蒼穹の銀翼(改訂版)   作:ミヤモゾン34239

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かなり間が空きましたが何とか完成はしました。バイト先で人が減ってシフトが増えたりして忙しくなったのがちょっと災いしました。


第五章 死闘

第五章 最強のインターセプター

ノバヤ・ゼムリャ基地

「震電に形式不明の新型機、震電に関しては僅かとはいえ私のシュヴァルベに追従してきた。彼らが実戦に投入されるというのなら、少しは楽しめるかもしれない…」

 飛行服で酒を嗜み、先日撮影した写真を眺めて愉悦に浸っていた。しかしそこに口を挟む者が現れる。

「その可能性は限りなく低い、たった二機でそれも実験段階のレシプロ機如きでは我々に太刀打ちできない可能性が高い」

 ショートボブにコーラルレッドの髪色、服装はもちのろん飛行服だ、人間と言うには出来すぎている程の美しい芸術品のような肌だ、これだけならば誰も彼女を人殺しの道具だとは思うまい。

「面白くないことを言うなペーネロペー、戦いはいつ何があるか分からないものだ。もしかすると敵にガルマンを撃墜したエースが居るかもしれないだろう」

 P-47サンダーボルトの前に誇らしげな顔で佇んでいる男の写真を手に取りながら言った。

「その可能性は高い、あのゼロファイターは各地の戦場で確認されている。そしてその僚機であるスピットファイアも同じかそれ以上に優秀だ」

「全く面白くない返答だ、君にかかっている金がもう少し安くて、他の奴らと同じ見た目をしていたら訓練用デコイにでもしたんだがな」

 Me262がB-29の両翼に吊り下げられるのを眺めながら男は立ち上がる。特務仕様のB-29は足の長い台車に乗せられて爆弾の代わりに戦闘機を搭載する。

「行くぞ、お前は俺の剣であり鎧だ」

「了解した」

 男と機械の心臓を持つ少女はB-29に搭載されたme262に向かって歩き始めた。早朝のノバヤ・ゼムリャ基地は白く染まっている。

 数時間後 サフォノヴ基地のレーダー施設。

「北東350キロより敵編隊近づく、機数100と推定。高度30000フィート」

「クソ、ここを石ころに変えるまでやる気らしい」

「戦闘機隊全機スクランブル!昨晩の話を忘れるな、敵戦闘機に対する警戒を強めろ」

 ムルマンスクとサフォノヴォの基地に空襲警報が鳴り響く。

「やっと来やがった」

 待機していた5人が詰所を飛び出し全力疾走で機体へ向かう。

「やっぱ飯に手をつけると敵が来るんですね」

「お決まりですよね〜」

 他にも格納庫で待機していた者や雪景色の屋外で焚き火をしていた者も一斉に各々の機体へ走る。

「3万フィートか…私たちにとってはキツイ戦いになるぞこれ」

 三式戦に乗り込みながら里緒は悪態をつく、B-29はどれだけ高高度でも性能低下が少ないのだがこちらはそうはいかない。ターボチャージャーを持たない機体は著しく機動力が低下、戦闘機動はかなり限られる。

 その出撃準備の最中、吾妻がコルセアの両翼に吊り下げられたロケット弾に目をつけた。対地攻撃用のロケットが見える。

「HVARじゃないですか!これで戦う気ですか!」

「えぇ、榴弾なので当たりさえすれば何でも一撃です」

 コルセア翼によじ登りながら明日子は答える。隣では整備兵の1人がロケットの安全装置を解除している。

「これがエースのやり方か…」

 敵を倒すためには手段を厭わないやり方は隊長から聞いていたが格闘戦に固執する自身との違いに感嘆する。スクランブルであることを忘れて脱帽した。こんなパイロットになりたいそういう気持ちが湧き上がる。

「ジェット機が出てこなければいつも通りだ、敵戦闘機を低空に誘い出して爆撃機を丸裸にする」

「はいはい、仰せのままに」

 アリスは長い髪の上から飛行帽を被り、不満そうにルーの言葉に適当に返事をする。長い航続距離を持つ機体から順に離陸し25000フィートを目指す。

「100機か…味方は全力出撃してもせいぜい80機と考えると足りないな…」

 2人もレーダー管制施設を離れ出撃に備える。

「厳しい戦いになるな」

 胸が詰まる思いで格納庫へ向かって歩む。 

「震電と旋風は最後の砦だ、無駄に消費する訳には行かない。me262発見の報が来るまで出撃は無しだ」

 サトルが改めて念を押す、しかし明は振り返らず一言だけ口にする。

「わかってるさ…」

 2人は廊下の途中で立ち止まり、上昇しつつある味方の大編隊を見送った。サトルに緊張している様子はない、しかし実戦経験も豊富で幾つもの死地を超えてきた明の方が落ち着きに欠けていた。

 格納庫へ進みつつも無線機を肌身離さずに携行してme262発見の報を待ち望む、そして場面は上空に移る。

「ほんっと、高高度は嫌なのよ」

 アリスはぼやきながら酸素マスクを装着して深呼吸する。

「吾妻達はもうポジションについたのか?」

  蒼穹隊の4機とスナークの指揮を任されている里緒は吾妻に呼びかけた。

「はい、全機ポイントアクシズに集まってます」

「こっちの仕事、護衛戦闘機を引き剥がしてそっちに追い込む。後はお前たちの仕事だ」

「了解しました」

 作戦に参加したのは約70機そのうち40機が高度30000フィートへ駆け上がる。

「ルーとアリスは爆撃機への攻撃に参加しないで上空から警戒を行う、うちからB-29攻撃に赴くのは私と明日子だけだ、残りは全部別の部隊」

 高度30000に上昇しB-29編隊の進行方向に展開し待ち伏せを狙う。

「私達は32000まで登る、ここを頼むぞ」

「えぇ、おふたりもお気を付けて」

 アリスとルーが離脱し上昇を再開する、その頃地上では震電と旋風がエンジンを始動し初の実戦を待ちわびていた。

「離陸したら高度6000で待機、me262出現の報を受けたらすぐに加勢に向かう」

 サトルはいつもの軍の制服を脱ぎ捨て慣れない飛行服に身を包む。

「問題ない、行こうか俺たちも」

「あぁ、なるべくついていけるように努力するよ」

 サトルも緊張してきたのか少し強ばった面持ちで不安そうに言った。

「大丈夫だ、お前飛ぶの上手いよ。ドッグファイトも形になってる」

 サトルは元々レジスタンスのパイロットで設計技師でもあった半ば強制的に手術を受けたが、しかし空への憧れに乏しく戦闘力も不十分だったたが故に設計技師兼テストパイロットとなった経歴がある。しかしそれに明はテスト飛行も兼ねて自身の技術を叩き込み戦えるだけに仕立て上げた。

「そう言ってくれるとありがたい、慢心しない程度に宛にするよその言葉」

 2人は機体に乗り込む、整備兵が離れ、輪止めが外される。

「ファントム01震電クリアードフォーテイクオフ」

「ファントム02旋風クリアードフォーテイクオフ」

 臨時の部隊名を頂いた2機が悠々と滑走路を加速する。足が地を離れ次第急上昇し高度6000mを目指す。ついに大日本帝国海軍の野心作である異端の翼が敵機を狩るために空へと駆け上がった。

「すごいよ!先に登った主力より2分も早い」

 高度5000に差し掛かった時サトルが歓喜した。

「あぁ本当にこれならB-29なんか一捻りだ、本当にme262も倒せるかもしれない」

 淡い希望を抱きながら過給機のギアを上げる、震電が薄くなる空気をエンジンにかき込む。その頃上空では戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。しかし同時に最大の好敵手も戦いに身を投じる準備を進めていた。

「敵戦闘機が爆撃機隊に張り付いたら奇襲をかける、間違っても味方の銃座に落とされるなよ」

 母機からの電力供給によって2基のターボジェットエンジンに激しい息遣いが生まれる。

「了解」

 いつも通り愛想のない返事を返すペーネロペーに呆れつつも機体の最終チェック済ます。

 本隊から少し離れた空域に待機していた2機のB-29、その両翼には双発のジェット機が吊るされている。

 発進のためのシークエンスを全て終えた矢先、インカムに短い電信音が届く。暗号化されているが内容は解る、味方の爆撃機隊が敵戦闘機を確認したとの連絡だった。

「全機アンカーを解除、発進する。任務はB-29に取り付く敵戦闘機の排除だ、ペーネロペーは復唱しろ」

 唯一の話し相手である彼女にまた絡むが愛想もなく返される。

「任務はB-29に取り付く敵戦闘機の排除、アンカーを解除する」

 me262を固定するアンカーは解除され、自由を得た4羽の怪鳥が猛然と加速する。

「この高度だとこいつじゃちとキツイな、2型ならまだマシだったろうが…」

 高高度でのパワーダウンを懸念しつつも敵機の居る前方を警戒する。

「見えたぞ!少なくとも爆撃機が60は居る、護衛の数も今まで以上だ油断するなよ」

 友軍の誰かが無線で声を上げる。そしてほぼ同時に待ち伏せをかけていた38機が一斉に敵爆撃機とその護衛に向かう。

「相手はbf109のF型っぽいな、いつも通り低空に追い込む」

 里緒は双眼鏡で護衛の姿を確認する。F型はE型からエンジンを変更、出力向上により最高速が伸びて高高度戦闘にも最適化された名作だ。

 「攻撃開始!」

 28機の戦闘機がB-29の大群にダイブし弾幕を浴びせ敵戦闘機を引き剥がす、bf109の一部は慌てて機首を下げて降下する。bf109はマイナスGをかけてもストールしないのでこういった場面で逃げに徹すると追い付ける機体はない。

 しかしそれでも一部は逃げずに向かって来た。B-29の防衛機銃の攻撃を回避しながらbf109を追い立てる。

「クソ、敵味方どっちの弾かも分からん」

 空が曳光弾で埋め尽くされる。

「爆撃機撃墜一番乗りだ!」

 二式単座戦闘機鍾馗で高高度迎撃に参加したジュリー・ヴァリアントはそう言ってB-29に向かって40ミリロケット砲を叩き込んだ。

 B-29は一撃で解体され鍾馗は残骸の横をすり抜け下方へエスケープした。

「よし、次の…」

 高度を取り直し再度攻撃をかけようと機首を上げた時、右側からの違和感に釣られて振り向く。そこには近距離でこちらへ照準を合わせるme262の姿、話には聞いていたが気にもとめてなかった。何しろ自分の相手は爆撃機だ、自分が一番に撃墜されるなんて思ってもいなかった。味方に助けを求める時間もなく4門の30ミリ機関砲によって機体は引き裂かれ、燃料へ引火した直後空中で爆発四散した。

「何だ!?」

 その場に居た全員が爆発に気づきその方向に目をやる。そこには爆発の噴煙を踏み越え、獲物へと牙を向けんとする4機のme262の姿があった。フィンガー隊形の先頭の機体は真紅に塗装されている。

『出やがった!』

『誰が殺られた?』

『こっちに来るぞ!』

『たった4機だ、作戦通り全員で囲め!』

 無線が一気に混乱して、電波に乗って恐怖が伝染する。B-29への攻撃を中止して殆どの機体がme262へ向かう。

「クソ、来やがった」

 里緒もme262の出現に気づきすぐにルーとの個人回線を開く。

「主賓がおいでなすった、お相手してやれ!」

「こちらでも確認した、対応する」

 ルーはいつも以上に冷静だった、以前の戦いで取り乱したことを重く受け止めているのだろう。

「行くぞアリス」

「血が滾るってのは久しぶりね、援護するわ」

 虎の子のエース2人が反転降下し、乱戦となった下方へ向かう。

「敵の動きがいいな…ヘッドオンを仕掛けると回避に専念しやがる」

 真紅のシュヴァルベのパイロットは一機また一機と襲いかかる敵に銃火を浴びせる。しかし思ったほど敵が落ちる様は確認できない。

「ちらが上昇で逃げられないように上も塞がれている、カゴの中で戦っている気分」

 ペーネロペーは不機嫌そうに呟く

「案外張り合いがあって面白いだろ、人間様を甘く見たらダメだ」

 男は真紅のシュヴァルベで一機撃墜しながら嬉しそうに言う。

「新たな敵機、直上から来る」

「何!?」

 2番機からの警告で上方を確認するとそこのには逆さ落としで飛び降りてくる二つの影があった。

「全機ブレイク!」

 4機のシュヴァルベが一斉に翼を翻して全力旋回に移行する。曳光弾が翼をかすめその直後に2機の戦闘機が下方へ駆け抜ける。その内の一機は例のゼロファイターと手を組んでいるスピットファイアだ、後方へ目を向けると4番機の翼が折れてスピンしているのが見えた。

「クソッ、体当たりでもしたかったのか!」

「今の攻撃で敵の包囲に穴が空いた、おそらく味方を通すための出入り口を作ったと推察される」

「よし、多少強引にでも包囲を突破する、ついてこい」

 残りの2機を従え700キロオーバーで包囲の端へと飛び込む。

「邪魔」

 前を塞ぐ疾風をヘッドオンで難なく撃墜し包囲を突破する。

「2撃目は無理か」

 ぶつける覚悟で800キロ近い速度を出して加えた一撃でも一機しか仕留められなかった事を悔やむが相手の動きを観察する余裕があった。

「そんなことより包囲抜かれたわよ!」

スピットファイアとドーラは再上昇し離脱したme262の方へ機首を向けた。

「急ぎ追撃する、味方の残存機はそのままB-29の対応を頼む」

「了解した、今対me262専門の部隊がこっちに向かってるらしい。そいつらと合流して対応してくれ」

 里緒からの情報は実に有り難いものだった。

対me262専門という言葉に少しだけ希望を見出したそして同時に低空の吾妻達もbf109を引き付けるために奮闘していた。

「なんだこいつら、この前までとは比にならいくらい速いぞ」

 戦力はこちらの方が上だった、しかし圧倒的な高速性を有するbf109に皆が翻弄されていた。

「相手の動きを予測して上を抑えつつ戦うんだ!」

「だめだ!振り切れな…」

 また1機無線が途絶える。

「だめだ吾妻、落としても落としても数が減らねぇ!」

「無理に撃墜しなくていい、こいつらを釘付けにするだけでいい。その間に上の味方が…」

 味方の士気を引き上げようとそんな事を口にした瞬間、雲の中から炎上した味方機が1機また1機と降ってくる。

「そんな…」

『きっと敵に例のジェット機が出たんだ!』

『これじゃ上も全滅するぞ!』

 無線がまた混乱する。もう味方は皆絶望していた、だが誰も戦いをやめようとはしなかった。全員が互いの仕事を信頼するしかないのだ。

 明とサトルも増援に向かうために上昇を続けていた。

「奴らが出たそうだ、上空の味方を襲ってる。一時的に追い返したのをドーラとスピットファイアが追撃してるらしい」

 聞き覚えのある2機だ、彼女達なら対抗しうるかもしれない。そう思うが同時に絶対にme262に殺らせはしないと心で固く誓った。 

「その二機は知り合いだ、腕も信用出来る。連携して戦うのが最善だろう」

「わかった、ここでの判断は君に任せる」

 二機は再び機首を上げて上空一万mを目指した。

(頼むから持ち堪えてくれ、生きていてくれるだけでいい!)

 包囲離脱の後立て直しのために一時退却したme262を追うためににアリスとルー2人は全開飛行を続けていた。

「数の優位は向こうにある、味方の包囲なしで戦うこれからが地獄だぞ」

「言っとくけどあの赤色のエースはめちゃくちゃ強いわよ、多分私たちより全部ワンランク上の動きをしてる」

向こうのエネルギーを削り切るまで追い込めば勝機はある、粘り強く後ろを取り続けろ」

 アリスはさっきから戦いに異常なほど注力しているルーの姿を死に急いでいるように見えた。

「気をつけなさいな、あんたには待ってる人が居…」

 そう言いかけた時ルーが叫んだ。

「真正面、距離2000から来るぞ!」

「あーもう!」

真正面に段々と大きくなる三つの機影を確認した。

「私の合図で散開しろ」

「はいはい、もうなるようになってしまえ」

 敵キャノピーの中が見えそうなほど近づいた時ルーが合図を叫んだ。

「ブレイク!」

 左右に別れた直後、元居た地点が30mm12門の銃火に晒されていた。

「右端のやつからだ、嫌でも向こうのエネルギーを失わせるように立ち回れ!」

「はいはい!」

 敵機はルーに真紅のエースを、残りの2機をアリスに仕向けた。

「こいつは俺が相手をする。2機で確実にドーラを殺せ」

 スピットファイアに追従し高いGに耐えながらペーネロペーへ命令を下す。

「了解した、3番機の指揮権を頂戴する」

「あぁ、持ってけ」

 深紅のエースを除く2機が後ろに着いたのを確認するとアリスは誘うように急上昇した、一瞬のディレイもなく2機が追従してくる。

「この高速域でパワー勝負とは…愚か」

「甘いわ、ノロマ!」

 上昇中にスロットルを絞りオーバーシュートの形でme262を前へ押し出す。しかしアリスはme262を攻撃することなくそのまま機首を下に向け距離を取った。

「何故…」

 シュヴァルベも反転しドーラを追う。

(中途半端な位置からは仕掛けられない、向こうの消耗を待ってから確実に仕掛ける)

 格上2機を相手に決死の飛行を続ける、同時にルーも敵エースとの戦いを必死に続けていた。

(流石にこの高度と速度での追従を続けるのは堪えるな)

「だが後ろは貰った!」

 20mm機関砲の発射ボタンを押し込む。

「落ちろ!」

 しかし機関砲弾は空を切る、me262はバレルロールで難なくそれを回避した。

「あんなデタラメな…」

 me262はそのまま機首上げによる減速で瞬間的に動揺したルーをオーバーシュートさせる。その刹那ルーはme262のコックピットの中を覗き見た。

「な…」

 そこには落とせるものなら落としてみろと言わんばかりの不敵な笑みでこちらを嘲笑う人の姿が見えた。

「しまった…」

 しかし向こうはオーバーシュートのための急減速で速度を失った、今のうちに距離を取り逃げる時間を稼ぐ。

「me262専門の部隊というのはまだか!」

「無い物ねだりすんじゃないわよらしくない!」

 珍しくアリスに叱責される。

「こいつら上手い、長時間後ろに付かないで一撃離脱を徹底してる」

 me262はカウンターを警戒して少し上から見下すように絶好の機会を今か今かと待っている。

「勝ち目がないなら最悪ダイブで逃げることも視野に入れといて」

 仮にダイブしたとて逃げ切れる保証はない、向こうの方が急降下制限速度は上かもしれない。

「了解した、だが基本的には時間稼ぎで逃げ回るぞ」

 その後の2人は数の優位がない中、旋回性能で速度差を補いつつ逃げ回る、しかしそれも長くは続かなかった。

「ここまでか…相手にすらならなかった」

「なんなら弄ばれてるって感じだったわよ」

 2人は650キロでの水平飛行に移行し殆ど諦めていた。そこに旋回戦闘から速度を回復させたme262三機が死神の如く現れる。

「すばしっこかったのに急に大人しくなるな、諦めたか」

 30mm機関砲の照準がスピットファイアを捉える。

「敵の増援が来る、とどめを刺すなら早く」

 彼女が横から口出しする、これからがいちばん楽しいというのに実に野暮だ。

 「わかっている手間は取らせん、お前はドーラを殺れ」

「了解した」

 3番機を後ろに待機させ2機同時にとどめを刺す。射撃ボタンに指をかける。

「しいわ、あいつを一人にしてしまうのが…」

「…すまない」

 ルーは目を瞑り耐え難い死を受け入れようとした時、敵の最後尾の機体が突如爆炎を上げる。

「何だ!」

 残りの2機が慌てて左右に散開する、me262の火災による煙の後ろから見慣れない二つの機影が姿を表す。

「昨夜の震電!?」

「もう一機も随分速そうね」

 震電と未知の新型機は2人の後ろに着く。震電のパイロットはハンドサインで離脱しろとだけ指示しme262を追いかける。新型機もそれに追従した。

「明!」

 ルーは叫んだが無線が繋がっていないので聞こえているはずはなかった。しかし去り際に明は2機にサムズアップした。

「キザな野郎ね…」

「それには激しく同意する、だが彼らを頼る以外に方法はあるまい」

 ルーは躊躇いなく機体を旋回させ2機を追った。

「発言と行動が合ってないわよ!」

「見方と合流しといてくれ、私は加勢してくる」

 残りの燃料を気にしつつスロットルを全開にして先行した2機を追う。

「随分と格好つけて来たね」

 明は久々に見たルーの顔を思い出して感傷に浸っていた。

「まぁな、あの二人はここまでよく戦ってくれたよ」

 しかしそれもここまで、左側の断雲に視線を向ける。

「これからは僕たちが頑張る番というわけか」

「大正解」

 左上方向1000m程先に体制を立て直したme262が現れた。

「さぁペイバックタイムだ」

 明は手袋をはめ直し操縦桿を握る。スロットルを全開にすると零戦と違い後ろからエンジンの咆哮が響き渡る。

「こいつらが我々のメインディッシュだ!」

 me262のパイロットも喜悦の表情で震電を見つめる。磨き上げられた異端の翼と世界一獰猛なツバメの戦いが幕を開けた。

 同時に少数でB-29の対応を行う明日子達も正念場を迎えていた。

「喰らえ!」

 銃座の弾幕を掻い潜り接近したコルセアが最後一発のロケット弾を発射する。弾速は毎秒420mと決して早くないが明日子の腕ならば必中距離まで接近することも容易だ。

 B-29の尾翼に着弾したロケットはそのまま機体後部をズタズタに引き裂き、制御を失ったB-29はスピンしながら降下した。

「ロケットは尽きたけど機関砲で…」

 高度を取り直して再度アタックをかけようとする明日子に覆い被さるように新たなB-29が姿を表す。

「しまった!」

 下腹部の銃座が旋回しコルセアに狙いを付けたその瞬間、里緒の声が無線に響く。

「下がってろ!」

 慌ててB-29から距離を取る明日子と対称的にB-29に対して逆さ落としで突っ込んで一撃を加える機体が現れた、里緒の三式戦だ。

「炸薬入りの20ミリだ、召し上がれっ!」

 MG151の鋭い一撃がB-29の翼を引き裂く。翼が折れたB-29はそのままスピンしながら雲の中へと消えた。

「下の損害が増えてるからお前が支援に行け、お前とコルセアならそっちの方が思う存分暴れられるだろう」

 里緒は次の獲物へ向かいながら明日子へと指揮を行う。

「はい!」

 明日子は反転降下で雲の下へと向かう。里緒もbf109の追撃を振り切りながら次のB-29へと機首を向け、引き金を引く。しかし落としても落としても終わりが見えない戦いに嫌気が刺してきた。無線の周波数を切り替えて全隊へむける。

「全機へ告ぐ、B-29には2機1組で左右から同時に仕掛るんだ。銃座のヘイトを分散させて生存率が上がる」

 返事を待たずに無線を切り自身の戦いへと戻る。

(あいつらは上手くやっているだろうか…)

 アリスとルーの事を思い出す、同時にme262がどうなったのか気になって仕方ない。me262を狩るための部隊というのには合流したのか、しかしそんな考えを振り切って自身の戦いへと集中を取り戻した。

「赤色の方は俺が相手する。もう一機を頼むぞ!」

「わかった、ご武運を祈ってる!」

 ヘッドオンを回避し震電にとって不得手である旋回で真紅のme262の後ろを取る。

「機体を赤く塗って速度3倍にしようってわけか!」

 相手は超高速でロールや上下の機動を繰り返しちょこまかと逃げ回っている。だがこちらも軽量化により機動力はさらに上がった、以前のテスト時と比べて加速力も旋回性も比較にならない。

「あの二人を追い込んだんだ、まだ本気じゃないだろ」

 この戦いを楽しんでいる自分がいる。今まで初めてと言っても過言では無いくらい自分の肩の荷を下ろして戦いの中に身を置く。

 シュヴァルベの動きのキレがワンランク向上した、だがまだ着いていける。

「水平旋回で機首がブレる、縦旋回の方が回りやすいか…」

 操縦桿を引き続けても機首が定期的にガクッと向きを変えようとするが明は腕に力を込めてそれを抑える。

(追い掛けることは出来る、でも狙いをつけて撃つ余裕はないっ!)

 じわじわと両手両足に疲労が蓄積する、高速域で舵が重くなる震電の特性も災いしているのだ。

(サトルを死なす訳にはいかない、長くは続けないぞ)

 そう覚悟してさらに操縦の制度を上げようとした矢先、me262が急降下する。躊躇わず後を追うが反応が遅れたので雲の中に逃げられてた。

「チッ」

 辺りを見回すが青空が上から覗いており左右と下方が雲に囲まれた谷のような空間が広がっている。

「思っていたより厄介だな…速度勝負に持ち込める余裕もない。奇襲が通じるような相手でもあるまいそれに…この高度でこの速度にピッタリ追従するとは…」

 その赤い彗星の紛い物も決して余裕がある訳ではなかった。

「本来の爆撃機の護衛の任務すら出来んとは…」

 雲の間の谷間に沿って震電の位置を探る、しかし同時に明もme262を見つけようと躍起になっていた。

「何も見えない…」

 エンジン出力を絞りキャノピーを開く、全神経を目と耳に集中させ全方向へ警戒を強める。

「見えた!」

 700m前方、雲の中をコソコソと飛んでいるのが見えた。出力を絞ったまま必中の間合いへと詰め寄る。理想は100m圏内だがそれだけ近づけばこちらの事を察知されるのは当たり前、200mで重畳と言った具合だろう。

「追いついたぞ!」

 me262の真後ろにビッタリ張り付く。

「見事な索敵だ、だがこの上昇に着いてこれるか」

 スロットルを全開に、操縦桿をまっすぐ引き切り急上昇する。

「パワー勝負か」

 躊躇いなく追従する。しかし単純な上昇力では劣っているのでじわじわと距離は開き、速度は落ちる。このまま逃げられる訳にはいかないので、20ミリ4門の引き金を引くが数発が掠めるだけで有効打にはならない。

「チッ、こんな位置で撃っても当たらないか」

 しかし被弾に驚いたのか向こうは上昇によるエネルギーの損失を利用してストールマニューバに移行して離脱した。排気煙を引きながら大きく弧を描きながら離脱する。

「逃げる訳じゃないだろう、こっちを舐めている節がある」

 大きく旋回してこちらへ機首を向けてたme262とまた対峙する。ヘッドオンの構図だしか相手はバレルロールで射線を外して決闘を拒否する。

「好戦的だと思ったのに!」

 互いに少しでも操縦が狂えば衝突するようなギリギリのすれ違いの後スプリットSで反転して追撃する。

 ヒラヒラと華麗に左右へ機体を振りながら逃げ回るme262をひたすら追いかけ回す。操縦桿を握る腕が悲鳴をあげるが溢れ出るアドレナリンの前にそんな痛みはないも同然だ。

 (動きはわかってきた、次は右バンクから全力旋回だろ)

 機首の向きを変えて相手の動きを待つ、すると本当に右バンクからの旋回でこちらを振り切ろうと動く。 

 「爆ぜろ」

 勝ちを確信して引き金を引いた。反動で震える操縦桿を抑え、曳光弾が敵機に突き刺さるのを見届ける。瞬間me262がこちらに気づき全力旋回で回避を試みた。だが足りない、震電の20ミリ弾はme262のコックピットを貫いた。だがそこでおかしな事が起きた。確かにコックピットの中、キャノピーが機体と同じ真紅染まるのが見えた。

「なっ!」

 あまりの同様に操縦が乱れ、操縦が狂う。だがme262は飛行を続けていた。

「あれにも人が乗ってるのか…サンダーボルトと同じように!」

 思わず手が震える、遠くからとはいえ生々しく血が飛び散る様を見てしまったのが精神的苦痛だ。だがme262は最後の抵抗と言わんばかりに反転しこちらへ突っ込んでくる。

「俺は…どれだけお前達を殺せばいいんだ!」

 次に湧き上がったのは罪悪感や心苦しさではなく怒りだった。

「落ちろ!」

 今度はヘッドオンだ、確実にとどめを刺す。向かってくるme262に照準を合わせ引き金を引く、無数の曳光弾が突き刺さる。me262は右翼から火を拭き高度を落とした。

「うっ、ぐ…ここまでか…」

 殆ど消し飛んだような右腕を抑え、無線の周波数を切り替え残った部下に最後の命令を下す。

「…聞こえるかペーネロペー…撤退しろ、私には…構うな」

「了解した」

 彼女は最後まで情もなく冷たい機械だったしかしその声を聞けたことが男にとって唯一の安らぎでもあった。

 シュヴァルベはフィナーレと言わんばかりに搭載燃料に引火して空中で爆散した。

「俺が殺したのか…」

 一挙手一投足全て予測ほど理解した相手を殺してしまった悲しみが押し寄せる。まるで長年を共にした仲間を殺したようで気分が悪い。

「アイツらが人間なら分かち合えるんじゃないか」

 心ここに在らずといった具合で明は引き金を引いた自身の腕というパーツを見つめながら言った。

「今回の敵は何かおかしい、なんかこう…覚悟が違うんだ!」

 吾妻は言いたいことを上手く言葉にできないでいた、それもこれも全て異様な強さを誇る敵のせいだ。

「言いたいことは分かるぜアズマ、俺たちじゃ厳しい相手だよ。隊長もいないしな…」

 同時低空へ引き込んだ護衛機の対応に当たっていた吾妻達は機動力、連携、数で劣っており、絶体絶命の状況にあった。

「綺麗に編隊を組んで追いかけてくるぞ…」

 2人1組での行動を徹底していた吾妻、P-39エアラコブラに搭乗する僚機であり友人のリチャードと必死の逃走を繰り返していた。

「もう1回散開して奴らを分離させる、合図したら上下でバラけるぞ」

「あいよ隊長代理殿」

 こんな時でもリチャードは吾妻の事を茶化すが彼なりの気遣いなのかもしれない。 

「それはやめろって言っただろ…」

 自分には見合わない隊長という地位を忌避しつつ後方のメッサーシュミットに目を光らせる。

「よし今だ!ブレイクブレイク」

 メッサーシュミットの編隊が乱れ足並みがズレた瞬間叫んだ。

 隼とエアラコブラが散開する。しかし4機で追尾を続けていたメッサーシュミットは全て降下したエアラコブラを追尾する。

「そんな!」

「クソッ、こいつら謀ったな!」

「とにかく逃げろ、今助ける!」

 すぐさま反転してメッサーシュミットを追うが隼の速度では到底追いつけない。

「離される…クソックソッ!」

 己の不甲斐なさに怒り計器盤を叩く。

「誰か助けてくれぇ!」

 多勢に無勢で追い詰められたリチャードの断末魔が響く。しかし落ちたのはリチャードではなくメッサーシュミットの方だった。

「は…」

 メッサーシュミットの後ろに張り付く巨大な怪鳥のように翼を広げた黒い機体、あれと比べるとメッサーシュミットが小鳥のように見える。

「コルセア…明日子さんか!」

「このまま引き剥がすので退避してください」

 敵機を追従しながら泰然自若とした精神を保つ明日子がリチャードへ指図する。

「ありがとうございます!」

 思わぬ援軍に安堵する。コルセアは回避運動を開始したメッサーシュミットに追従し、もう1機火だるまにする。残りのメッサーシュミットが蜘蛛の子を散らすように退避する。

「助かった、命の恩人だ!」

「構いません、命令ですから。そっちの機体では追い付くのに一苦労でしょう、私が奴らのエネルギーを殺すのでそこを仕留めてください」

 そう言うと逃げたメッサーシュミットをまた追いかける。

「了解しました、ついて行きます」

 遅れて吾妻とリチャードもコルセアに続く。

(まるで別人みたいだ、温厚な普段の姿と全然違う)

 彼女の二面性に少し恐怖しつつも信頼して後に続く。

 (これがエースの実力…)

 彼女の圧倒的実力に心酔する。これからも彼女とコルセアは戦果を重ね、いつか勲章等を得るのだろう。自分もそちら側に立ちたいと思わせる姿がそこにあった。

 時は数分遡りペーネロペーと交戦したサトルは初の実戦にて命を賭していた。

「これが実戦のGかッ!」

 me262の高速飛行に何とか追従していた。

「旋回性能は十分なはずなんだ、フラップ開けばまだ曲がるはず!」

 慣れない高いGに身を晒しながら何とか腕を動かしフラップのスイッチを戦闘位置へと動かす。しかし状況は対して変わらない。

「追いかけるだけならどうとでもなる。でも照準に捉えるのはまた…別の話ッ!」

 Gによる苦悶の表情を浮かべつつも眼球だけは前を飛ぶme262を追っていた。

「反応速度と操縦技術では一定のレベルに達している…だが遅い、それに近すぎる」

 ペーネロペーは急減速でオーバーシュートを誘発させた、あっけなくでキ99を前へ押し出される。

「嘘だろ」

 サトルの操縦が動揺により操縦が乱れる。

「落とすには勿体ない機体…でも終わり」

 翼を広げた鶴のような美しい機体に照準を合わせ

「殺られるのか…こんなに呆気なく」

 絶望するサトルに一筋の光が差した。

「フラップを下ろして右に曲がれ!」

 本能的にその指示に従う、無我夢中で操縦桿が折れるくらい引っ張った。すんでのところでme262の射撃を回避することが出来た。

「はぁはぁ…だ、誰?」

「援護に来た、一人でよく戦ってくれた」

 振り向くとこちらに接近してくるスピットファイアの姿があった、先程助けた明の仲間だ。

「そんな、助けに来たつもりが助けられるとは…」

 溜息をつきながら自分の不甲斐なさに呆れた。

「作戦がある、とにかく逃げに徹してくれ」

「了解した、戦闘経験はからっきしだから指揮は君に任せるとしよう」

 me262が遠くから反転して戻ってくるのが見えた。

「また来るぞ、ブレイク!」

 me262はまたもやキ99の後ろに張り付いた、しかし今度は違う。

「落ち着いて敵を見ろ」

「それくらいは…判ってるッ!」

 強烈なGに耐えながらも口を動かす。

「スロットルを戻しつつ反転降下」

 彼女の指示に身を任せると思い通りにキ99を操ることができる、今までの頑固さが嘘みたいだった。

「今度は右だ!」

 彼女の指示に従いひたすら操縦桿をこねくり回す。

「すごいな君は、こんなに気持ちよく飛べるのは初めてだ!」

「操縦に集中しろ!」

 一蹴されつつも今はこのキ99との一体感が心地よく他の全てはどうでも良い。

「あぁ、楽しいな…」

「あと5秒だけ我慢しろ!」

 振り向くとスピットファイアがme262の後ろに付いているのが見えた。ルーはそのまま20mm機関砲の一連射を放つがそれは空を切った。

「クソ!」

 me262はそれを読み切って回避した。

「こうも攻撃が当たらないとは、手練だな」

 高速での戦闘になると機関砲も互いに当てにくくなる、これ程の高速域での戦闘はルー程の実力者でもなかなか経験は無い。

 しかしペーネロペーも限界が近づいていた。

「燃料が…」

 シュヴァルベは燃費が最悪の一言であり全力戦闘を繰り返すと30分も持たないとされている、既に母機までの帰還を考えると撤退しか選択肢はなかった。そこに突如途切れていた無線が繋がる。

「聞こえるかペーネロペー、撤退だ、私には…構うな」

「了解した」

 自分が彼の命令に従うようプログラムされていることが嫌だと思うくらいには即答だった。スピットファイアと新型機とは距離があるので下手な小細工はなしにそのまま最速で離脱し、少し離れた空域の母機であるB-29へと向かった。

「撤退していくな、燃料が切れたか」

「これが狙いだったんだね、me262は燃費が悪いからとにかく僕に連れ回させて燃料を無駄遣いさせたかったと…」

 2人が安堵した瞬間、撤退するme262を追うように1機の戦闘機が真横を飛び抜けた。

「震電!?」

「me262を追撃する気か!」

 ルーは慌てて明へ無線を繋ぐ。

「よせ、向こうにこれ以上の戦闘の意志はない!」

 ルーが諭すがその声は明に届かなかった。

「速すぎる、追いつけないぞ!」

 いくら速度性能に優れる旋風でもこれだけ出遅れていては震電には追いつけない。そしてペーネロペーも後方に迫る震電の姿に気づいた。

「…速い!」

 しかし気がついた時には遅かった。右上から迫る震電、向こうの機首はこちらへ向いている。この状況でも冷静に左旋回で回避しようと試みるが完璧な結果には出来なかった、me262は右翼の付け根に被弾し燃料を吹き出す。

「しまった」

 震電が下方へ抜ける、再上昇しようとこちらへ旋回しようとするがペーネロペーはその隙にme262を一気に加速させ、震電の射程圏外へ離脱した。

「全機撤退を開始、護衛のbf109の回収は考えずB-29のみで撤退を開始せよ」

 ペーネロペーも残り少ない燃料が持つことを祈りながら母機へと向かった。

「明日子さん、敵のB-29が残った爆弾を捨てて撤退しています!」

「やっとかよ、何機落ちたと思ってるんだ」

 敵も味方も落ちた数を数えるのが嫌になった頃でようやくB-29が反転した。里緒は無線で低空の明日子に連絡を取る。

「B-29は撤退を開始した、そっちは?」

「護衛戦闘機が撤退する様子はありません、bf109の航続力からして帰る気がないんでしょう」

「わかった、上空の面子がいくらか増援に行く、それで終わらせるぞ」

「了解しました」

 高空に居た部隊の全機が降下して、雲の下へと向かった。

「手応えはあったが浅かったか…」

 スロットルを戻して水平飛行へ移る、振り向くとそこには旋風とスピットファイアが迫っていた。それを見た自分は安心したのかさっきまで溢れていた憎悪や怒りが和らいだ。

「大丈夫か?すごい形相でme262を追っていたが…」

 ルーがキャノピー越しに顔を覗き込んできた。

「大丈夫だよ、ちょっと…疲れたけどね」

「赤いのは落としたのか?」

 サトルも少し遅れて追いついてきた。

「なんとかね…」

 疲労が蓄積して痺れた腕の力を抜いてようやくリラックスする。

「となると逃がしたのはあの1機だけか、俺がしっかりしていれば…」

 サトルは悔しそうに言った、だが誰もそれを攻めようとはしなかった。

「撃墜出来るとわかっただけで十分さ、これからまた対策を詰めていこう」

 明がカバーする。

「ありがとう…」

 明が操縦席で一息ついた時、スピットファイアが震電に対して距離を詰めてきた。

「それにしても…こうして話すのも一週間ぶりだな。ちょっと寂しかったぞ」

 ルーは言葉以上に内面では歓喜していた。

「俺もぶっちゃけ寂しかったよ…だから今めちゃくちゃ嬉しい」

 素直に気持ちを打ち明ける。

「やっぱりお互い様か…これからは…」

「2人とも感動の再会はいいんだけどいい話と悪い話がある」

 サトルが申し訳なさそうに口を挟んだ。

「いい話の方は敵B-29編隊は損耗率54パーセントで撤退を開始したってこと…悪い話は味方の損耗率も40パーセントを超えてたって事だよ」

「ヨンジュウ!?」

 驚きのあまり声を荒げる。

「ほぼ崩壊状態か…」

 部隊の損耗率というのは三割で戦闘力損失、五割で崩壊とされている。今回は爆撃機の数も多く、いつも以上に激しい戦闘となったのだ。

「内訳としては機動部隊から陸に上がってきた部隊からの損失は今のところ確認されてない。だけどここに常駐してた部隊はほとんど撃墜された有様だ」

「…まだみんな帰還した訳じゃないんだろ、連絡取れる取れないで把握してるだけだよな」

 煮え切らない己の気持ちを抑えながら殆ど希望的観測で口を開いた。

「確かにそうだな、連絡が取れないだけで生存している者も居るかもしれない」

「…」

 ルーは肯定してくれたが、サトルは黙りこくっていた。理論と計算で成り立つ世界に身を置く者として希望的観測は好かないのかもしれない。

「急ぎで俺たちも帰投する」

「了解した」

「あぁ、実験部隊の方に降りよう、主力の方は多分混雑してる」

「助かる」

 ルーも一つの悩みを抱えていた、真紅のme262のパイロットの事を明に共有すべきなのか、はたまた既に気付いているのか。

 戦闘をしているうちに空域をかなりズレていたらしく帰投には時間がかかった、だがサフォノヴォの実験用飛行場は少数の機体が駐機しているだけだった。

「ドーラが居るな、それにコルセアに三式戦も…」

「考えてる事は同じだったってことさ」

 燃料の少ないスピットファイアから着陸し、3人はようやく羽を休めることが出来た。

「遅かったな、me262は殺ったのか?」

 格納庫では里緒と明日子,アリスの3人が待っていた。

「私が一機、明は二機だ」

 ルーが答えた。

「アリスさんから聞きました、ピンチの所を震電に助けられたんですよね」

 明日子が震電に目をやりながら言った。

「アリスとルーが持ちこたえてくれたからさ、こっちは横取りしてしまったようなもんだ」

「僕に関してはスピットファイアの彼女が居なければ殺られていたよ、命の恩人だ」

「ルー ・M・ポータルだ、覚えておいてくれ」

 ルーがナチュラルに自己紹介を済ませる。

「君もテスターとして招きたいくらいだけど、そんな事を言ってる場合じゃないかな…」

 永久凍土の上に広がる森林のあちこちには墜落した航空機による火災が発生しており、ムルマンスクの街並みも破壊されている。不幸中の幸いはここに住んでいた人々はみな疎開したということくらいだろう。me262を撃退したことは大きな戦果のひとつだった、しかし味方の被害は決して無視できるものではない。その後は生き残った味方がぼちぼちと帰投していたがその数は出撃の時と比べて明らかに少なかった。

 サトルと明は空いていたブリーフィングルームに机を設け、今回の戦闘を振り返っていた。

「低空で対戦闘機をしていたメンバーの損耗率が高いな…」

 未帰還機の一覧と編成表を見つめて明は言った。サトルは隣でひたすら過去の戦闘データと今回の戦いの照合を続けている、それは完全に『話しかけては行けない雰囲気』を纏っていた。

「低空に居た味方から敵のメッサーシュミットが速かったという報告を耳にした、あと交戦時間も今までの1.5倍だ。向こうが疲れ知らずなことを考えると長期戦はこちらに不利だ」

 怪我人の救護の手伝いを終えてサトルと明の分析に合流したルーは何気なく現像が終わったガンカメラの資料に目を通した。

「足が速いってのはもしかすると型式が変わってるのかもしれない」

「bf109では長時間の戦闘は出来ない、あるとしたら帰投しないことを前提とするくらいか」

 ルーが即答した。

「正解だ、戦闘を終えた敵機は上昇して爆撃機に合流せず全機が河川に不時着した」

「…これが奴のやり方なのか」

 明が呟く、その声はルーの耳にも届いていた。

「救護の手伝いで少し疲れた…外の空気を吸ってくる、明も来るか?」

 ルーは暗い顔で振り向いてドアの方へ向かった。

「ん?あぁ行くよ」

 持っていたコーヒーと資料を置いてルーを追いかける。

 ルーは部屋を出ると、やたらと周りを確認しながら飛行場のエプロンに出た。乱雑に駐機された誰のものかも分からない戦闘機の裏でようやく立ち止まった。ここでやっと明の方を振り向いたルーの顔はやたらと険しかった。

「明も見たのか」

「何のことだよ」

 疲れからど忘れしており一瞬だけ本当に何のことか分からなかった、しかしすぐに思い出せた。

「とぼけるな、赤色のme262のパイロットのことだ!」

 ルーはいつもの淑女な様子からは考えられないほど憤っている。

「あれか…」

 秘密にしようと思ってはいたがここまで問い詰められては

「私が奴らを見たのは今日が初めてだ、知らぬ間に殺してたりしない限りは…」

「ん‪”‬ん‪”‬〜」

 明は顔を手で覆い天を仰ぐ、話すべき事が多すぎてどうすればいいのか分からない。

「とりあえず順を追って話そう」

「多少長くたっていい、聞かせてくれ」

 まずはアラスカで見たサンダーボルトのパイロットの事だ。

「俺はこの前の最初アラスカで遭遇した、でもその時は顔が見えなかった」

「アラスカ!?いつの間に…」

「最初に爆撃隊を襲った奴、やたら腕がいいなと思ってたんだ、それでちらっと見えたコックピットには人間が座ってた」

 ざっくりしているがこれ以上説明のしようもない。

「撃墜したのか」

「降伏を促せるような状況じゃなし、仕方なく」

「そうか…」

 それを聞いたルーは少しガッカリしたような表情を見せた。

「me262の方に関しては嫌な形で気がついたよ…」

「ほう…」

「こっちの撃った弾がパイロットに当たって…キャノピーが血で染まるのを見てしまった…すごく辛かった」

「あいつも痛みを感じるんだろうな、家族が居たかもしれない、俺の事を呪いながら死んだのだろうか」

 思い出すと吐き気がする、だがルーがそれを断ち切った。

「戦争だ、死も覚悟の内だったろう」

 彼女は振り向いて夜空を見上げながら云った。

「それも明のような男と真っ向勝負で負けたんだ、武人としてこれ以上の最後はあるまい。だから明も自信が武人であることを誇れ、自分の戦いを華々しく語って、笑え。だって私たちは…」

 ルーの言葉が一瞬途切れる。

「何時どこで、どんな形で涙を流し、悲しむ事になるか分からないから…」

 そっと振り向きながら最後の一言を口にする。その目元にはほんの少しだけ涙が浮かんでいた。今までエースとして戦場を渡り歩いている間に失った仲間達のことを思い出したのかもしれない。この涙は見ていたらなんとも心が痛くなる。

「ルーの言う通りだよ。でも君も辛いことがあったら俺に言ってくれ、幾らでも背負うから」

 涙を拭ったルーと向き合う。

「明を励ますつもりだったんだけどな、私が昔の事を思い出して泣いてしまった。」

「ルーが泣くのはあんまり見たくないけど、泣きたいなら好きなだけ泣きなよ。受け止めるから」

「ありがとう」

 また少し涙を零すルーにハンカチを差し出し、話を話を真面目な路線に戻す。

「問題はこれを報告すべきなのか、それとも2人の秘密にするべきか…」

ルーからの返答は以外だった。

「隠そう」

「即答するのか、以外だね」

「あぁ、向こうに対話が出来る可能性があると考えたら、こちらのトップは和平や交渉を行おうとするだろう」

「そうだな」

 ルーは続けた。

「だが向こうの目的が当初の通り我々を淘汰するまでの侵略であるのなら和平を求めるなど愚かだ、トップにそんな事をさせるわけにはいかない、奴らを地球から追い出してこの戦いに決着をつける」

 ルーの目は覚悟に満ちていた。

「よし、そうと決まれば俺たちは一蓮托生だ、墓場まで持ってけよそれ、サトルにも内緒だ」

「何を今更、八丈島沖で出会った時からそうだろう。だからこれからも頼むぞ私の王子様」

 ルーは可憐なウインクを明に見せつけるとサトルの研究室の方へ戻って行った。

「うーむ、ああやって言われると弱るなぁ」

 ウインクの衝撃を全身で受け止めつつも後を追い歩き出す。

「あぁ、別に戻らなくても良かったのに、疲れているだろう。早く休んでくれ」

 サトルは戻ってきた2人を見るとそんな風に声をかけた。

「サトルは休まないでいいのか?」

 明が身を案じて問い掛ける。

「僕も写真と報告書を纏めたら大人しく寝るつもりだったからね」

 眠そうに目を擦りながらサトルは適当に写真を束ねていた。

「片付けくらいは手伝おう、私達は貴方の情報があったから戦えたのだからな」

 ルーが机に向かい散らかった書類や本などの資料をまとめる。明も後に続いて空になったマグカップ等をシンクへ運ぶ。

「いやぁありがたいね」

 サトルは顔を崩して笑顔を見せた。

「明日には零戦も治ってるんだろう?」

「そうなんだよ、楽しみで仕方ないね」

 明は今にも踊り出しそうな程嬉しそうに言った。

「つまりテスターも終わりか、寂しくなるな」

 明と対称的にサトルは悲しげに呟いた。

「大丈夫、今のお前なら震電だろうがスターファイターだろうが乗りこなせるさ」

 励まさんと明は力強く言った。

「ありがとう」

 サトルはその言葉を噛み締めるようにすると、敬意を込めた感謝を伝えた。2人の協力もありすぐに部屋は片付き報告書の作成も大した時間はかからなかった。

 翌日、ムルマンスクの飛行場

 その一角で明は修理が終えた零戦と対面しようしていた。

「とりあえず前と同じように飛べるようにした、だが一つ問題があってな…」

 ここ一週間零戦の修理に尽力してくれた整備班の男は帽子を脱いで頭を掻きながらそう告げた、2人は格納庫へと歩みを進める。

「問題?」

 それを聞いて明の顔色が一気に暗くなる。

「同じエンジンを入手出来なくてな、仕方なく別のエンジンを積んだんだ」

 そう言って男は新たな零戦の諸元表を手渡した。明がそれに目を通すと確かにエンジンの欄が書き換えられていた。

 金星62型

 確かにそう書かれている。

「これは…」

 思わず言葉が詰まる。そして同時に歩速を早める。

「元々このエンジンを搭載する計画自体はあったんだ、だからそんなに苦労はしなかったが…もしかすると飛んだ時の感覚が変わってるかもしれない」

 零戦が置かれている格納庫の前に着く、布をかけられた姿の零戦を見て明は駆け寄った。

「布を取るぞ」

 男が布を引くと、新たな心臓を得た零戦と対面した。エンジンカウル上面には小柄な冷戦には不釣り合いな程大きいエアインテークが張り出している。

「これが零戦54型丙…出力はどう変化したんですか?」

 すぐに男を問い詰める、別に怒っているわけではない。

「こいつはだいたい1500馬力だ、速度自体は多分20キロも変わってないな、あと見ての通りインテークが干渉するから機首の13ミリは取り外した」

「…パーフェクトだ」

 明はボソッとそう言った。

「ん、何か言ったか?」

 男が聞き返すと今度は力強く、喜びに溢れた声で行った。

「パーフェクトだおっさん!修理どころか零戦の泣き所が改善されるとは」

「そこまで言ってくれるとは、この仕事してて良かったって思えるぜ」

 明はもう既にゴーグルまで付けて乗る気満々と言った具合だ。

「もう飛ばせるかのこれ?」

「あぁ勿論だ、慣らしもだいたい終わらせてある」

 数人の整備班の人間が集まり外部電源を利用してフライホイールを回してエンジンを始動する。

 ドドドドドド

 腹に響くようなエンジン音は今までの栄エンジンとは違う、力強さを持っていた。

 輪止めが外されるや否や格納庫から飛び出し、誘導路を駆け抜け、滑走路へ飛び出す。

「零戦54型、高飛 明出る!」

 スロットルを全開にし新たな零戦の力を実感する。

「待て!貴官に出撃命令は下っていない!」

 無線にそんな声が聞こえるが聞く耳を持ち合わせていない。

「発動機を換装したが故にテスト飛行を行います!」

 返事という訳では無いがそう報告する。

「すげぇ…」

 脚が地上を離れるとそのまま低空飛行で全力加速する。確かにエンジンが変わったことによる違和感はあるがそれ掻き消す程、新たなエンジンのフィーリングは最高だった。

「最高だ!」

 思わず叫ぶ、宙返りにバレルロール、スプリットSなど、与えられたおもちゃを喜ぶ子供のように無邪気に零戦を乗り回す。

 その上空…

「そういえば隊長の零戦は治ったのだろうか」

「予定だと今日と聞いてるけど…」

 空中哨戒中の吾妻と三番機P-39のリチャードは、昨日の戦闘から一転した静かな空で、中々顔を見れない隊長の話をしていた。

「ズタボロだったからなぁ、まさか俺たちより先にあの人が落ちるなんて思ってもなかったぜ」

 リチャードは隊長の腕を疑っているのか小馬鹿にしたような調子で言った。

「いや、あの人は正真正銘のエースだよ、僕じゃ相手にもならなかった敵エースのサンダーボルトに対してタイマンを挑んで勝っている」

 吾妻はリチャードのそれを否定した。

「隊長の撃墜数が100機落と言ってる奴も居たが、10機と言ってる奴も居た。こんなに情報に差があるパイロットも中々居ないぜ」

「僕は100機の方に賭けるよ、戻ってきたら聞いてみよう」

「まじかよ、正気かお前…」

「残念だなリチャード、賭けは吾妻の勝ちだ」

 2人の無線に久々の隊長の声が割り込んできた。

「隊長!?何処に居るんですか!零戦は治ったんですか」

 吾妻が尋ねる。

「俺は君達の真下にいるよ」

 2人を挑発するように明は位置を明かす、吾妻は言葉の意味を理解する前に反射で叫んだ。

「リチャード、ブレイク!」

 P-39と隼が左右に散開する、その間を矢のように零戦が飛び抜けた。

「あれがゼロの動きかよ!」

 リチャードは並外れた零戦の上昇に呆気にとられる。そのまま300m程上昇した零戦は失速を利用し反転、P-39に狙いを定めた。

「ひっ、くっ来る!」

 降下のエネルギーを利用して零戦はリチャードを追い詰めるが、リチャードも右へ左へ旋回を繰り返し距離を取ろうとする。

「どうしたリチャード、隊長の腕が知りたかったんだろ」

 吾妻は手のひら返しで狼狽えているリチャードを嘲笑う。

「うるせぇ、てめぇも追われてみればわかるぜ!」

 荒い息遣いと共にリチャードの必死の声が無線に聞こえる。

「P-39の方が速度で勝ってるんだ、そのまま振り切れよ」

「ちぃっ!」

 リチャードは嫌々ドッグファイトを取り止めスロットルを全開にして加速する。全力加速で零戦を振り切ったことを確信したリチャードは振り向く、確かにそこに冷戦の姿はなかった。

「やった、逃げ切ってやったぜ!」

「フッ、楽しそうだな」

 隊長を振り切って悦に浸っているリチャードを吾妻は嘲笑した、その直後後ろに零戦が現れた。

「ゑゑ!?」

 零戦はP-39の影みたいに真後ろに張り付いている、リチャードは完全に面を食らって戦意を失った。

「負けました」

 リチャードは負けを認めた、隼とが近寄り3機が編隊を組み直す。

「直ったどころか絶好調ですね」

 吾妻は久々の隊長の姿を見て安心する。

「パワーアップしたのさ、だからあんな芸当が出来る」

「な、なんで真後ろに居たんですか、振り切ったと思ったのに…」

 疲労困憊のリチャードが明に聞いた。

「お前が加速した瞬間、下に潜り込んでピッタリ張り付いてたんだ」

「ゼロの加速で!?」

 リチャードは驚く、どうやらまだ零戦の変化に気づいていないらしい。

「ハッハッハ、残念だがこの零戦の馬力は既に君のエアコブラよりも上だよ」

「え?ゼロって1000馬力じゃ…エンジンが違う?」

 ようやく気づいたらしい。機首上部に張り出したエアインテークを見て驚愕する。

「1500馬力になったのさ、これならF-15にもF22にも勝てる気がするよ」

「そりゃ頼もしいです、おかえりなさい隊長」

 吾妻はキャノピー越しに敬礼をし、帰ってきた隊長に経緯を評した、リチャードも慌てて後を追い敬礼する。

「うん、俺が居ない間の指揮をよくやってくれた」

 これだけ隊長隊長と言われているがスナーク隊はアラスカ戦役の後解体されている。明を慕って、明の背中を見つめながら歩いている彼らは明に心酔してついて行っているのだ。明も別にそれを嫌とは思っておらず、むしろ気に入っている。

「俺は満足したから基地に戻る、多分怒られるだろうな」

「了解しました、哨戒が終わったらまたゆっくり話しましょう」

「あぁ、その時は何か奢る…」

その時、3機を瞬間的に閃光が被った。

「なんだ、か,雷なのか?」

 リチャードが慌てて辺りを見回すが空は快晴だ。

「こんな晴天だ、そんなわけない」

 吾妻が冷静に諭すが本人も何なのか理解していない。

「雷なんて次元じゃなない、もう世界中覆うんじゃないかってくらいの光だった…」

 明が北東の方に目を向ける、雲がなく晴れ渡っている空の奥の奥の方に真っ赤に燃え上がるような雲を見つけた。この距離からでも見えるのだ、それなりに大きいだろう。

「お前らあれ見えるか?北東のずっとずっと奥の方だ」

 明が2人に呼びかける。

「一体何が…」

「なんだなんだ?」

 2人も目を向ける、数秒程注視した後リチャードがぼそっと言った。

「あれ核爆発じゃねぇのか」

「リチャード、お前何言って…」

 その時無線が3人に繋がる、地上からだった。

「上空の3機へ、急ぎ帰投せよ」

「了解、帰投します」

 吾妻が返事する。

「何が起こってるんだ…」

 3機は言われた通り帰投した、しかしそこにはNBC防護服に身を包んだ人員が待機しており、整備班の人間は急ぎで外の機体を格納庫に収めている。

「言ったことが本当になっちまった…」

 現実を目の前にしてリチャードが消魂する。

「あんなものじゃレインコートと大差ない」

 吾妻はチープな防護服を見て呆れる。NBC防護服は主に毒ガスや化学薬品が肌に付着することを防ぐための物であり、厳密には放射線防護服と異なる。これ自体に放射線から使用者を守る機能を有した物はごく一部だ。

「こんな事が起きるなんて想定してなかったんだ。恐怖が紛れるだけで効果は十分さ」

 明は湧き上がる恐怖を抑えながら言った。3人は急ぎで体を洗い、精密な検査を受けさせられる。そしてパイロットは全員外出が禁じられた。これだけの措置を取っておきながら、上層部からは何も説明がないまま半日が経過した。

 第五章 END

 第五章機体解説

 

 1. 二式単座戦闘機二型乙 鍾馗(中島飛行機)

日本機離れした「一撃離脱」特化型の重戦闘機である。爆撃機用エンジンを無理やり小型機に詰め込んだが故に、機首が太く翼が小さい独特のシルエットをしている。乙型は、主翼に40mm自動噴進砲(ホ301)を搭載した型式が存在し、今回登場したのもそれである。圧倒的な火力でB-29迎撃に投入された、操縦に熟練を要する「じゃじゃ馬」だったが、その加速力と上昇性能は当時の日本機の中で群を抜いており、本土防空戦でその真価を発揮した。

 

2. 四式戦闘機一型甲 疾風(中島飛行機)

「大東亜決戦機」と期待された、大戦後半の日本陸軍最強の戦闘機である。2,000馬力級の「誉」エンジンを搭載し、最高時速624kmの高速と、隼譲りの格闘性能、そして防弾装備を高い次元でまとめ上げた。一型甲は20mm機関砲2門と12.7mm機関砲2門を装備した標準型とされ、燃料や部品の質に泣かされましたが、万全な状態であれば米軍のP-51とも互角以上に戦えるポテンシャルを秘めていた「和製最優秀機」とされている。

 

3.零式艦上戦闘機五四型(三菱重工業)

エンジンの供給不足と性能向上という二つの難題を解決すべく、従来の「栄」エンジンに代わり、より大馬力の「金星六二型」を搭載した零戦の最終型である。エンジンの直径が大きくなったため、機首のカウリング形状が大きく膨らみ、それまでのスマートな零戦とは異なる力強いシルエットへと変貌した。1,500馬力級の出力を得たことで、重量増加に苦しんでいた零戦の飛行性能は劇的に改善されたが、わずか2機の試作機が完成した段階で終戦を迎え、実戦の空へ飛び立つことはなかった。

 

4.P-39 エアラコブラ(ベル・エアクラフト)

エンジンを操縦席の後ろに配置し、長いシャフトでプロペラを回すという極めて珍しいレイアウトを採用した戦闘機である。これにより機首に巨大な37mm機関砲を搭載するスペースを確保し、自動車のようなドア式のコックピットなど、先進的な試みが詰め込まれた。高高度性能が不足していたため、米英軍では正当な評価を得られなかった、しかしソ連に供与されると低空での格闘性能と対地攻撃能力が爆発的に開花する。ソ連のトップエースたちに愛され、東部戦線の泥沼の上で真価を発揮した「不屈の戦闘機」とされている。




震電とMe262のバトルってのはガキの頃からずっと面白そうと思ってたのでどんな形であれかけたので良かったです。でも正直空戦の描写はもっと試行錯誤せなあかんので精進しようと思います。
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