強化人間C4-621が、人として幸せになる為に 作:03-AALIYAH
因みにちょっと十連したらリコレクトでミカが、適当な二十連でヒカリが出ました。
ティーパーティー全員揃って満足。
「ん……」
ゆっくりと瞼を開けると、窓から差し込む朝の光が部屋を柔らかく照らしていた。
ベッドの上で身体を起こし、大きく背筋を伸ばせば肩や腕の筋肉が心地よく軋み、自然と小さな息が漏れた。
すると、既に身支度を済ませていたらしい先生がこちらへ振り返る。
“おはよう、レイヴン”
「おはよう、先生」
挨拶を返すと、先生は穏やかに笑う。
“朝ご飯を済ませたら、アビドスの街を見て回ろうと思ってるんだけど……一緒に行く?”
考えるまでもなく、即答した。
「うん、行く」
先生の護衛も、私の仕事の一つだ。
街を見て回るだけだとしても、それは変わらない。
“分かった。それじゃ、一緒に行こう”
先生はにっこり笑って頷いた。
※
簡単な朝食を済ませ、アビドス高校を出る。
朝のアビドスは静かだった。
砂漠の乾いた風が通りを吹き抜け、建物が並ぶ街には、人影も全く居ない。
遠くには、砂に呑まれたビル群が霞んで見える。
そんな道を歩いていると、見覚えのある姿が目に入った。
「あれ、アヤネ?」
“こんな朝早くから、どこへ行くの?”
声を掛けると、書類の束を抱えていたアヤネが足を止め、こちらへ振り返る。
「お二人とも、おはようございます。今日は利息の返済日なので、その準備をしないといけないんです」
「ああ、だから返済の手続きと、これからの計画を立てるため?」
「そういうことです」
頷いたアヤネは、思い出したように先生へ向き直る。
「あ、そういえば先生。昨日の便利屋の人達について情報がまとまりましたので、後ほど学校で確認していただけませんか?」
“もちろん。あとで見せてもらうよ”
「ありがとうございます。どうやら全員、ゲヘナ学園の生徒で──」
「おっはよー、先生にセンパイ!」
その瞬間、妙に聞き覚えのある声が、会話へ強引に割り込んできた。
「……え?」
反射的に振り返る。
そこには、昨日まで銃を向け合っていた少女が悪びれる様子もなく立っていた。
「じゃじゃーん。どもども〜。こんなところで会うなんて偶然だね!」
「……なっ」
アヤネが目を丸くする。
私も同じような気持ちだ。なんでここに…。
いや、それ以前に。
「待って。先生のことは昨日伝えてなかったけど……」
「こっちで調べたからねー」
まるで当然のように答えるムツキ。
便利屋全体なのか、それともムツキ個人のものなのかはまだわからないけれど、情報収集能力は高いらしい。
……でも、目的が分からない。
「とりあえず」
肩に掛けたショットガンへ手を添える。
「昨日の続きをやりに来た、ってことでいいの?」
「いやいや、違うからね」
ムツキは慌てて両手を振った。
「今日は完全にプライベート! 流石にセンパイ相手に私一人じゃ勝てっこないって」
「……そっか」
それなら、ひとまず銃は必要なさそうだ。
再び肩にショットガンを戻す。
ただ、センパイって…?
なんて聞き返そうとした、その時だった。
「うーん、重い? でもガマンしてね、先生〜」
「えっ」
ムツキが何の躊躇いもなく先生へ抱きつき、そのまますり寄り始めた。
「……えぇ」
思考が止まる。
これは、どう判断すればいいんだろう。
敵意は感じないし、先生も本気で抵抗している様子ではない。
でも、なんだろう…胸の奥が少しだけ、もやもやする。
理由は良く分からない。
プライベートと言っていたし、先生自身も危険そうには見えない。
だったら、無理に引き離す必要も──
「いやいや、離れてくださいよ! レイヴンさんもなんで止めないんですか!」
アヤネが慌ててムツキを引き剥がそうとする。
私は少し考えてから答えた。
「先生が本気で危険だと感じたら制圧するよ」
「そういう問題じゃありません!」
あ、違ったらしい。
「ちょっと引っ張らないでってば」
ムツキは笑いながら先生から離れ、今度はアヤネの方へ向き直る。それでも先生との距離の近さを感じざるを得ないが。
「あれ、誰かと思ったらアビドスのメガネっ娘ちゃんじゃん。おはよー。昨日ラーメン屋で会ったね」
誰かと思ったらって…アヤネは最初から居たんだけど。
「その後の学校への襲撃でも会いました! それより何なんですか、その馴れ馴れしさは! あとメガネっ娘じゃありません! アヤネです!」
珍しくアヤネが声を荒らげる。昨日から積もっていたものもあるんだろう。
けれどムツキは全く気にした様子もなく肩をすくめた。
「別に嫌いって訳じゃないし。仕事じゃない時くらい、仲良くしたっていいじゃん」
「今更公私を区別しようって言うんですか!?」
「いいじゃん、そのくらいさ」
ムツキは悪戯っぽく笑う。
「それにシャーレの【先生】は、あんた達だけのものじゃないでしょ? もちろん、センパイだけのものでもないし」
……それは、その通りだ。
先生は誰か一人のものじゃないし、私だってたまたま先生の近くで仕事をしているだけ。
…ただ。
「その……センパイって私のこと?」
ずっと引っ掛かっていた疑問を口にする。
「そうそう!」
ムツキはあっさり頷いた。
「私達よりずっと前からこういう仕事してて、有名だったからセンパイって呼んでるだけ」
……やっぱりかあ。
「多分、人違いだと思う」
首を横に振る。
「…まあ、どう呼んでもらっても構わないけど。私からしたら、先輩なのはそっちだし」
少し考えてから付け加える。
「シャーレも、便利屋みたいなところあるから」
“否定できないなあ……”
先生が苦笑する。
まあ、猫探しから書類整理まで割と何でもやってるし…仕事内容だけ見れば、便利屋と言われても仕方ないよね。連邦生徒会公認の便利屋的なポジションなんじゃないだろうか。
「ああもう! いい加減にしてください!」
再びアヤネが声を張り上げた。顔が真っ赤になっている。
「ええ〜、しょうがないなぁ……」
ムツキもようやく観念したらしい。
その様子を見て、先生が静かに口を開いた。
“できれば喧嘩はしないでくれると、私は嬉しいかな”
「そりゃ無理だよ」
ムツキは即答した。
「安っぽい言い方だけど、仕事だからね。アルちゃんがすっごくやる気あるし、私まで手を抜いたら怒られちゃうんだ」
そう言って笑うと、今度は少しだけ真面目な表情になる。
「ま、いつかうちにも遊びに来なよ。先生もセンパイも」
「来てくれたら、アルちゃんもみんなも喜ぶからさ」
くるりと踵を返し、歩き始める。
「それじゃ、バイバーイ! アヤネちゃんもまた今度ね!」
「今度なんてありません! 次会ったら即撃ちますから!」
「くふふ、はーい!」
軽く手を振りながら、ムツキは朝の街へ消えていった。
その背中を見送りながら、小さく考える。
……仲良くしたいなら、もう少し距離感を考えた方がいいと思う。
いや、もしかするとあれが考えた結果なんだろうか。
アヤネが本気で怒り始めた途端ちゃんと引いたし、今思うと、相手の反応を見ながら距離を測っているようにも見えた。
……分からない。
考えても答えは出そうになかった。
「えーと……アヤネ、お疲れ様?」
そう声を掛けると、アヤネは深くため息を吐いた。
「ああ……ありがとうございます。でも、できればもっと早く止めてほしかったです」
「……それは、ごめん」
※
「お待たせしました。変動金利などを適用した結果、今月の利息は788万3250円となります」
「全額現金でのお支払いを確認しました。今月分のお手続きは以上です」
「カイザーローンをご利用いただき、誠にありがとうございます。来月もよろしくお願いいたします!」
営業用に作られた柔らかな笑顔を崩さぬまま、ロボット従業員は一礼し、その場を後にした。
現金輸送車の駆動音だけが響き、砂漠の向こうへと小さくなってゆく。
残されたのは、対策委員会の面々と、重苦しい沈黙だった。
……無理もない。
毎月、利息だけで約800万。
そんな金額を、学生だけで払い続けているという事実そのものが異常だと思う。
「……今月も、なんとか乗り切ったねぇ」
ホシノがだらっとしながら、小さく息を吐く。
「……完済まで、あとどのくらい?」
シロコの問いに、アヤネは手元のタブレットへ目を落とした。
「309年返済の契約ですので……これまで返済した分を差し引くと……」
「言わなくていいわよ」
セリカが額へ手を当て、力なく首を振る。
「正確な数字なんて聞いたら、余計にストレスが溜まりそうだもの……」
「それに、どうせ私達が生きてるうちに返し終わらないんだから。計算したって意味ないでしょ」
その言葉に誰も反論しなかった……否定できないからだ。
現実として、この返済計画は人間の寿命を前提にしていない。
利息だけを払い続けるために働き、元本はほとんど減らない。
そんな契約が成立していること自体、おかしい。
私はぼんやりと地面へ視線を落とした。
「ところで……」
ノノミが首を傾げる。
「カイザーローンって、どうして現金しか受け付けないんでしょう? わざわざ現金輸送車まで用意していましたし……」
その疑問に、自然と思考が巡る。
現金。電子決済ではなく、紙幣だけ。
……理由は。
「現金なら、電子マネーみたいに履歴が残りにくい」
皆がこちらを見る。
「つまり、お金の流れを追跡されたくない理由があるのかもしれない。資金洗浄なのか、それとも別の何かかは分からないけど……少なくとも、後ろ暗い事情を疑う理由にはなる」
「なるほどねぇ……」
ホシノが腕を組みながら小さく頷く。
「その辺も調べてみる必要がありそう」
「その件ですが……先日回収した戦車の残骸について、新しく判明したことがあります」
“なら、とりあえず教室へ戻ろう”
先生がそう言うと全員が頷き、それぞれ校舎へと戻った。
※
対策委員会の部室へ戻ると、アヤネは早速ホワイトボードの前へ立った。
私と先生も、新しく用意してもらったパイプ椅子へ腰を下ろし、説明を待つ。
資料を整え終えたアヤネが、一度全員を見渡してから口を開いた。
「それでは、二つの事案について報告します」
「まず一つ目は、昨日の襲撃についてです」
資料が配られる。
「昨日私達を襲撃したのは、『便利屋68』というゲヘナ学園の部活動でした。ゲヘナでは素行不良で知られており、危険な集団として扱われているようです」
昨日戦った四人組の顔が頭へ浮かぶ。
……危険、そう言われれば間違いではない。
実際、全員が相応の実力を持っていた…いたけど。
私の印象では、危険というより、どこか抜けている集団という方が近かった。いや、これは社長のアルがポンコツっぽかったのが大きいのか…?傭兵を雇いすぎたせいでラーメン一杯分しかお金が残ってなかったみたいだし。
「便利屋とは、不特定多数から依頼を受けて業務を請け負うサービス業です。部長は陸八魔アルさん。本人は『社長』を名乗っています」
「あぁ、昨日言ってたね〜」
ホシノが思い出したように呟く。
「その下に部員が三名。それぞれ室長、課長、平社員という肩書があるそうです」
昨日の自己紹介を思い返す。
アルは誇らしげだったけれど、カヨコはどこか呆れていた。
……あの反応を見る限り、苦労しているんだなあ…。
「結構、本格的なんだねぇ〜」
「社長さんなんですね! すごいです!」
ノノミが素直に感心している横で、私は首を傾げた。
「でも、それ全部自称だよね?」
「ゲヘナって、勝手に起業なんてできるものなの?」
ゲヘナの制度は詳しく知らないし、だからこそ単純な疑問だった。
「あ、はい」
アヤネが頷く。
「レイヴンさんの仰る通り、肩書は全て自称です。正式な企業ではなく、本人達が勝手に名乗っているだけだと思われます」
「つまり校則違反者なんだ」
シロコが淡々と呟く。
「あまり、そういう風には見えなかったけど」
……銀行強盗を一番真顔で提案していた人が言うと、なんとも言えない説得力がある。
「それが…」
アヤネは苦笑を浮かべた。
「現在に至るまで様々な問題行動を起こしてきたようで、ゲヘナでも有名な問題児扱いだそうです」
資料を閉じ、少しだけ表情を引き締める。
「そして、そんな危険な組織に狙われているということは――」
「私達も、これまで以上に警戒しなければならないということです!」
……急に声に熱が入ったなぁ…
もっとも、言っていること自体は正しい。
対策委員会が堅実な連携を軸とした防御寄りの戦い方をする一方で、便利屋68は一人ひとりの個性が極端に尖っていた。
狙撃、爆薬、突撃、そしてそれを戦術に上手く組み込むフォロー。
瞬間的な突破力と噛み合った時の爆発力を考慮すると、間違いなく厄介な相手だと言える。
今回は先生の指揮と対策委員会の連携が噛み合ったから押し返せたけれど、一歩間違えれば戦況はひっくり返っていたかもしれない。
「まあ、次は捕縛して事情聴取でもしよっか」
ホシノがそう言うと、
「ええ。その時は是非お願いします」
アヤネが妙に力強く頷いた。
「ところでアヤネちゃん」
セリカが不思議そうな顔をする。
「なんか、並々ならぬ恨みを感じるんだけど……何かあった?」
「ああ、それは――」
「いえ、特に何もありません」
被せるように即答だった。
「……アヤネ?」
私が首を傾げると、アヤネはにこりと微笑んだ。
その笑顔だけは、とても穏やかだった…目は笑っていなかったけど。
「何もありません」
一拍置いて。
「……ですよね、レイヴンさん?」
「アッハイ」
「コホン……続きまして」
アヤネは一枚資料をめくり、先ほどまでとは少しだけ表情を引き締めた。
「先日、セリカちゃんを誘拐したヘルメット団。その黒幕についてです」
部室の空気が自然と静まる。
全員の意識が、ホワイトボードへ集まった。
「回収した戦車の残骸ですが……レイヴンさんが内部から爆破してしまった影響で、多くの部品が原形を留めておらず、特定には予想以上の時間を要しました」
……うん、それについては、申し訳ないと思っている。
ただ…あの場で一番確実だった方法が、あれだったんだよね。
「ですが、その甲斐あって判明したことがあります」
アヤネは資料へ視線を落とす。
「使用されていた部品の一部は、既に生産終了している違法機種でした。それだけでなく、現在では取引そのものも禁止されています」
「ってことは……」
セリカが腕を組みながら考え込む。
「前に私が言ってたみたいに、ブラックマーケットで手に入れたってことになるの?」
「はい、おそらくは」
アヤネは迷いなく頷いた。
ブラックマーケット…やっぱり、親近感の湧く名称。
「ブラックマーケット……」
ノノミが小さくその名を繰り返す。
「とっても危ない場所じゃないですか」
「その通りです」
アヤネはホワイトボードへ簡単な地図を書き加えながら説明を続ける。
「ブラックマーケットは、中退、休学、退学など、様々な理由で学校を離れた生徒達が独自のコミュニティを形成している地域です」
マジックが白板を滑る音だけが静かに響く。
「さらに、連邦生徒会から正式な認可を受けていない非公認の部活動も多数活動しており、合法・非合法を問わず様々な物資や情報が流通しています」
なるほど、だから違法兵器なんかも市場へ出回るのか。
普通の流通経路では絶対に手に入らない物でも、そこなら売買できる。
だからこそ、ヘルメット団のような連中でも戦車を調達できた。
「便利屋の人達も?」
シロコが静かに尋ねる。
「はい」
アヤネは資料を確認する。
「便利屋68も、これまでに何度かブラックマーケットで騒動を起こしているようです」
……まあ、昨日の四人組なら不思議でも何でもない。
先生も同じことを考えたのか、静かに頷く。
“それなら、ブラックマーケットを重点的に調べる必要がありそうだね”
「はい」
アヤネも即座に同意した。
「ヘルメット団への違法兵器の供給経路。それから便利屋68との接点。この二つに関連性があるのかどうかも、重点的に調査する必要があります」
ヘルメット団、違法兵器、便利屋。
そして、カイザーローンの不自然な現金取引。
今のところ、それぞれは点でしかない。
けれど、もしどこかで一本の線に繋がるのなら、その先に今回の一連の事件を動かしている存在がいるはずだ。
「それじゃあ、決まりだねぇ」
ホシノがいつもの調子で伸びをしながら立ち上がる。
「ブラックマーケット、見に行こっか」
その表情は普段と変わらず気の抜けたものだったが、目だけはしっかりと前を見据えていた。
「意外な手掛かりも見つかるかもしれないしねぇ」
「そうですね」
ノノミも頷く。
「危険な場所だからこそ、慎重に調べれば何か分かるかもしれません」
「違法兵器の流れも気になる」
シロコが静かに銃を肩へ掛け直す。
「元を辿れれば、黒幕にも近付ける」
「だったら決まりね」
セリカも立ち上がり、軽く拳を握る。
「今度こそ、あいつらの尻尾を掴んでやるわ」
私も椅子から腰を上げた。
ブラックマーケット。
馴染みがないが、しかし懐かしさを感じる響き。
でも、その名前だけでもまともな場所ではないことは伝わってくる。
だからこそ、そこへ向かわなければ見えないものが、きっとある。
そうして私達は、新たな手掛かりを求めて、ブラックマーケットへ向かうことになった。
・レイヴン
書いててやっぱこいつ天然だな……と作者は思った。
少しずつ感情が芽生え始めている。もやもやした感情にいつか名前が付けられたなら、それは彼女が普通の人間になった証でしょう。
・エア
アロナポジなので割と空気。なんなら本編開始してからほぼ喋っていないのではないだろうか。
でも裏ではきちんと喋ってます。
この小説読んでくれてる方はこの中のどれ?
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シャーレの先生
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強化人間
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兼業
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実はどれもやってない