『神々の箱庭に、黎明の光を』   作:もいもい130

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白い液体を振りまく黒ずくめとか変態かと思ったがボンドを振り回してる時点で変態だからヨシッ!


ギャグ回

漆黒の外套を翻し、第18層の木漏れ日の中に佇むその男、黎明卿ボンドルドは、今までにないほど深い、悦びに満ちた吐息を漏らしていました。

「……おやおや。素晴らしい。実に、実に素晴らしい。この世界の叡智、そして職人たちの情熱……。愛、愛ですよ。これほどまでに私の探求心に寄り添い、かつ『接着』させてくれる物質に、まさかこの地で出会えるとは」

彼の目の前には、第18層の売店で「便利グッズ」として叩き売られていた、黄色い容器に赤いキャップの不思議な液体が鎮座していました。ラベルには、この世界の文字で**『木工用ボンド』**と記されています。

ボンドルドは、その容器をまるで特級遺物でも扱うかのように恭しく掲げ、仮面のスリットを激しく明滅させました。

「私の名はボンドルド。そしてこれは……ボンド。……おやおや。これはもはや、運命という名の呪い(ギフト)に他なりませんね」

背後で控える純白の祈手(アンブラハンズ)たちが、一斉に首を傾げました。しかし、彼らの精神はボンドルドと共有されています。彼らの脳内にも今、凄まじい熱量で「ボンド」に関する考察が流れ込んでいました。

「皆さん、見てください。この液体の粘性、そして乾燥した際の透明度。……素晴らしい。これならば、枢機へ還す光(スパラグモス)でほどいてしまった肉体や魂も、物理的に繋ぎ止めておけるかもしれません。……愛、愛ですよ。失われた絆を、再び白濁した液体で接着する。なんと慈愛に満ちた工程でしょうか」

ボンドルドは、おもむろに近くにいた祈手の肩に、ドロリとした白い液体を塗りたくりました。

「……おや。乾燥するまでは、少々心許ないですね。ですが、この『待ち時間』こそが、愛を育むための儀式。……さあ、協力してください。祈手の皆さん。私たちのイドフロントを、この『ボンド』で一つに固めるのです」

そこからの光景は、第18層の住人たちにとって、生涯忘れることのできない悪夢、あるいは喜劇となりました。

漆黒の黎明卿が、黄色い容器を両手に持ち、通路や岩壁、さらには通りかかった冒険者たちに向かって、執拗に白い液体を振りまき始めたのです。

「おやおや、逃げないでください。これは祝福ですよ。……さあ、あなたと、そこの岩壁を接着しましょう。……愛、愛ですよ。離れ離れになる悲しみは、この私が、このボンドで塗り潰して差し上げます」

「や、やめろ! 何なんだこのベタベタする液体は!」

「助けてくれ! 黎明卿が……黎明卿が、ボンドを絞り出しながら追いかけてくるんだ!」

冒険者たちの悲鳴が楽園に響き渡ります。しかし、ボンドルドの足取りはどこまでも優雅でした。彼は**月に触れる(ファーカレス)**の触手の先にボンドの容器を器用に巻き付け、まるで精密な外科手術を行うかのような手際で、逃げ惑う人々の背中に「愛」を注入(接着)していきます。

「素晴らしい……! この速乾性。私の精神隷属機(ゾアホリック)と、このボンドの接着力。……どちらが先に、あなた方の心を捉えるでしょうか。……おやおや。キャップを閉め忘れると、先端が固まってしまいますね。これはいけません。探求には、常に細心の注意が必要なのですから」

彼は一度立ち止まり、赤いキャップを丁寧に、慈しむように閉め直しました。その姿は、まさに黎明を待つ求道者そのものでした。

数時間後。第18層の入り口付近には、奇妙なオブジェが大量に完成していました。

互いの背中合わせで接着された冒険者たち、岩壁にボンドで固定されたモンスターの死骸、そして、全身を白く塗り固められ「接着の完了」を待つ祈手たちの列。

ボンドルドは、その光景を満足げに眺め、再び深い吐息をつきました。

「……おやおや。ついに、私とこの世界は一つになれたようです。……愛、愛ですよ。これからは、私を『木工用黎明卿』と呼んでいただいても構いませんよ。……さあ、次は誰を、私の愛で『圧着』して差し上げましょうか?」

仮面の紫の光が、未開封の特大サイズ(3kg入り)のボンドを見つめて、妖しく輝きました。

イドフロントの最深部では、今や建築資材すらボンドで代用しようとする、狂気の「DIY」が始まろうとしています。

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