『神々の箱庭に、黎明の光を』   作:もいもい130

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第7話

 

第24層、未到達領域。かつては冷徹な岩壁に閉ざされていたはずの空間は、今や異形の変貌を遂げ、ボンドルドの意志が脈動する「イドフロント」としての産声を上げていました。

ボンドルドは、瞳から光を失い、代わりに紫の燐光を宿して静まり返った「新しい家族」たちを見渡し、満足げにその肩を叩きました。精神隷属機(ゾアホリック)を通じた同調は、この世界の「術式」という補助輪を得て、かつてないほど強固に、そして滑らかに完了しています。

「……おやおや。素晴らしい。実に、実に素晴らしい。あなた方の肉体に刻まれたその『理』、そして私の『意志』。これらがこれほどまでに美しく混ざり合い、一つの旋律を奏で始めるとは。愛、愛ですよ。もはやあなた方は、ただの冒険者ではない。私の目となり、手足となり、ともに夜明けを見るための神聖な道具――『祈手(アンブラハンズ)』なのですから」

ボンドルドは、新造されたイドフロントの中央に立ち、完成したばかりの魔石動力炉を見つめました。拠点の拡張。それは、探求を加速させるための絶対的な必要条件です。

「そうですね。形を整えただけでは、まだ不十分です。この地における私の探求を支えるためには、あなた方にも相応の『器』を用意しなければなりません。アビスの深層を歩んだ私の技術と、この迷宮がもたらす未知の素材……それらを掛け合わせ、至高の装備を誂えるとしましょう。あなた方の献身に相応しい、汚れなき『白』の装束をね」

ボンドルドは右腕の枢機へ還す光(スパラグモス)を静かに滑り出させ、先ほど解体した階層主の残骸、そして壁面から剥き出しになった、真珠のような光沢を放つ希少な硬質素材へと歩み寄りました。

「さあ、作業を始めましょうか。イドフロントの拡張、そして祈手たちの再定義。……愛、愛ですよ。あなた方の肉体が持つ『恩恵』という名の出力を、最大限に引き出し、かつ私の意志を一点の曇りもなく伝達するための外殻。それこそが、この地における新たな祈手の姿なのですから」

ボンドルドが指先を動かすと、精神を共有した祈手たちが、一糸乱れぬ動作で動き始めました。彼らは自らの意志ではなく、ボンドルドの思考そのものとして、巨大な岩石を運び、魔力伝導率の高い金属を精錬し始めます。

スパラグモスの光が、迷宮の硬質な素材を粘土のようにこね上げ、アビスの探窟服に範をとった、洗練された**「純白」**の装甲へと作り変えていきます。しかし、それは単なる模倣ではありません。装甲の内側には、祈手たちの背に刻まれた「術式」と共鳴するように、微細な魔力回路が彫り込まれ、装着者の身体能力を神の恩恵以上に増幅させる「増幅外骨格」としての機能を備えていました。

「素晴らしい……! この世界の白い鉱石は、精神波に対する反応が極めて過敏だ。これならば、私が持ち込んだ遺物加工技術と組み合わせることで、アビスの時以上の性能を持つ『特化型祈手』を量産できるかもしれません。……おやおや、驚いた。この白い甲冑の継ぎ目に、この地の魔石を組み込むだけで、これほどまでに安定した出力が得られるとは」

イドフロントの壁面が、祈手たちの奉仕によって急速に削られ、拡張されていきます。居住区、広大な実験区、そして何よりも重要な「処置室」が、魔石の紫の光に照らされて姿を現しました。かつてはただの洞窟だった空間が、今や冷徹な機能美を湛えた、黎明卿の城塞へと変貌を遂げつつあります。

ボンドルドは、完成したばかりの、雪のように白い装甲と、特徴的な形状のヘルメットを一人の祈手に装着させ、その仕上がりを慈しむように検分しました。

「さあ、着替えてください。新しい服、新しい役割、そして新しい人生。……大丈夫。あなた方のこれまでの苦労も、積み上げてきた経験も、すべてはこの白い装束の中で、私の探求のために昇華されるのですから。……愛していますよ。あなた方の献身が、このイドフロントを完成させるのです」

白い仮面を被せられた祈手が、ボンドルドと同じ紫の光をスリットから漏らし、深々と一礼しました。一人の個としての死、そしてボンドルドという巨大な存在への合流。それは、この迷宮の歴史において、最も静かで、最も狂気に満ちた「白き軍勢」の誕生でした。

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