強化人間C4-621が、人として幸せになる為に 作:03-AALIYAH
それから、色々あって数日が過ぎた。
色々とは言っても、内容は大体書類関係だ。
最初、先生は机に積み上がった紙の山を真正面から崩そうとした。
真正面から、だ。
流石に私はその腕を掴んで止めた。
「まず分類。効率が悪い」
紙束をジャンル別に分け、緊急度でさらに振り分け、重複案件を抜き出す。
床に広げた書類は白い床を埋め尽くし、まるで雪崩の跡みたいだった。
先生は少し驚いた顔をしてから、素直に従った。
それからは並んで作業する時間が続いた。
窓の外ではD.Uの喧騒が揺れている。
遠くで爆ぜる音、怒号にサイレン。
それでも室内は、紙をめくる音とキーボードの打鍵音だけが規則的に響く。
そこにときどき、菫色をした髪の少女が顔を出していた。
ミレニアムサイエンススクール所属のユウカ。
正確で、合理的で、そして妙に世話焼きなその人はてきぱきと仕事を手伝ってくれるので、結構助かっている。
「先生はずっとここに居ますけど、家はどうしてるんです?」
ユウカが鋭い視線で射抜くと、先生は曖昧に笑った。
どうやらキヴォトスに来てからずっと、支給された家に帰っていなかったらしい。
何度もここで夜を越すうちに実質的にシャーレが家になっていたようで。
そうやって時に当番の生徒にも手伝ってもらいつつ、仕事が一段落した日にようやく先生は帰宅した。
その背中を見送ったとき、少しだけ安堵したのはここだけの話だ。
だが数日後。
シャーレに現れた先生は、るんるんとした顔で両手に大きな箱を抱えていた。
数万円もするらしいフィギュアで、ナントカ彫りとかいう製法によって本気の造形と精巧さがあるらしい。
その日は私は休みで、自室で絵を描いていたが、その日当番だったユウカの額には青筋が浮かんだという。
そして今日、私は休憩室で本を読んでいたのだが、そこに休憩時間らしいユウカがやって来て、そういったことに対する先生への愚痴を吐き出していた。
なんでも、プラモデルの購入やソーシャルゲームへの課金に食費も削っているらしい。
それで前の昼食もコッペパンひとつだったらしく、先生の出費は私が管理するとユウカは宣言したようだ。
そうやってユウカは溜息をつきつつ、なぜか私の頭を撫でながら言った。
「レイヴンちゃんからも言ってくれない?」
「うーん…」
先生は食費を削ってまで、そういった趣味に情熱を傾ける人だ。
私が働いている日は、なぜか先生が料理を作ってくれるので二人してちゃんとしたものを食べているのだが…ユウカの話を聞く限り、私が休みの日はカップ麺やコンビニ弁当で先生は昼食を済ませているらしい。
そして私は私で、ひとりのときはエナジーバー一本。
どっちもどっちだから先生のことをとやかく言うことが出来ない。
どうすればいいのかと考えていると、エアが淡々と提案した。
『レイヴンが先生の食事を作れば良いのではないでしょうか』
…それだ。
そうと決まれば、ほとんど使っていない給料の出番。
「いい考えが浮かんだの?」
「うん」
コートを羽織り、銃を装備してD.U地区のスーパーへ向かう。
歩いて入った店内は蛍光灯が白く反射し、棚には色とりどりのパッケージが並ぶ。
人の流れは落ち着いてはいた。
「えっと……カレー粉と、鶏肉と、人参と……」
『じゃがいもも購入しておきましょう』
「あ、そうそうそれ」
そうやって予備のエナジーバーもカゴに入れて会計。
エコバッグの代わりに量の入る白と青のカバンを持ってきたので、それに入れて店を後にした。
その後、帰る途中で変な狐面の人物に絡まれたものの、とりあえず食材を守りつつ撃退。
袋の中身は無事なのでそのままシャーレに戻り、調理室へ向かう。
※
シャーレには本当に何でもあると思う。
医療設備も、訓練室も、そして消耗品の補給が出来るコンビニまで。
本気を出せば一年は籠城できそうだ。
まあやらないけど。
棚に置かれていた【粗製でも分かる料理の始め方】という料理本を手に取り、手順に従って調理を始める。
今回作るのはカレーライスで、キヴォトスでもメジャーなものらしい。
KoKo壱なるカレー専門店を見かけたことがあるし、エナジーバーにもカレー味があるので、多分本当の話だろう。
手順に従ってやっていくと、スパイスの刺激が鼻腔をくすぐる。
本に書いてあった【ちょっと美味しくなるコツ】というものも試しつつ火加減を調整し、ゆっくり煮込む。
コトコトと静かな泡が立ち、やがてとろみのある茶色が鍋の中で艶を帯びていく。
これで、標準的と思われるカレーが完成した。
早速盛り付けようと皿を出したものの、ここで問題が発生。
……米を買い忘れた。
今からスーパーに行くのも手間なので、手早く済ませる為にエンジェル24へ向かう。
こういうときに便利なのが、コンビニだ。
「いらっしゃいませ!」
自動ドアが開くと共に金髪青目の少女、ソラが元気よく迎える。
なんでもお金が足りなくて、最近アルバイトを始めたらしい。
「あ〜えっと、いつものエナジーバーで良いですか?」
「いや、今日はそうじゃなくて。ソラ、米ってある?」
「えっと…パックのものなら。何に使うんです?」
戸惑うソラに、私は短くはっきりと答えを口にした。
「カレー作る」
「か、カレー!?レイヴンさんが!?」
そこまで驚くことだろうか。
……いや、いつもエナジーバーしか食べてないからか。
なにはともあれ無事にパックご飯を購入し、電子レンジで表示通り温める。
湯気が立ち上る白い米に、ルーをかければ完成だ。
現在の時刻は十二時を少し過ぎている辺りで、丁度いいだろう。
先生のいる部屋へ向かい、扉を開けるとスパイスの香りが先に届いたらしい。
“ん?なんだかいい匂いが…これは、カレー?”
「はい、食べるよ先生」
“レイヴン!?これレイヴンが作ったの?”
「そうだけど」
やはり先生にも驚かれた。
やっぱり私に料理を作るイメージとかはないのかな。
「もう昼だし、さっさと食べよっか」
“今日はお昼の用意がなかったから助かったよ”
「それなら良かったけど…私が休みのとき、ちゃんと食べてる?」
“カップ麺とかコンビニ弁当とか菓子パンとか…まあ今月は食費がね”
「やっぱり」
ユウカの言葉は正しかった。
「ところで、私が働いている日はなんで料理するの?」
“レイヴンがエナジーバーばかりだからかな。あと…食べてくれる人がいないと、作ろうって気にならなくて”
「へぇ」
よくわからないが、そういうものらしい。
「じゃあ、私が休みのときは私が作る」
これで先生の食生活もなんとかなるだろう。
ユウカも言っていた、かんぺき〜って奴だ。
“え、いいの?”
「いい。給料ほぼ使ってないし。出来ることが増えるのは良いことだと思う」
少しの沈黙が場を支配した後、先生は感謝の言葉を述べた。
“…ありがとう、レイヴン”
「良いよ、普段作ってもらってるし」
スプーンを口に運ぶ。
初めて作ったカレーは、予想よりずっと美味しかった。
単純な感想だが、それで十分だ。
食後、先生にコーヒーを淹れた。
休みの日に仕事をしようとすると止められるので、これくらいはしよう。
湯気の向こうで先生が穏やかに笑ったのを見て、こういうのも悪くないと感じた。
ワカモはナレ死(死んでない)してますが、敗因は以下となります。
銃弾を全部避け切られた挙句、行動パターンを見切られました。
その後発射の瞬間レイヴンが銃口を狙撃したことで暴発し、銃が使い物にならなくなったことで撤退。
撤退後、ワカモは銃を泣く泣く修理しました。
尚、レイヴンの料理は基本に忠実です。
レシピというものはテンプレアセンと同じ、集合知だからね。
現在の腕はフウカを100(絶品)とするとレイヴンは70(普通に美味しい)となりますが、ガッツリ努力を続ければ90は行くことでしょう。
味覚障害は記憶喪失後にはなくなっています。
次回から対策委員会編になりますが、ここで一旦投稿をお休みします。
投票を見たらなんとかなり拮抗していたことにビックリでした。
なので作者的に楽な、ある程度書き溜めてから一気に放出する方針を取ることにします。
良ければ高評価と感想お願いします!
この小説読んでくれてる方はこの中のどれ?
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シャーレの先生
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強化人間
-
兼業
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実はどれもやってない