『神々の箱庭に、黎明の光を』   作:もいもい130

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第23話

迷宮都市オラリオの朝を告げる鐘の音は、かつてない不穏な響きを伴っていました。

ギルド本部の掲示板には、前代未聞の「黒塗りの羊皮紙」が貼り出され、そこには神々の署名と共に、一人の男の名が「世界の敵」として刻まれていました。

「指名手配:ボンドルド。罪状、神の理に対する冒涜、並びに冒険者への非人道的な加工・搾取。見つけ次第、全ファミリアは交戦権を行使し、速やかに排除せよ」

ギルド長ロイマンの声明は、魔法放送を通じて都市全域に響き渡りました。

「……これは単なる犯罪者の追討ではない。我々下界の民が積み上げてきた誇りと、神々の愛を磨り潰す『ロクデナシ』に対する、聖戦である!」

この瞬間、オラリオは正式にボンドルドを「異物」として排斥することを決定しました。かつて暗黒期にすら見られなかった、ロキ・ファミリアとフレイヤ・ファミリアを中心とした「異端討伐連合」の結成。冒険者たちの恐怖は、ギルドが認定した「ロクデナシ」という言葉を共通の敵とすることで、凄絶な殺意へと昇華されていきました。

第24層、イドフロント最深部。

ボンドルドは、地上の祈手(アンブラハンズ)の網膜を通じて、自分に向けられた莫大な懸賞金と、殺到する憎悪の渦をリアルタイムで観測していました。

「……おやおや。ロクデナシ、ですか。重ね重ね、心外ですね」

ボンドルドは、モニタに映し出される「指名手配書」を慈しむように見つめ、静かに首を振りました。彼の背後では、アリーナとエレナのカートリッジが、地上の殺気に呼応するかのように、鋭く、青白い火花を散らして共鳴しています。

「私はただ、誰もが望みながらも到達できなかった『黎明』を目指しているだけなのですよ。神々の温室で飼い慣らされ、未知を未知のままにしておくこと……それこそが、知性に対する最大の不誠実ではありませんか。……愛です。これほどの拒絶を以て、世界が私の探求に答えようとしている。……実に素晴らしい」

ボンドルドは、開き直るかのように漆黒の外套を大きく翻しました。

彼にとって、ギルドの指名手配も、神々の怒りも、探求を加速させるための上質な「燃料」に過ぎません。

「さあ、祈手の皆さん。地上の『正義』が、間もなくこのイドフロントへと押し寄せます。彼らの振るう剣、放つ魔法、そのすべてが、次なる階層への階段を築くための貴重なエクセリアとなるでしょう」

ボンドルドは、エレナのカートリッジから漏れ出す「不屈の熱量」を指先で感じ、悦びに震える声で語りかけました。

「エレナ、アリーナ。……見てください。世界が私たちの絆を試しに来る。……大丈夫ですよ。あなた方が捧げてくれたその献身が、どれほど強固なものであるか……地上の皆さんに、その身を以て理解して差し上げましょう」

イドフロントの防衛機構が重厚な駆動音を上げ、第24層の通路は、冒険者たちを迎え入れるための「解体装置」へと変貌していきます。

オラリオ全土を敵に回しながらも、黎明卿の足取りは、かつてないほど軽やかで、かつてないほど無慈悲なまでの「慈愛」に満ちていました。

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