『神々の箱庭に、黎明の光を』   作:もいもい130

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第42話

イドフロントの資源回収部隊が展開する第25層の一角。

激流を「枢機に還す光(スパラグモス)」の広域照射によって強制的に蒸発・凍結させ、構築された氷の路の上に、巨大な獲物が横たえられていました。

第25層の原生生物、ブルー・クラブの変異種。

深層の重圧をその身に宿した超高硬度の外殻は、本来なら迷宮(ダンジョン)が誇る難攻不落の防壁ですが、今は祈手(アンブラハンズ)たちの手によって無機質に「部品」へと仕分けられていました。

「……卿。ウダイオス戦以前より安定稼動を続ける精神隷属機(ゾアホリック)の同期、極めて良好です。……これより、素材の強制剥離(はくり)を開始します」

戦隊長カロンの報告を受け、祈手たちは一斉に高周波振動刃を起動させました。

彼らの作業は、討伐ではなく採掘に近いものです。魔石を傷つけず、獲物の生命活動を維持したまま、有用な組織を「ドロップアイテム」として強引にこの世界に固定する。そのためには、一瞬の狂いも許されない精密な執刀が必要でした。

その精密さを支えているのは、隊列の背後に繋がれた「避雷針」たちの静かな消耗です。

精神隷属機のハブに接続された男たち、そして女たち。彼らはもはや言葉を発することはありません。喉の奥に打ち込まれた制御端子が、発声という無駄なエネルギー消費を完全に遮断しているからです。

魔石銃による精密照射が獲物の関節を焼き切り、振動刃が肉を裂くたび、装着者の脳を焼くはずの膨大な精神的廃熱と情報のノイズが、ネットワークを通じて彼らへと放流されます。

一人の男の避雷針が、眼球を激しく震わせ、鼻孔から熱を帯びた血を流しました。彼の脳は今、カロンの右腕が受けるべき「迷宮との共鳴」という名の負荷を、情報の濁流として受け止め、中和し続けています。そこには信念も、誇りも、屈辱さえも介在する余地はありません。ただ、回路を流れる電流が抵抗によって熱を帯びるように、彼の精神が磨り潰されていくだけでした。

「おやおや。……見てください。彼らの沈黙こそが、我々の探求を支える最も純粋な音色だと思いませんか? 愛ですよ、それは」

ボンドルドが懃懃に首を傾げると、限界を迎えた一人の女の避雷針が、音もなく崩れ落ちました。脳が焼き切れ、演算リソースとしての寿命を全うしたのです。

祈手は作業を止めることなく、事務的な所作で彼女の項から接続端子を引き抜きました。

まだ意識を保っている次の「家族」へと端子が突き刺されます。新たな避雷針となった男は、全身を一度だけ大きく跳ねさせ、肺の中の空気を「ひゅう」という微かな音と共に吐き出しましたが、次の瞬間には再び動かぬ「部品」へと戻りました。

剥ぎ取られた超高硬度の甲殻。

霧散の理(ことわり)から切り離され、保存液に浸された瑞々しい神経束。

これらはかつて、迷宮を支配する強者の証でしたが、今はボンドルドの指先によって、暁に至る天蓋をさらなる深淵に適応させるための「素材」へと再定義されていきます。

「素晴らしい。……カロンさん。この素材の強度は、以前のものとは比較になりません。……さあ、次の部位へ。彼らの献身を、一滴も残さず機能へと変換しましょう」

イドフロントの回収部隊が通り過ぎた後の床には、魔石さえも残らない、完全な「無」へと還った空間と、機能を使い果たした「肉の残骸」だけが、冷たく凍りついたまま取り残されていました。

この先の展開アンケート

  • 和解ダンジョンの黎明を目指す
  • 全面戦争突入
  • 両方かけ(作者死ぬ)
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