第24層、イドフロント。
その堅牢なる鉄の城塞の前に、オラリオが誇る最強の「双璧」が姿を現しました。
先頭に立つのは、小人族(パルム)の勇者フィン・ディムナ率いる「ロキ・ファミリア」。そして、その背後には都市最強の武人オッタルを擁する「フレイヤ・ファミリア」。これまでの烏合の衆とは一線を画す、真に瑞々しいエクセリアを宿した英雄たちが、殺気と共に回廊を埋め尽くします。
「……おやおや。素晴らしい。実に、実に素晴らしい。これほどまでに濃密な『愛』が、私一人のために向けられるとは」
ボンドルドは奈落への縦穴の縁から離れ、漆黒の外套をなびかせながら英雄たちの前に立ち塞がりました。背中の換装ユニットには、エレナ、サラ、マルコ、バルトロ、ルシア。5人の家族が、主の神経と密接に同期し、かつてないほどの熱量を放っています。
「貴殿が、この惨劇の主か。ギルドの報告は事実だったようだな」
フィンの鋭い瞳が、ボンドルドの背後で蒸気を上げる5つの「箱」を射抜きました。隣に立つ「剣姫」アイズ・ヴァレンシュタインは、箱から漏れ出す尋常ならざる魔力の揺らぎに、既に「絶望」の風を纏わせています。
「惨劇、ですか。心外ですね。私はただ、彼らと共に黎明を視るための路を築いているだけなのですよ。……愛です。愛ですよ、フィン・ディムナ。あなたなら、その親指が告げるはずです。私が今、どれほど純粋な希望を抱いてここに立っているかを」
「……黙れ、ロクデナシ。お前の言葉は、この街の誇りに対する冒涜だ」
フィンの合図と共に、戦いの火蓋が切って落とされました。
「リル・ラファーガ!」
アイズの神速の一撃が、風を切り裂きボンドルドの喉元へと肉薄します。同時に、巨躯のオッタルがその黒剣を振り下ろし、大地を砕くような衝撃波がイドフロントを揺らしました。
ボンドルドは動じません。エレナとサラ、二人の魔導の才を持つ家族が、ボンドルドの神経を通じて展開した「極限魔導障壁」が、アイズの風を、オッタルの剛力を、物理法則をねじ伏せるようにして受け止めました。
「おやおや。素晴らしい出力だ。アイズさん、あなたの風は、これほどまでに澄み渡っているのですね」
ボンドルドは、アイズの剣を受け止めたまま、仮面の中央にある縦のスリットを、後方に控えるリヴェリアやヘディンの魔導部隊へと向けました。
「明星へ登る(ギャングウェイ)」
仮面から放たれた極太の紫色の収束光が、回廊を真っ二つに割り、魔法を紡ごうとしていた魔導士たちの陣形を散らしました。さらにボンドルドは、腕から黒い泥のような触手を無数に奔らせます。
「月に触れる(ファー・カレス)」
「月に触れる」は、ティオナとティオネの姉妹の武器を正確に絡め取り、その驚異的な怪力を逆利用して彼女たちの体勢を崩しました。5人の家族からの魔力供給により、触手の速度と強度は以前とは比較にならないほどに強化されています。
「くっ、何だこの気味の悪い力は……! まるで意志を持っているみたいだわ!」
「おやおや、ティオナさん。それは私の意志ではなく、今私を支えてくれているマルコさんとバルトロさんの『不屈』の意志ですよ。彼らは今、私の手足となり、あなた方と競い合えることに、この上ない悦びを感じているのです」
ボンドルドは、エレナのカートリッジが限界を超えて発熱し、彼女の誇り高い鼓動が自身の脳髄に響くのを感じました。彼女は、都市最強の英雄たちと対峙する主を支える「唯一の盾」であることに、精神の核を燃やし、その機能を完璧に果たし続けています。
猛攻を仕掛けるオッタルが、黄金の闘気を纏いながら再び距離を詰めました。その一撃は、もはや「技術」を超えた「権能」に近い一閃。ボンドルドは、手首の銃口を避け、肘に仕込まれた銃口をオッタルへと向けました。
「枢機へ還す光(スパラグモス)」
肘から放たれた純白のレーザービームが、オッタルの黒剣と真っ向から衝突しました。
接触した瞬間、オッタルの黒剣の表面が、材質や魔力を無視して「ほどける」ように消滅し始めます。
「……何ッ!?」
オッタルの瞳に、初めて戦慄の色が走りました。
ボンドルドは、サラとルシアの精密な魔力制御により、スパラグモスをビームサーベルのように横へと一閃。アイズの風さえも切り裂き、回廊の壁を虚無へと変えていきます。
「残念ですが、既存の防御や『恩恵』の理は、私の探求の前では等しく、再定義されるべき素材に過ぎません。……さあ、英雄の皆さん。あなた方のその瑞々しいエクセリア、その高潔な魂……。それらすべてを、私の新たな『家族』としてお迎えする準備はできていますよ」
阿鼻叫喚の地獄絵図の中でも、ボンドルドの声は聖職者のように穏やかでした。背中の5つの箱からは、限界まで魔力を絞り出されながらも、主と共に勝利を掴もうとする家族たちの「気高き熱」が、イドフロントの冷たい空気の中に吹き荒れていました。