強化人間C4-621が、人として幸せになる為に 作:03-AALIYAH
時間とお金がなくてワルプルギスの廻天にもSEKIROにも行けません。
誰か私を殺してください。
電車を降りてから、十分ほど…私達はブラックマーケットへと辿り着いた。
駅から出た瞬間、まず耳に飛び込んできたのは、人の多さだった。
あちこちから聞こえてくる話し声に、店先から飛び交う呼び込みの声。
遠くでは何かの機械が動いているような音まで混ざり合っていて、街全体が絶えずざわめき、人通りもかなり多い。
ブラックマーケットという名前から、もっと薄暗くて、人目を避けるような小さな市場を想像していたけれど……。
「ここが、ブラックマーケット……」
セリカが周囲を見回しながら、困惑したように呟いた。
「わあ☆ すっごい賑わってますね?」
ノノミも物珍しそうに辺りを見渡す。
「小さな市場のようなものを想像していたけど、街一つぐらい大きい……」
「連邦生徒会の手の届かないエリアが、ここまで巨大化しているとは思わなかった」
シロコも周囲を眺めながら言う。
「まあ、キヴォトスの社会からあぶれた人達の受け皿という側面もあるからだろうね。ここまで大きいのは」
そんなシロコに、私はそう返した。
学校を辞めた生徒達や、普通の学区では居場所を作れなかった人達が集まっているのなら、これだけ大きくなっていても不思議ではない、と思う。
そういった側面があるからこそ、連邦生徒会も敢えて管理していない、もしくはする必要がないと考えており、結果的にやろうと思っても完全に管理するのが難しくなったのかもしれない。
「うへ〜、私達、普段はアビドスにばっかり居るからね〜。学区外はへんなのが多いんだよ〜」
「ホシノ先輩、ここに来たことがあるの?」
セリカが尋ねる。
「いや〜、初めてだよ。ただ、学区外にはみょうちくりんなものがいっぱいあるんだって」
「例えば?」
「ちょーでかい水族館があるんだってさ。アクアリウムって奴。うへ……お刺身……」
「よくわからないけど、アクアリウムってそういう海鮮のお店じゃないような……」
『そのような場所ではないということは、少なくとも分かります』
エアの声がホルスターから響く。
うん、私もそう思う。
水族館という言葉から魚を連想するところまでは分かるけど、そこからお刺身に繋がるのはどういう思考回路なんだろうか…いや、もしかして水族館に行った事がない?いや、私も行ったこと無いけど…あれ、そうなるとホシノの思考回路が…うーん。
まあ、この前の便利屋もゲヘナの生徒で、ここでも問題を起こしたりすることがあるらしいし……。
そう考えると、学区外には私達が普段いる場所とは違う文化や価値観が存在しているのかもしれない。
『色んな人が居るのですね』
「キヴォトスは広いんだね」
小さく返す。
私がこれまで知っていた世界は、まだその一部に過ぎない。
シャーレと、先生。アビドスと、対策委員会。
それだけでも色々なことが起きているのだから、こういう場所まで含めたら、本当に知らないものばかりなのだろう。
《皆さん、どうか気を緩めないで下さい》
アヤネの声が通信越しに入ってくる。
《そこは違法な火器や兵器が取引される場所で、何が起きるか分からないんですよ?》
“そうだね、アヤネの言う通りだ。気を付けて進もう……って”
ダダダッと、乾いた銃声が近くから響いた。
「……」
足を止める。今のは、間違いなく銃声。
「噂をすれば……なんだっけ」
『「影がさす」、ですね』
「なるほど。またひとつ勉強になった」
覚えておこう。
「うわああああ! ついて来ないで下さい! まずいですよ!?」
「そんなの通る訳無いだろ!」
「逃げるな卑怯者!!」
「追え! 追えー!!」
騒ぎの中心が、こちらへ近付いてくる。
人の流れが乱れ、道の向こうから何人かが走ってきた。
《ん? あの制服、もしかして……》
アヤネの声に、私はそちらへ視線を向ける。
「アヤネ? 何か知って……わぶっ」
どんっ、と身体に衝撃が来た。
何かに正面からぶつかられた…気を抜いていた。
「あ、いたたた……ご、ごめんなさい〜!!」
振り返ると、そこにはさっき私にぶつかってきた女の子がいた。どうやらかなり慌てているらしく、こちらを見上げながら何度も頭を下げている。その向こうからは、先ほどから聞こえていた怒鳴り声が徐々に近づいてきていた。
「大丈夫……なわけないよね、追われてるみたいだし」
シロコがそう口にした。
相変わらず、表情だけを見ると何を考えているのかよく分からないけど、その視線はすでに少女の後方へ向けられている。
私もつられてそちらを見ると、数人のチンピラらしき生徒がこちらへ向かって走ってきていた。
「あの、それが……」
少女が言い終えるより早く、追ってきた連中がこちらへ追いつく。
こちらを一瞥すると、露骨に不機嫌そうな表情を浮かべた。
「なんだァ? テメェら……そこを退きな、あたしらはそこのトリニティ生に用があるんだよ」
トリニティ…聞いたことのない学園の名前。
少なくとも、私がこれまで行ったことのある所ではない。
「あ、あのぉ……私からすると特に用はないんですけど……」
追われていた少女が、おずおずと口を挟む。
どうやら本人には身に覚えがないらしい。
《あ、思い出しました! その制服、キヴォトス三大校のひとつ、マンモス校で知られるトリニティ総合学園のものです!》
三大校…?なんか凄いところなんだね。
「そう、そしてキヴォトスで最も金持ちの学校でもある……そいつを拉致して、身代金をたんまり頂くって寸法さ! なかなかの財テクだろう? ククク……」
自信満々に語るチンピラ。うん、凄い小物っぽい……。
振り返って見れば、ノノミは困ったように苦笑いを浮かべ、セリカは露骨に引いている。ホシノも何とも言えない顔をしているし、シロコだけはいつもの無表情のままだった。
先生も天を仰いでいる。
少なくとも、この場にいる全員が同じ感想を抱いているような気がする。
とはいえ、話を聞いているだけというのも少し面倒だったので、私は皆から見えにくいように、後ろ手でコートから手榴弾を取り出した。
ピンを抜き、そしてそのまま足元へ転がす。
ころころ、と乾いた音を立てながら転がっていく手榴弾を、ホシノたちが視界の端で捉える。
数人が何も言わず、ほんの数歩だけ後ろへ下がった。
しかし、肝心のチンピラたちは何故か気付いていない。
「そうだね、それをべらべら喋っていなければよかったとは思う……あと、足元を見てみると良いよ」
「……え? うわあああああああ!!!」
気付いた瞬間には、もう遅かった。
ドン!と乾いた爆発音がブラックマーケットの喧騒を一瞬だけ塗り潰す。
爆風に煽られ、チンピラ数名がその場で地面へ転がった。
周囲の人々も一斉にこちらへ視線を向けるけれど、キヴォトス自体銃声や爆発音そのものが珍しくないからか、驚きこそすれどもすぐにそれぞれの行動へ戻っていく。
「あ……え? 今何が……」
トリニティの子は、目の前で起きたことを理解できていないらしい…まあ、さりげなくやったからね。
「レイヴンちゃん、凄いです! あんなにあっさり悪人を懲らしめちゃうなんて……」
「流石レイヴン、そのさりげなさを私も見習いたい」
ノノミが感心したような声を上げ、シロコも続けた。
「シロコちゃん、何を考えてるか知らないけど……さりげなくしてもダメなものはダメだからね?」
ホシノがすかさず釘を刺す。
「……」
シロコは何も答えなかった…どうやら心当たりはあるらしい。
私はそんな二人のやり取りを横目に見ながら、地面に転がったチンピラたちを一瞥した後、何となく口に出す。
「へっ……きたねえ花火だ」
“レイヴン、私の自宅に置いてあるドラ◯ンボール読んだよね?”
“……いや、あそこにはほぼ帰ってないし別にいいけどさ”
「うん、面白かった。今魔人◯ウ編」
“ドはまりしてるね……”
“その内【私は超レイヴンだ……】とか言い出さないか心配になってきた”
「……言わないよ?」
“そ、そっか……ならいいけど。でもその謎の間は一体……”
「とりあえず次へ行こっか。さあほら」
私は話を切り上げるように歩き出す。
ここはブラックマーケット。さっきの連中だけでなく、周囲にはこちらの様子を窺っている人間もいる。いつまでも同じ場所に留まっている理由はない。
だから話を逸らしたい訳じゃない。決して。
“うちの子の将来が心配です……”
「先生もレイヴンも、変な漫才してないで行くわよ!」
※
さっき助けたトリニティの少女が、改めてこちらへ向き直った。
まだ少し困惑した様子は残っているものの、先ほどまでの怯えた様子は薄れている。
「さっきはありがとうございました!私、阿慈谷ヒフミって言います!あの、あなた達は…」
自己紹介を求められ、皆が順番に名乗っていく。
「私はシロコ」
「おじさんはホシノって言うんだ〜」
「ノノミと申します♧」
「セリカよ」
《通信越しですが、アヤネです。私たち5人はアビドス対策委員会って言うんです。どうかよろしくお願いしますね》
“シャーレの【先生】です、よろしくね。”
「シャーレのレイヴン。先生と一緒に対策委員会の手伝いをしてるところ」
『エア、と言いたいところですが、レイヴン以外に私の声は聞こえないんですよね…』
どんまい、エア。 私にしか聞こえないからね、しょうがないね。
「シャーレ?その名前、どこかで…ってそうじゃなくて!あの、貴女が居なかったら学園に迷惑をかけちゃうことでした…こっそり抜け出してきていたので。でも、なんで助けてくれたんですか?」
「んー、私が助けなくても、どうせみんなが助けてたしさ。ね?」
振り返ると、やっぱり皆頷いた。
「あと単純に不快だったから」
「え、えぇ…?」
トリニティの人改めヒフミが困惑したような声を漏らす。
「…えーと、ヒフミちゃんだっけ?トリニティのお嬢様がなんでこんな危ないところに?」
ホシノがヒフミへ尋ねる。
気のせいかもだけど、なんというか、……優しいのに声色がどこか…。
本人を心配しているのは分かるのだけれど、その奥に別の何かがあるようにも感じた。
「あ、あはは…それなんですが、探し物がありまして…もう販売されていないので買えない代物ですが、ブラックマーケットなら密かに取引されていると聞いてですね…」
「もしかして、戦車だったり?」
「もしくは違法な火器とか…」
「化学兵器かも?」
シロコ、ホシノ、ノノミが順番に尋ねる。
「…それはひょっとしてギャグで言ってるの?」
つい呆れて返してしまったけれど…普通に考えれば、あんな逃げ回るような生徒がそんなものを探しに来ているとは思わない。
「ヒフミだっけ…そんなの探してるタイプならさっきのチンピラから逃げたりせず、自力で撃退してたと思うよ。違う?」
「あ、はい!えっとですね…探し物っていうのは、ペロロ様の限定グッズなんです。よいしょっと」
ヒフミが背負っていたリュックへ手を入れた。
がさごそと中を探りながら、何かを取り出そうとしているみたいだけど。
……あれ?そういえば、あのリュック…なんだか私のパジャマと同じ顔が付いているような気がする。
…いや、そうじゃなくて。ヒフミがリュックから取り出したのは、ぬいぐるみだった。
「は、これです!ペロロ様とアイス屋さんの限定コラボのぬいぐるみ!」
差し出されたぬいぐるみを見ると、やっぱりヒフミのリュックや私のパジャマと同じような…
……。
……?????
『なんというか…アイスを投げつけられ、それを口でキャッチしようとしたら失敗したみたいな…』
「わけがわからないよ」
“耳から耳が生えた小動物系詐欺師の真似はやめるんだレイヴン”
「いやキュ◯べぇの事めちゃくちゃ言うじゃん先生…」
“私としてはあの手の生物を許す気にはなれないからね”
…確かに、先生ならそう考えるか。
それはそうと、ヒフミが何かを熱心に喋り続けていた。
限定生産で100体しか作られていないからどうとか、もう販売されていないからどうとか。
詳しいことはよく分からなかったけれど、貴重なものなのだろうということだけは理解できた。
「なんの話かおじさんにはさっぱりだよ〜」
「いやホシノ先輩、こういうファンシー系興味ないじゃん…」
「フォッフォッフォ…最近の若いやつにはついていけんのう…」
「その喋り方はおじさん通り越しておじいさんなのよ…」
『趣味の形はひとそれぞれですからね』
エアの言葉に、私は小さく頷いた。
自分には理解できなくても、他人にとって大切なものというのはあるのだろう。
「…ということで、私はペロロ様のグッズを買いに来たのですが、さっきの人達に絡まれて…本当にありがとうございました。ところで、アビドスの皆さんはどうしてここに?」
「私たちもヒフミちゃんと似たようなものでさ、探し物があるんだよね〜」
「そう、今は生産されてないらしいけど、ここにはあるかもしれないって聞いて」
ホシノが答え、シロコが続ける。
「なるほど、似たような感じなんですね」
ヒフミが納得したように頷いた。
お互いに目的は違うものの、正規の店では手に入らないものを探してブラックマーケットへ来ているから、そういう意味では確かに似ている。
「…話の途中悪いけど、なんか来てるよ」
周囲へ視線を向けた。
その瞬間、はっとしたアヤネが続ける。
《四方から武装した人達が向かってきています!》
「見いつっけた!」
「野郎ぶっ殺してやる!」
「お前を殺す」
……
私への殺意たっか…。
《先ほど撃退したチンピラ達の仲間みたいです!こちらを攻撃するつもりと思われます!》
なるほど、仲間を呼んだらしい。
「どうする?先生」
“ここはみんなで迎撃しよう”
「了解」
「いや〜、しつこいね〜」
「望むところ」
「なんでこんな絡まれるのよ…私たち、なんか悪いことした?」
セリカが困惑する。
「ごめんセリカ、多分私のせい」
「ああもう、レイヴンのせいじゃないから!さっきやらなかったら私達がやってたと思うし…」
うだうだと言いながらも、全員で近くの遮蔽物へ身を隠した途端に銃声が響き始めた。
敵の攻撃が壁を叩き、周囲の建物へ乾いた音が連続して跳ね返っていく。
それにしても、私に集中砲火してきてるのはなんなの…。
まあいいや、考えるのは後にしよう。
私は遮蔽物から飛び出すと、そのまま近くの壁へ向かって走り、足を掛ける。
壁を蹴り上がり、その勢いのまま屋上へ。
視界が一気に高くなると同時に、ブラックマーケットの雑多な街並みが眼下に広がった。建物と建物の隙間を縫うようにして細い道が続き、その間を逃げ惑う人や、こちらへ銃を向ける敵の姿が見える。
そのまま屋上から飛び降り、建物の間を移動する。
ちょっとした出っ張りを足場にして方向を変え、別の建物へ飛び移ると、銃弾が背後を通り過ぎた。
私はそのまま走り、飛び、身を翻す。
敵の注意を引き付け、こちらへ意識を集中させる。
「おい、奴はどこに行った!」
「知らねえよあたしに聞くんじゃない!」
「見つけ…ぎゃあ!」
敵の視線がこちらへ向いている間に、皆が攻撃を始めたようだ。
下から銃声が連続して響き、敵が一人、また一人と倒れていく。
数が減っていくのを確認し、私は建物の縁へ足を掛けた。
「せーの」
そのまま落下する。
手にしたハンドキャノンの銃身と、ショットガンの銃床。
二つを構えて落下の勢いを乗せて、同時に敵へ叩き込むと、二人の敵がその場で崩れ落ちた。
ノックアウト。
『あの、なんで銃身で殴るんですか…?』
「あ、ごめんエア。こっちの方が早かったから…」
『いえ、別に痛くもなんともないので平気です…ただ、ぞんざいに扱われるのはちょっと』
「出来るだけ気を付けるね」
『絶対じゃないのが悲しいところです』
エアと話している間に皆が倒し、チンピラ達は逃げていった……いや違うなこれ。
「もしかして」
『仲間を呼んでますね』
やっぱり。
「仲間を…いいよ、いくらでも相手してあげる」
シロコが無表情のまま血気盛んなことを言うと、その横から、ヒフミが慌てて割り込んだ。
「それ以上は戦っちゃダメです!」
「なんで?あの程度相手にもならないけど」
「だって…ブラックマーケットで騒ぎを起こせば、ここの治安維持組織に見つかってしまうかも知れません!そ、そうなったら非常にまずいです…」
ヒフミの声には明らかな焦りが混じっていた。どうやらブラックマーケットには、私たちが知らないルールがあるらしい。
「何がまずい?言ってみろ」
“レイヴン、勝手に私の家の鬼◯読んだよね…いや、もう良いけど”
先生がレイヴンなら……と、簡単に自分の家のことを教えてくれて、しかもそこに大量の漫画とかアニメがあるのが悪いと思う。
「あの、それは…とにかくまずいです!」
ヒフミは困ったように言葉を濁した。
「ま〜ここの事はヒフミちゃんが詳しいだろうしね、従おっか」
ホシノの言葉に皆が頷き、私たちはぞろぞろと大通りから離れていった。
周囲には相変わらず人が多く、さっきまで銃撃戦をしていたとは思えないほど、ブラックマーケットの日常は何事もなかったかのように続いている。
“レイヴン、普通に歩いてね”
「あ、うん」
……屋上のほうが見つかっても撒きやすいと思うんだけどなあ…。
普通に歩くことにした。
・レイヴン
先生の(もちろん外の世界じゃなくてキヴォトスにある)家にちょくちょく入り、勝手に漫画を読んだりアニメを鑑賞したりしてる事が発覚。因みに合鍵を渡されている。
キュ○べえには『そういう考えもあるんだ……』といった感じで別に嫌いではないけど好きでもないしどちらかと言うと嫌い寄り。
・先生
元凶は自分だし、家には全然帰ってないし、レイヴンなら良いか……と諦めている。そういうとこやぞお前。
キュ○べえは勿論嫌い。でもま○マギは好き。
・エア
不憫だ……
キュ○べえには好き嫌いより『もっとやりようがあったんじゃないでしょうか……』みたいな感情。
営業と詐欺の手口については評価している。
この小説読んでくれてる方はこの中のどれ?
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シャーレの先生
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強化人間
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兼業
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実はどれもやってない