『神々の箱庭に、黎明の光を』   作:もいもい130

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第64話

第24階層の膠着状態を打ち破ったのは、神々の采配でも連合軍の決死の覚悟でもなかった。

それは、オラリオの暗部に潜み、誰からも忌み嫌われていた狂信者たちによる、あまりにもイレギュラーな自爆攻撃だった。

「テメェらぁぁっ! よくも同胞たちを、あんな気味の悪い肉袋(避雷針)に変えやがったなァァッ!!」

イドフロントの防衛線、その「内側」である巨大樹の裏側から、突如として無数の黒装束たちが湧き出した。彼らは都市の破壊を企む闇派閥(イーヴィルス)の残党たちである。

これまでボンドルドは、精神負荷を肩代わりさせる「避雷針」の素材として、地上で暗躍する彼らを優先的に拉致し、解体し、カートリッジへと加工し続けてきた。

誰にも見向きされない悪党の失踪など、オラリオでは日常茶飯事だからだ。しかし、仲間を「物」として扱われ、得体の知れない生体部品にされた闇派閥の怒りと恐怖は限界を突破していた。彼らは迷宮の隠し通路(ダイダロス路)を使い、決死の報復部隊としてイドフロントの背後を急襲したのである。

「死ねぇぇっ! 仮面共ぉぉっ!」

闇派閥の構成員たちは、自らの命すら惜しまず、起動限界を超えた魔剣を抱えたまま祈手(アンブラハンズ)の陣列へと突っ込み、次々と自爆を遂げていく。

凄まじい爆炎と衝撃波が、整然としていたイドフロントの内部を大きく揺らした。

「パパッ!?」

「おやおや」

背後で上がる火柱と崩落の音に、プルシュカが悲鳴を上げてボンドルドの外套にしがみつく。ボンドルドは倒れてくる瓦礫を片手で軽々と払い除けながら、背後で繰り広げられる闇派閥の狂乱を静かに見つめた。

「卿。後方より未確認の敵対勢力が侵入。魔石砲の冷却装置、および予備演算ユニットの一部に損害が発生しました。防衛火線の維持に支障が出ます」

「……なるほど。かつて採取を免れた素材たちが、自ら進んで工房へと戻ってきてくれたのですね。計算外とはいえ、その執念と自己犠牲の精神……実に美しい愛の形です」

ボンドルドの仮面は、背後からの奇襲という致命的な状況に陥ってなお、一切の動揺を見せなかった。ただ純粋に、彼らの非合理的な行動を「新たな観測データ」として受け入れているだけだ。

しかし、この防衛システムの一瞬の綻びを、歴戦の英雄が見逃すはずがなかった。

「……前線の弾幕が薄くなった! 敵の背後で何かが起きている!」

泥に塗れた天幕を跳ね除け、フィンが鋭い声を上げた。

数日間にわたる飢えと疲労で濁っていた彼の瞳に、かつての理知的な光と、戦場を支配する絶対的な指揮官の覇気が戻っていた。

「ガレス! ベート! アイズ! 防衛線の火力が落ちた今しかない、全軍に突撃の号令を!」

「おおっ! 待ちわびたぞい! ワシらの意地、あの忌々しい仮面共に叩き込んでやるわ!」

ガレスが巨大な戦斧を担ぎ上げ、大地を揺らして咆哮した。

その声は、絶望と疲労で死にかけていた連合軍の冒険者たちに、魔法以上の劇的な蘇生をもたらした。

「行けェェッ! 英雄の座を掴み取れ!」

「あのクソッタレ共の面を叩き割ってやる!」

ベートが銀色の軌跡を描いて最前線へと飛び出し、アイズが風を纏ってそれに続く。ティオナとティオネもまた、飢えの苦しみを闘争心へと変換し、爆発的な脚力で死の境界線を突破した。

「カロンさん。後方の処理は一般祈手に任せ、前線の迎撃を優先しなさい」

ボンドルドが指示を出すが、精神を共有する祈手たちの防衛システムは、闇派閥の無軌道な自爆テロによって明確な「ノイズ」を抱えていた。魔石砲の再充填は間に合わず、三段撃ちの陣形は崩れ、灯火の杖の火線に初めて「隙間」が生まれる。

そして、その一瞬の隙間こそが、第一級冒険者たちが最も得意とする「奇跡」の入り込む余地だった。

「遅ぇんだよ、ポンコツ共がァッ!!」

ベートの蹴りが、火線を掻き潜り、最前列にいた祈手の一人の首を正確に蹴り飛ばした。首を失った祈手が崩れ落ちるのと同時に、アイズのデスペレートが閃き、据え置き型魔石砲の砲身が両断されて重々しい音を立てて崩落する。

「パパ……! お家が、壊されちゃう……!」

「大丈夫ですよ、プルシュカ。……さあ、いよいよ彼らが『内側』へと踏み込んできました。ここからが、本当の観測の始まりです」

闇派閥の狂気による奇襲と、それに呼応した連合軍の猛烈な逆襲。

絶対的だった機能の壁が打ち砕かれ、イドフロントという白き工房に、ついに泥に塗れた英雄たちの刃が届こうとしていた。

 

この先の展開アンケート

  • 和解ダンジョンの黎明を目指す
  • 全面戦争突入
  • 両方かけ(作者死ぬ)
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