イドフロントの広間には、かつてないほどの静謐と、冷徹なまでの機能美が満ちていました。
黎明卿ボンドルドの背後に整列するのは、これまでの試運転を経て、より効率的に、より「愛」を体現するために再編された探掘隊――祈手(アンブラハンズ)。
「おやおや。フィンさん、アイズさん。……見てください。彼らの姿を。自らの意志で私の一部となり、深淵の先を視るために生まれ変わった、新たな家族たちです」
ボンドルドが誇らしげに腕を広げると、そこには役割ごとに明確に分かたれた軍勢がありました。
再編された祈手たちは、その役割によって二つの階層に分かれています。
一般隊員(黒装束)
主に拠点内の雑務、資材管理、そして外来者への「接待」をこなす者たち。彼らの多くは、かつてボンドルドを狙った賞金稼ぎや、行き場を失った犯罪者、そして純粋に彼の言葉に救いを見出した志願者たちです。
「……おやおや、このお茶は彼らが淹れたものですよ。以前は荒事しか知らぬ者たちでしたが、今では実に細やかな気遣いができるようになりました。素晴らしいと思いませんか?」
戦隊長:死装束(シュラウド):
一般隊員とは一線を画す、白い外套を纏った最精鋭。彼らは暁に至る天蓋の制御に特化し、戦場における指揮と、黎明卿の「直接的な意志」を代行する者たちです。
戦隊長の抜擢:『カロン』
隊列の先頭から、一人の男が静かに歩み出ました。
その身に纏うのは、死者の装束を想起させる純白の外套。仮面のスリットからは、冷徹ながらもどこか恍惚とした光が漏れています。
「……黎明卿の御心のままに。私は、貴方の指先となりましょう」
「おやおや。素晴らしい意気込みです。……紹介しましょう。今回、戦隊長に抜擢したカロンです。彼はかつてオラリオの影で『死神』と恐れられた暗殺者でしたが、私の愛に触れ、その刃を真理のために振るうことを決意してくれました」
フィンは、その男――カロンから放たれる気配に、喉の奥が乾くのを感じました。
レベル4、あるいはそれ以上の実力者であったはずの男が、今やボンドルドという巨大な意志の「部品」として、そこに存在している。
「……ボンドルド。聞くが、あいつらの『自我』はどうなっている。全員に貴様の意識を植え付けたと聞いたが、それではただの操り人形ではないのか」
フィンの鋭い問いに、ボンドルドは懃懃に首を傾げました。
「おやおや、フィンさん。誤解ですよ。彼らは人形などではありません。……普段、彼らは自分自身の意志で考え、行動し、私を愛してくれています。精神隷属機(ゾアホリック)がもたらすのは、あくまで『私との接続』に過ぎません」
ボンドルドは、傍らに立つ一般隊員の肩を優しく叩きました。
「ですが、探求において私の『直接的な介入』が必要な時、あるいは高度な戦闘における『オートモード』への移行時……彼らの自我は一時的に眠りにつき、その身体は完全に私の、あるいはシステムの統制下に入ります。……個の限界を超え、大いなる意志として機能する。これ以上の効率が、他にあるでしょうか?」
アイズは、カロンの仮面の奥を見つめました。
そこには確かに「人間」としての光が残っている。しかし、ひとたびボンドルドが望めば、その光は一瞬で消え失せ、冷酷な殺戮機械へと変貌する。
「……自分の体が、自分じゃなくなる。……怖くないの?」
アイズの問いに、カロンは白い外套を揺らし、静かに答えました。
「……怖れ? いいえ、アイズさん。主と一つになれるその瞬間こそが、私たちにとっての至福なのです。……黎明を視る眼に、個の迷いは不要ですから」
その言葉には、洗脳という言葉では片付けられない、深淵への純粋な「憧憬」が宿っていました。
「おやおや。……さあ、準備は整いました。カロン率いる戦隊、そして新たな家族たちが、皆さんの行く手を華々しく切り拓くことでしょう。……おやおや、次の一歩が、待ち遠しくて仕方がありませんね」
イドフロントの暗がりに、白と黒の軍勢が整然と動き始めました。その足音は、もはや一つの巨大な生き物の鼓動のように、迷宮の奥底へと響き渡っていくのでした。
この先の展開アンケート
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和解ダンジョンの黎明を目指す
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全面戦争突入
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両方かけ(作者死ぬ)