上空から降り注ぐ無慈悲な光の雨により、要塞壁を登ろうとした連合軍の冒険者たちが次々と墜落していく。
死と絶望が第24階層を支配しようとしたその時、連合軍の最後尾から、すべてを圧倒する極大の魔力波が立ち昇った。
「下がりなさい、愚か者共。……無為に命を散らすな」
ロキ・ファミリアの副団長にして、オラリオ最高峰の魔導師。
『九魔姫(ナイン・ヘル)』リヴェリア・リヨス・アールヴが、翡翠の杖(マグナ・アールヴス)を天へと掲げ、冷徹かつ気高き声で長文詠唱(大魔法)を紡ぎ終えようとしていた。
彼女の瞳には、一切の絶望も屈服もない。ただ、眼前にはびこる理不尽な機能を、エルフの王族たる誇りと究極の魔導によって焼き払うという、揺るぎない意志だけが宿っていた。
「——【レア・レーヴァテイン】!!」
リヴェリアの杖の先から放たれたのは、戦場を真昼のように照らし出す紅蓮の業火。
それは、祈手(アンブラハンズ)の放つ蒼白の熱線とは根本的に異なる、神が愛した奇跡そのものの顕現だった。極大の炎の渦が、祈手たちの光弾をすべて飲み込みながら、イドフロントの重厚な防壁へと直撃する。
ドゴォォォォォォォォォンッ!!
第24階層そのものが揺れるほどの大爆音。
いかに深層の未知の素材で補強されていようと、第一級冒険者の頂点に立つ魔導師の全力の一撃に耐え切れるものではない。白き要塞の防壁は、ドロドロに溶解しながら跡形もなく吹き飛び、巨大な侵入口を晒け出した。
「壁が……あのいけ好かねぇ壁が空いたぞォォッ!!」
「リヴェリア様に続けェェッ!」
歓喜と狂気に満ちた咆哮が連鎖する。
防壁という絶対的な優位を失い、煙と炎に包まれたイドフロントの内部。そこへ、飢餓と疲労、そして失われた誇りを取り戻さんとする連合軍が、決死の雪崩を打って突入を開始した。
「チィッ、待ちわびたぜ!」
先陣を切ったのは、灰の髪をなびかせたベート。そして、折れた剣の代わりに予備の長剣を抜いたアイズ。
彼らが踏み込んだのは、整然としていたはずの工房の内部だった。崩落した瓦礫の舞う中、ついに第一級冒険者たちと祈手たちの、物理的距離ゼロの乱戦が幕を開ける。
「迎撃座標、修正。……近接排除に移行」
カロンの指示のもと、祈手たちは一切のパニックを起こさなかった。壁が吹き飛ぼうと、敵が目の前に迫ろうと、彼らはただ次に行うべき最適な行動を機械的に選択するのみ。
『灯火の杖』を即座に仕舞い、双牙の連鎖や近接用の刃を展開した祈手たちが、殺到する冒険者たちと正面から激突する。
「邪魔だ、退けェッ!」
ティオナの双刃(ウルガ)が、立ち塞がった祈手の一人を袈裟斬りに両断する。
致命傷。普通の人間であれば、激痛に叫び声を上げて転げ回るはずの一撃。
しかし、両断された祈手は死の瞬間にすら、悲鳴を一つ上げなかった。それどころか、宙を舞って血を撒き散らす上半身が、自らの死など計算済みの事象であるかのように、残された腕でティオナの武器の柄を正確に、かつ力強く握り込んだのだ。
「――ッ!? なんなのよこいつら、痛覚がないわけ!?」
武器を固定され、ティオナが一瞬の隙を晒したその首筋へ、死角から別の祈手が完全な無音で刃を振り下ろす。
「ティオナッ!」
ティオネが間一髪でその刃を蹴り飛ばし、妹を庇った。
彼女たちの闘志は決して折れることはない。だが、感情を持たず、仲間の凄惨な死すら「敵の動きを封じるためのパーツ」として冷徹に組み込んでくる祈手たちの異常性に、背筋の凍るような戦慄を覚えていた。
「パパ……! お家が……!」
防衛線の中枢、安全な指令区画からその光景を見下ろしていたプルシュカが、瓦礫の崩れ落ちる音に怯え、ボンドルドの脚にしがみついた。
「おやおや。ついに彼らの奇跡が、我々の扉をこじ開けましたか」
ボンドルドは、リヴェリアの放った魔法の余波で明滅する自らの仮面を指でなぞり、深く、ひどく満足げな息を吐いた。
「素晴らしい。……極限状態に追い込まれてなお、あのハイ・エルフの精神は一切の濁りなく、極大の魔力を統制してみせた。あれこそが英雄の矜持、魂の輝きというものです。……しかし、奇跡は一度きりだからこそ美しい」
ボンドルドはプルシュカの小さな肩を優しく抱き寄せ、燃え盛る戦場を愛おしげに見つめた。
「カロンさん。彼らを歓迎しなさい。……戦術フェーズを移行。全祈手の精神的リミッターを解除し、彼らの英雄的行為を、我々の質量で圧殺するのです」
「了解。……全ユニット、制圧戦術を実行」
崩れた壁の奥、薄暗いイドフロントの深部から、さらに無数の祈手たちが、一糸乱れぬ足音と共に姿を現し始める。
冒険者たちが見せた決死の打開策すらも、彼にとってはより純度の高いデータを採取するための、楽しい実験の続きに過ぎなかった。
この先の展開アンケート
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和解ダンジョンの黎明を目指す
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全面戦争突入
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両方かけ(作者死ぬ)