『神々の箱庭に、黎明の光を』   作:もいもい130

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第20話

第24層、イドフロントへと続く一本道の回廊。そこは今、迷宮都市の常識を塗り替える「解体場」と化していました。ギルドの特命を受け、功名心と義憤に燃えて突入した冒険者たちは、行く手を阻む異様な集団の前に、その足を止めざるを得ませんでした。

そこに立ちはだかるのは、漆黒のスーツに身を包み、それぞれが異なる意匠の仮面を被った「祈手(アンブラハンズ)」たち。中でも前線で得物を振るう数名は、その上に純白の白衣を纏った戦闘特化個体「死装束(シュラウド)」でした。彼らが手にしているのは、この迷宮の深層で採取された高純度の魔石と、硬質モンスターの骨をイドフロントの技術で精錬した「魔導変質武器」です。

「……おやおや。ご機嫌ですね」

回廊を見下ろす観測デッキから、ボンドルドは平然と、しかし深い慈しみを持ってその光景を眺めていました。彼の背中には、完成したばかりの「アリーナのカートリッジ」が装填されており、彼女の献身によって純化されたエクセリアが、ボンドルドの神経をかつてないほど鮮明に研ぎ澄ませています。

「見てください、祈手の皆さん。彼らの足取り、あの迷いのない剣筋。これほどの勇気が、この湿った迷宮の空気をどれほど眩く照らしていることか。素晴らしい。実に、実に素晴らしい生命の躍動です」

ボンドルドの賞賛を背に、最前線の祈手(死装束)が淡々と報告を上げました。

「標的のバイタル、想定範囲内。魔力反応の減衰、開始します」

祈手は迷宮産の素材を加工した特殊な触手を駆動させました。一人の祈手が掲げた指先から、高密度の魔石を極細の繊維状に加工した「伝導糸」が走り、突進する重戦士の足首を絡め取ります。

「なっ、なんだこの力は……! 魔法じゃない!? 詠唱も、魔力の兆候も……!」

「……情報の欠如は、死に直結しますよ。冒険者さん」

仮面の奥から響く、冷徹でいて極めてシビアな祈手の声。死装束の一人が、翻る白衣と共に懐へ潜り込み、深層の硬質素材を研ぎ出した鈍い光を放つ刃で、戦士の「恩恵」が刻まれた背中の皮膚を、ミリ単位の精度で撫で斬りました。その一撃は命を奪うためではなく、中枢神経を一時的に麻痺させ、標的を「素材」として無傷で回収するための精密な処置でした。

回廊の端では、魔導士のエレナが、複数の祈手によって展開された「神秘干渉力場」に捕らえられていました。

「……ふざけないで! 離しなさい、このバケモノども!」

彼女が魔法を紡ごうとするたびに、周囲に設置された魔石共鳴装置がその因果を捻じ曲げ、魔力を物理的な熱量として吸い上げていきます。その様子をモニタ越しに眺めるボンドルドの仮面が、愉悦に明滅しました。

「素晴らしい。エレナさん、あなたのその瞳。絶望の中にありながら、なおも牙を剥こうとするその精神の高潔さ。……おや。見てください。彼女の恩恵が、外部からの干渉に抗おうとして、新たな変異の兆しを見せ始めました。これこそが、探求者が最も欲する『未知』の産声です」

祈手の一人が、エレナの頬に冷たい手袋を添えました。

「……無駄だ。お前の抵抗は、すでに観測データの一部として処理されている。お前が絶叫を上げれば上げるほど、卿(ボンドルド)の理論は完成に近づく。光栄に思うことだな」

祈手たちの行動には、一切の躊躇も、無駄な慈悲もありませんでした。彼らはある時は親切な案内人のように、ある時は嬉々とした解剖医のように、目の前の「命」を、黎明のための「数値」へと置き換えていきました。

「……おやおや。次の一歩が待ち遠しくて仕方がありませんね」

ボンドルドは、アリーナのカートリッジから伝わる幸福な微熱を感じながら、静かに、そして優雅に、暗闇の通路へと歩み出しました。

「さあ、皆さん。残された素材の回収を急ぎましょう。……次は、どの子が私の、あるいはあなた方の探求を、黎明の向こう側へと導いてくれるのでしょうか」

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