室から出ていこうとしていたところだった。
こんなチャンスは中々ないと思って、絵名に話しかける。
「あ、えななん。ちょっといいかな?」
絵名は、少し嫌そうな顔をするも足を止める。
「え、今じゃなきゃダメ? 後でいいなら後がいいんだけど」
「……もしかして、北上祥子のところに行くつもり?」
当たればいいなくらいの気持ちで言った言葉だったが、当たっていたらしく絵名は目を大きく見開いた。
「な、なんで……あんたがそのことを知っているのよ?」
「……愛莉ちゃんから聞いたんだ」
「……愛莉が?」
一瞬愛莉が絵名について話したことを隠そうとしたが、僕の交友関係的に何時かはバレてしまうから素直に話すことにする。
それを聞いた絵名は、先ほどとは違って本当に嫌そうな顔をした。
「だからどうしたっていうの? あんたには関係のないことでしょ」
「そ、それはそうだけど。お願いがあって」
「お願い?」
「うん。愛莉ちゃんと話す時間を作ってくれない?」
そう言うと、彼女はさらに嫌そうな顔をする。
「は? なんであんたが私と愛莉のことに突っ込むのよ?」
「それは……」
絵名にそういわれた僕は思わず口をつぐむ。
シナリオでは、絵名と愛莉が仲良かったから。
なんて言っても意味が分からないだろうし。
……一体どう伝えたらいいんだろう。
僕が返答に困っているとしびれを切らしたのか絵名は、苛々しながら話し出す。
「ほら言えないじゃない。あんたは関係ないんだから勝手に土足で入ってこないで」
そう言って絵名はどこかに行ってしまった。
僕はただ彼女の背中を見ることしかできなかった。
-数分後、ある空き教室で。-
「あれ~、ずいぶん遅かったね~。絵名にしては珍しいじゃ~ん」
「悪かったわね。ちょっと絡まれてただけよ」
私が教室に入るなりいきなり話しかけてきたこいつは北上祥子。
正直私はこいつのことが嫌いだ。
けど、逆らうことはできない。
あの時から私は彼女の言いなりだ。
「ふ~ん。……それって真嶋拓?」
急に口調の変わり祥子は確信のついたことを発言した。
「な? ど、どうしてあんたが?」
「あれ~? あんた呼びなんてつれないな~」
「あいつは関係ない。だから、あいつに何もしないで」
「やだな~。そんなことするわけないじゃ~ん」
言葉ではそう言っている祥子だが、顔は明らかに何かしようとしているのを感じた。
ただ、なんであいつがこいつのターゲットになったの?
少なくともあいつはこいつにとってデメリットなことはしていないはずなのに。
「……というか、何であいつのことをいきなり聞いたわけ? あん……祥子、もしかして好きにでもなったの?」
相手がこんなことをしている理由がわからなかったからとりあえず鎌をかけることにした。
相手は、それを聞いて笑い声をあげるも目が全く笑っていなかった。
「そんなわけないじゃ~ん。絵名も冗談がうまくなったね~」
さすがにのってはこなかったかと思っていると、「ただ」と祥子が付け加える。
「なんかあの男が~、愛莉とよく一緒にいるって友達から聞いてね~。だから、ちょっと忠告しないとって思って~。ちょっと仕掛けたんだけど、まさか乗り越えるなんてね~」
「は?」
「あれ~、言ってなかったっけ。あの、花……何とか君にちょっと吹き込んだんだよね~」
「それじゃあ、あのことは、あんたの仕業ってこと!?」
私が祥子に聞くと、私が焦っているのを楽しんでいるかのように笑いながら話し始める。
「全く人聞きの悪いこと言わないでよ~。ちょっと花何とか君にその男と愛莉のこと話しただけだって~。このままだと取られちゃうよって」
それを聞いて、私は必死に苛立ちを隠す。今、私がこいつをどうこうしても私が……愛莉が不利になるだけだから。
私が黙っていると、祥子は不思議そうにこちらに顔を向けている。
「何よ?」
「いや~、ちょっと意外だな~って思って。てっきり、殴ってくるかな~って思ってたから~」
わかっている癖に嫌味な奴。……ホントに嫌い。
でも、あいつに祥子をどうにかできるの? 私は逆らうことができない。
一体、どうしたらいいの?
そう心の中で焦りながらも祥子に悟らせないためにわざと強がりを言う。
「何殴ったほうがよかった? なら殴るけど」
「いや~、やめとくよ~。あ、あと。これからは、あの男には近づかないようにしてね~」
「は? なんで従わなきゃならないのよ」
「いや、別に従わなくてもいいよ~。でも、逆らえないでしょ~」
それを聞いて私は舌打ちをする。
しかし、祥子は特に気にするそぶりを見せずに話を続ける。
「あと~、絵名にやってもらいたいことがあるんだ~。だからちょ~っと手伝ってね~」
私は祥子にいら立ちを募らせながらも、従う。
従わなければ何をされるかわからないからだ。
「今度は、なにをするつもり?」
「いや~、せっかくだからさ。もう愛莉も巻き込もうかなって~。だから、手伝ってね絵名。よろしく~」
怒りをこらえながらもその時ふとあいつが言ったことを思い出す。
『愛莉ちゃんと話す時間を作ってくれない?』
多分これは仲直りしてほしいという意味なんだろう。
……そんなの出来るならしたいわよ。
放課後、僕は一人机に突っ伏してうーんと唸っていた。
それを見た愛莉が不思議そうにこちらを見ていた。
「拓くん。一体どうしたの?」
「ん? ああ、愛莉ちゃん。実はえななんに直接愛莉ちゃんと話し合う場を設けれないか提案したんだけど、あんたは関係ないでしょ。って言われちゃって。どうすればいいかなって考えてた」
「……なんかごめんなさいね。わたしのためにこんなにしてくれて」
僕の返答に少し気まずそうにした愛莉にすぐに弁明する。
「い、いや。べつに愛莉に謝ってほしくて言ったんじゃなくて……ごめん」
「わたしの方もごめんなさい。少し意地悪をしてしまったわね」
「いや、そんなことないから。ただ、本当にどうしようかなって」
「……なら、わたしも一緒に考えさせてくれるかしら。夏休みに入るまでは仕事も特にないし。まあ、逆に夏休みが忙しいんだけど」
少し愛莉は愚痴を言いながら僕に提案する。
「ありがとう。それじゃあ、どこかの喫茶店で話し合わない?」
「良いわね。あ、それならわたし行ってみたい場所があるの。せっかくだからそこにしない?」
「うん、いいね。それじゃあ、準備が終わったら行こう」
愛莉は僕の発言に頷いて、各々で片付けを始めた。
数秒後、愛莉の方から着信音が聞こえ始めた。
程なくして愛莉の小声で話し始める。
相手はどうやらマネージャーのようだった。
「もしもし、佐藤さん? どうしたんですか? 今日は特に収録とかなかったと思うんですけど……え? ニュースを見て? ちょ、なんでそんなに慌てているんですか?」
何かただならない空気を感じた僕は、急いでニュースサイトを調べる。
そこで僕は、思わず目を見開く。
「何よ、これ?」
どうやら愛莉もそのニュースが目に入ったらしい。
顔を見ると、信じられないと思っているような顔をしていた。
でもそんな顔になるのも仕方ないと思う。
だってその内容は、愛莉の熱愛報道なんだから。
ニュースの詳しい内容をまとめると、愛莉と一般男性が恋愛を行っている、というものだった。
ここまでだったらただのデマで留まるが、ネットに愛莉が男性に(というか僕に)抱きしめている写真が投稿されていた。
さすがに顔とかはモザイクがかかっているがどちらにせよ愛莉が男と付き合っているという信憑性を持ってしまっていた。
おまけに情報が散乱としているせいで情報源がどこなのかもはっきりしていない。
愛莉はその騒動のせいですぐ教室から出て行って事務所へと向かってしまった。
愛莉のことが気になりながらも今の自分にはやることがなかったため、ただただやるせなかった。
その翌日、愛莉は学校に来ることはなかった。ただ、
「おい、真嶋。あの写真ってお前だろう。どうやってアイドルとそんな仲になったんだよ?」
そう、僕にこんな風に言い寄ってくる男が増えてきた。
「別にそんな仲じゃ……」
「またまた~。隠すなよ~、俺とお前の仲だろ」
こんな風に僕が否定しても相手はしつこく聞き続けてくる。正直初日なのにも関わらずもう嫌になってきている。
ただ、愛莉と比べると僕なんか到底及ばないだろう。そう思いながら僕は聞いてくる男を無視しながらスマホを見る。
SNSを見ると、そこには愛莉の事務所からの否定の文面と大量の愛莉に対しての誹謗中傷が書いてあった。
『ファンだったのにふざけるな! もうグッズも全部捨てます』
『ハッピーエブリデイが恋愛ってwww想像つかねぇわ』
『たいして顔もよくないから炎上商法でも狙ってたんじゃねwww』
こんな感じのことがほかにも大量に書いてあった。
もちろん中には愛莉を擁護する声もあったが、見ている感じでは圧倒的に誹謗中傷側が多数派だ。
もともとテレビで出ていた時はツッコミ役が多かったために愛莉だから、ハッピーエブリデイだから何を言ってもいいなんて思っている奴もいるのが原因だ。
イベストでも愛莉に心許ないことを言う奴がいた。
そんな奴らがネットで好きかって言っているのだろう。
ただ、こう言う奴ほど数週間もすれば何も言わなくなる。
まるで、おもちゃを取り換えるように。
そう思うと腹立たしさがこみあげてくる。
絶対あいつが原因だ。
愛莉から話を聞いていたから犯人事態に見当はついている。
北上祥子だ。まさかここまで大事にするなんて。ここまで来て僕は確信した。
あいつは、転生者だ。
同じ転生者なら話は早い。
直接あいつに話を聞きに行ってやる。
そう思って、僕は祥子のクラスへ向かおうとしたとき絵名が話しかけてきた。
「ちょっと、今良い?」
「……なんだよ、僕今から行くところが」
「大事なことなの」
絵名が真剣な顔で僕に言ってくる。
思わず今までの怒りが引くくらいその顔は覚悟に満ちていた。
けど、それと同時にどこか悲しそうな顔をしていた。
僕はそんな絵名を放っておくことができなかった。
「わ、分かったよ」
「お、おい待てよ。真嶋、まだ話は終わってない」
なんか声が聞こえたような気がしたが、気にせず無視して絵名と一緒に場所を変えに教室を出た。
移動した場所は昨日愛莉と話したばかりの屋上だった。
「ごめんね、いきなり。でも、絶対にこれだけは話しておきたいと思って」
絵名は屋上についた瞬間から緊張の帯びた顔をしながらも淡々と話しを続ける。
「うん、大丈夫だよ。それで、話ってのは?」
「……なの」
「え?」
「私が愛莉とあんたの写真をSNSに投稿したの」
「……は?」
一瞬の静寂のあと思わず僕は間抜けな声を出した。
以上で第8話は終了です。
いかがでしたか?投稿が色々と遅れてしまいすいませんでした。
また少しずつ出していこうと思います。