『神々の箱庭に、黎明の光を』   作:もいもい130

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第39話

「おやおや。ようやく、家族たちだけの時間になれましたね」

イドフロントの深部。神々の寵児たちが去り、静寂が戻った工廠(こうしょう)で、ボンドルドは慈愛に満ちた声で呟きました。彼の視線の先では、戦隊長カロンを筆頭とした祈手(アンブラハンズ)たちが、黙々と次なる探求の準備を進めていました。

白き宮殿での損耗は、ボンドルドにとって暁に至る天蓋の物理的な限界を知るための良質なデータとなりました。現在の装甲は、上層の素材に頼りすぎていたのです。迷宮(ダンジョン)がその奥底に隠している、より強靭な「意志」を、祈手たちの肉体へと繋ぎ止める必要がありました。

「カロンさん、準備は良いですか。我々に必要なのは、神の加護ではなく、ただ純粋な『硬度』と『伝導』です。……愛ですよ、それは」

「卿の御心のままに。第24階層『パントリー』にて、必要な素材を確保いたします」

カロンが白い外套(シュラウド)を翻し、部隊を率いて出撃します。そこには観客も、正義を叫ぶ者もいません。ただ、淡々と「消費」と「生産」を繰り返すシステムだけが機能していました。

通常、迷宮のモンスターは致命傷を負えば塵となって消え、魔石か稀なドロップアイテムのみを残します。しかし、ボンドルドの「狩り」はその理(ことわり)さえも効率化の対象でした。

ターゲットの活動を停止させつつも、魔石を破壊せず「生かしたまま」固定し、モンスターが塵に還る(霧散する)前に、精密な駆動系を用いて有用な組織を「ドロップアイテム」として強制的に切り出し、防腐・固定処理を施す。ボンドルドは、剥ぎ取られたばかりの瑞々しい素材を手に、恍惚とした紫の光を明滅させました。

「素晴らしい。……見てください、レオさん。この原生生物の神経束を。迷宮が彼らを消し去ろうとするその瞬間に、我々がその価値を繋ぎ止める。これこそが、命の再定義だと思いませんか?」

「……あ、あぁ……っ、卿……熱い、です……」

工廠の隅で、魔石銃の回路調整を代行していた元闇派閥の女性が、ガタガタと震えながら倒れ込みました。魔石銃の過負荷による精神汚染を、彼女が「避雷針」として肩代わりしているのです。

ボンドルドは彼女に歩み寄り、その泥に汚れた顔を優しく、本当に愛おしげに両手で包み込みました。

「おやおや。……頑張りましたね。あなたのその痛みこそが、次なる天蓋の骨組みとなるのです。あなたは今、私の一部として、これほどまでに気高く輝いている。……愛ですよ、それは」

彼女に「人間としての運用」は必要ありません。ただ、カロンやレオたちが、より高出力の魔石銃を扱い、より強固な装甲を纏うための「機能」であれば良い。

収集された第24階層の素材は、ウダイオスの骨格構造を模倣した新型装甲へと組み込まれていきました。イドフロントの闇の中で、祈手たちは自らの肉体を機械へと、そして卿の意志へと、より深く適応させていきます。

「さあ、準備は整いつつあります。カロンさん、次はさらに深く。水の大迷宮の底に眠る、真理の欠片を拾いに行きましょう。……おやおや、次の一歩が、待ち遠しくて仕方がありませんね」

ボンドルドの朗々とした声だけが、血と鉄と魔石の匂いが充満する工廠に、どこまでも優しく響き渡っていました。

この先の展開アンケート

  • 和解ダンジョンの黎明を目指す
  • 全面戦争突入
  • 両方かけ(作者死ぬ)
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