役立たずの三輪   作:メカ丸ゥゥゥウウウ!

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【独自設定】【意味】
・原作には存在しない設定
・原作から意図的に変更された設定
・忘れたか見落とされた設定


それはそうと誤字報告ありがとうございます。誤字は独自設定ではありません。


特級という埒外の眼前で

 放棄された巨大なダムの外部。剥き出しのコンクリートが広がる無機質な空間で、二つの存在が静かに睨み合っていた。

 一方は、継ぎ接ぎだらけの顔に狂気と歓喜を張り付けた特級呪霊、真人。

 もう一方は、重厚な金属の光沢を放つ全長二メートル五十センチほどの鋼鉄の巨人。与幸吉がその身に纏う、最新鋭のパワードスーツ型傀儡である。

 

「へぇ……。遠隔操作のロボットかと思ったら、中に本人が入ってるんだね」

 

 真人は目を細め、目の前の巨大な装甲の奥に潜む魂の形を正確に捉えていた。無機物には干渉できない真人の術式だが、中に人間が入っているとなれば話は全く別だ。

 

(どんなに分厚い装甲を着込んでいようが、俺の術式は関係ない。一度でも中身の肉体に直接触れてしまえば、俺の勝ちだ)

 真人の口角が三日月のように吊り上がる。パワードスーツという形状は、機動力や防御力を高める反面、中の人間の回避行動を大柄な機体に依存させる。多少の隙を晒してでも、一撃でも触れれば終わる。真人にとって、これほど与し易い相手はいなかった。

 

 ズンッ!

 真人がコンクリートを蹴り砕き、弾丸のような速度でメカ丸の懐へと飛び込んだ。

 狙うは最も的が大きくて当てやすい腹部。真人は右腕の筋肉を異常に肥大化させ、特級呪霊に分類されるに足る呪力を込めた拳を、真っ直ぐに叩き込んだ。

 

「もらった!!」

 

 鋼鉄の装甲に、必殺の拳が激突し、地面であるダムにヒビが入る。

 だが、その瞬間に真人の顔に浮かんだのは、勝利の確信ではなく、底知れぬ驚愕であった。

 

(……は?)

 

 拳から伝わってくる感触が、明らかにおかしかったのだ。

 分厚い鉄板を殴ったような硬さではない。ましてや、装甲を貫通して中の肉体に術式を流し込めた手応えでもない。

 真人の感覚は、まるで絶対に動くことのない巨大な山を殴りつけたような、途方もない質量と反発力を捉えていた。拳に乗せた呪力と運動エネルギーが、接触した装甲の表面から放射状に拡散、吸収され、内部へと一切浸透していない。

 特級呪霊の全力の打撃が、完全に無に帰した瞬間。

 その理解不能な現象に、真人の思考がコンマ数秒、完全に硬直した。

 

「遅い」

 

 装甲の奥から響く、与幸吉の冷徹な声。

 真人が硬直したその刹那、メカ丸の巨大な右腕が下から跳ね上がり、真人の横腹を容赦なく打ち据えた。

 

 大気を震わせる重い打撃音と共に、真人の巨体がボールのように弾き飛ばされ、ダムの上面を削りながら数十メートル先へと転がっていった。

 

 与幸吉は、機体の姿勢制御を行いながら、静かに自身の鎧の性能を確認していた。

 

 ――変形装甲傀儡 究極メカ丸。

 それが、この機体の名前である。

 

 この絶対的な防御力は、単なる分厚い装甲の賜物ではない。与幸吉が、全てを視てきた結果の産物であった。

 

 ここ数ヶ月、彼が密かに好意を寄せる三輪霞の肉体に起きている、不可解な変異。それに気づいた与は、三輪本人の了承を得て、彼女の制服や修練着に極小のセンサーを仕込ませてもらっていた。表向きは自身の傀儡技術のデータ収集のためと誤魔化して。

 そのセンサーは、三輪が戦闘を行う際、彼女の肉体に一体何が起きているのかを、医学的、呪術的な数値として克明に記録し続けていた。

 

 データが示した真実は、与を驚愕させた。

 三輪の肉体は、常に硬いわけでも、常に異常な筋力を発揮しているわけでもなかった。

 敵の攻撃が命中するほんの百分の一秒前。接触する部位とその周辺の筋繊維や骨格の密度が爆発的に跳ね上がり、同時に、身体全体が波打つように変容して、受けた衝撃のエネルギーを全身に分散、流出させるという、極めて高度な衝撃吸収機構が自律的に作動していたのだ。

 

(あいつらが三輪に何を仕込んだかは分からない。だが……その防衛機構の理屈さえ分かれば、俺の技術で再現できる!)

 

 与は、三輪の肉体構造の再現を試みた。しかし、それを単一の金属装甲や、通常の関節構造を持つ傀儡で実現することは物理的に不可能だった。

 ゆえに彼は、発想を根本から転換した。

 この全長二メートル五十センチの究極メカ丸の装甲は、一枚の金属板ではない。

 直径十ミリにも満たない、数万個という極小の傀儡の集合体なのだ。

 極小の傀儡群が、外部からの衝撃を感知した瞬間に互いに連結、圧縮して密度を跳ね上げ、同時に装甲全体が流体のようにスライドすることで、運動エネルギーを完全に受け流す。三輪の肉体に起きている異常な肉体の変化を、傀儡技術の極致によって疑似的に再現した、難攻不落の絶対装甲。

 それが、真人の打撃を無効化したからくりであった。

 

 

 ーーー

 

 

「ほう……なるほど」

 

 ダムから少し離れた高台で、その戦闘の推移を静かに観察していた夏油傑は、感嘆の息を漏らした。

 彼の優れた呪術的観察眼は、あの一瞬の攻防でメカ丸の装甲の正体――極小傀儡の集合体による衝撃分散機構――を正確に見抜いていた。

 

 しかし、夏油の思考はそこで止まらない。

 

(素晴らしい技術だ。だが、あれほどの数の極小傀儡をリアルタイムで個別制御し、さらに真人を吹き飛ばすほどの呪力出力を機体に持たせるなど、本来の彼のスペックでは不可能なはずだ)

 

 天与呪縛によって広大な術式範囲と強大な呪力を持っているとはいえ、今のメカ丸から放たれているプレッシャーは、それすらも遥かに凌駕している。

 

(……恐らく、治癒された自身の肉体を利用して、何らかの強烈な縛りを新たに課し、術式の出力を強制的に引き上げているな)

 

 夏油の予想は、完全に的を射ていた。

 

 与幸吉が、真人の無為転変によって健常な肉体を手に入れた直後。

 彼が真っ先に確認したのは、自身の天与呪縛がどうなったかという一点であった。

 通常、欠損していた肉体が治れば、その代償として得ていた天与呪縛の能力(広大な術式範囲と呪力)も失われるはずだ。

 しかし、結果は違った。日本全土に及ぶ操作範囲も、莫大な呪力も、一切失われることなく健在であった。

 

 与は、その理由をすぐに推測した。

 真人の治療は、家入硝子のような反転術式による正のエネルギーでの再生ではない。魂の形を弄り、肉体を強制的に変形させたに過ぎないのだ。

 つまり、物理的には腕や脚として機能していても、呪術的な定義においては、彼の肉体は未だに欠損した不完全なものとして世界に認識されているのである。

 

 この事実は、与にとってこれ以上ないほどの好都合であった。

 天与呪縛が残っているのなら、それを異なる力に変換できる。

 

 与幸吉は、メカ丸に乗り込む直前、自身に新たな『縛り』を課した。

 ――天与呪縛によって得ていた日本全土に及ぶ広大な術式範囲。その強大なアドバンテージを全て放棄する。

 その代償として得たのは、放棄した範囲エネルギーの全てを自身と、その周囲二メートル内に存在する傀儡に還元することによる、莫大な呪力量と、極限の出力向上。

 今この瞬間、スペックだけで見れば、与幸吉は紛れもなく特級術師の末席に連なる存在へと変貌を遂げていた。

 

 

 ーーー

 

 

「あははっ! やるじゃん、びっくりしたよ!」

 

 土煙を払い、真人が楽しげな声と共に戻ってきた。

 あれほどの強烈な打撃をモロに食らったはずだが、彼にはかすり傷一つ、土汚れすらついていない。

 真人の術式、無為転変の世界において、魂とは肉体の先にあるもの。魂が肉体を形成しているのであり、その逆ではない。

 ゆえに、どれほど肉体を物理的に破壊されようが、真人は自身の魂の形を維持している限り、ノーダメージで瞬時に肉体を再構築できる。真人を祓うには、彼の魂そのものに直接攻撃を与えなければ、全く意味がないのだ。

 

「さあ、第二ラウンドだ!」

 

 真人の両腕が、巨大な棘鉄球と鋭利な大鎌へと変形し、メカ丸へと殺到する。

 コンクリートを粉砕する質量攻撃。空を裂く斬撃。

 しかし、メカ丸はその悉くを無効化した。

 大鎌が装甲に触れる瞬間に極小傀儡が波打ち、斬撃を滑らせて逸らす。棘鉄球の直撃も、接触面の密度を瞬間的に限界まで高めることで完全に弾き返す。

 そして、防いだ直後の隙を突き、メカ丸の巨大な拳が、蹴りが、あるいは肘に仕込まれたブースターによる重打撃が、真人の肉体を次々と粉砕していく。

 

 真人の腕が吹き飛び、胴体が千切れ、頭部が陥没する。

 だが、その全てが無意味だった。

 千切れた端から瞬時に肉体が再生し、真人はケラケラと笑いながら再び変則的な攻撃を仕掛けてくる。

 

「無駄無駄! 君の攻撃は重いけどさ、俺の魂には1ミリも届いてないよ!」

 

 真人が両腕を無数の鞭のように変形させ、メカ丸の四肢に絡みついた。

 

「いくら立派な鎧を着ててもさ、俺を殺せないんじゃ、いつかは呪力が尽きて終わるだけだ。ねえ、絶望した?」

 

 嘲笑う真人。

 確かに、現状は完全に千日手であった。真人の攻撃はメカ丸の装甲を破れず、メカ丸の攻撃は真人の魂を削れない。そして真人の術式による自己再生は殆ど呪力を消費しない。長引けば、いずれ与幸吉が不利になるのは明白だった。

 

 しかし。

 メカ丸内部の与幸吉の眼差しには、一切の焦りも、絶望もなかった。

 

(……馬鹿が。俺が、お前の性質も調べずにこの死地に赴くと思ったか)

 

 真人が更なる追撃を仕掛けようと、絡みついた腕を引き絞った瞬間。

 

 パシュッ!

 メカ丸の右腕の装甲の一部がスライドし、中から筒状の物体が射出された。

 それは、真人の鞭のような腕の隙間を縫い、彼の左肩に深々と突き刺さった。

 

「ん? なにこれ。注射器?」

 

 真人は肩に刺さった金属の筒を見て、首を傾げた。物理攻撃が効かない自分に、こんな小さな針を刺してどうするつもりなのか。

 

「……炸裂しろ」

 

 与幸吉の低い呟きと共に。

 その筒の中に封じられていた術式が、真人の肉体の内側で解放された。

 

 次の瞬間、真人の左肩を中心に、彼の肉体が内側から凄まじい勢いで大きく爆ぜた。

 単なる肉体の破壊ではない。

 真人の根幹を成す魂の形そのものが、削り取られたのだ。

 

「ガ、アァァァァァァァッ!?」

 

 これまでの戦闘で一度も声を上げなかった真人が、鼓膜を劈くような絶叫を上げ、左肩を抑えて後ずさった。

 再生しない。

 吹き飛ばされた左肩の肉体が、全く元に戻らないのだ。魂そのものが欠損したことによる、明確なダメージ。

 

「なっ……なんだこれ!? 俺の魂が……!?」

 

 驚愕と激痛に顔を歪める真人。

 その決定的な隙を、メカ丸は見逃さなかった。

 呪力放出を全開にし、一瞬で真人の懐へと踏み込む。

 鋼鉄の巨体の全体重と、特級相当の呪力を乗せた前蹴りが、真人の腹部を深々と抉り取った。

 

 真人の巨体が、先ほどとは比較にならない速度で吹き飛び、ダムの強固な壁面を何枚もぶち抜きながら彼方へと消えていく。

 土煙が舞い上がる中、与幸吉はメカ丸越しに、真人の左肩に打ち込んだ切り札の残骸を見つめた。

 

 それは、いかなる強者の領域でも必中効果を中和する、弱者のための領域。

 江戸時代後期、蘆屋貞綱という呪術師によって生み出された秘伝の技術。

 与幸吉は、長年の傀儡研究の果てに、その術式を筒状の呪具に封じ込め、直接相手の体内に撃ち込むという荒技を完成させていた。

 

「思い知れ、呪霊」

 

 与幸吉の怒りに満ちた声が、鋼鉄の機体を通してダムに響き渡る。

 

「これが、シン・陰流 簡易領域だ」

 

 三輪霞を守るため、そして全ての決着をつけるため。

 与幸吉の怒りが、真の牙を剥いたのであった。




私の長所は間違いすらも独自設定と言い張る面の皮の厚さです。マジで独自設定な可能性と、修正したせいで先に書いてる内容と矛盾しても困るので原作と相違があっても独自設定として見逃してください。
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