これがカードゲーム世界というやつか(多分違う) 作:初心者
「ククク、リーサル*1だ。貴様にはもはや死あるのみ……」
目の前の画面は、絶望的と言える盤面。しかし、カードゲームは、ターン制。そして、現在は俺のターン。つまり、間違わなければ、俺の、勝ち……っ!
「ここまで上手く揃っているなんて、ふっ、自分の運が怖いよっ……あっ」
プレイするカードを間違えた。
確認画面まで誤タップ、だと……っ!
「えっえっ、あっ、ちょっ、あっ、けど、『道化の仮面』があるから、あとは、けどそれだと場が埋まっちゃうし……やばっ、あ〜」
一体何をしてくれたんだと過去の自分を殴りたい。なんとか現状を打破する方法は……
「あった!」
プレイするカードを間違えても、リーサルはまだある。
「これで、こうして……あっ」
無情にも、時間切れ。ターン交代。
THE END
YOU LOSE
「……」
レート*2 マイナス8
「……」
降格 レジェンド → マスター
「……ふぅ。幻覚か?」
首を振り、もう一度画面を見る。
降格 レジェンド → マスター
「……」
「落ちてますね」
「うるさい」
「いや、事実を言っただけですよ?」
「事実陳列罪。懲役五年」
「私は精霊なので人間の法律は適用されませんよ?」
ゆっくりと振り返る。
そこには、小型のロボットが浮いている。
現実感のない光景である。
見慣れているはずなのに、一瞬幻覚かと脳がバグってしまう。
こいつは、ロウク。カードゲーム世界*3ではあるあるの、カードの精霊と言うやつである。しかも、ロボットの精霊。特徴は人間臭い。ツッコミどころ満載だがそういうものと割り切って欲しい。
外見は、人形に近い、青色の曲線的なフォルム。目に当たる部分は黄色く、白のラインが入っているのが特徴的である。
「精霊には法律ってないの?」
「一応ありますけど、事実陳列罪と言う罪状があるとは聞いたことがありませんね。というか、人間界にもないですよね?」
「……えっ?」
「いやいや、ないですよ。今調べましたけど、ないって出ましたもん」
プチ情報だが、この精霊、ネットにつながっているのである(このロボット、っていう方がわかりやすいか?)。つまり、簡単にネット検索が可能なのである。……いつもお世話になってます。
閑話休題。
「ま、まぁ、それはともかく、仕事終わったん?」
「とっくのとうに終わってますよ」
「素晴らしい!」
盛大に拍手を叩いてみる。
蔑むような視線を向けられた。
「怖いよ」
「他に言うことはないんですか?」
「ありがとう?」
「適当に言ってますよね」
「場の空気を読んだ発言をしております」
「心がこもってない。やりなおし」
「あ゛り゛か゛と゛う゛こ゛さ゛い゛ま゛す゛!!!」
「はぁ……」
度し難い存在を見るような目を向けられた。
「報告しても?」
「うん。満足した」
「結論から言うと、システムに大きな問題はありませんでした。細かい修正項目はありましたが、割愛します。確認する場合は、いつも通りアプリを見てください」
「さすが、頼りになる〜」
ロウクの言っているのは、ゲームアプリの話である。
今、俺がプレイしていたやつだ。
ん? じゃあ、お前はなんなんだって? 企画、プロデュースを担当しています。言い換えると、決めるだけの仕事です。
俺が生まれたのがインターネット黎明期で、パソコンがようやく一般的に売られ始めた頃。
当たり前だが、その頃のゲームなんて簡易なものしかない。
そして、ネットでカードゲームをするという考え自体も存在しない。
『現実でやればよかろう』な思想の人が大半だ。
だから、誰かが気づく前に先駆けになっちゃえ。という考えのもとカードゲーム世界で、ネットでもカードゲームができるように努力を始めた。
それで、まぁ、なんやかんやあって、今に至るわけである。
今では、ネット環境のない人以外は全員インストールしているゲームアプリだと自負している。
そもそもカードゲーム世界だしね。人気なコンテンツに乗っかってるのだから、失敗する方が難しいというものだ。
まぁ、それもこれもロウクのおかげなんですが。(ソースコード書いてるのはロウクだからね。ロボットだから簡単です、ということらしい)
当の本人(本精霊?)はというと
「私はこの後用事があるので、外に出てきます」
と、淡白な対応、そしてそのまま去ってしまった。
「お〜、行ってらっしゃい」
一人部屋に取り残される。
置かれたスマホの画面にはいまだに《YOU LOSE》の文字が踊っている。
「……さてと、それじゃあ……この悲しみをみんなに共有するか」
SNSを開き、スクショとリプレイ動画を載せて
「『Σ( ºωº )ン?』と」
投稿してすぐにグッドがついた。いや、なんもグッドじゃないんですけどね。
〈wwwww〉
〈管理人、弱すぎ?〉
〈どんまいです〉
〈調子悪いのかな?〉
〈ザマァ〉
〈ミスってて草〉
〈たまげたなぁ、これがレジェンドか……〉
ずらずらとコメントがついてくる。
バカにしてくる奴が多いのはなんでなんだ?
思い返すと、いつもと変わらないことに気づいた。
この世界の人は冷たい。ひどいなぁ。人の心とかないんか? ……嘲笑は人の心だから、あるうちに入る? たしかに……。
それにしても、今は平日の夕方なはずなのに、人多いな。
チラリとカレンダーを見る。
「……今日は休日だったのか」
今知ったぞ。
家にずっといるのも、考えものというやつだな。
曜日感覚には気をつけていたが、祝日は見落としていた。
山の日とかなんで祝日になったのかわからんしな。前世にも今世にもある祝日ということは、なにか深い事情があるのかもしれない。
しかし、考えても仕方がないことなので、いったん脇に置いておいて、と
「もう一回潜るかぁ。ランク戻したいしな」
スマホで、ゲームの画面を開く。もちろん、先ほどやっていた『ユニバース』である。
と、ゲームを始めようとしたところで
「戻りました」
と、ロウクが帰ってきた。
「いや、はやいな」
「そうですか?」
「それで、用事とやらは終わったん?」
「そうですね」
「それ、俺に言えるやつ?」
「はい。少し変な場所に生まれてたカードを取ってきただけなので」
「ふ〜ん。そうなん……ん?」
変な場所で生まれたカード?
「それって、つまりは、どういうことだ?」
「そのまんまですよ。なぜか、この近くの公園で、カードが生まれ落ちていたので、それを拾いに行ってきました」
さて、改めて言うが、この世界はカードゲーム世界だ。
この世界を生み出したのは、神のカードらしい。世界の危機なんかは、カードが原因だし、重要な決め事はだいたいカードゲームの勝敗で決まる。
そんな世界では、カードが突如として誕生するのも珍しくない。
そして、人の願いによって、カードが生まれることも、また珍しくない。だから、一応聞いておかねばならない。
「それって、誰かのじゃないよね?」
「いいえ。正真正銘、偶然生まれたカードです」
「それって、俺たちのデッキに必要?」
「……そうですね。無理やり入れることもできなくはない、という感じですかね」
「それ必要ないと同じじゃん」
「ま、まぁ、そうと言えなくもないですね」
認めろよ。口には出さず、その言葉は心の奥に押し込めておく。
「けれど、データは必要では?」
「それはそう」
うちが運営してるの、カードゲームだからね。
「けど、持ってくる必要は……」
「ないですね」
「……戻してきなさい」
まるで犬猫のような言いようだが、あそこにカードがあったことに意味があったのかもしれないのだ。
「そんな大層なカードではないんですけどね」
「おい、人の心を勝手に読むな」
「予想しただけです」
「はぁ……」
急に弄ってきやがって。
「それでは、戻してきますよ」
「ほいほい、お願いな」
これが、この世界に転生した俺の日常という奴である。