「おやおや。フィンさん、見てください。これこそが、神々の加護という特権に頼らずとも、人類が自らの足で歩み出すための第一歩なのですよ」
ボンドルドは優雅に、誇らしげに腕を広げました。その先では、昨日まで路地裏で日銭を稼いでいたはずの一般市民たちが、漆黒の外骨格装甲――暁に至る天蓋を纏い、整然と隊列を組んでいました。
機能としての蹂躙:魔石銃の咆哮
前方から迫るキラーアントの大群。本来、一般人が太刀打ちできる相手ではありません。しかし、先頭に立つ志願者の男が魔石銃を構え、引き金を引いた瞬間、迷宮の常識は音を立てて崩れ去りました。
放たれたのは、モンスターから剥ぎ取った魔石を熱量へと変換した、苛烈なまでの破壊の光。
キラーアントは鳴き声を上げる暇もなく蒸発し、岩肌が赤く焼き切られます。恩恵(ファルナ)による身体能力も、長年の修練も必要ありません。ただ照準を合わせ、引き金を引く。それだけで、彼らは「英雄」に匹敵する火力を手に入れていました。
「……素晴らしい。実に、素晴らしいですよ、レオさん。あなたのその『意志』が、今、迷宮を黎明へと変えている」
ボンドルドは仮面のスリットを深々と、愛おしげに明滅させました。
「機能」の消耗とフィンの憤怒
しかし、その直後。隊列の後方で、暁に至る天蓋を纏わず、ただ虚ろな瞳で祈手(アンブラハンズ)に付き従っていた男が、糸が切れた人形のように崩れ落ちました。白目を剥き、口端から泡を吹いて痙攣するその無残な姿に、フィンは槍を突き出し、ボンドルドを鋭く射抜きました。
「……待て。ボンドルド、今のは何だ。あそこで倒れた男に、貴様は何をした!」
フィンの右の親指は、激痛と共に最悪の予兆を告げています。しかしボンドルドは、穏やかな、慈愛に満ちた所作で倒れた男に歩み寄り、その頬を優しく撫でました。
「おやおや。フィンさん、随分とご機嫌ですね。……ご心配なく。彼は今、この一射を成功させるための『負荷』を、立派に肩代わりしただけなのですから」
「……答えていない! 精神隷属機による強制的な洗脳か!? それとも、精神を弄んで身代わりにしたのか!」
フィンの詰問に、ボンドルドは仮面のスリットを、凪いだ海のように静かな紫に明滅させました。
「洗脳? おやおや、フィンさん。それは心外ですね。……洗脳とは、意思ある『人間』に対して行われる行為でしょう?」
ボンドルドは立ち上がり、静かに、しかし断固とした確信を込めて続けました。
「この者たちは元・闇派閥の残党。もはや私の一部であり、黎明を視るための『機能』そのもの。私という群体を支える指先であり、神経の一部なのです。……彼らは既に『人間としての運用』を終えています。機能として消費されることに、何の不都合があるというのですか?」
「……人間としての、運用……だと?」
「愛ですよ、フィンさん。……彼らは人間として罪を重ねる日々を捨て、私の一部として『役割』を得た。……見てください、あのレオさんの恍惚とした表情を。彼がこれほどまでに輝けるのは、背後の『家族』がその影を、苦痛を、すべて引き受けてくれているからなのです。……ああ、なんと美しい献身でしょうか」
ボンドルドの言葉には、微塵の悪意もありませんでした。ただ純粋な善意と、歪んだ論理の完成。それゆえに、隣で剣を握りしめるアイズは、吐き気を催すほどの嫌悪感にその身を震わせました。
「……最低。……あなたは、家族なんて、呼んじゃいけない」
「おやおや。アイズさん、その瑞々しい怒りもまた実に素晴らしい。……ですが、止まりはしませんよ。この『機能』たちの絆がある限り、私たちの路はどこまでも続いていくのですから」
ボンドルドは再び歩き出し、第25層へと続く闇を見つめました。漆黒の暁に至る天蓋が放つ紫の光が、迷宮を侵食する癌細胞のように、無数に増殖しながら深淵へと向かっていきました。
この先の展開アンケート
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和解ダンジョンの黎明を目指す
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全面戦争突入
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両方かけ(作者死ぬ)