『神々の箱庭に、黎明の光を』   作:もいもい130

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第41話

イドフロントの巨大な防壁が音もなく開き、第二期遠征軍——再編された「資源回収部隊」が深淵へと吐き出されました。

彼らの進軍には、冒険者のような高揚感も、戦士のような悲壮感もありません。そこにあるのは、広大な迷宮を一つの巨大な「資源採掘場」と定義し、効率的に解体していく無機質な作業音だけでした。

機能的蹂躙:資源回収部隊の行軍

第24階層から第25階層へと続く巨大な縦穴を下るその姿は、白と黒の幾何学的な模様が深淵を侵食していくかのようでした。

「おやおや。素晴らしい。……カロンさん、見てください。この統率された脈動を。我々の意識が『精神隷属機(ゾアホリック)』という一つの海に溶け合い、迷宮の理さえも演算の一部として取り込んでいる。愛ですよ、それは」

ボンドルドの背後では、戦隊長カロンを筆頭とした「死装束(シュラウド)」たちが、新型の暁に至る天蓋を軋ませながら沈黙を守っています。

彼らが装備する魔石銃は、第24階層の原生生物から抽出した伝導神経を組み込んだことで、従来の三倍以上の出力を維持可能となっていました。本来、その熱量と精神的負荷は装着者を数秒で廃人にするものですが、進軍の足取りが乱れることはありません。

「資源」の同時並行的消費:避雷針の定置運用

進軍する祈手(アンブラハンズ)たちの列の中間には、異様な姿の「家族」たちが配置されていました。

精神隷属機の端末を項(うなじ)から直接脳幹へと突き刺され、紫の信号を明滅させる男たち、そして女たち。彼ら「避雷針」としての役割を担う闇派閥の残党は、移動する「魂の廃熱処理装置」として機能しています。

* 精神的摩擦の転嫁: カロンたちが魔石銃の照準を固定し、深層の原生生物を射程に捉えるたび、発生する強烈な「マインドダウンの予兆」がネットワークを通じて避雷針たちへと放流されます。

* 無機質な資源管理:

接続された一人の男の脳が過負荷で沸騰し、口端から白泡を吹いて倒れ込みました。しかし、隣に立つ祈手はその残骸を一顧だにせず、手際よく接続端子を引き抜き、予備の「家族」へと差し替えます。

そこには信念の衝突も、死への憐憫もありません。ただ、電球を交換するかのような、事務的な資源の更新があるだけでした。

「素晴らしい。……レオさん、今の照射で焼き切れた彼は、あなたの右腕の『痛み』を全て飲み込んでくれました。彼は今、我々の路を照らす尊い光となったのです。……さあ、次の素材を回収しましょう」

水の大迷宮:環境の強制的書き換え

第25層、水の大迷宮の入り口。

荒れ狂う巨大な滝と激流が、侵入者たちの行く手を阻もうと咆哮を上げます。通常、冒険者たちはこの環境に抗い、命を懸けて突破を試みます。しかし、ボンドルドの回収部隊にとって、この激流さえも「処理すべき数値」に過ぎませんでした。

「カロンさん。……路が濡れていますね。歩きやすくしましょうか」

「卿の御心のままに。……避雷針、三機同時同期。リミッター解除」

カロンの号令と共に、三人の「家族」が同時に弓なりに反り、その精神を極限まで搾り取られました。

その代償として得られた絶対的な安定性の中、数十挺の魔石銃が、出力を弱めた**「枢機に還す光(スパラグモス)」**を広域照射モードで一斉に放ちました。

消滅の光が水を、空気を、そして空間の熱を奪い去ります。

一瞬前まで轟音を立てていた激流は、熱量を失い、因果を断ち切られた断面から霧散。次の瞬間には、蒸発と消滅の狭間で強制的に「凍結」された、ガラス細工のように静止した水の路が、迷宮の奥底へと真っ直ぐに伸びていました。

「おやおや、素晴らしい。……見てください。迷宮が我々のために、これほどまでに美しい路を用意してくれました。……愛ですよ、それは」

凍りついた滝の横を、祈手たちは一糸乱れぬ足取りで通り過ぎていきます。

その背後では、役割を終えて脳を焼かれた「避雷針」たちが、氷の床に打ち捨てられ、迷宮の闇へと消えていきました。

イドフロントの「資源回収」は、今、迷宮の生態系そのものを解体しながら、さらに深い、真理の澱(おり)へとその指先を伸ばし続けていました。

この先の展開アンケート

  • 和解ダンジョンの黎明を目指す
  • 全面戦争突入
  • 両方かけ(作者死ぬ)
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