リヴェリアという最大の「矛」を失った連合軍に対し、ボンドルドの防衛システムは一切の手加減なく、その「盾」を物理的に解体しにかかった。
「……前衛の機動力低下を確認。これより『足止め』と『排除』を並行します」
カロンの冷徹な号令と共に、前進してきた祈手(アンブラハンズ)たちが、大型のタンクを背負った重火器――深層仕様の特殊火炎放射器を一斉に展開した。
「掃討(クリーンアップ)」
轟ッ!! という爆音。数千度に達する白青色の粘着性火炎が、重装部隊の足元と、彼らが掲げる巨大なタワーシールドにへばりつく。
いかなる物理攻撃も弾き返すはずのドワーフ製の重装甲が、逃げ場のない熱量に耐えきれず、ドロドロと飴のように融解し始めた。
「熱ィッ……! 盾が、溶け――ッ!」
「踏み止まれ! ここを抜かれたら後ろの奴らが全滅だァッ!!」
炎に焼かれ、装甲の隙間から皮膚が焼け焦げる激痛に苛まれながらも、重装部隊の戦士たちは一歩も引かなかった。彼らの「オラリオの盾」としての誇りが、溶解する防具を抱えたまま、火炎の壁の前に彼らの足を釘付けにしていた。
だが、それこそがボンドルドの計算した『標的の固定』だった。
「……配置完了。十字砲火(クロスファイア)の火線を構築。治癒能力保持者を優先排除」
炎に足止めされ、盾を動かすことすらままならない重装部隊のさらに「外側」。
いつの間にか瓦礫の上へと回り込んでいた別働隊の祈手たちが、長銃身にカスタマイズされた『灯火の杖(ライフル型)』を、後衛の治癒士(ヒーラー)部隊へと向けた。
「射撃開始」
無感情な号令と共に、正確無比な狙撃の雨が降り注ぐ。
前衛の盾が炎で固定され、死角をカバーできないその隙間を、蒼白な熱線が容易く通り抜けた。
「――ッ!?」
負傷者を処置していた治癒士の少女が、その細い喉を貫かれ、言葉もなく崩れ落ちる。
「ひ、退かないで! 結界を……患者様を守る結界を張るのよッ!!」
一人の女性治癒士が、重傷者を背中で庇いながら、震える手で杖を構えて叫んだ。恐怖に涙を流しながらも、彼女の瞳にあるのは患者を見捨てないという気高き信念だった。
しかし、祈手は一切の感情を交えず、ただ最短の弾道で熱線を撃ち込み続けた。
結界を維持しようとした治癒士たちは、眉間を正確に撃ち抜かれ、倒れ際まで患者を庇うようにその身を投げ出した。彼女たちは、仲間が次々と物言わぬ肉塊に変えられていく中でも、決して心を折ることなく、最期の瞬間まで治癒の祈りを捧げ続けた。気高き信念を持ったまま、組織的な射撃によってその命を刈り取られていく。
治癒士部隊、完全沈黙。
「……治癒の断絶を確認。仕上げです」
回復を失い、炎に焼かれ続ける前線の重装部隊へ、今度は左右からの十字砲火が牙を剥いた。
それはもはや戦闘ではなく、完全に固定された標的に対する「処置」だった。融解して隙間だらけになった装甲の継ぎ目、兜のバイザーの奥、盾の死角。
一切の無駄がない光弾の連射が、オラリオの誇る重戦士たちの急所を次々と正確に撃ち抜いていく。
「ガァッ……! 側面が――ゴハッ!」
一歩も引かずに前線を支えようとした誇り高き重戦士たちは、誰一人として背中を見せることなく、両側面からの射撃によって全身を蜂の巣にされ、直立したまま物言わぬ彫像へと変えられていった。
魔法部隊が消え、盾たる重装部隊が足止めされ、その隙間から治癒士たちが狩り尽くされる。
英雄たちの連携という名のシステムは、ボンドルドの冷徹な機能の前に、今完全に解体された。
「おやおや。なんという不屈。……最後まで守るべきもののために立ち止まり、射抜かれる……。素晴らしい。これこそが、自己犠牲という名の愛の形ですね」
オッタルと刃を交えながら、ボンドルドの仮面が、かつてないほど恍惚と明滅した。
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和解ダンジョンの黎明を目指す
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全面戦争突入
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両方かけ(作者死ぬ)