これがカードゲーム世界というやつか(多分違う) 作:初心者
前提として、俺はカードゲームアプリ『ユニバース』を運営しているが、そこで扱われているカードは全て現実に存在するものだ。
何が言いたいか、つまり、カードプール*1がやばい。
そもそも、世界を生み出したのがカードだ。
つまり、カードゲームには、世界誕生から現代までの長い長い歴史がある。すると、だ。カード自体も数多く誕生していることはもはや言わずとも察してくれるだろう。
間違いなく、カードの種類は億を超え、兆を超え……もはや天文学的数字に跳ね上がっているだろう。
もちろん、これら全てをゲーム内で採用するなんてことは不可能だ。
そもそも、あまりに古いカードだと、残っていない。
なので、今のところ、わがゲームで採用されているカードは全部で……1億。
ちなみに、これらは現実におけるカードゲーム世界大会で使用されたことのあるカードばかり(一部例外はあるのだが、それはおいておいて)。
こんなに、カードが多いとどうなるか、皆さんは察していただけるだろうか?
まず、前世でも人気であったカードゲームの面々を思い返して欲しい。そこで、あった大量の1ターンキル。
もちろん、こちらの世界でもある。
と言うより、こちらの方が再現性が高い。ただし、相手さんがなんもしなかったらの話なので、実際に1ターンキルされるかと言うとそうでもないんだが。
一つ、この1ターンキルの代表例を挙げよう。
【天使族】デッキだ。
まず、この世界における天使族について説明しなければいけない。
この世界は、基本的にカード、およびカードゲームが絶対視される。しかし、だからこそというべきか、イカサマや、それしたら絶対勝てるじゃんみたいなコンボが生まれてしまうこともある。
それが『世界の基準的に』アウトになると、天使族がやってくるわけである。
一応カードの精霊に連なる存在で、それらの中でも特別な役割を持っている中の一つ。
なんでも、創造神(カード)がカードゲームの公平性を保つために、わざわざ天使族を生み出したのだそうだ。
そんなゲームの裁定者として生み出された天使族が弱いなんてことはなく、カード一枚だけでゲームをひっくり返せるほど強力無比。
そんな天使族を軸としたのが【天使族】デッキである。
この天使族は、デッキから条件を満たすことで特殊召喚ができるのだが……まぁ、これが理不尽極まりない。
条件が、『ゲーム開始時』『ドローした時』『場に天使族がいる時』『場に天使族がいない時』『魔法カードが発動した時』『相手モンスター召喚時』『相手モンスター特殊召喚時』etc…
つまり、自分のターンでもないのに天使族は召喚し放題。しかも、それぞれ特殊な効果を持っており、先行から『相手の魔法を妨害』『召喚を妨害』『モンスター効果を妨害』とやりたい放題できる。
状況によっては、後攻0ターンで相手を倒すことができる。
うん。はっきり言ってクソゲー。
まぁ、上には上がいるのだが、今は関係ないので割愛。
このような【天使族】デッキですが、もちろん、我がゲームアプリでは制限をかけてます。
まぁ、ね。そもそも天使族用のカード群だから、普通の人は使えないカードだからね。仕方がないよね。
「うん。やっぱ仕方がないね」
ゲームのデッキリストの中から、【天使族】デッキを開く。
「もうね。字面だけで強いってわかるもんね。マジでぶっ壊れ性能」
これが前世のカードゲームならナーフ不可避。
話を戻そう。
先ほど言った通り、この世界ではカードの種類が数多く、それゆえに化け物デッキがいくつも生まれた。
意外なカードの組み合わせで強くなったと言うものもあれば、【天使族】デッキのように元から強いもの。ここに新しく誕生したカードなども入ってくるため、環境は常に変わり続けている。
「……流行りとかもあるしね」
「なんの話ですか?」
背後から、顔を出したのはロウク──ではなく、ガブリエルである。
名前からわかるかもしれないが、【天使族】デッキにも採用されているカードの精霊である。
よくよく考えてみると、精霊の中に“天使”だとか“ロボット”だとかがあるって、わかりにくいな。この世界では常識なんだけど、どうも前世からの感覚に引っ張られて、わかりにくく感じる。
「あの、質問しているのですが……」
「あぁ、すまない。少し考え事をしていてね」
ガブリエルが、こちらをじっと覗き込んでくる。
ガブリエルは一見普通の男性だ。羽もないし、強いて特徴を挙げるなら、美形な外国人の顔、としか言えない。精霊と言われても、すぐにはわからないほど普通の人間の姿だ。
今も首を傾げてこちらを見つめてきているが、不自然な要素は一つも見当たらない。
「なんですか、話せないようなことなんですか?」
「あっ、あぁ、いやぁ、ね。まぁ、デッキについて考えてたんだけど」
「新しいものでも思いついたんですか?」
「いいや? やっぱ【天使族】デッキは強いな、と改めて感じてただけだよ」
「そ、そうですか」
なぜか頬を染めるガブリエル。男の姿なのに、似合っている。
「それにしても珍しいですね。いつもは『クソデッキ』だとか『対面最悪』だとか言っているのに」
「それは事実だろ」
「えっ……」
どうやら、俺が【天使族】デッキを褒めたと勘違いしたらしい。
【天使族】デッキが強いのは事実だが、強いと言うことはそれだけヘイトを集めると言うことだ。全てのつよつよデッキがたどる宿命というやつだ。甘んじて受け入れて欲しい。
さて、多くの読者がガブリエルがここにいる理由を説明せい、と感じているかもしれないので説明タイムに入ろう。
先ほど説明した通り、天使族はカードゲームのイカサマやあまりに強いコンボの制限をかける役割を持っている。
しかしながら、これがネット上になると手を出せない。
なので、しようがないと、『ユニバース』の開発責任者である俺のところへ天使族の一人がやってきたわけである。それが、ガブリエル、と言うわけである。
ちなみに、天使族のガブリエルはただの使いっ走りである。
基本的に、ずっとうちにいて上からあれやこれやと指示をされているらしい。
で、何をしているのかはよくわからない。
ゲームの挙動ミスなどがあるとたまに文句を言ってくるが(超助かってる)、それ以外は毎回情報をくれとしか言われない。
もちろん、個人情報じゃなくてカードとか今使われているデッキとか、そういう情報だけだ。
一番の目当てはこれなんだろうな、なんて思ったりする。
いや、実際のところは知らない。
『貴様は知りすぎた……』みたいな未来になりそうだったので、詳しく知りたいとは思えない。
しかも、知ったところで何か良いことが約束されているわけでもない。
好奇心は猫を殺す、とも言う。
だから、俺が知らないのは正常である。証明終了。
おい、そこ、うだうだ言い訳するなとか言うな。
「あっ」
「……なんだ?」
唐突に、ガブリエルが声を上げた。
「いえ、今週の統計データをもらうつもりでやってきたのを思い出しまして」
「そうか……ほらよ」
懐からUSBメモリを取り出し、渡す。
「忘れるところでした」
「ショックでか?」
「はい」
そこは取り繕わないのか?
それとも、天使族だから素直なのか?
「それじゃあ、僕はこれを持っていくので」
「あぁ、気をつけろよ」
「はい」
ガブリエルはそのままトコトコと走り去った。
「相変わらず、何をしているかよくわからないヤツですね」
「うおっ、ロウク。いたのか」
「ずっといましたよ」
部屋の片隅で隠れてる奴の言うことじゃねぇ……。
「なんですか、その目は」
「自分の心に聞いてみな」
「ロウクは素晴らしい。完璧なロボットだ……。と言ってますね」
「自己肯定感高いな」
「低いよりはマシだと思うのですが」
「……場合によるな」
素直に認めたくないぜ。
「負け惜しみ、ですね」
「けっ、言ってろ」
「ふふ。そう言えば、ネットで新しいデッキが流行り始めたらしいですよ」
「はぁ?」
「ずっと耐え続けて最後に特殊勝利を目指すタイプですね」
「はぁ、デッキのQRコード教えて」
カードが多いと色々デッキができる。まぁ、罵詈雑言言いたくなるデッキもあるが、デメリットばかりじゃないってわけだ。
「ちなみに、勝率はそこまでですね」
「……」