『神々の箱庭に、黎明の光を』   作:もいもい130

59 / 78
第59話

オラリオのギルドが全面戦争を決定した直後、地上やダンジョン上層で密かに活動していた祈手(アンブラハンズ)たちは、一斉に撤退を開始した。

彼らの撤退は、敗走のパニックとは無縁だった。精神隷属機(ゾアホリック)を通じて下されたボンドルドの命令に従い、活動の痕跡を完全に焼却し、一切の物資を残すことなく拠点へと退いていく。冒険者たちが異変に気づき、追撃部隊を編成した頃には、祈手たちはすでに影も形もなく消え去っていた。

それは見事なまでの戦力抽出であり、来るべき防衛戦に向けた完璧な配置転換だった。

彼らが集結したのは、第24階層。

大樹の迷宮の最下部であり、次なる水都への道を塞ぐように鎮座する巨大な異端の工房——イドフロント。

そこでは今、数百の祈手たちが一糸乱れぬ動作で、上層から繋がる進軍ルートに向けて強固な防衛線を構築していた。

「卿。地上および上層部隊の帰還、ならびに第23階層からの主要降下ルートの封鎖準備が完了しました。これより迎撃陣地の最終調整に入ります」

「ご苦労様です、カロンさん。素材の無駄遣いにならぬよう、適切な配置をお願いしますね」

ボンドルドは穏やかに頷き、構築中の防衛陣地を見上げた。

そこには、四種の兵装を携えた祈手たちの隊列に加え、新設された巨大な兵器がいくつも鎮座していた。

据え置き型の大型魔石砲。

深層の希少鉱石と未到達領域の技術を惜しみなく注ぎ込み、複数の祈手がかりで演算と精神力を同期させて運用する防衛専用の火砲である。階層主すら消し飛ばす火力を、定点防衛に特化させることで実現した悪夢のような兵器だった。

「わあ、すっごく大きいね! パパ、これも新しい武器なの?」

プルシュカが大砲の巨大な砲身を見上げ、目を輝かせて駆け寄ってきた。

「ええ、プルシュカ。これは地上から来るお客様を、最大限の礼節をもってお迎えするためのものです。彼らが抱く英雄の幻想を、一瞬で光に還すための機能ですよ」

ボンドルドはプルシュカの頭を優しく撫でながら、巨大な砲門の冷たい装甲に触れた。

「冒険者たちは、個の力と奇跡を信じてここまで下りてくるでしょう。ですが、我々が用意したのは徹底した物理的排除の壁。祈手たちが織りなす火線と、この大砲がもたらす面制圧です。そこに英雄の入り込む隙間など、一ミリたりとも存在しません」

祈手たちは感情を交えず、ただ黙々と弾薬となる特殊な魔石を装填し、大砲の射角を第23階層から続く大通路へと完全に固定していく。それはもはや戦場ではなく、巨大な処刑装置の組み立て作業だった。

「パパの作ったこれなら、絶対にみんなを守れるね! 私も早くお客様が来ないか楽しみになっちゃった!」

「ええ。素晴らしい黎明が、もうすぐそこまで来ています。カロンさん、各砲座の演算を同期。第一波が射程に入り次第、一切の警告なしに焼き払いなさい」

第24階層、巨大樹の影に潜む深淵にて。

神々の娯楽を終わらせるための論理的な防衛陣地が、冷たい排熱音を響かせながら、地上の英雄たちを静かに待ち構えていた。

この先の展開アンケート

  • 和解ダンジョンの黎明を目指す
  • 全面戦争突入
  • 両方かけ(作者死ぬ)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。