イドフロントの大回廊に、絶望という名の静寂が、より一層深く降り積もりました。
オラリオ最強の英雄たちが、命を削り、全てを賭してようやく討ち果たした「怪物」。その骸から仮面を剥ぎ取り、何事もなかったかのように立ち上がった二人目のボンドルド。その背後には、未だ数十人を超える祈手(アンブラハンズ)たちが、影のように、しかし確かな殺意を持って控えています。
勇者フィンの右の親指は、千切れるほどの激痛を訴えていました。
眼前のボンドルドは、新しい器に5つのカートリッジを装填し、排熱孔から噴き出す魔力の霧を纏って優雅に佇んでいます。一方、連合軍の消耗は限界に達していました。
「……総員、退避。……撤退だ」
フィンの唇から漏れたのは、鉛のように重い決断でした。
「……まだ。……あいつを、倒してない」
アイズが静かに、しかし研ぎ澄まされた殺意を込めて呟きました。彼女の瞳は濁ることなく、ただ純粋に目の前の「悪」を滅ぼすことだけを見据えています。しかし、フィンは首を横に振りました。
「アイズ、冷静になれ。今の僕たちには、奴の『命の数』を削り切る手段も、あの光線を完全に封じる術もない。……ここで全滅することは、オラリオの、ひいては下界の敗北を意味する」
「……私は、退かぬ。……我が主(フレイヤ)の盾が、背を見せることなどあり得ん」
オッタルが、欠けた黒剣を握り直し、地を這うような声で拒絶しました。黄金の闘気が再び揺らめきますが、その足取りには隠しきれない疲労が滲んでいます。
「オッタル! 行かせるな、引きずってでも連れて行くんだ!」
フィンの指示に、ガレスとティオネ、さらにはフレイヤ・ファミリアのヘグニたちが、満身創痍の体でオッタルに食らいつきました。
「放せ……! 私は、まだ……戦える……!」
「馬鹿を言うな、この猪武者が! 死にたがりは故郷へ帰ってからにしろ!」
ガレスが怒号を上げ、数人がかりで、岩のように動かないオッタルを無理やり後方へと引きずっていきます。アイズもまた、フィンの制止と仲間の手により、納得のいかない表情のまま戦場を後にしました。
ボンドルドは、撤退を開始した英雄たちの背を、追撃することなく静かに見送りました。
彼は優雅に胸に当て、深々と一礼します。
「……おやおや。もうお帰りですか。実に、実に残念です」
ボンドルドの声は、イドフロントの冷たい壁に反響し、去りゆく英雄たちの耳に届きました。
「あなた方が見せてくれたその『不屈』の輝き。その高潔な精神。私は決して忘れませんよ。あなた方のエクセリアが、いつか真に黎明を照らす光となることを、私は心から願っております。……愛です。愛ですよ。」
彼は、仮面のスリットを、一度だけ強く紫に明滅させました。
「また、いらしてくださいね。 次は、より素晴らしい『絆』を用意して、お待ちしております。」
数日後、命からがら帰還した連合軍の報告を受け、ギルド本部の地下広間では緊急会議が招集されました。
報告された事実は、あまりにも理外のものでした。
「精神隷属機(ゾアホリック)」による魂の遍在化。それはボンドルドという存在が、単一の個体ではなく、祈手という組織全体に宿る「意志の群体」であることを示しています。一人を討っても、別の祈手が仮面を被れば、即座に「ボンドルド」が再誕する。その不死性の前では、オラリオが積み上げてきた従来の戦術は無力でした。
さらに、あらゆる防御を無効化し物質を消滅させる「枢機へ還す光(スパラグモス)」の脅威。そして、冒険者の恩恵(ファルナ)を直接エネルギーに変換し、使い捨てる「カートリッジ」という冒涜的な技術。
「……愛があれば、不滅、か。反吐が出るな」
ロイマンが吐き捨てるように言い、会議室には重苦しい沈黙が流れました。
フィンは、まだ痛みの引かない親指を見つめ、静かに口を開きました。
「ヤツは、倒すべき敵という枠を超えている。……攻略すべき、生きた『深淵』そのものだ。我々が今までの『正義』に固執する限り、イドフロントを越えることはできないだろう」
ギルドの賢者たち、そして神々は、ボンドルドという名の「絶望」をどう定義すべきか、混迷を深めていきました。
着地点が見いだせないもいもいです助けてぇ
この先の展開アンケート
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和解ダンジョンの黎明を目指す
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全面戦争突入
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両方かけ(作者死ぬ)