『神々の箱庭に、黎明の光を』   作:もいもい130

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第61話

第24階層の巨大な空間は、今や英雄を志す者たちの巨大な処刑場と化していた。

連合軍の進行は完全に停止し、重苦しい膠着状態が前線を支配している。

「……また行ったぞ。馬鹿どもが」

ベートが忌々しげに舌打ちをした視線の先で、功名心に駆られた小規模なファミリアの徒党が、盾を構えて防衛線へと突撃を仕掛けていた。彼らの目論見は単純だ。先ほどの巨大な魔石砲の掃射には必ず冷却の時間、すなわち「隙」があるはずだと踏んだのだ。

しかし、その希望的観測は数秒後には残酷な物理的結末を迎えることになる。

「射角固定。……排除」

カロンの静かな号令のもと、最前列に陣取った一般祈手たちが灯火の杖を一斉に構えた。

彼らは陣形を三列に分け、一列目が撃ち終わると同時に後列が前に出て絶え間なく光弾を放ち続ける。精神隷属機によって完全に統制された、寸分の狂いもない三段撃ち。息継ぎも、恐怖による手ブレも、疲労による遅延も一切存在しない。

「ぎああっ!?」

「盾が、魔法盾ごと紙みたいに……!」

まるで歴史上の長篠の戦いを、何倍にも洗練し悪魔的な精度に引き上げたような蹂躙劇。

突撃した小集団は、防衛線に肉薄することはおろか、魔法の詠唱すら完了できずに蜂の巣にされ、ただの肉塊となって吹き飛ばされていく。次々と倒れゆく同胞を見ても、祈手たちの射撃間隔はただの一秒たりとも乱れなかった。

「……無駄だ。個人の身体能力や勇気で突破できる弾幕じゃない」

フィンは親指の爪を噛みながら、冷徹に状況を分析していた。

「彼らには感情のブレがない。誰かが死んでも、誰かが手柄を立てようとしても、システム全体としての効率は一切変わらない。あれは軍隊というよりも、巨大な殺戮の機構だ」

だが、連合軍を苦しめているのは、その正面火力の絶望だけではなかった。

「ギャアアアッ!?」

突如、連合軍の最後尾、魔法の準備をしていた魔導師の部隊から悲鳴が上がった。

第24階層の巨大樹の陰影から音もなく滑り降りてきたのは、近接戦闘に特化したシュラウドの祈手たちだった。

「敵襲! 上からだ!」

アレンたちフレイヤ・ファミリアの精鋭が即座に反応し槍を突き出すが、シュラウドの祈手たちは真っ向勝負など初めからする気がない。彼らは双牙の連鎖の光刃で、無防備な魔導師の喉笛やアキレス腱だけを外科手術のように正確に掻き切り、反撃を受ける前に再び樹上の闇へと溶け込んでいく。

それは前線の膠着を利用した、極めて悪質で合理的な不定期の奇襲だった。

指揮系統を乱し、魔法による遠距離攻撃の芽を摘み、連合軍全体に休むことのない恐怖と疲労を植え付けるための機能的遊撃。

「チッ……! 逃げ足だけは一丁前なネズミ共が!」

アレンが怒りに任せて樹上を睨みつけるが、そこにはすでに死の気配しか残されていなかった。

防衛線の奥、イドフロントの安全圏からその地獄絵図を眺めながら、ボンドルドは感嘆の溜息を漏らした。

「おやおや。彼らの決して諦めない姿勢、素晴らしいですね。何度蹴散らされても、己の命を対価にして未知をこじ開けようとする。……これこそが、地上の神々が愛してやまない英雄の輝きというものでしょうか」

ボンドルドは、最新のデータが送られてくる手元の端末から目を離さず、ただ静かに仮面を明滅させている。

「ねえ、パパ」

プルシュカがボンドルドの外套を少し引いて、不思議そうに首を傾げた。

「どうしてお外の人たちは、何度も何度も痛い思いをしに来るの? パパのお家に入れないなら、早く自分のお家に帰ればいいのに。……パパもお仕事が長引いて、疲れちゃわない?」

その純粋で、悪意の一切ない娘の疑問に、ボンドルドは優しく微笑みかけるようにしゃがみ込んだ。

「ええ、プルシュカ。あなたは優しいですね。……彼らはね、帰れないのですよ。古い夢に縛られて、自分たちが新しい時代(黎明)の礎になるという幸福に、まだ気づけていないのですから」

「そっかぁ。じゃあ、早く教えてあげなきゃね」

「ええ。私たちの機能をもって、彼らの非効率な情熱を、一つ残らず美しい光へと昇華して差し上げましょう」

ボンドルドの底知れぬ狂気が、娘への慈愛の言葉として紡がれる。

祈手たちの放つ無慈悲な銃声が絶え間なく響く中、イドフロントの防衛線は、ただ静かに地上の命を削り落とし続けていた。

 

この先の展開アンケート

  • 和解ダンジョンの黎明を目指す
  • 全面戦争突入
  • 両方かけ(作者死ぬ)
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