これがカードゲーム世界というやつか(多分違う) 作:初心者
ゲーム『ユニバース』
言わずと知れた、ゲームアプリ。
『やっていない人はいない』とまで言われるゲームだ。
実際、うちのクラスでしていないのは、親からスマホを持つことが禁止されている子だけ。先生もしてるし、用務員さんもしてる。
「なぁ、ユウ。最近どうよ?」
友人の鈴木が質問しているのは、『ユニバース』のレートの話だ。
レートは強ければ上がり、弱ければ下がる。なので、強さの指標となる数値だ。
俺はまだマスターまでしか到達できたことがない。
しかも、そんなに高くない。
「1737」
「……コメントのしづらい微妙な数値だな」
「昨日は1800だった」
「余計コメントしづらいわ」
「そっちはどうなんだよ」
「え〜」
ふところから、スマホを取り出す鈴木。
「1521」
「……何があった?」
「俺は現在レジェンドで〜す」
「えっ、はっ?」
レジェンド、それはマスターでレート2100を超えるといけるクラス。
『ユニバース』のアクティブユーザーは、十億をこえている。多くの人が本気で戦っている中、レジェンドに上がるのは、それだけでも大変だ。
「まぁ、当たるやつ全員強い。ミスしたらその試合は普通に負けるし、こっちがミスしなくても負けるし。これがレジェンド帯ですか、って感じよ。しかもね、動きに迷いがないの。こっちがうんうん考えてるってのに、向こうはパッパッパ動いてくるんよ」
それ、お前が考えてるあいだの時間使ってるだけじゃない? という言葉は飲み込みつつ。
「へぇ、けど少しは勝ってるんじゃないの?」
「まぁな〜、でもやっぱ俺はまだまだなんだなって思うわけよ」
ウザいぞ。こいつ。自慢話にしか聞こえない。さっきの『最近どうよ?』のセリフもこの自慢をするための前振りにしか思えなくなってきたぞ。
「しっかし、他のやつには言ってないのか?」
レジェンドとなれば、クラス中で大騒ぎになるだろうに。俺だけに自慢しても仕方がないだろ。
「いや、すぐ落ちそうだから、あとでいじられるの嫌だし」
なるほど。わからなくもない。レジェンドに上がったとなれば、当分は話のネタにされる。上がったとか落ちたとか、学校で聞かれ続ける未来が見える。
「ふ〜ん」
「まぁ、記念に写真撮ってネットに上げたぐらいだな」
「……なんか、叩かれてそうだな」
「ははっ、よくわかったな」
どんな界隈にも、妬みや嫉みは付きものだ。それが、ユニバース関連ともなれば、余計に、だろう。
「まぁ、雑魚の戯言と思えば面白いんだけどな」
「……いい性格してるな」
「一般的な考え方だと思うけどなぁ」
「そうかぁ?」
「そうだろ」
「そう言うなら、そうなのかもな……」
「ハハッ、そこは否定するところじゃないのかよ」
「流れ的にはそうだったかも」
「あぁ、俺ちょっと用あるから、またな」
「えっ!? あっ、うん」
急に、去っていく鈴木。
俺は一人、教室に取り残される。
ここは、旧校舎の空いている教室だ。
あたりは静かで、隣のグラウンドの方から、騒ぎ声が聞こえてくる程度である。
「静かだね」
「……急に出てこないでくれるかな」
懐から、小さな蛇がシュルルと出てきた。
「良いではないか。誰もいないのだから」
彼は、カードの精霊で、グンレ・トートン。
普段学校ではあまり構えないので、人がいなくなるとすぐ出てくる。
「本当にいないかはわからないじゃん」
カードの精霊というのは、珍しい存在だ。
と言うのも、カードの精霊が姿を現すのは、自らと相性の良い人間だけだ。カードの精霊は数多くいるが、人に姿を見せるのは少なく、おおよそ1000人に一人と言われている。
多くはないが、少なくもない、微妙な数字だと思っている。
「俺は教室に戻るぞ」
昼休みもそろそろ終わるしな。
「ふぅ、学校とは、つまらないものだな」
「そりゃあ、ずっと懐の中にいたらつまらないだろうけど、そもそも学校に来るとか言ったのお前だからな?」
「そうだな。なので、明日からは一人で近所の散策をすることにする」
自由だな、おい。
まぁ、今日まで持った、と考えるべきなのだろうか?(※ユウとグンレ・トートンが出会ったのは4日前)
「それじゃあ、明日は気をつけとけよ?」
「この我がドジをするわけがないがね」
そして翌日。
「ねぇ、蛇さん」
盛大にフラグを回収しているグンレ・トートン。
公園で日向ぼっこをしていたところ、気が抜けて実体化してしまう。そこを、少女(推定5歳)に見つかったのだ。
しかもこの少女、周りに親がいないのである。
無視して去るわけにもいかず、彼はとても困っていた。
「……蛇さん?」
「蛇じゃない。私にはグンレ・トートンという高貴な名があるのだ」
クワッ、と目を見開き少女を睨みつける。
「ぐん?」
「グンレ・トートン、だ」
「グンレ……グンレ!」
「はぁ、これだから幼子は……」
ここに、ユウがいたら、『お前もだよ』とツッコミを入れていたであろう。
「ねぇ、グレン。あそぼ」
「グレンではない! グンレだ!」
「グンレ、あそぼ」
「はぁ……何をしてだ?」
「ゲーム!」
少女が、スマホを見せる。
「それは1人用であろう?」
グンレは、ユウがいつもそのゲームをしているのを思い出しながら、言った。
「グンレ、げーむ持ってないの?」
「今は持ってないな」
今は、と言うか彼は一度もしたことがないのだが。
「ふ〜ん。つまんないの」
「……ふむ。では強いデッキを教えてあげようか?」
やったことはないが、現実のカードゲームとの違いはない、と聞いている。カードの精霊としての、プライドに火がついた。
「え〜。持ってないのに?」
「ふつふっふっ、舐めないでほしい。これでもカードの精霊。そのゲームには一過言あるのだよ」
「ふ〜ん。じゃあ、どんなのか作ってよ」
そう言って、少女はスマホを突き出す。
グンレは、画面を見つめる。
そこにはデッキ作成のページ。下に、ずらりとカードが並んでいる。
ぱっとグンレはテキストを眺めるが、数字から始まるものばかりであることしかわからない。
これは文字コード順なのだが、グンレには、それらの知識が乏しく、配列がわからず混乱している。
「うぅむ。この中からカードを探さなければいけないのか?」
そもそも、上にある検索欄を使えば一発なのだが、それすら理解できていない。
普通に機械音痴にしか見えない。
「ねぇ、何探してるの?」
横から、少女がのぞいてくる。
「我を探しているのだ」
グンレは鬱陶しく思いながらも、答える。
「えぇ? あるのかなぁ?」
「なんだ。このゲームには我が載っていないのか!?」
「グンレって、ここで検索したらわかるよ」
「なぬ?」
そして、ようやく検索欄をまともに視界に収めたグンレ。
「こ、これは?」
「こうするんだよ」
少女が、「グンレ」と打ち込む。
「蛇さんは無知なんだね」
「む、無知!? そんな言葉どこから知ったのだ」
「お母さんがよくお父さんに言ってるよ?」
「ずいぶんと特殊な家庭なのだな……」
「あっ、蛇さん!」
画面の中には『グンレ・トートン』の文字が。
「ふっ、やはりあるではないか」
「蛇さん、強いの?」
「グッ、ものは使いようと言うものなのだぞ?」
「ふぅ〜ん、じゃあ、入れるね」
ひょいと、少女はデッキにカードを加えていく。
「ん? 3枚も入れるのか?」
「蛇さん、3枚必要ないの?」
「そ、それは多い方がいいが……」
「蛇さん、本当に強いデッキ知ってるの?」
「当たり前であろう! 見せてやろう。我が力を!」
10分後
「弱いね」
「グフッ」
「ザコだね」
「グハッ」
「どこが強いの?」
「ゴハァッ(吐血)」
グンレ、幼女に罵倒され、死す。
グンレが組んだデッキは5戦5敗と、大敗を喫している。しかも全て、完敗。勝ち筋一つさえ見えないボロ負けである。
「そ、そもそもどうなっているのだ? 神のカードばかり出てくるではないか!」
「え?」
「そういうのは、選ばれた人間しか使えないはずであろう!」
「このゲームは、収録されてるカードは全部使えるよ?」
「無制限にか!?」
「うん。だから、カードが少ない私でもゲームだと勝てるの」
カードが少ない……現実で持っているカードのことか。たしかに、少女の言うことが本当ならば、このゲームで誰もが強いカードばかりでデッキを組める。
つまり、神のカードばかりのゲームに我の居場所はないのでは?
現実の大会を見る限り、このようなことが起こってるのはゲーム上だけ。その点で言えば、我は自信を持って強いと言える。
しかし、このゲームの環境を見ると、我が生きるようなデッキはない。
「我、要らない子?」
「うん」
「?」
「グンレデッキ」
「これは……」
「今作った」
グンレの前には、見たこともないカードが並んでいる。その中に、グンレが加えられている。
「それじゃあ、やるね」
1回目、運良くカードが回り、勝ち。
2回目、泥沼の試合に、負け。
3回目、初手ブン回り、圧勝。
「うん、弱くはないね」
「こ、これは」
「どう」
ふふん、と胸を張る少女。
「すごい! すごいぞ! どうやったら、このようなデッキを作れるのだ!」
「ん?」
「幼子ながら、あなどれぬ……」
「ねたデッキ? を作ってるから」
「ネタデッキ?」
「うん。 神カードを使わないで、デッキを作ること、らしい?」
「そう、なのか。では、カードは全部覚えてるのか?」
「ううん? なんか、ねたデッキで使いやすいカード、みたいなのは決まってるらしいから、それを覚えてるだけ」
「それでもすごいぞ!」
「あれ、ちいちゃん?」
グンレが盛り上がっているところに、少女と同じぐらいの少年が現れた。どうやら、この少女はちいちゃんと言うらしい、と知るグンレ。
「あれ、これ蛇だよ!」
「うん」
「危ないよ!」
「でも、喋れるよ?」
「蛇は喋れないよ?」
「我は蛇ではなく『グンレ・トートン』と言う名があるのだが……」
「!???」
少年がグンレをまじまじと見つめる。
「ふむ。我はそろそろ行くぞ」
少女が一人ではなくなったので、もう付き合う必要はないだろうと、公園を去ろうとするグンレ。
「あっ、グンレ、またね!」
少女は手を振って、グンレを見送った。
「ふん、ふふん」
「なんかいいことでもあったのか?」
夜、グンレが陽気に鼻歌をしているので、気になったユウ。
「いやなに、良き出会いがあったと思い出していたのだ」
「ほ〜ん。それじゃあ、明日も外に行くのか?」
「……そうだな。それでもいいだろう」
「そっか、まぁ気をつけろよ」
「あぁ、そう言えば貴様がやっているユニバースというゲームの話だが……」
ユウの部屋では、二人の他愛もない会話が続くのであった。
ちなみに、グンレは明日の散歩でもあの少女とあることになるのだが、それはまた違う話。