『神々の箱庭に、黎明の光を』   作:もいもい130

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第29話

イドフロントの最奥、迷宮のさらなる深部へと続く縦穴の縁。黎明卿は、冷たい風に漆黒の外套をなびかせながら、英雄たちの要求を静かに聞き届けていました。

背負った5つのカートリッジ。そこから吸い上げられる魔力がボンドルドの神経を伝い、大気を微かに震わせています。勇者フィン・ディムナは、槍を突き立て、仮面のスリットから漏れる紫の燐光を冷徹に射抜きました。

「……ボンドルド。停戦と協力の条件は、今ここで確定させてもらう。我々が飲むのは協力などという甘い言葉ではない。お前という存在を縛るための、明確な制約だ」

「おやおや。制約、ですか。素晴らしい。……さあ、フィンさん。あなたが提示するその形を、私に聞かせてください」

フィンは迷いのない声で、二つの楔を打ち込みました。

「第一に、新規のカートリッジ制作の永久禁止だ。……これは絶対だ。これ以上、僕たちの**仲間(冒険者)**を、お前の探求の部品として消費することは断じて許さない。今お前が背負っている5つ、それが最後だ」

ボンドルドは、背中の換装ユニットに手を当て、愛おしげにそれを撫でました。

「承知いたしました。今ここにいる5人の家族……彼らとの絆を、私は最後の一滴まで大切に使い切ることを約束しましょう。……彼らもまた、唯一無二の存在として役目を全うすることを、心から悦んでいますよ」

「……そして第二だ。お前のその精神隷属機(ゾアホリック)を用いた、無理やりな洗脳による祈手(アンブラハンズ)の確保。 これを完全に禁止する。他者の精神を蹂躙し、魂を汚染して人形に変える。その冒涜的な拡大を、ここで止めさせてもらう」

フィンの言葉に、アイズは鋭い視線を送り、オッタルは重厚な沈黙を以て、ボンドルドの言動に偽りがないかを監視します。

ボンドルドは、仮面のスリットを深々と明滅させました。その反応に動揺はなく、むしろ新たなルールを提示された子供のような、純粋な愉悦が混じっていました。

「……なるほど。無理やりな洗脳による、器の拡張の禁止。……素晴らしい。フィンさん、あなたは実に、私の本質と意志の価値を理解していらっしゃる。魂を分かち合うことは私にとっての救いですが、それを望まぬ者に強いるのは、確かに美しさを欠く行為かもしれません」

ボンドルドは一歩前へ踏み出し、懃懃に一礼しました。

「承知いたしました。これより先、私は精神隷属機を用いて、本人の意志に反する形で新たな器を招き入れることはいたしません。……自らの意志で黎明を望み、私という形を求めて自発的に集う者。そんな瑞々しい魂だけが、私と共にこの迷宮の深淵を見届ける資格を持つのですから」

フィンは、その言葉の裏に「自発的な志願者」という余地を残したことを察知しましたが、今は「強制的な精神汚染」という最悪の拡大を止めることが先決であると判断しました。

「……信用はしていない。僕たちが、このイドフロントでお前の挙動を常に監視させてもらう」

「ええ、ええ。歓迎いたしますとも。監視という名の深い関心……。それこそが、私とあなた方の新たな関係の礎となるでしょう。……さあ、英雄の皆さん。契約は成立しました。この凍りついた平穏の中で、共に黎明を識(し)りに行きましょうか」

ボンドルドは優雅に右腕を掲げ、迷宮の第25層へと続く道を示しました。不滅を縛られた黎明卿と、不屈を誓った英雄たち。相容れぬ二つの意志が、歪な均衡を保ちながら、ついに動き出そうとしています。

この先の展開アンケート

  • 和解ダンジョンの黎明を目指す
  • 全面戦争突入
  • 両方かけ(作者死ぬ)
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