『神々の箱庭に、黎明の光を』   作:もいもい130

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第15話

第24層、イドフロントへ至る通路の空気は、再び物理的な圧力によって凝固しました。

ティオナとティオネの渾身の連携を、背中の「箱」から溢れ出る出力を以て片手間に防ぎ切ったボンドルド。その漆黒の外套が、硝煙と魔力の残滓の中で静かに揺らめいた、その一瞬でした。

「……おやおや。素晴らしい。実に、実に素晴らしい。これほどの質量、これほどの速度、そして……この揺るぎない闘志。愛です。愛ですよ。あなた方のその献身的な肉体が、今、私を黎明へと押し上げる、至高の礎となっているのですから」

ボンドルドは、片手で受け止めた双子の巨武器ウルガを、慈しむように、しかし無慈悲に弾き飛ばしました。

戦慄する彼女たちの視線の先、暗闇の中から、もう一つの、これまでとは比較にならないほど強大な質量が、轟音と共に突進してきました。

「……はぁぁぁぁぁッ!!」

ロキ・ファミリアの重鎮、重傑ガレス・ランドロック。Lv.6のドワーフが放つ、大山をも砕かんとする突撃。

ボンドルドは、その正面からの暴力に対し、一切の回避行動をとらず、両手を前にかざして迎え撃ちました。

ガチリッ!!!

金属と肉体が激突する、鼓膜を突き破らんばかりの衝撃音が響き渡ります。

ドワーフの剛腕と、アビスの遺物技術と成れ果ての肉体が、至近距離でがっぷりと組み合いました。

「……おやおや、驚きました。これほどの膂力、これほどの密度。……素晴らしい。実に素晴らしい。アビスの原生生物においても、これほど純粋な『力(パワー)』を体現する者は、そうはいませんよ」

ボンドルドは、ガレスの顔を至近距離で見つめ、仮面のスリットを愉悦に満ちた規則性で明滅させました。

背中に多重連結された箱型カートリッジが、ドワーフの膂力を押し返そうと、悲鳴のような駆動音を上げながら緊急出力を上げます。

しかし、ガレス・ランドロックの力は、その限界をさらに上回っていました。

「……ぐ、ぬぅぅッ! 化け物がぁぁッ!!」

ガレスが咆哮と共に、さらに力を込めます。ドワーフの強靭な脚が岩盤を砕き、ボンドルドの巨躯をじりじりと、しかし確実に押し込み始めたのです。

成れ果ての肉体が、そして背負った装置が、ドワーフの圧倒的な暴力に軋み、悲鳴を上げ始めました。物理的な力(パワー)において、ボンドルドは完全に圧倒されていました。

「……おやおや。ご機嫌ですね」

ボンドルドは、押し込まれながらも、その声には一点の焦りも、一点の恐怖もありませんでした。

むしろ、自分を押し潰そうとするその純粋な暴力を、愛おしい感触として受け止めていたのです。ガレスの怒り、その汗、その咆哮。すべてが、彼にとっては上質なエクセリアの輝きでした。

ガレスが、さらにトドメを刺そうと、全精力をその剛腕に集中させた、その一瞬の隙でした。

「……ですが、いけませんね。探求には、常に多角的な視点が必要なのですから」

ボンドルドの言葉が終わるより早く、彼の背後から、第三の腕――強靭な成れ果ての尾が、凄絶な速度でしなりました。

力比べのベクトルが正面に向かっているガレスにとって、その死角からの攻撃は、完全に無防備でした。

ドォォォォンッ!!

ボンドルドの尾が、ガレスの胴体を、物理法則を無視した角度から強打しました。

衝撃波が通路を駆け抜け、ガレスの巨躯は、岩壁を何枚も砕きながら、遥か後方へと吹き飛ばされました。

「……が、はぁッ!?」

ガレスは悲鳴を上げる暇もなく、岩屑の中に埋もれていきました。Lv.6の重戦車が、一瞬にして戦闘不能に陥ったのです。

ロキ・ファミリアの面々に、絶望的な戦慄が走ります。アイズの風を奪い、双子をあしらい、そして最強の盾であるガレスを、片手間で、かつ奇策を以て蹂躙した。この存在は、オラリオの常識が通用しない、アビスの理そのものでした。

ボンドルドは、限界まで出力を引き出したカートリッジの一つを、慈愛に満ちた動作でパージしました。

カラン、と乾いた音を立てて床に転がる、赤熱し、ひび割れた金属の箱。

「……お疲れ様。……素晴らしい働きでしたよ。あなたの献身が、ドワーフという種の、その驚異的な生命力を、私に教えてくれました。……私はあなたを、永遠に愛しています」

パージされたカートリッジからは、使い潰された「家族」の、最期の安らかな、しかし救いのない沈黙が漏れ出しています。ボンドルドはその残響を噛みしめ、再びロキ・ファミリアの生存者たちへと視線を戻しました。

「さあ、続けましょうか。……大丈夫ですよ。あなた方の恐怖、その戦慄さえも……私は心から愛おしく、大切に思っているのですから。……さて。次は誰が、私の黎明の礎……いえ、愛すべき家族になってくれるのでしょうか?」

ボンドルドの仮面が、冷徹なまでの美しさを持って明滅しました。

完全なる蹂躙。そして、一級冒険者たちを、ただの「素材」としてしか見ていない、黎明卿の歪な愛。

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