強化人間C4-621が、人として幸せになる為に   作:03-AALIYAH

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LAST MISSIONとありますが、最終回ではありません。

これにてブラックマーケット編及び原作前の話は終了、次回から原作開始です。


LAST MISSION

ブラックマーケットに来てから、一年が経過した。

 

 

黒服との契約は終了し、時計も返した。

 

 

 

貰った拠点はそのまま使って良いとのことだったから、今でもそこで寝泊まりしている。

 

最低限の家具、工具、弾薬に端末と、生活に必要なものと戦うためのものだけが揃っている空間だ。

 

 

傭兵稼業も二つ名がつけられるまでに成長した。

 

 

依頼の難度は上がり、報酬も比例して増えていき、そして口座の残高は増え続けている。

 

 

 

…だが使い道が無い。

 

 

嗜好品などに興味はないし、食事も…正直味覚がないのにこだわっても仕方ないからエナジーバーで十分だ。

 

 

正直、何もすることが無いから依頼をやっているだけで、少々の退屈を感じている。

 

学籍もない為に、どこへ行くにも境を通るには武力が必要になるし、そうなればおちおち見物なども出来ないに違いないから、結局はここにとどまるしかないのもそうだ。

 

 

「……平和って、こういうこと?」

 

 

ぽつりと呟く。

 

 

『依頼は定期的に届いています。危険も伴っています』

 

 

「危険があるのに退屈って、変だよね」

 

 

『刺激と充足は別問題です』

 

 

…他に自分がやっているのは、こうしてエアと話すことぐらいだろうか。

 

 

アビドスに居た頃が懐かしく感じる。

 

 

 

砂に埋もれかけた校舎。乾いた風。

 

 

ユメもホシノも、いつもバタバタしていて忙しなく動いていた。

 

 

「ユメ、もう卒業してるよね」

 

 

『年齢から計算すると、そうなるかと』

 

 

「ホシノは二年生か」

 

 

時間とは、呆気なく過ぎ去っていくものなのだなと、しみじみ思った。

 

 

おもむろにPCを開く。

 

キーボードを叩く動きに迷いはなく、依頼の確認も、情報の精査も、今では呼吸と同じだ。

 

 

ひとつだけ来ていた依頼があった。

 

 

▢《S》無題

 

□場所

・サンクトゥムタワー

 

□内容

・指定した場所にて説明

 

□報酬

・学籍及び定職

 

 

 

「……無題って?」

 

 

『差出人は連邦生徒会です』

 

 

「連邦生徒会?」

 

 

思わず画面を凝視する。

 

 

キヴォトスのトップ組織。

 

 

各学園を統括し、制度と秩序を維持する中枢。

 

そしてSという、最高難易度を指すはずの文字。

 

 

 

 

「行くところも無いから行くけど、なんだろこれ」

 

 

『考えても仕方ありませんし、まずは詳細を確認するのが先かと』

 

 

 

本文を開く。

 

 

 

あなたの腕を見込んでお願いがあります。

 

傭兵にさせておくことは貴女のチカラを考えれば余りにも勿体ないことであり、しかしそのチカラは単に組織に所属することではその全てを発揮することなど不可能でしょう。

 

今まで企業などから同じような誘いがいくつかあった筈です。

 

しかしその全てを貴女は断ってきた…それが何故なのか、私は理解しています。

 

こちらには貴女が信じて進める道を示し、その真価を発揮してもらう為の準備があります。

 

玄関に置いた封筒を見せればサンクトゥムタワー内部に通してもらうことが出来る筈です。

 

待っています。

 

 

 

読み終えて、画面から視線を外す。

 

 

「企業の誘いを断ってきたことまで知ってる」

 

 

『内部情報の共有が行われているのでしょう』

 

 

「玄関に置いた封筒って……」

 

 

視線が自然と天井へ向く。

 

 

「拠点の位置、完全に把握されてるよね」

 

 

『その通りのようですね』

 

 

連邦生徒会はキヴォトスのトップ組織。

 

 

彼らならば学籍を用意することも容易いのはそうだ。

 

だが、問題はそこではない。

 

 

「怪しすぎる。封筒をこちらの玄関に届けたってことは拠点の位置を知っているってこともそう。監視されてたってことだよね」

 

 

『可能性は否定出来ません』

 

 

「でも行くしかないか……」

 

 

拒否する理由も、隠れる理由もない。

 

 

いつもの服装に着替える。

 

 

コートを羽織り、ホルスターにハンドキャノンを入れる。

 

 

ガンラックからショットガンを取り出し、ベルトを肩に掛けると、装備の重さが体に馴染んだ。

 

 

階段を上がり、蓋を開け、カーペットを取る。

 

 

地上の建物の、辛うじて残っていたポストに白い封筒が投函されていた。

 

 

「ほんとに置いてある」

 

 

『どうやらあれが話にあった封筒のようです。持っていきましょうか』

 

 

エアの言葉に頷き、封筒を手に取る。

 

 

封がしてあるのを確認し、コートのポケットに入れ、そのまま両手を突っ込んで歩き出した。

 

 

 

 

『サンクトゥムタワーのあるD.Uへ向かう為には、ここからブラックマーケット内を突っ切った先にある電車に乗る必要があります。周囲からの襲撃も予想される為、見つからないように行きましょう』

 

 

それに頷き、建物を駆け上がる。

 

屋上へ。

 

 

さらに隣の屋上へ。

 

 

 

『レイヴン、何を考えて…』

 

 

「見つからないようにするなら、見ることも出来ないくらい速く走った方がいいかなって」

 

 

『…納得しました』

 

何故かため息をつかれた。

 

 

 

 

 

しばらくエアの道案内を受け、駅に着いた。

 

ブラックマーケットの外縁にあるにしては、場違いなほど外観が整っていた。

 

 

「電車ってどうやって乗るの?」

 

 

『券売機がそこにあるのでそこから切符を買いましょうか』

 

 

おもむろに画面を操作する。

 

生徒の欄があったが、学籍確認が必要らしい。

 

 

(持ってない)

 

 

大人用の切符を発行する。

 

ピーっという音の後、小さいカード状の紙が出て来た。

 

改札機の前で立ち止まる。

 

 

「これ、どう使うの?」

 

 

『差し込んでください』

 

 

周囲の人を真似て差し込むと、封鎖が解除された。

 

 

 

「人がそんなに居ないね」

 

ホームに降りながら呟く。

 

 

『ピーク時ではないのでしょう。実際、朝の8時前後はラッシュと呼ばれる程に人が多いと聞きます』

 

 

しばらく待つと電車がやってきたので、ドアが開くと同時に乗って座席へと座る。

 

目的の駅に着くまで、ただ景色を眺める。

 

素早く流れていく建物、看板、道路。

 

目まぐるしく景色が変わっていく。

 

 

(こういう移動は初めてだ)

 

ヘリでの移動は上空から眺めているだけだったので、地上の景色がこうも変わっていくのは新鮮でならない。

 

 

最寄り駅に到着すると、いつの間にか乗客が増えていた。

 

人混みの中、改札機に切符を差し込むと、切符は出てくることなく消えて無くなった。

 

 

階段を降り、案内を見て、時には駅員に道を聞きつつ迷路のような構造を抜ける。

 

 

そして、ついにD.Uの景色が眼の前に広がった。

 

 

衰退したアビドスとも、薄汚いブラックマーケットとも違う。

 

規則正しく林立するビルに、きちんと整備されたアスファルト。

 

 

等間隔に並ぶ街路樹。

 

 

「……すご」

 

 

『これがキヴォトスの中心部ですか…』

 

 

その象徴である一番高いビル、サンクトゥムタワーが目的地だ。

 

 

数分歩き、入口から中に入って受付へ向かう。

 

 

「ねえ」

 

「は、はい!なんでしょうか!」

 

「これを」

 

 

封筒を差し出す。

 

 

「あ、え、これって……すいません、今連絡をかけますね」

 

 

受付係の人は封筒を見た瞬間、明らかに動揺した様子だった。

 

 

冷や汗を浮かべ、どこかへ電話をかける。

 

 

二言三言した後すぐに切った受付係の人はこう言った。

 

 

「ご案内します」

 

 

エレベーターに乗る。

 

無機質な上昇感を伴って上に上がった後、チン。という音がしてドアが開く。

 

そこには、扉があるだけの部屋。

 

 

「では、失礼します」

 

 

案内役が去り、静寂が落ちる。

 

それを見届けてから、ドアを開けた。

 

 

 

 

 

 

部屋の中央で窓を背にしつつ一人の少女が座っている。

 

 

「こんにちは、レイヴンさん」

 

柔らかい声だった。

 

 

「あなたが依頼主?」

 

 

「ええ、その通りです」

 

 

にっこりと笑うと共に、ピンクの差し色をした水色の髪が光を受けて淡く透ける。

 

連邦生徒会の制服はきちんと整えられており、多分偉い人なんだろうな〜と、呑気な思考が浮かぶ。

 

 

けれど。

 

 

(……底が知れない)

 

直感だった。

 

 

立場が上とか、権力があるとか、そういう話ではない。

 

 

もっと別の意味で、こちらより高い場所に立っているような感覚。

 

視線を合わせているはずなのに、どこか測られている気がする。

 

 

得体が知れない。

 

 

「いや、そんなに警戒されても困るんですけど…」

 

そんな私の様子を見た少女が、困ったように笑う。

 

 

「初対面だから当然のこと。で、私は何をすれば良いの?受けるかどうかは話次第だけど」

 

 

椅子も勧められないまま、本題に入る。

 

 

「いきなり本題ですか。もうちょっとなんかこう、無いんです?キヴォトスのトップである私に会える機会なんて殆ど無いんですよ…?あ、サインとか要ります?」

 

 

「要らないし、そもそもあなたが誰なのか私は知らないんだけど」

 

 

事実だ。

 

 

連邦生徒会のたぶん偉い誰か、という認識しかない。

 

制服と依頼文の差出人から推測しただけ。

 

 

少女は一瞬だけ固まった。

 

 

「普通はキヴォトスのトップって言われると誰か分かりそうですけど…はあ。まあ良いです、私は連邦生徒会長、つまりはここキヴォトスのトップです!可愛い可愛い会長ちゃんと呼んでください!」

 

 

(……軽っ)

 

 

「か、会長ちゃん…?」

 

 

「そう!会長ちゃんです!」

 

 

満面の笑み。

 

学園規模の決定がいつもここでなされているはずの空間に、不釣り合いな自己紹介だ。

 

 

「で、依頼内容は?」

 

 

「冷めてますね貴女…うんまあだからこそ呼んだ訳ですけど」

 

 

がっくりと肩を落とす。

 

演技か、本気か。判別がつかない。

 

 

「今回貴女に受けてもらう依頼とはですね、ズバリ!」

 

 

「ずばり?」

 

 

「私とお友達になってもらいたいということです!」

 

 

数秒、沈黙が落ちる。

 

窓の外を走る車列。遠くで鳴るヘリの音。室内の空調の微かな低音。

 

 

「……そっか」

 

 

それ以外の言葉が出なかった。

 

なるほど、トップと友達になるとかいう失敗の可能性が余りにも高い依頼だからこそ、難易度Sと。

 

 

「そんな悲しい目で見ないで下さい…いやだってしょうがないじゃないですか!余りにも私が優秀過ぎて、他の人にそう言ったら萎縮されちゃうんですよ!」

 

 

それを見た彼女が両手を広げて弁明する。

 

 

優秀って、自分で言うことじゃないと思う。

 

「優秀って、自分で言うことじゃないと思う」

 

 

口に出ていた。

 

 

「ああ、言いましたね今!いやだって事実ですし…。やめて、そんな哀れな目で見ないで。最高権力者がわざわざみっともなくすることじゃないってそんなの分かっているんですよ」

 

 

少しだけ、笑顔が薄くなる。

 

 

(孤独、か)

 

 

頂点。

 

 

誰も対等に立てない位置。

 

 

「そこまで言ってない…というか、そもそも私じゃなきゃいけなかったの?」

 

 

率直な疑問。

 

連邦生徒会長のことを知らない人間など、探せばいくらでもいるはずだ。

 

 

「このキヴォトスにおいて、私を前に気取らず素面でそこまで堂々としていられる人なんて貴女しか居ないんですよ……お願いしますなんでも全部あげますから友達になってください」

 

 

深々と頭を下げる。

 

床に届きそうなほど。

 

 

(最高権力者が、全部あげますって)

 

滑稽だが、かなりの切実さを感じた。

 

 

「別に良いけど、他にも何か無いの?友達になるのは良いけれど、そんなことで貴女の言うように全部貰うのは…良くないと、そう思う」

 

 

上下で成り立つ関係は、友達とは呼ばない。

 

少なくとも、そういうものではないはずだ。

 

 

「それに、依頼するならもっとまともな物事にして。そもそも私だって友達というものの関係性は気になっていたから、双方のメリットが釣り合ってない」

 

 

会長はゆっくりと顔を上げる。

 

 

「うーん、やっぱり貴女ならそんなことも言いますよね……」

 

 

「何か言った?」

 

 

「ヴィエ、マリモ」

 

 

……さっきまでの軽さが、スっと引いた。

 

 

なるほど、さっきのは茶番と。

 

いや多少は本心もあったのだろうが。

 

 

「……今から貴女へお話することは、他言無用でお願いします」

 

 

窓の外の景色が、急に遠く感じる。

 

 

「傭兵なんて、基本それが前提だから構わないよ」

 

 

ここに来た時点で、もう後戻りはない。

 

それに……ああいう無味乾燥とした生活は、あまりしたくはない。

 

 

「ありがとうございます。では、まず─────」

 

 

 

これは、在りし日の記憶。

 

おそらく、戻ることはないであろうもの。




これにて、【独立傭兵】としてのレイヴンの話は終了です。

このまま殺しが脳内にこびりついた状況だとタイトル詐欺になっちゃうからね、しょうがないね。
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