真人視点でぇす。
ガタンガタンと、車両内の異様な様子の割に通常通り運行している電車。
着実に渋谷へと近付いているのに、一向に致命傷を与えられない状況。真人に無自覚の焦りが滲む――
得意とする広範囲の技は使えない。本来の目的は渋谷駅構内に人造人間を放つこと。電車は通常通り動かす必要がある。
撥体――使用不可。人造人間――避けたい。既にかなり殺されている上、まだ車両内に生きている人間が残っている。
最善はこの場で殺すこと。言うは易しだな…
「次は蛇腹刀のモノマネか?びっくり人間かテメーはよ!」
前方に放った刃物形状の左腕を掻い潜り、懐に潜られる。
「ニィ…ィヒ」
「ッ!」
胴体から無数の針を突き出させる。両腕または両足の形状変化をさんざん意識させた後だ。並の術師ならコレで即死。
並の術師なら。
男はブリッジ寸前の姿勢を取り、真人のつま先に足底を合わせて後方に跳ぶ。
「はぁ〜。まだやるわけ?しつこいよお前」
「うんざりしてんなら黙って殺されな!」
バツグンの近接戦闘スキルに、近接向きの恵体。
――虎杖悠仁の影を見る。
なるべく戦闘を続けたくない。なにせコイツ、両腕に
魂に効かない云々じゃない。肉体の組成が呪力だからな。
初撃はヒヤッとさせられたなぁ。本能に従って頭を溶かしてよかった。
「あーーー…もういいやオマエ」
脚をバネ状に形状変化。ギリギリまで弾性力を作り出す。
「ヤケクソか?抱いてやるよ、オラ来い」
男は力士のような姿勢で迎え撃つ構えを取る。車内に鱗粉が舞い、キンモクセイの花弁が男の腕からひらひらと散る。
バァカ。相手してられっかよ
バネの力を解放する。
「ぬぅっ……う?あ!おいコラ待て!!」
「ひゃはははっ!オマエの相手はまた今度してやるよ!生きてたらなァァ!」
縦横無尽に車内を跳び回り、受け止める気満々の男は反応もできずみすみす後ろの車両への侵入を許した。
いいことづくしじゃない。改造人間は殺されまくるだろう。
が、残りの車両はあと2両。オマケに――
『渋谷、渋谷ー』
「なっ…コナクソーッ!」
タイムアップのアナウンスが車内に響く。
あいつには改造人間を殺し尽くすことはできねーが、俺なら残りの人間を全員変えられる。
ま、あいつは渋谷に着いたらどっかで野垂れ死ぬだろ。対呪霊の時の強さは認めるが、あいつにとっての渋谷での脅威は呪霊だけじゃねえ。
「せいぜい地べた這いずれよ!!」
人造人間の大群に押されつつある男の背中を一瞥して、真人はにんまりと笑った。
9時を過ぎて少し経った頃、アナウンスも何もなく、電車の扉が開く。すると俺をそっちのけでバケモンどもがぞろぞろ出て行く。
外にもバケモンがいるらしいな。マークがビンビンに反応してらあ。
バケモンを押し切って外に出ると、バケモンどもと知らねえ白髪男が格闘してるが…
…勘だが、あれは関わらん方がいいな。
ココ、死臭でプンップンだ。やな予感がたまんねぇ。俺は逃げんぜ、頑張れよ白髪男!
当てもなく渋谷を彷徨ってるが、ぜーんぜん人が居ねえ。さっきの場所はすげえギューギューだったのに、離れたら途端に鬱蒼とした構内になった。
とりあえず外は何があるかわかんねえから中を探索してるが、人っこ1人いねえ…話を聞きたいんだが…
そのまま無駄に20分ほどを費やしていると、驚くべきことに知人がいた。
知人っつーか、血縁っつーか…
「…お?オイオイマジか。オォイ!」
「ん?…キミだぁれ?キミも術師?」
向こうは俺が誰だか分かってねーみたいだな。まあ随分変わったからなぁ。俺も。
だが俺は覚えてんぜ。てかわかりやすいからな、両眼の下のマークでよ。コイツは俺と同じく力を持ってるヤツで、俺の弟。
「ったく、弟がアニキの顔忘れるなんてな。俺だよ俺、シュンタ。」
「…っえ。えェ!?アニキ!?!?」
「おうよ!ったくどこ行ったのかと思ったら春太お前、こっそり上京してたのかよ!」
「あー…う、うん。まあそんなとこかな、へへ」
重面春太。あんまり俺とは似ても似つかねーパッとしねえ顔だが、大事な弟だ。
中学卒業んときにパッと姿を消しちまって、それきりだったが渋谷で会うとは思わなんだ。
「アニキはなんでココに?」
「なんでってそりゃぁお前、上京に決まってんだろ」
「へえ〜。父さん許してくれたんだ」
「いや?」
「え?」
静寂が満ちる。
「親父はぽっくり逝っちまってな。お袋も同じだ。そんでこっちの叔父サンの方に来たってわけだ」
「え?マジ?」
「おう。……ここだけのハナシな?親父とお袋殺ったの、バケモンなんだよ。家帰ったら家がねーんだからびっくりしたぜ」
「…あー、そういうことね。ところでさ、俺ちょっと今バイト中で…急がなきゃなんないから後でまた会おうよ」
「あぁ?…バイト、ねぇ」
まさかこの状況が分からん俺の弟でもあるめえ。
嘘
それがよぎる。このバケモンまみれの渋谷でバイトなんてあり得ねー。俺の弟は俺にゃ及ばないにしろ多少のキレ者だ。
じゃあ、どうする?俺はコンマ数秒で答えを導いた。
「俺も連れてけや。叔父さんのトコにも長くは居れねえ。ぱっぱと1人立ちしてえからな。金が欲しいんだ」
「えー…あー、うーん。でも…」
ゴツッと、デコを合わせる。身長差から春太の首が上に傾く。
「春太ァ…テメェが口答えなんて珍しいじゃねぇかよ。片手に刃物ブラブラさせて気が昂っちまったか?」
「っ……ご、ゴメン。分かった、付いてきて」
デコを離し、ニイッと笑う。
「太っ腹ぁ!さ、行くとすっか」
…春太ぁ。昔はカタギを殴る蹴るくらいなら許してやったけどよ…
春太の剣。血の拭き痕を見て、覚悟する。再びの血縁殺しを。
渋谷の駅構内に、揃わぬ足音が響いている。