蒼穹の銀翼(改訂版)   作:ミヤモゾン34239

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再三誤字脱字は確認しました、キャラクターのネームや台詞回しも一部変化してますので、そこについても良ければ注目してみてください。


第一章 極東の小島

 異星人との開戦から3年アラスカ、アンカレジ空軍基地

 「…何故私はドイツ、アフリカ、アラスカとたらい回しにされた挙句とうとう名前も知らない日本の島ってどういうことですか」

 背筋を伸ばし腕をピンと張った一本筋の綺麗な姿勢とは裏腹に心の中は歪み切っていた。

「お前が優秀であちこちから求められてるからだろうな」

「私なんかより優秀なパイロットを探すなんかグリーンランドで雪を探すよりも簡単ですよ」

 大して上手くもない皮肉で言い返す。

 高飛 明(たかあす あきら)というのが自分の名前である。高飛というのは本当の名前らしいけれど、明は育ての親である男がつけてくれた。日本生まれの純血な日本人だが、捨てられて孤児となっていた所を助けてもらった。助けてくれた男は日本人とアメリカ人のハーフでかなり優しく接してくれていた。自分も心を許して本物の家族のように育てられた。親父は本当の家族を探せと言っていたが、あったこともない親のことなんてどうでもいいのでなんとも思わない、自分は軍隊に助けられた分の恩返しとして戦っているだけだ。地球の総人口六十億人の中から18歳までの少年少女が一万人が身体改造により『星の官軍』と戦う力を得た。自分もその1人として選ばれ、今まで数年戦っててきたのだ。

「明日の朝6時に日本のハチジョウアイランドに向かってくれ。お前の機体ごと空輸する」

 司令はお気に入りのガバメントピストルを分解整備しながら感情が感じられない声で話す、パイロットの一人くらいどうでもいいと思っているのだろうか。

「了解しました」

 俺は気だるそうに部屋を出て力のない足取りで部屋に戻る。時刻は夜の八時を過ぎていた。

 荷物をまとめ終え、何も考えずベットに入り泥のように眠る、あっという間に朝は来た。

 こんな寒い所から離れられるのはいいが仲良くなった海兵隊員と離れるのは正直言ってかなり寂しい。

「お互い生き残ってまたどこかで会おうぜ」

 格納庫にはF15やF16といったマッハ2級の戦闘機の中に混ざってP-40ウォーホークやP-47サンダーボルトと言った前大戦の名機が並んでいる。どちらも必須級の戦力だ。

 別れ間際の悲しみをうち消そうとするように互いにハグする。日本人が故に他のパイロット達とと比較して一回り程小柄、金髪やブロンドの短髪が多い中で個性的な黒髪をある程度伸ばしているがくせっ毛で少し右側に流れている。顔はそれなりの美男子だ、普通に学校生活を送っていたらかなりの人気者に慣れていたかもしれない。

「あぁ、まだお前らにポーカー勝ち越してないからな」

「ハハッ、ジジイになるまで勝ち越しはせねぇよ」

「言うじゃねぇか、じゃあ行ってくるぜ」

 そう言って自分は輸送機に向かって走り出した。仲間の前だからって少し強がってしまった。

「いい加減彼女作れよ〜」

 後ろからとんでもなく心に刺さるの言葉が飛んでくる。

「うるせ〜」

 明が乗り込むと輸送機はすぐに日本に向けて飛び立った。海上を飛行するならば敵の艦船や航空機からの攻撃を受ける可能性が大きいので、警戒を続けながら慎重に太平洋を飛ぶ。

 350トンの物資又はレシプロ戦闘機を5機格納する能力を持った大型機。ロッキードC-10

 『星の官軍』と戦うための作成された超大型輸送機兼航空母機。二次大戦前中の戦闘機は作られた国や組織がバラバラなので航続距離が長いものや短いものまでまちまちだが、それらを戦線まで運ぶために作られた機体だ。空中発進と空中機体収容が可能である。

 護衛にはアメリカ海軍のF/A-18Eライノが2機付いている。しかしその姿はこちらからは捉えられない。何しろ『星の官軍』との直接戦闘で従来機には勝ち目がない、よって50キロ後方に位置し中遠距離からのミサイルの飽和攻撃を狙っているのだ。『天空のレジスタンス』が正式に部隊として組織されるようになってからはBVR(有視界外戦闘)による遠距離戦を徹底し直接戦闘はレジスタンスの戦闘機に一任するという方式が取られたからである。言ってしまえば護衛対象を囮にしているようなものだ。

 明はそんな機体の端で飛行服を着て待機していた、何時でも出撃出来るようにするためだ。

「…あっつい、やばいぜ太平洋」

 もうすぐ11月だと言うのに太平洋には暑気が極まっていた。厚さ20ミリの防弾ガラスの丸窓から外を眺めながらボヤいた、しかしなんだか本能的に嫌な雰囲気がする。アラスカを出てから一晩機内で過ごして約15時間、『星の官軍』の警戒網を避けつつ進むため、かなり遠回りになってしまったがあと少しで目的地に到着するはずだ、しかし何か感じる。殺意の塊のようなものがこちらに近づいている気がする、機上レーダーがあるから、敵機が出てきたら出撃するように指示があるはず。だがレーダーが捉えない何かを今確実に感じている。何か来る!

 堪らず内線電話の受話器を取って怒鳴った。

「パイロット!左旋回、急げ!」

『イエッサー』

 大型の機体だがよく曲がる、旋回のために傾く機内でバランスを取りつつ窓の外を睨む。翼を掠めるように右側に機関銃の弾幕が現れる。間髪入れずに機関銃を撃った犯人が上から下に飛び抜ける。鋭い機影をした機種を持つ液冷エンジンの機体、P-51マスタング、第二次大戦当時は最強として恐れられたバケモノだ。それが4機で器用に編隊を組んでいる。

『増速用火薬ロケット点火、加速します。』

 ロケットの力を借りて瞬間的に速度が上がり向こうが追撃の体制を整える前に一旦振り切った。

「ライノは何やってんだ!?」

『こちら護衛のハングドマン隊、敵機を補足した、BVRによるアムラーム発射を行う』

 ここからは見えないが50キロ先から敵機目指してミサイルが飛来しているだろう、しかしそれでは足りない。

「そちらのミサイルだけでは撃退は難しい、俺が出撃するまでの時間稼ぎに尽力してくれ」 

『了解、ミサイルの第2波攻撃を行う』

  第一波の着弾を待たずに機体の格納部へ駆け出し、冷や汗を拭いながら飛行帽を被る。

「クソ、あと1時間もあれば着いたのに」

 燃料弾薬どちらも万全の機体に飛び乗る、機体の外からミサイルの着弾らしき破裂音が響いている。

「エナーシャーハンドル回せ!」

 整備兵にエナーシャーハンドルを回させる、今ではクランクハンドルと呼ばれることが多いこのハンドルは、フライホイールに接続して回すことでエンジンの始動を行うものである。整備兵がクランクハンドルを回すと始動機からサイレンのような唸り声が聞こえる。ここで明がスタータークラッチを操作すると、エンジンに回転が伝わり唸りを上げる。たった1100馬力程度のパワーだがこの軽量の機体を持ち上げるには十分だ。明の乗る零式艦上戦闘機52型丙が唸りを挙げる。

「ハッチを開けろ!すぐに飛び出すぞ」

 機体下部のハッチが開き固定されていた機体が外される。

 速度を稼ぐため機首を下に向けるのでマイナスGがかかる。

「東に迂回して館山か羽田に逃げろ、ライノはこっちの援護より輸送機の護衛につけ!」

『了解した、輸送機を護衛する。負けんなよ!』

 後ろのマスタングを確認しながら無線で輸送機に叫んだ、敵機は輸送機を無視し急降下でこちらを追いかけてくる、数は3機に減っている。運良くミサイルが戦果を上げたらしい。

「よし、それでいい。地獄までついてこい!」

 海面スレスレで機体を引き起こして奴らを引きつける。奴らも逃がすまいとこちらに食いつく、奴らの機銃の射程に入る前に機体を思いっきり引き上げる。そのまま宙返りをして奴らの後ろに回り込む、最後尾のマスタングを光像式照準器の12ボルトの淡い光に捉える。機体の一部と化した自分の指が引き金を引く、すると両翼と機首から13ミリ機銃3門と20ミリ機関砲2門が火を吹き、文字通りの弾幕を形成する。それに突っ込み、もろに弾を受けたマスタングはジュラルミンの破片とオイルを撒き散らしながら海面へ落ちて行った。戦果を確認する間もなくスロットルを全開にして操縦桿を右に倒す、一機落としては離脱を繰り返し奴らを駆除する。多対一の戦闘はこれが確実だ、しかしそう思った矢先、新たな敵が現れた。真正面から黒い点が二つ現れる、それは段々と大きくなり形をはっきりと認識できた。細身のマスタングとは違う丸い胴体、空冷エンジンの機体だ。F8Fベアキャット、第二次世界大戦後に開発されたマスタングと並ぶ最強クラスのレシプロ機である。両者500キロを超えるの速度のため相対速度は1000キロ以上だ、すんでのところでヘッドオンを回避するがベアキャットはマスタングと合流し零戦を追従した。

「クソっ!」

 低空のため逃げるのは難しい、初めて操縦桿を握ってから5年半、ここで終焉かと脳内によぎる。しかしそれをかき消す声が耳に飛び込んだ。

『遅い!』

 6筋の火箭が明を狙っていたF8Fを貫くとそのまま火を吐いて海面に飛び込んで行った。

『やった!これで57機目ですよ!』

『そんなこと言ってる場合じゃないだろ、まだいるぞ!』

 日本陸軍の名機三式戦闘機飛燕とアメリカのモンスターマシンF4Uコルセアだ、ここでやっと増援が来たことが理解できた。一人は少し楽しそうな女性の高い声、もう一人も女性の声だが低い声で口調は男らしい。こちらの事を忘れて戦闘を続けている。あっけなくF8Fの背後に付くと一連射を叩き込む、F8Fの機体に大穴が幾つも空いているのが見えた、もう戦えないだろう。

「味方が来たのか…」

 追われている間に吹き出していた汗を拭う。

『数の優位ができたからこのまま押し込む、援護してくれ』

 3機目の味方機が自分の真横を飛び抜け、無線で手伝うよう要求される。時速600キロを超える速度で零戦を掠めたのはスピットファイアだった。

 スピットファイアはイギリスが作った名機だ、マイナーチェンジを重ね終戦までイギリスを守ったナイトである。

「援軍感謝する、誰だかわからんが頼もしい」

 命を助けてもらっただけあって感謝しかない、だがまだマスタングが残っている。

『あと2機いるぞ、気をつけろ!』

 3人目の声はよく澄んでいて声で耳に耳に飛び込んでくる凛々しい女性の声だった。

『来たな』

 前を飛ぶスピットファイアは右上方から攻撃をしてきたマスタングの攻撃を軽やかな機動で回避するとあっという間に後に張り付いて撃墜してしまった。

「とんでもない空戦技術だな、あれ程のものは見たことがない」

 彼女たちが来てからはほぼ何も出来なかった、ただ一方的にマスタング達がサンドバッグにされる様を見ただけだった。

『RTB、それじゃあ私たちはこれで』

「あぁ、またどこかの空で会おう」

 F4Uと飛燕の2機はエレメントを組んだ状態で南西に消えていった。

「あんたは行かないのか?」

 スピットファイアはどうやら別の部隊の機体らしい。

『あぁ、私は八丈島への転属でこの空域に居たんだ。』

「なら同じだな、ここから南東に40分くらいだ航路図を貰ってるから一緒に行こう」

「それはありがたい、燃料は大丈夫か?私は増槽を付けてきたが蛇足だったよ」

「ドロップタンクを付けたまま戦ってたのか、よくあんな動きをしてたな」

 ドロップタンクを付けたままの戦闘は機動力に支障をきたすのでどれだけ燃料が残っていようと基本的には投棄する。しかし彼女は違った。

「長距離侵攻の作戦を繰り返す内に身についたんだ」

 2機は南東に機首を向ける、輸送機にも連絡を入れて自力で長い旅路の最後を飾ることにした。

「いや、旋回戦なら零戦が勝つよ、絶対だ」

「それはどうかな、スピットだって欧州一の旋回性能でバトル・オブ・ブリテンを戦い抜いた。もっとも私のMk9は初期型からのエンジン換装を行った機体として大戦中盤に作られた物だから少し別物だがね」

「スピットファイアは防弾装備とか大馬力のグリフォンエンジンが着いてるから羨ましいよ、こっちはたった1130馬力にせいぜい防弾タンクくらいさ」

「そうか、私は零戦もパワーの割に武装も速力も申し分ないと思うが…」

「いつか貸すから乗ってみるといい」

 並んで飛行している中、同時に振り向いてふと目が合ってしまった。

「「…アッハハハ」」

 互いに楽しくてつい笑ってしまう。

 お互いに航空機に関する理解が深いのでつい馬鹿みたいに話し込んでしまった。実を言うと30分以上話し続けており、これはほんのごく1部なのだ。

「ん?八丈島ってあれのことじゃないか?」

「危ない危ない、通り過ぎるとこだった」

 目的地の八丈島が右側に見えていた。八丈島はふたつの山が合わさったひょうたんのような形をした島でありその中間に飛行場がある、これは昔は民間向けだったの自衛隊が買い取ったが現在でも民間と共用として使われている。軍用機が着陸するには少々設備不足だったらしく誘導路が増やされ、格納庫も増設して滑走路も延長されている。いわゆる軍民共用空港だ。

「レディファーストだ、お先にどうぞ」

「助かる」

 先に降りてもらい自分はそれを上空から眺める。着陸というのはパイロットの性格や技術がモロに出る。やたらバウンドさせずに必要最低限の動作で着陸するのがもっとも良いとされている。スピットファイアは基本に忠実な操作で丁寧に機体を着陸させる。スピットファイアが誘導路に入った辺りで明にも着陸の指示が出た。

 自分はひねくれているので普通の着陸はしない、縛りをかけて自分を追い込む、アプローチの角度に突入するとエンジンを切る。

「あ〜管制塔へ、エンジンが停止したからやり直しはできない」

 さらに通常なら着陸時に速度を落とすために使うフラップも展開しない。

「今度はフラップも壊れた、どーやって着陸しようかな」

『おい!何を考えている、もしかしてどこか壊れたのか?』

 スピットファイアから通信が入る。

「どうやらフラップとエンジンがイカれたらしい」

 フラップがないのならば普段よりも機体を上に向けて抵抗を増やしてやればいい。そうすれば速度は落とせる。理想としては130キロ前後まで速度を落としたいが針はまだ200キロを示している。

「…」

 飛行場は目の前だ、時間はあまり許されていない。だがすぐに速度を殺す方法ならひとつある。半ば強引に機首を上げて上昇にエネルギーを使用することと正面に対する空気抵抗を増やし減速させる。

「全然速度が落ちていない…」

 地上からスピットファイアのパイロットが見守る。

 高度6メートル、一気に操縦桿を下に引き機首を60度近く引き上げる。一瞬高度が少し上がるがすぐに速度は一気に140キロまで落ち、速度不足によって自然に機首は下がり、高度が落ちることで尾輪が着地する。前輪2つも遅れて着地する、成功だ。

「全くだ、今日もまた上手くいった」

 機体を誘導路に進ませ格納庫の前に止める。スピットファイアのパイロットが機体から降りて待ち構えていた。

「映画で見たんだ、真似出来るのか気になってね」

 明がキャノピーを開けながら言った。

「頭のネジが5本くらい抜けてるんじゃないか?」

 いきなり辛辣な言葉を投げかけられるが全く気にしない。

「いや、機体が壊れた時の練習にはちょうどいいよ。」

「一歩間違えれば死ぬぞ…いつもそうか」

 彼女は自分で言ったことが当たり前過ぎたので呆れたのか頭を抱えている。

「だから肝が据わるんだよ、そういえば名前を聞いてなかったな」

 明は名前を機体から降りながら名前を聞く。

 彼女は飛行帽が取ると肩口程までの長さの金髪が風になびいた。次にゴーグルを外すと澄んだ深い深い青色の瞳がこちらを見つめていた。強さと可憐さが両立された凛々しい顔の美人だった。

「ルー ・M・ポータルだ、よろしく」

「高飛 明だ、よろしく。ルーでいいかな?」

「構わないよ、アキラ」

 固い握手を交わす。両者共英語圏で育っているが、お互いの訛りでコミュニケーションが難しいので互いに流暢に話すことが出来る日本語で喋ることにした。

「今日着任の高飛 明特務中尉とルー ポータル特務中尉ですね、長旅お疲れ様です。基地司令がお待ちですので応接室まで」

 言われるがままについて行き基地司令に会うことになった。

「現時刻をもって八丈島基地に着任しましたルー ・M・ポータルです」

「同じく、高飛 明です」

 姿勢を正して敬礼を行いながら自己紹介を済ませる。

「うむ、機体もいいがパイロットもかなりの腕のようだな。先の戦いを機体のガンカメラの映像で見せてもらった、正直感動した」

「ありがとうごさいます」

 いきなりお褒めの言葉を頂いたので咄嗟にお礼の言葉を返す。

「色々してあげたいけど、空襲が増えてるし、東側の偵察機もちょくちょく来るから休みがないんだわ、ごめんね」

「問題ありません、私たちは今後も飛行服で待機でよろしいですか?」

 自分が聞こうと思っていたことを先に聞かれてしまった。

「いや、下にうちの部隊のパイロットがいるから会ってくると言い、ついでに基地を案内してもらうといいよ」

 ラミネートされた建物の地図の待機所を指さして場所を教えてくれた。その時、廊下からドタドタと走るような音がしたと思ったらドアのノックもなしに扉が勢いよく開き元気な声が響いた。

「新しいパイロットの案内を任された三鷹 明日子です!」

 小柄な体に薄く赤みがかった茶髪をポニーテールにまとめている。瞳は大きく、橙色だ。ルーと比べたら少し小柄な印象を受ける。

「お〜ちょうど、お前の紹介をしようと思ってたんだけど自分から来たか。今日着任したとルーさんと明君だ、基地を案内してやってくれ」

「リョーカイしました、着いてきてください」

 ニコニコで手招きしながら廊下に飛び出す、2人も司令に一礼してから彼女について行く。元々ターミナルとして使われていた建物を改築し司令部や宿舎を集約した建物を飛び出して基地内を3人で練り歩く。

「やっぱり共用の空港なだけあってヤシの木だとか壁のアートだとか色々派手だなぁ」

 明が前から思っていたことを口に出してみると三鷹明日子はすぐに振り返って答えた。

「うんうんそうでしょう、ここ軍民共用だから一般の人に威圧感を与えないようにしたいっていう理由とリゾート感あった方が観光地として栄えた八丈島のイメージに合ってるらしいということで」

「なるほど…ところでどこから案内してくれるのだ?」

「腹が減っては何とやらって言うでしょう、ですから食堂から!」

「腹が減っては戦は出来ぬだな、昔親父から聞いた」

「そう、それです!」

 ということらしいので歩いて食堂に向かう。

「ここが食堂だよ、まぁ昼時じゃないので誰もいませんけど…」

 食堂には人っ子一人おらず完全に静まり返っている。

(うむ、まぁそんな気はしていた)

「朝昼晩ここに来れば美味しいご飯が食べられますからね」

「日本食は全く未経験だからこれからがとても楽しみだ」

 ルーが楽しそうに話す。

「うん、イギリスとかアメリカには無いようなものばっかりだから楽しみにしてくださいね、たまに私も作ります」

「明日子も料理が出来るのか」

 ルーが興味を示す。

「うん、お母さんに叩き込まれましたね〜。じゃあここは夕食の時にまた来るとして次、格納庫に行きましょ!」

 今度は食堂の建物から格納庫までの数百メートルを全力疾走するのだが2人共全く息が上がっていない。明はこの気温の高い八丈島の気候に完璧に順応できていないのか少し息が上がってしまった。

「はぁ、暑すぎだろここ。何度なんだよ」

「うーん、今日は25度くらいかな。まだ楽な方ですね」

 明日子は淡々と答えるが明からしたらこの時期のこの数値は尋常じゃな。

「アラスカなんか夏でも20度行かない日がしょっちゅうだったのに。これは慣れるのに時間がかかりそうだな」

 汗を拭いながら明は太陽を睨みつけた。

「ルーは大丈夫なのか?」

「あぁ、私はここの前はインドだったからな、ここよりもう少し暑かったくらいだ」

「ここより暑いって…」

「まぁ気温の話は終わり!早く中へ」

 明日子に連れられて中に入ると並べられた4機の戦闘機と整備士が作業をしている姿が見られた。整備士達は明の零戦とルーのスピットファイアを見て話し込んでいる。

「よく日本まで持ってこれたもんだ」

「零式艦上戦闘機52型丙、大戦末期に登場したF6Fやコルセアに対抗するために身軽さを捨てて重武装化した型や、機首と翼内に13ミリ3門と翼内に20ミリを2門詰め込んでんねん」

「こっちもこっちで上等な機体やな」

 一人がスピットファイアの方を指さし話題が変わる。

「こっちはスピットファイアのMk9、機体設計を刷新して速度性能を上げた機体だ、ドイツの戦闘爆撃機に対応するために高い旋回性能とハイパワーなエンジンを持ち合わせてるんや。武装は20ミリ4門、対戦闘機でも対爆撃機でも不自由のないいい塩梅や」

 話が一旦落ち着いたところで明日子が整備士の1団に話しかけに行く。

「おーい!新しいパイロットの二人を連れてきましたよ〜!」

 その言葉を聞いて皆一斉に2人の方へ駆け寄る、そしてすぐさま質問攻めに合う始末だ。機体の性能や他国で見た戦闘機に関する話、他にも色々な質問を投げかけられた。

「やかましいっ!」

 格納庫の奥から一喝、島の外まで届きそうな声が響く。若い整備士をかき分けて腰の曲がった老人のベテランらしき男がやってきた。

「あんたらがこれのパイロットか…」

「はい、零戦の方が自分、高飛です」

「スピットファイアの搭乗員、ポータルです」

 老人はそれを聞くと。

「2人ともいい飛び方をしてるな」

 シンプルに褒めてくれた。

「わかるんですか?」

 明が驚いたように聞くと老人は頭を掻きながら応えた。

「まぁな、下手くそが乗るとすぐエンジンはボロボロになるし、機体だって力が加わりすぎてシワだらけになる。だけどあんたらにはそれがない。あそこにいる明日子なんか一回出撃したらすぐボロボロだ。」

「…アハハハ」

 明日子は目を合わせずに乾いた声で笑っている。

「とりあえずひとつだけ言えることがある。俺たちが機体を扱うからには、いつでも万全の状態で飛べるようにしてやるからな」

 そういうと老人はすぐに仕事に戻った。

「「ありがとうございます」」

 二人は深々と頭を下げた。

「いいんだよ、これが仕事だからな、分かったら早く行きな、まだ仕事が残ってんだ」

言われるがままに格納庫を出て外で立ち止まる。

「次は?」

 明が明日この方を向いて聞く。

「うーん、もう一人のパイロットの所に行きましょうか、多分部屋で寝てますけど」

「もう夕方だぞ…」

 困惑したようにルーがつぶやく。

「朝に弱いのに今日は叩き起されて九時には起きてたから。さっき二人の救援が終わったらすぐにへたばっちゃったんです。」

「なるほど、それなら仕方ないか」

 兵舎に向かって歩きながら普段の生活はどうしていたかという話になった。

「私は出撃がない時は基本的に訓練か運動、あとは部下の面倒を見ていたりしたな」

「私は、飛ばない日はご飯作ったり海に行ったり近所の子供と遊んだり、余裕があったら本土に遊びに行ったり」

 ルーはトレーニング漬けで明日子は充実した休日といった感じだ。

「俺は…空軍パイロットの友人とメジャーリーグ見たり、ポーカーやらブラックジャックやらをしたり、あとはバイク乗り回したり射撃の練習をしてたな。アラスカだと冬場は寒すぎてバイクは動かないし銃だって凍るからほんとに暇だったけどね」

「すごく…アメリカンだった」

 明日子が呟く。話に夢中になって自分が兵舎に入り廊下の真ん中まで来ていることに気づいてなかった。

「もう着いたのか…」

「うん、この208号室です。起きてるかなぁ」

 明日子がドアをノックして呼びかける。

コン コン

「おーい、里緖〜起きてる〜?」

しかし一言も帰ってこない。

「寝てるのだろうな」

「やっぱりそうですかね〜でもどっちにしろそろそろ起きてもらわないとだし。」

「ならちょっと…」

 明日子を避けてドアの前に立つと先程よりも激しくドアのノックする。

ドン ドン ドン!

「開けろ!デトロイト市警だ!…あっ違うわ」

「おい。」

「FBI OPEN Up!」(訳 開けろ、FBIだ!)

「それも違うだろ!」

 ルーから盛大なツッコミが飛んでくる。

「え〜、じゃあ…大阪や!はよ開けんかい!」

 さっきよりも強く扉を叩く。

「よ、よく知らない人間にそれだけ攻めた行動に出れるな。」

 真顔でルーに言われてしまったのでこの辺りにしておく。

「冷静になってみればそうか…」

 ドア前に立ったまま肩を落としていると顔面に強い衝撃が走る、開いたドアで顔面を強打したのだ、思わず鼻を抑えて悶絶する。

「つぁ〜、鼻が曲がったかもしれん。」

「人の部屋の前でデトロイトだとかFBIだとかうるさいな。」

 寝巻きで髪はボサボサでまだ夢から覚めていなさそうな目をしているがはっきりとした口調で当たり前の文句を投げつけてくる。

「お、起きた!」

「ん?誰だこのふたり。」

 明日子の後ろに立つルーとドア横で悶絶している自分を見てつぶやく。

「さっきの零戦とスピットファイアの人ですよ。」

「ふーん、そうか。ならいい加減起きて着替えるか…ちょっと待ってろ。」

 そう言ってまた部屋に戻って行った。

「ちょっと冷たいというか淡々としてるけど根は優しいですよ。」

 苦笑いしながら明日子が庇う。

「う、うむ優しいのだな、ならいいんだけど。」

 ドアから離れて立ち上がりながら応える。

 5分程待っていたら、彼女はオーバーサイズのTシャツの上にバイクジャケットを着たなんともキマッた服装で戻ってきた、髪も整えられている。さっきはよく分からなかったがどうやら髪は肩口で切りそろえられた長さになっているようだ。顔立ちは中性的で女性が見ればイケメンに見えるだろうし男性が見たら美人に見えるだろう。

「新しく来た高飛さんとルーさんですよ、ほら挨拶して」

「わーったよ」

 親子のようなやり取りのあと自己紹介に写った

「羽月里緒だ、よろしく頼む」

「よろしく」

「よろしく」

 2人とも手を差し出し握手をする。里緒がポツリと口を開いた。

「これで全員揃ったわけだけど…何するんだ?」

「…えーとなんも考えてなかったや」

 明日子が目を逸らす。

「じゃあとりあえず親睦会でも」

 ルーが提案する。

「いいね、そういうの好きだよ」

「いいですね〜」

「賛成だ。」

 全員からの賛同を得たので誰も居ない食堂の一角でテーブルを囲み改めて互いに自己紹介を始めた。

「じゃあ私から。」

 明日子が一番に手を挙げた。

「三鷹明日子です、日本生まれの日本育ち、愛機はF4Uー1Dコルセアで撃墜数は57機、階級はクラスBですけど今昇格の査定待ちです。」

「コルセアか、独特で癖のある機体だがそれを軽々操る腕は見事だ、同じ機体で同じ動きをする自信はないな。」

 ルーが昼間の明日子の戦闘に賛美を送った。

「そんな、練習すればあれぐらいみんな出来ますよ」

 レジスタンスのパイロットにはそれぞれ撃墜数やその他の戦局への貢献度に応じ階級が割り振られる。下からC B A Sの四つに分類され、クラスSは全体で見ても3パーセントも居ない、クラスAは二割程、後はクラスBが五割、残り三割無いくらいがクラスCとされる。直接的に要所の防空や侵攻作戦で戦闘を行うのはクラスSからBでありクラスCは輸送部隊の護衛や僻地の防衛など裏方的な任務が与えられる。

「へぇー、査定待ちってことは今回俺たちを助けてくれたのも考慮されるだろうね」

 出されたお茶を手に取りながら明は言った。

「はい、日本の役に立つためにももっと大きい作戦に参加したいですから」

 菓子を用意しながら明日子は答える。

「相変わらず愛国心が強いな」

 里緒が口を挟む。

「国を守りたいっていうのは里緒さんも同じでしょう」

「まぁそうだな…」

「その勢いで里緒さんも自己紹介しちゃってくださいよ」

 明日子の勢いに押されて自己紹介が始まる。

「羽月 里緒、あいつと同じく日本生まれの日本育ち、機体は三式戦闘機一型丙でクラスA、撃墜数は48のはずだ、最後に一言…MG151は最高だよ」

「そうか、三式戦だから機体は日本でも武装はドイツ製か…九九式より弾道が低伸するだろう」

 零戦の二十ミリはかなりの山なり弾道で距離が開くと当てにくい。

「MG151となると二次大戦では多くのイギリス機をスクラップにしたからな、イスパノ・スイザの20ミリもあれには劣る」

「弾道だけじゃない、レートも炸薬も日本のホー5や九九式とは段違だぜ」

 自慢げに里緒は語る。

「私のターンはここで終わり、次は新規お二人のどっちかだ」

 数秒の沈黙の後ルーが目配せしながら聞いてきた。

「…私からいいか?」

「あぁ、構わないよ」

 もちろん快諾する。

「ルー ・M・ポータルだ、イギリス出身で一時期日本に住んでいたとこもある。機体はスピットファイアmk9で一応クラスSの端くれだ…よろしく頼む」

 今クラスSと聞こえた、確かにパイロットの中でもほんのひと握りの称号の名前だ。

「すごいじゃないですか、これで百人力ですよ」

「まじか、天下のクラスSがこんな辺境に来るなんてよ」

 明日子と里緒のふたりは椅子から飛び上がる。

「現役のクラスSだったのか、あの圧倒的な動きにも合点がいったよ」

 クラスSとなればあの戦術眼にも、あの操縦技術も納得ができる。

「それで撃墜数は?」

 里緒が一番気になっている事を聞いてくれた。

「最近はもう数えるのを辞めようかと思ってたのだが…確か今日のを合わせて122機だな」

 やはりクラスSとなると三桁ともなるようだ。

「これからはルー様が隊長だ、私は後ろに着くよ」

「そんな事はない、羽月さんの指揮力は高い、クラスSだって人格に問題がある奴が多い、全員が指揮力に長けている訳じゃない。誇っていい技術だ」

「へぇ…そりゃどうも、あと羽月じゃなくて里緒って呼べ、あんまり好かねぇんだ」

 どうも褒められたのを素直に受け止めていないっぽい。

「わかったよ里緒」

 そんな事は気にせずにフレンドリーに察するルー、クラスSは変わり者が多いと知っていたがこんな聖人も中々居ないだろう。

「となれば、俺が最後か」

 3人からの視線を受けて本日何度目かの自己紹介を始める。

「高飛 明だ、日本人だけど生まれも育ちもアメリカのデビスモンサン飛行場、飛行機の墓場として有名な所さ。愛機は零戦52型丙、クラスはAで撃墜数は99だよ」

「あと1機で記念すべき100機目か、Aの割に多いな。」

「そうですね、なんでSじゃないんでしょうか」

里緒と明日子の二人が疑問に思う中ルーだけは何かを思い出そうとしていた。

「さっき名前を聞いた時からどこかで聞いた事ある名前だと思っていたが腑に落ちた」

「おっなんだなんだ、重要人物か?」

 里緒が囃し立てるがルーは気にせず言った。

「半年前にクラスSの名簿に乗っていたな、何故今クラスAを名乗った?」

 ルーに真顔で問い詰められる。これに関してはあまり話したくないが仕方ない。

「とある事件でさ…」

 落ち着いて質問に答えようとしたが突如鳴り響く空襲警報にかき消されてしまった。明日子が内線電話に飛びつき状況を確認する。

『西山電探より八丈島基地へ、北西方向から接近する機影3機を捉えました、大型機です。迎撃の用意を!』

「北側?露助じゃないのか?」

 里緒が椅子にもたれかかっていた起こしながら問う。

「北側なら確実に本土のレーダーに引っかかるから先に連絡が入る。だから星の官軍だな」

「ならすぐに上がるぞ。格納庫まで走れ!」

 4人で武道場を飛び出して格納庫に走る。その頃レーダーでは…

「あ!レーダーから一機消えた、反射波が2機分になった!」

 レーダーを見ていた自衛官が声を上げる。レーダーに写っていた三つの点が二つに減った。

「なんだと!?減るとはどういうことだ?」

 それを聞いた上官も近寄り問い詰める。

「分かりません、ただこのレーダーは新式なのでまだ調整が終わってないんです。もしかしたらレーダー波にムラのある場所があるのかもしれません。他の同一機種があれば比較調整できるんですが…ただこの飛んでる二機の少し前におかしな反射波があるんです。海面の反射に近い、時化の時とかに良く出るような…」

 今後数日の天気に関する書類に目を通す

「低気圧が近づいてる、時化でもおかしくは無い…」

「でも一応報告しましょう。」

「わかった。」

 受話器を取りもう一度基地に繋ぐ。その頃4人は機体に乗り込み準備を終えようとしていた。

「2機に減った?」

「はい、レーダーから消えたそうです」

「勝手に墜落してくれるなら楽なんだがな…」

 ルーは電話の報告を聞いていた、明はとある問題に直面していた。

「なんだこの振動、それに筒温も少し高いな…」

 横で最終チェックを行っている整備士聞いてみる。

「さっきプラグを変えたんですがその後からなんですよ、ひとつ火花が弱いのがあるんです、しばらく飛ぶと溜まったカーボンが燃えきって正常になります」

 要するにエンジンの不具合だが勝手に治るから問題ないとの事らしい。

「具体的にどれくらいだ?」

「おそらく5分くらいです」

「わかった」

「ご武運を」

 その一言を受け取ってからキャノピーを閉じ滑走路へ向かう。飛行帽に組み込まれた無線機から情報を受け取る。

「敵大型機接近、離陸後は高度30000フィートで東へ向かってください」

 滑走路と誘導路に機体を並べる。

「蒼穹隊一番機 羽月 里緒 出る」

「蒼穹隊二番機 三鷹 明日子 出撃します!」

 コルセアと三式戦闘機がルーと明より先に飛び出す。二人は先に管制官からコールサインを伝えられた。

『まずはルー中尉だ君のコールサインは蒼穹隊三番機、次にだ高飛中尉は四番機だ、クリアードフォーテイクオフ、離陸を許可する』

「蒼穹隊三番機 ルー・ポータル、出る!」

「蒼穹隊四番機 高飛 明、出撃する!」

 2機が滑走路を駆け抜け速度をあげて離陸する、しかし明の零戦だけ速度が乗らず失速寸前でフラフラと飛行する、挙句エンジンからけたたましく異音が鳴り響いてる。

バンバババッバンバンバン

「くそっ、離陸するんじゃなかった…とは言ってももう引き返せる状態じゃないか、引き返そうと旋回すれば失速して墜落するからこのまま調子が出るまで真っ直ぐ飛ぶしかない」

 5分後、零戦を除く3機が高度5000メートルに到達した。仮に零戦のエンジンが絶好調だったとしてもこの3機に追従するのは難しかったかもしれない。

「上方にコントレイル確認、高度およそ9000、大型機だやはり2機しか居ない」

 ルーが二つの機影を真っ先に見つける。

 コントレイルとは英語で飛行機雲を表す言葉である。

「あそこまで上がるのにはまだ7いや八分ってとこか…」

 里緒が上を見上げながらつぶやく。

「一機足りないが行くしかない、楔形だ、一番機より四番機へ、こちらの後方を警戒してくれ」

 見当たらない明に呼びかける。

『こちらエンジン不調、出力不足のため追尾不可、繰り返すエンジン不調につき追尾不可。』

「…了解した、二番機の明日子、後方を見ておいてくれ」

 3機は少しずつ上昇を続ける。その下で明は不調の機体と格闘していた。

「だいぶ調子が戻ってきた…もうフルに吹かせるか」

 海面スレスレの曲芸飛行状態から回復し高度百メートルに登っていた。日は沈み空は薄暗くなっていた。海と空の境界があやふやな世界に少しの淡い月明かりが差し込んでいる。

上を見上げるとルー達の3機とそのさらに上を飛ぶ爆撃機が見えていた。しかし突如月明かりが遮られ上から布を被せられたように上を飛ぶ機体も見えなくなった。

「何だ!」

 それは正しくレーダーから消えたもう一機だった。爆撃機でありながら低空に隠れてから再上昇しルー達の背後を取るつもりだったのだろう。大型で丸く太い機体に長い主翼と高く上に伸びた垂直尾翼。米軍が太平洋戦争で運用したB-29だ。400キロ前後で飛行しているようで300キロで巡航している零戦には見向きもせずに追い越して上昇していく。明も病み上がりの機体に鞭打ってフルスロットルで追いかける。

「低空に敵機、高度200から上昇しつつあり。爆撃機です」

 機体を傾けて下方を警戒していた明日子が里緒に連絡する。

「まじか、挟み撃ちかよ。爆撃機の上昇力じゃここまで来るのには時間がかかるが、こっちが全部片付けて降りたところで鉢合わせするとめんどくさい」

 B-29は超空の要塞と呼ばれる程防御力が高く、速度性能も申し分ない、さらに銃座は射程が長く、角度によっては戦闘機数機分の火力に匹敵する。

「仕方ない、誰か一人降りてあれの迎撃を…」

 里緒が作戦変更を支持しようとした時、沈黙していた明から連絡が入る。

『今そいつを下から追いかけてる、やれるだけやってみるが撃墜されても文句言うなよ!』

 そう言って無線は切られてしまった。

「零戦1機でB-29に挑むとは…」

「余程自信があるんだろ、信じるっきゃないがね。」

 零戦の速度がほぼ全速の540キロに到達させ、上昇してB-29の左後ろに飛び込む。そのまま後部銃座の真下を横切り垂直尾翼の右側に飛び出す。横転を打って機首をB-29の方に向け、照準器の表示とB29が重なった時、スロットルの引き金を引く。機首を引き起こしながらB-29の太い胴体と左翼に13ミリと20ミリを叩き込む。そのまま銃座の死角であるB29の下側に離脱。振り返った時にはB-29は左翼のエンジンから火を吹いて体勢を崩していた。高飛がもう一度攻撃を仕掛けられるようにポジションを整えようとした時、B-29は燃料に引火し爆発、破片をまき散らしながら海面に落ちて行った。その爆発は上空の3機からも見えていた。

「なんだあの光は」

「飛行機に火がついたんだ、明が下の機体を落としたんだ!」

 ルーが火焔の方を見ながら無線に叫ぶ。

「これで迎撃の邪魔は入りませんね、遠慮なく行かせてもらいます」

 明日子のコルセアが加速し上空のB-29に向けてまっしぐらに突っ込む、そのままB-29の右翼を掠めるギリギリの距離で機銃を発射、右翼の付け根に弾を集中させ翼をへし折り撃墜した。

「くっそ、また勝手に突っ込みやがって、あともう1機の方を仕留める、手伝え三番機!」

「了解した」

 三式戦が胴体右側から攻撃を仕掛け、スピットファイアは上昇しB-29上空で反転、逆さ落としに突っ込みながら20ミリを叩き込む。2機の連携攻撃によりB-29は胴体から火を吹き高度を下げて行った。

『こちら管制塔、蒼穹隊へ爆撃機を全機撃墜した、こちらのレーダーに敵影なし』

「記念すべき100機目がB-29とはなぁ…戦闘機じゃないと締まらないなぁ。」

 明が肩の力を抜いてつぶやく。

「うちは滑走路は1本で建物も少ない、たった3機でも十分驚異になる」

「B-29の爆弾搭載量は9トン、3機だと27トンで250キロ爆弾なら100発を超えるから小基地ならそれでも壊滅する。」

『蒼穹隊各機、警戒態勢解除、帰還せよ』

「了解」

 その後も2人ずつのローテーションで飛行服を着用した状態で待機をしていたが追撃はなく朝が来た。

「一晩開けてみればなんともあっない話だ」

 明達4人は海岸に流れ着いたb29の残骸を見て立ち尽くす。

「こいつB-29じゃなくて偵察型のF-13だぞ。」

 F-13とは写真偵察機器を搭載したB-29を改造した偵察機で高高度からの情報収集を専門とする機体だ。

「挙句もっと酷いのはこっちだ、敵はF-13の護衛に電波高度計を取り付けたB-29を付けていたんだ。」

 里緒が黒く塗られた残骸に足を乗せながら解説してくれる。翼と思しき残骸に小型のレーダーのような物が取り付けられている。

「爆撃機で爆撃機を護衛してたんですね」

 明日子が頷きながら応える。

「あぁ、それも低空専門だ、でもさらに低空を飛んでた高飛が落としちまったと…」

「多分こちら離陸直後を銃座迎撃して足止めするためだったんだろうな」

「機体の不調に助けられたな」

 戦場では何が起こるか分からない、零戦の不調がなければ全滅していたかもしれないし、明はb29に轢き殺されていたかもしれない。でもここのメンツは引きがいいというか強運が味方についているような気がする。

「あとは解析のメンバーに任せて帰ろうぜ」

 眠たいのか里緒が早く帰ろうと急かす。

「同じく、1日で2戦は俺も疲れた」

 基地に戻ろうと来た時、ルーが明に声をかけた。

「なぁ、昨日言ったクラスの件だが…」

「あぁ、色々あってクラスSに上がってすぐ降格処分を受けたんだ」

 今なら快く答えられる。

「降格処分とは中々だな、上官でも殴ったか?」

「いや、もっとたちが悪い…友軍機撃墜の冤罪さ。クラスSじゃなけりゃ謹慎だったかも」

 海に沿って砂浜を歩きながら答える。

「つまりクラスAとはいえ実力はSということか」

「あぁ、君のいいライバルになれそうかな」

 明は慣れない砂地を踏みしめる。

「十分すぎるくらいさ」

 ここに来て初めてルーの笑顔を見た、それはとても綺麗だった。

  第一章END

 登場機体解説 

1. 零式艦上戦闘機五二型丙(三菱重工業)

零戦の最終的な量産型といえる型式。それまでの軽快な運動性能を犠牲にしつつも、防弾装備の強化と武装の増強を図りました。主翼に13mm機銃を追加し、計5門の火器を備えましたが、重量増加に対してエンジンの馬力向上が追いつかず、かつての圧倒的な優位性は失われていた。しかし、熟練パイロットの手による執念の防空戦や、過酷な消耗戦のなかで終戦まで日本の空を守り続けた。

 

2. スピットファイア Mk.IX(スーパーマリン)

ドイツ空軍のFw190という強敵に対抗するため、Mk.Vの機体に新型のマーリン60系エンジンを急遽搭載した傑作機である。高高度性能が劇的に向上し、速度・上昇力ともに当時の世界トップクラスに返り咲いた。「救世主」とも呼ばれるこの機体は、優雅な楕円翼のシルエットを保ちつつ、中盤以降の連合軍の制空権確保に決定的な役割を果たした。バランスの取れた操縦性は、今なお歴代最高の戦闘機の一つとして語り継がれている。

 

3. F4U コルセア(チャンス・ヴォート)

逆ガル翼(W字型の主翼)が最大の特徴である、米海軍・海兵隊の強力な艦上戦闘機である。巨大なプロペラを地面に接触させず、かつ脚を短く頑丈にするための工夫があのデザインを生み出した。当初は着艦の難しさから地上基地での運用が主だったが、大馬力エンジンによる高速性と頑丈な構造で日本軍に恐れられた。戦後も朝鮮戦争まで第一線で活躍し、レシプロ機時代の終焉を象徴するタフな一機だ。

 

4. 三式戦闘機一型丙 飛燕(川崎航空機)

日本軍では珍しい「液冷エンジン」を搭載した戦闘機であり、ドイツのDB601エンジンをライセンス生産したハ40を搭載し、細身でシャープな機首形状を持つ。一型丙は主翼に強力なドイツ製MG151(マウザー砲)を装備した武装強化型で、その上昇力と防御力を活かしてB-29などの迎撃に活躍した、整備の難しさに悩まされながらも、その美しい姿と高速性能は当時の日本機の中で異彩を放っていた。

 

5. P-51 マスタング(ノースアメリカン)

「史上最高のレシプロ戦闘機」と称される名機です。層流翼の採用による低抵抗な機体設計と、英国製マーリンエンジンの組み合わせにより、圧倒的な航続距離と高速性能を実現した。これにより、爆撃機をドイツ本土深くまで護衛することが可能となり、欧州戦線の流れを決定づけました。視界に優れたバブルキャノピーや合理的な設計は、現代の航空機デザインにも大きな影響を与えた完成された工業製品と言える。

 

6. B-29 スーパーフォートレス(ボーイング)

「超空の要塞」の名にふさわしい、当時最高峰の技術が詰め込まれた戦略爆撃機である。高度な計算機を用いた遠隔操作銃座や、高度1万メートルでも地上と同じ気圧を保つ「加圧キャビン」を装備していた。圧倒的な飛行高度と航続距離を誇り、日本本土への空襲において甚大な被害をもたらしました。当時の日本の戦闘機では到達することさえ困難だったその性能は、戦後の航空技術の基準を大きく引き上げることとなりました。

 

7. F8F ベアキャット(グラマン)

「最強のレシプロ艦上戦闘機」を目指し、あえて機体を小型・軽量化して大馬力エンジンを積むという思想で設計された。徹底的なダイエットにより、驚異的な加速力と上昇性能を誇り、当時の初期型ジェット機すら凌駕する機動性を持っていました。実戦配備直前に終戦を迎えたため第二次大戦での戦歴はありませんが、戦後はブルーエンジェルスの一代目機体としても採用されるなど、その純粋な飛行性能は高く評価されてる。

 




最近サブスクでdアニを契約したんですよ。今は機動戦士ガンダムサンダーボルトとガーリーエアフォースってのを見てます。どちらもいい作品ですよ、おすすめしますよ。
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