手に入れた巨大な魔石は、ボンドルドの掌の中で、この世界の鼓動を伝えるかのように不気味な熱を帯びていました。彼はそれを愛おしそうに撫で、虚空を見つめます。
「……おやおや。素晴らしい。これほどの密度、これほどの純度。アビスの遺物でも、これほど素直に『意志』を受け入れる触媒は稀ですよ」
ボンドルドは、自らの魂と一体化した精神隷属機の機能を深層へと駆動させました。
彼がこの空洞を「イドフロント」と定義した瞬間、迷宮の魔力粒子が彼の思考に呼応し、緩やかに渦を巻き始めます。
「さあ、まずはこの場所を『解剖』し、私たちの探求に相応しい形へと整え直すとしましょうか。……愛、愛ですよ。この空間のすべてが、私の手足となり、私の目となる。なんと心躍る工程でしょうか」
彼は枢機へ還す光を指先から滑り出させ、精密な執刀医のような手際で、床面に複雑な幾何学模様を刻み始めました。
アビスの理と、この世界の魔力伝導。それらを繋ぎ合わせる未知の術式。
刻まれた溝に、先ほど摘出した巨大な魔石を据え付けると、空洞全体が低い唸りを上げ、魔晶石の群れが紫色の光を放ちました。
「おやおや、拒絶反応ですか? いけませんね……。新しい環境には、相応の『調整』が必要だというのに」
ボンドルドは背後の成れ果ての尾を床へと突き立て、直接、精神隷属機の信号を魔石へと流し込みました。
荒れ狂っていた魔力の奔流が、一瞬にして静まり、従順な「動力」へと変質していきます。
壁面からは、彼が持ち込んだ僅かな遺物と、この地の岩石が混ざり合い、歪な、しかし機能的な実験机や隔離壁が、まるで細胞分裂を繰り返すかのようにせり出してきました。
それは、アビスの技術とダンジョンの物質が交じり合った、異形なる聖域の誕生でした。
「素晴らしい……! 迷宮の物質は、これほどまでに変異に寛容なのですか。これならば、カートリッジの精製ラインも、アビス以上の効率を叩き出せるかもしれません。……さあ、準備を整えましょう。次は、この美しいゆりかごに、愛すべき『被験者』を招き入れる番です」
ボンドルドは、完成しつつある実験室の影に立ち、再び精神の網を広げました。
「……おや。ちょうどいい、足音が聞こえますね。迷い込んだ子羊か、あるいは好奇心に駆られた探求者の卵か。……どちらにせよ、素晴らしい。私の家族として、新たな夜明けを見るための礎になっていただきましょう」
イドフロントの入り口、暗闇の向こうから、複数の冒険者の足音と話し声が近づいてきます。