『神々の箱庭に、黎明の光を』   作:もいもい130

16 / 78
第16話

第24層、イドフロントへ至る通路。

岩壁に深々と埋もれたガレス・ランドロックを、ティオナとティオネが必死の思いで引きずり出し、後方へと下がります。その凄絶な光景を前に、ロキ・ファミリアの団長フィン・ディムナは、親指に走る激痛を――自らの「勇気」が告げる、かつてない警鐘を噛み締めていました。

「……全員、撤退だ! 総員、この階層から離脱しろ!!」

フィンの鋭い号令が通路に響き渡ります。

Lv.6の重鎮が文字通り一撃で沈められ、アイズの風さえも無効化された現状。情報の少なすぎる未知の強者に対し、これ以上の交戦は「全滅」を意味することを、彼は冷徹なまでに理解していました。

アイズは、ボンドルドを見つめたまま、その場を動けずにいました。彼女の瞳には、自分の「風」を吸い込み、磨り潰し、ただのデータとして処理した漆黒の異形への、言いようのない嫌悪と戦慄が渦巻いています。

「……アイズ! 下がるんだ!」

フィンの声に弾かれたように、アイズはボンドルドから視線を切り、撤退を開始する仲間の列へと加わりました。

ボンドルドは、背後の装置から「パージ」されたばかりの、赤熱した箱型カートリッジをそっと手のひらで受け止めました。その箱からは、内部で使い潰された「家族」の、最期の安らかな、しかし救いのない沈黙が漏れ出しています。

「……おやおや。お帰りですか?」

ボンドルドは、逃げ去る彼らの背中に向けて、まるで行きずりの旅人を引き止めるかのように、穏やかで懃懃な声をかけました。その声には、怒りも、追撃の意志もありません。ただ、至高の贈り物をくれた者たちへの、純粋な感謝だけが宿っています。

「素晴らしい。実に素晴らしい撤退の決断です。……フィン・ディムナさん。あなたのその決断力、そして仲間を思う高潔な心。……ああ、なんと愛おしいのでしょう。あなた方のその輝きが、私の箱に新たな真理を刻んでくれましたよ」

ボンドルドは優雅に、かつ至高の敬意を込めて一礼しました。

背負った装置のスロットからは、次なる「箱」が装填される重厚な金属音が響き、イドフロント全体が主の悦びに共鳴するように、紫の燐光を明滅させます。

「またいつでもいらしてください。……歓迎いたしますよ。……次は、どの子を私の家族として迎え入れ、どのエクセリアを私の黎明のために捧げていただけるのか。……楽しみで仕方がありません」

彼は一歩も動かず、ただ暗闇へと消えていくロキ・ファミリアの背影を見送りました。

その仮面のスリットが、得られたデータの奔流に歓喜するように、深く、静かに輝きます。

「……さあ、行きましょうか。皆さん。黎明を、共に見ましょう」

ボンドルドの傍らでは、新調された装備を纏った純白の祈手(アンブラハンズ)たちが、主の言葉に従い、通路に残された「ガレスの血」や「アイズの風の残渣」を、愛おしそうに採取し始めていました。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。