これがカードゲーム世界というやつか(多分違う) 作:初心者
精霊界のとある建造物。その一室で、秘密裏に会議が行われていた。
全部で17名。いずれも、精霊界の重鎮である。
全員が円卓に座り、手元のタブレットを見つめている。
「それでは、まずはデータを」
「はい」
一人が、その場の全員にテキストを送信する。
そして、全員のタブレットに映し出されたのはゲーム『ユニバース』のロゴ。
「これが、先週のデータかね?」
「はい。そうなります」
「ふぅむ。また随分と変わった」
「レート戦はあまり変化はないが、ランダムマッチは、変化が激しい」
レート戦はカードに制限がかかっている。これは、一強の状態を運営側がよしとしないためだ。
代わりに、ランダムマッチは全ての制限が取り払われている。ただ、レートは増えないので、純粋にゲームを楽しんでいる人が多い。そのためか、ネタデッキも多く、それらの層は、新しいデッキに流れやすいのだ。
「いつも通りというわけですね」
「そうだな」
「さて、それでは本題に入りますかな。────今環境の最強デッキはなにか、を」
全員が、マジメ腐った顔で、おごそかに会議は進行を始めた。
「やはり、神のカードを軸としたデッキが強いですね」
「ふん。当たり前だ。結局のところ、我々が今年のレート戦において、どれぐらい好成績を残せるかが問題なのだからな」
「このグラフを見る限り、現在勝率が高いのはアステカ神話──特に、トラロックを中心にした形が定番となっているようだが」
「……お前ら、自分のカードで勝とうとは思わないのかよ」
「貴様はいつまでそんなことを言っているのだ。全ては勝利の前では無意味よ」
「そうだ。それに今は、どのデッキが強いかを考えるときであって、それを実際に使うかどうかは個人に委ねられている。そうだろう?」
「チッ」
これが、精霊界の重鎮の姿……ッ! ネットの住民と大して変わらんようにしか見えない。
「話を戻そう。巷では、トラロックデッキと呼ばれているデッキは、致命的な弱点がある」
「そうだ。序盤が弱い」
「3ターン目まで耐えれば勝てるが、それまでに高い出来な盤面を形成されたら終わりだ」
「やはり、アグロだな」
「それじゃあ、神カードなしのウツルデッキってこと?」
「フッ、序盤に決めきれなかったらあとは何もできなくなるけどな」
「ボソッ(はぁ、アグロが最強に決まってるだろ)」
「ふぅ、やはり現在のカードから、新しい制限コンボを探す、か」
「おいおい。いつできるかもわからんコンボより、もう形になってるところから選ぶのが一番いいだろ」
「然り。ただ、このグラフを見ると、そこまで議論する余地があるかは疑問だが……」
「あん?」
「どのグラフだよ」
「ターン経過数と勝利数のグラフよ」
「ん?」
「現在主に使われている中で、3ターンキルまでが異様に高く、それ以降の勝率が下がるデッキがあるだろう?」
「……速攻ロボか?」
「然り。勝率も高く、申し分ない」
「ちょっと待て、なんでそれが最強なんだよ」
「レジェンド帯で全勝ははっきり言って高望みどころか不可能と言える。となれば回転率が高くかつ勝率の高いデッキを選ぶべき……あとはもうわかるであろう?」
「愚かだな」
「……何が言いたい」
「勝率の良いデッキで勝ち続ける。これが、一番の近道だ。わざわざ勝率の低いデッキで回数を稼ごうとも、たかがしていているのは明々白々。そのような負け前提の思考……愚かと言わず何を愚かと言う?」
「言うではないか。そう言う貴様は今どれほど高いのだ? あぁ、そう言えば、貴様は先日マスター帯に落ちたのだったな。管理人を笑っていたが、貴様も似たようなものではないか」
「ボソッ(あぁ、また始まったよ)」
「はぁい! 個人的には、最多連勝項目で、50連勝のリストが気になるんだけど」
「「「……は?」」」
「上位のデッキには入ってないし、さすがにここまでくると運が良かっただけとは言えないよね」
「なんだそれは!」
「どのページだ!」
「だから最多連勝の項目だって」
「クッ、こんなところに伏兵が」
「まだ誰も知らぬデッキ構築か?」
「いや、類似のリストは随分前だが見たことがある」
「なるほど、新しく収録されたカードの中にシナジーを高めるものがあったのだな」
「これだから、やめられない」
「これは、決まりか?」
皆一様に黙り込み、デッキを眺める。
「うむ。これは今環境最強で決まりで良いか?」
議長が口を開く。
「ん〜」
「少なくとも、対策がされていない現状、これを避けるのは難しいぞ」
「どうせ来週には変わってるんだ。それに、私はそろそろゲームに戻りたいぞ」
「異論、なし」
「ピグちゃんが初めて喋った」
「ピグちゃんと言うな」
「まぁ、いちゃいちゃしてる馬鹿どもは置いておいて、メタられてない現状は、そいつが最強でいいだろ」
「すぐに禁止されるほどではない、しかし強い、ちょうど良い塩梅だ。今季はこれで行くか……」
「僕はいいよ〜」
「まぁいいだろ」
他の面々も、頷き、会議は決した。
「では、決定」
その言葉と同時に、会議から去っていく精霊回の重鎮たち。
ただ、会話は続けるようで
「じゃあ、私はさっさと行くから」
「それにしても、今回は早かったな」
「思わぬデッキがいたもんだ」
「このデッキ、コピーできないの?」
「ボソッ(くだらない会議だ)」
と、穏やかに、去っていったのであった。
──さて、今回の会議で使用されたゲーム『ユニバース』のデータの出所。読者の方々には簡単に察していただけたことだろう。そう、それはもちろん、主人公がガブリエルに渡したUSBメモリである。
ゲーム利用者の中に、本来であれば非公開のデータを駆使している精霊たちがいること、これを主人公が知るかどうか……それはまだ誰にもわからないことなのであった。