『神々の箱庭に、黎明の光を』   作:もいもい130

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第26話

イドフロントの大回廊。静寂が、鉄の匂いと共に場を支配していました。

オッタルが振るった、武の極致たる一閃。それがボンドルドの展開した重層魔導障壁を物理限界ごと叩き折り、漆黒の外套ごと、中の肉体を無残に引き裂きました。同時に、勇者フィンの槍が正確にその核を貫き、黎明卿と呼ばれた異形は、血を流すただの「骸」へと成り果てました。

「……終わった、のか。これほどの怪物を、ようやく……」

アイズは剣を低く構えたまま、微動だにしないボンドルドの亡骸を見つめていました。彼女の「風」はまだ止まっていません。強者の直感が、この沈黙がもたらす不自然な静謐に、本能的な警告を発していたからです。

フィンは槍を引き抜き、苦悶に震える自身の親指を強く噛み締めました。

「……いや。まだだ。この胸騒ぎ、ただの勝利の余韻ではない」

その言葉を裏付けるように、回廊の隅、物言わぬ石像のように控えていた一人の**祈手(アンブラハンズ)**が、迷いのない足取りで遺体へと歩み寄りました。彼は跪き、血に濡れた手袋で、死体の顔面に固着していた漆黒の仮面を掴みました。

グチャリ、と肉が剥がれる不快な音が響きます。祈手は、先ほどまで「主」であったはずの肉体から、その象徴たる仮面を、一切の躊躇なく引き剥がしました。

「……おやおや。死力を尽くした勝利の味は、いかがですか? フィン・ディムナ、そしてオッタル」

祈手は、自らの顔へとその血塗られた仮面を装着しました。

カチリ、という金属的な噛み合わせの音。直後、仮面の中央を走る縦のスリットに、再び禍々しくも美しい紫の燐光が宿りました。

「……何……!?」

アイズの瞳が大きく見開かれました。

オッタルは無言のまま、先端を欠いた黒剣を再び正対させ、その全身から噴き出す威圧を一段と濃密なものへと変えました。

「死体から、仮面を継いだというのか。……正気ではないな。貴様、一体何をした」

フィンの問いかけに対し、新たにボンドルドとなった器は、自らの血に濡れた手袋を優雅に眺め、慈愛に満ちた声を響かせました。

「精神隷属機(ゾアホリック)。私の魂は、私の意志を継ぐ全ての祈手たちの中に、等しく分かち合われているのですよ。肉体という器が壊れれば、別の器へと移るだけのこと。……一人を討てば終わるというような、停滞した命の形は、とっくに卒業しております」

ボンドルドは亡骸を一顧だにせず、壁のラックから新たな5つのカートリッジを手に取りました。

「クラウスさん、ルシアさん、ハンスさん、グレーテさん、そしてシュタイナーさん。……さあ、行きましょうか。あなた方の瑞々しい意志が、今、再び私の背で脈動しています」

ガチリ、ガチリと、5つの「絆」が新たな身体の換装ユニットに収まり、排熱孔から青白い魔力の霧が勢いよく噴き出しました。英雄たちが全霊を注いで削り取ったはずの命が、何事もなかったかのように塗り替えられていく。

「おやおや。心外ですね、フィンさん。私は、彼らと共に黎明を視るための路を築いているだけなのですよ。……愛です。愛ですよ、皆さん。私を殺し、排除しようとするあなた方のその情熱こそが、私の探求をさらなる高みへと押し上げる最高の導標となるのです」

ボンドルドは優雅に、かつてと同じ重厚な動作で右腕を掲げました。

「愛があれば、私は不滅です」

その声は、深淵の底から響く聖歌のように、英雄たちの精神を激しく削り取りました。

しかし、オッタルは一歩も退かず、肩から立ち昇る白煙を無視して重心を低く構えました。絶望という名の闇の中で、英雄たちの「不屈の輝き」が、より一層鋭く研ぎ澄まされていきます。

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