イドフロントを後にした混成部隊は、深層のさらに深淵、第50階層を目指して進軍を開始しました。ロキ・ファミリアの精鋭たちが前衛を固め、その間隙を埋めるように**祈手(アンブラハンズ)**たちが配置される特殊陣形。
しかし、進軍が始まって間もなく、フィンたちは「協力」という言葉の裏にある、戦慄すべき光覚を突きつけられることになります。
「前方、大型種を含む原生生物の群れ! 数、五十以上!」
フィンの鋭い号令が飛ぶより早く、祈手たちの集団戦術が起動しました。彼らには一切の声の掛け合いがありません。精神隷属機(ゾアホリック)を介し、ボンドルドの意志という一つの演算系に接続された彼らは、まるで百の目と百の手を持つ単一の怪物のように動きました。
「……掃討開始」
カロンの低い呟きと共に、一般祈手たちの『灯火の杖(ルミナス・ケーン)』が一斉に火を噴きました。
個々の威力は抑えられていますが、その弾道はミリ単位で調整され、原生生物の眼球、関節、喉元といった急所を、機械的な正確さで穿っていきます。
「……なっ、なんだあいつら!? 連携ってレベルじゃねぇぞ!」
ベートが驚愕の声を上げました。隣で剣を振るうアイズも、祈手たちの動きに一切の「迷い」や「個の感情」が混じっていないことに、言いようのない寒気を覚えます。
さらに、シュラウドの祈手たちが『双牙の連鎖(デュアル・アンフィス)』を構え、群れの側面に躍り出ました。彼らは避雷針を使わず、自らのマインドのみを燃料として、光の網を紡ぐように原生生物を切り刻んでいきます。
「ティオナ、左だ!」
「わかってる、団長(フィン)! ……って、ええっ!?」
ティオナが大斬機(ウルガ)を叩き込もうとした瞬間、彼女の背後から放たれた『深淵の吐息(アビス・ブレス)』の蒼白な火炎が、獲物を一瞬で炭化させました。
「おやおや。ティオナさん、危ないですよ。……カロンさん、彼女の死角を完全にカバーしなさい。……我々のパートナーを、一滴の返り血で汚してはなりません」
ボンドルドの穏やかな声が響きます。祈手たちはロキ・ファミリアの団員たちを「守る」というよりは、彼らの攻撃範囲を計算し、その漏れを完璧に「処理」する部品として機能していました。
「……フィン。これ、おかしいわ」
リヴェリアが杖を握り直し、眉をひそめました。
「彼らの戦いには、冒険者が持つべき『生存本能』が欠けている。……ただ効率的に、目的を完遂するためだけに最適化されている。これはもはや、軍隊ですらないわ」
通常なら数時間を要する難所を、混成部隊は「作業」のように突破していきます。
祈手たちが一糸乱れぬ動作で弾倉を交換し、返り血一つ浴びぬまま次の標的へと銃口を向ける様を見て、ティオネは嫌悪感に身体を震わせました。
「……団長、こいつら……本当に人間なの? 命令一つで、あんなに迷いなく動けるなんて……」
「……ああ。彼らには『恐怖』がないんだ。ボンドルド卿……あんたの教育は、地上のそれとは随分と作法が違うようだね」
フィンの冷徹な問いかけに、ボンドルドはプルシュカの肩を抱き、仮面を深く明滅させました。
「おやおや。恐怖とは、探求を阻む最大のノイズですからね。……我々はただ、愛を持って一つの目的を共有しているに過ぎません。……ねえ、プルシュカ。パパの祈手たちは、とても頼もしいでしょう?」
「うん! パパ、みんな凄くかっこいいよ! フィンさんたちも、これなら全然怖くないよね!」
プルシュカの無邪気な賛辞が、血の匂いのしない戦場に響き渡ります。
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両方かけ(作者死ぬ)