これがカードゲーム世界というやつか(多分違う) 作:初心者
神とは何だろうか。
前世であれば、神話上にしか存在しないものだと言っていただろう。
だが、この世界では実際に神と呼べる存在がいる。
全知全能ではない。だが、神としか表現できないほど強大な力を持っている存在だ。
はい。神のカードですね。
一応分類的には、カードの精霊になるらしい。というか、そもそもこの世界を生み出した創造神も分類上はカードの精霊になるんだよね……。カードの精霊の定義が『カードとして存在し、かつ、この世界に実体化することのできる種族』だからね。
蘊蓄は置いておいて、神というやつは扱いが難しい。
神に類する存在が実在するゆえに、なおその取り扱いは慎重に慎重を期さなければいけない。
そう思っていた時期もありました。
カードゲーム世界に生まれたことで、神々に対して畏怖の念を抱くことになった俺の考えを木っ端微塵にした出来事があった。
それは、ロウクから見せられた一通のメールだった。
[ねぇ、なんでうちのカードが使えないん?]
とだけ書いてあった。
「何これ、イタズラメール?」
「……神様からメールです」
「はっ?」
「ですから! 素戔嗚命からの、メールです!」
すさのおのみことからのめーる? いったい何を言っているのだろうか?
「つまり、何? すさのおのかみとやらが、カード使えないって文句言ってるってこと?」
「さっきからそう言っているのですが」
「なんで?」
「おそらく、自分自身のカード……えぇ、つまり、神のカードが使えないようになってると文句を言っているのだと思います」
カードの精霊には、元となるカードがある。もしくは、精霊がいるからカードができると言えるかもしれないが、まぁ、鶏が先か卵が先かみたいな哲学は置いておいて。
「素戔嗚命が、自分自身のカードをゲームで使いたい、とおっしゃっている?」
「はい、そうなります」
「……はぁ?」
どうしてこうなったのか。
色々ツッコミたいところがある。
なんで神様がウチのゲームをやっているんだ、とか。なんで神様がウチの連絡先を知っているんだ、とか。神様のフットワークがこんな軽くていいのか、とか。
それよりも
「神のカード、解禁していいってことなのか?」
この世界において、カードの複製は基本的に認められている。
ゆえに、カードを制作する会社もあるし、古来より儀式などでカードを生み出すなどの技術が発達している。また、俺がネットでカードゲームアプリを出しても許される。
ただし、神のカードを除いて。
そう、神のカードの写真を撮ること、記録すること、これらは正式に認めている。
だが、ゲームとして使用できる神のカードの複製をすれば、神罰が降り、死ぬ。ゆえに、うちのゲームでも神のカードはテキストのみを載せ、使用できないようにしていた。だって、神罰怖いもん。
それを、だ。とうの神様が、とうの神様がだぞ? やれと言っているのだ。
……俺に死ねと?
「……ロウク」
「はい」
「丁重に断っておいてくれ」
「あの……」
「い・い・な! 断っておけ」
「あの……」
「なんだ!」
「いえ、素戔嗚命という神は少し気性が荒いので、断った場合、神罰が降ると思うのですが……」
実装すれば神罰、しなくても神罰。
なんだこの地獄は。
「ロウク。確認だが、神のカードの試合利用のための複製は禁じられているんだよな?」
「そうですね」
「そうだよな。つまり、だ。俺が神のカードを実装したとして、それが神の意向に沿っていたから神罰は降らない、なんて保証はあるのか?」
「……」
ロウクは無言だ。
まぁ、わからないのだろう。だが、これは重要な問題だ。
俺の命がかかっているのだ。
どうするべきか。
「はぁ……。それじゃあ『確実に俺に対して神罰が降らない保証があるなら、実装する』と返答しろ」
「……わかりました」
条件付きで認める、これしか打開策はない。これで神罰が来たら神を恨んでやる。これぞ文字通りってやつか……はっ、笑えないな。
「これで、どうにかなればいいんだが……」
四日後
「あの、素戔嗚命からメールが来ています」
「……そうか」
俺は、眠れない日々を過ごしていた。
日々、神罰が降らないかビクビクしていたのだ。
このメールが俺を救うのか、それとも更なる地獄へと叩き落とすのか……
「ん?」
我が目を疑った。
[創造神からの許可はもらった。今日中に天使が使いをやる。また、他のやつも実装しろとか言ってたから、そのリストも渡しておいた]
創造神? 他のやつ? えっ、なんか話大きくなってね? で、使いをやるって、
「……天使って、あの天使か?」
日本神話の神が使いに天使なん?
「“あの”がゲームの裁定を担当している天使ならあってますね」
「……俺死ぬの?」
「いいえ、死にません」
「うわぁ!?」
突如、背後から声がした。
振り返れば、そこには鳥の羽に、頭の上に輪っかをした天使が立っていた。
「私はガブリエル。素戔嗚命より、いくつか承っていることがあります。他にも、天使族としての用事もあるのですが……先にまずはこの巻物の方ですね」
「あっ、はい」
受け取ると、ずっしりと重たい。
「中には、神々の名が記してあります。その下に丸があればゲームで実装することを許可するものです。三角は条件次第では認めることを表しています。バツの場合は許可しない、ということです。えぇ、その他の細かい規定は今後定めることになっています」
「は、はぁ」
どうしよう……あきらかに規模が膨らんでいるのだが。素戔嗚命だけだと思ってたのに、どうしてこうなった?
「また、今回の規定について、各宗派への通達、および大石板への記載をすることも決まっています。期限は設けられていませんが、創造神様より『できるだけ早くやっといてね』との言葉がありました」
……もう逃げられないってことね。しかも創造神って。
「なぁ、ロウク。神のカードの実装にどれだけかかると思う?」
「そうですねぇ、一部の特殊効果は難しいのですが、1日頑張ればできますね。テストも考えると二日、でしょうか」
「ロウク、任せた」
俺は、ロウクに巻物を渡して肩を叩いた。
「わかりました」
今俺は、神々に振り回される人物の気持ちを味わっている。なかなか体験できるものじゃないが、もう二度と体験したくないという思いの方が強い。
「さて、神の使命は終わりましたが、別にこちらからも話があります」
……そういや、この天使、なんか用あるって言ってたな。
「天使長からの言葉です」
そう言ってガブリエルは、一枚の紙を取り出し、読み上げ始めた。
「『我々としては、あなたのゲームに関して、色々と文句を言いたいですが、こちらが提示する情報を開示する場合、不問にいたします。また、あなたのゲームにおいて、裁定の不備を確認したためその修正もするように』以上です」
あれだろうか、この世界の神々とかは、前置きというのを省くのが正常なのだろうか。ズバッと本題に入って必要なことだけ言って終わるって、そりゃあ、楽なんだけど、怖いんだって。
「それで、え〜、ガブリエルさん? で、欲しい情報っていうのは?」
「今回は初回なので、通達だけです。それに、神のカードを入れるとなると、あなたたちも忙しくなると思うので。では一週間後にまた来ます」
そう言って、ガブリエルは光となって消えた。
「……嵐みたいだな」
とりあえず、命は取り留めた、ということか。
少なくとも神罰に怯える必要はあまりなくなった。
「色々と宣伝も考えないとな……」
神のカードがゲーム上で使えるとなると、利用者も増える。そのために新規ユーザーのためのイベントや、古参を離れさせないための工夫も必要だ。
「忙しくなりそうだな……」
とか言っておきながら、その日はぐっすりと眠るのだった。神罰に怯えてた反動だということはわかるが、締まらないものである。