憑依者しかいないゲマトリアがキヴォトスの破滅を回避しようとする話 作:シャンタン
世の中に画期的な考えが創造されることがあるように、世の中には考えつくが創造されないものも存在します。これは、考えついたとしても、価値がないなとすぐに考えが及び、形にされないものとなります。これは、そんな「どうして作った」と言える作品です。
なお、間違えてR18で投稿しましたが、削除したので初投稿です。(1敗)
ゲマトリアの会議で全員立ってるけど、なんで座らないんだろうね
「私の報告は以上となります。なにか質問はあるでしょうか」
スーツを着た男が語りを終える。顔に亀裂が入っており、その亀裂から怪しい光が漏れ出ている。
「なさそうであれば、次に回しましょう。なにか報告がある方はいますか?」
円卓の周りに立つ人影に、亀裂の入った男が問いかける。この男も十分に不気味な姿をしているが、その場にいる全員もまた不気味な姿であった。木製の頭部が2つある異形。赤い肌に複数の目がある異形。頭部が黒い靄となっている異形。まともな姿をした人物はその場にいなかった。
「報告はないのですが、皆に相談があります。先によろしいでしょうか」
「そういうこった!!」
頭部が黒い靄となっている異形が持っている人物画から、男性の声がきこえてくる。人物画には男性の後ろ姿のみが写っているようで、声が聞こえてくることからも、ただの人物画ではないことが伺える。
この異形の集まりこそが、学園都市「キヴォトス」で活動する組織「ゲマトリア」である。
亀裂の入った黒い顔を持つ男性「黒服」
木製の双頭を持った男性「マエストロ」
赤い肌をした多眼の女性「ベアトリーチェ」
背を向けた男性の人物画「ゴルコンダ」
そういうこった!!「デカルコマニー」
いずれも「崇高」という手段をもって、「色彩」に対抗することを目的とした組織で
「私は問題ない。そも、作品のインスピレーションを得られる事柄がなく、進捗が芳しくないゆえ、報告がない」
「私も問題ありません。私の方では報告がありますが、長くなるでしょうし、ゴルコンダの相談の後でいいでしょう」
そう、組織の意義は過去のものとなっている。本来であれば「ゲマトリア」という組織は、真意はどうあれ「色彩」に対抗するため、それぞれ独自の手法で崇高を表現し、色彩に対抗するための組織であったのだ。
「ありがとうございます。では、申し訳ないのですが知恵をお借りしたい」
現在は、その手段は形骸化されてしまっている。その理由は…。
「記号と
「まあそういうこった!!」
デカルコマニーの言葉が虚しく響く。そう、本来であれば「ブルーアーカイブ」という物語の敵役であった「ゲマトリア」の大人たちは、この世界には存在しない。
「やはり、原作通りには上手くいかないようですね」
「仕方あるまい。そも、我々が観測していた範囲では言葉こそ出てきたものの、どういったものかの説明はされていないのだ」
「慰めの言葉、痛み入ります。しかし、他の者は成果をあげてきている以上、不甲斐ないばかりで申し訳ないのです」
「そういうこった!!」
「そもそも、記号とテクストに拘る必要があるのですか?原作通りアリウスを治めた私が言えることではないですが、ヘイローを破壊する爆弾などいらないでしょう。マエストロの
「さすが、悪用していた者がいうと説得力が違いますね」
「うるさいですよ!!黒服!!そもそも悪用していたのは原作の私であって私ではありません!」
やりとりからもわかる通り、この場にいる全員が憑依者なのである。原作開始前から先生大好きクラブの可能性でてきたな?
「落ち着いてくださいマダム。確かに、ヘイロー破壊爆弾は活用しづらいでしょう。しかし、原作のベアトリーチェを異空間に追放した技術だけでも再現したいのです。あれがあれば、様々な脅威に時間稼ぎできる可能性があるのです」
ゴルコンダが激昂したベアトリーチェを止める。しかし、ベアトリーチェが反論したくなるのも仕方ないのである。原作の所業を忌避する今のベアトリーチェにとって、唐突に背中を刺されたようなものであるからだ。
「マダム、申し訳ない。口が過ぎました。しかし、ゴルコンダの意見には賛成です。何の用途に使うにせよ、手札が多いことに越したことはありませんから」
「それに、完成形が見えているということも重要だ。それが確実に作成できる環境であることが証明されている以上、作らない選択肢も無いだろう」
「そうは言いますが、既に着手から8年以上経っているでしょう?サオリが今年度、アリウス分校に入学した以上、猶予は2年もないのです。
それに、ゴルコンダは記号やテクストを用いれずとも、デカルコマニーとの共同で機械いじりによって十分に貢献しているでしょうに」
錠前サオリ。原作にてアリウススクワッドという実働部隊のリーダーであり、原作では、留年して2年生となる。つまり、今年度は留年することが運命付けられた生徒である。マダムは留年を阻止しようと、サオリを気にかけることが増えているようだ。
ある日突然キヴォトスに放り出されたゲマトリアのメンバーからすれば、原作がやっと始まるのである。しかし、ゲマトリアが発足してから10年以上たっており、残り2年で原作開始。猶予はあまり残されていないと言えるだろう。
「まさに、マダムの言う通りなのです。原作の脅威に対抗するため兵器開発に勤しんでいたのですが、残り時間はあまり残されていない。そもそもマダムに色彩を呼ぶ気がない以上、色彩が来ない可能性もありますが、強制力や修正力とも呼べる理不尽が降りかからないとも限らない。しかし、成果が出ない以上、諦めるべきなのでしょう…」
「そういうこったぁ」
背を向けている画であるがゆえに表情は伺えないが、落ち込んだ雰囲気は明確に伝わってくる。心なしか、デカルコマニーの声にも元気が無い。
「もともと、一縷の望みにかけていただけですから諦めることにしましょう。マエストロ、黒服、デカルコマニー、後ほど協力していただきたいことがあります。原作にはありませんが、作製に挑みたいものがあります」
「私は構わない。しかし、先にマダムの報告を聞くべきだろう。ゴルコンダの相談のために後回しにしていたが、本来であれば報告会であったはずだ」
「マエストロの言う通り、マダムの報告を先に聞いてから話し合いましょうか。もちろん、協力を惜しむ気はありませんよ」
「そういうこった!!」
「それもそうですね。マダム、申し訳ございません。報告をお願いします」
「ええ。構いませんよ」
先ほどまでの緩んだ雰囲気から一変し、元の怪しげな空気が戻ってくる。ベアトリーチェが一呼吸おき、話し始めた。
「私からの報告は、黒服が作製した神秘保管パックについてです。アツコが持つロイヤルブラッドを、アツコへの負担が極力ないように利用するために血液の保存ができないかの試みでしたが、一定の成果が望めました。黒服が提案してきたときは、正気を疑いましたが…」
「それは良かった。こちらでもある程度の実験は行っておりましたが、ロイヤルブラッドまで保存できるかは未知の領域でしたからね。これで原作開始までに、十分な量のロイヤルブラッドを集められるでしょう」
秤アツコ。かつてのアリウス分校生徒会長の血筋であり、原作にて生贄とされた生徒である。また、先生達の活躍により救出はなされたが、救出後も逃亡生活を送るなど、ベアトリーチェに人生を歪められた者の一人だろう。そもそも、アリウス分校の生徒全員がベアトリーチェによって人生を狂わされており、救われたといえども、何の慰めにもなりはしないだろう。
「しかし、実験の最中、想定外のことが起きました」
「想定外か…そもそも、マダムはロイヤルブラッドが保存できていることをどうやって検証したのだ。ロイヤルブラッドは確かに貴重な神秘であるが、ロイヤルブラッド自体を観測する手段は確立されていなかったはずだが」
マエストロが疑問を投げかける。かつてのアリウス分校生徒会長の血筋ゆえに、ロイヤルブラッドはアリウスにおいては意味のある役割をもっていたが、特定の神秘の機能があるとされていたわけではない。そのため、ロイヤルブラッド自体が保存できており、問題ないかの判断基準が曖昧なのである。
「マエストロ、良い質問です。先に答えを見せましょう。」
そう言うと、ベアトリーチェは円卓から少し距離をとる。そして、少し体を前にかがめた。程なくしてミシミシとベアトリーチェの体から異音が始まり、体を震わせ始めた。
「マダム、一体何をしているのだ。その力を解放すると、マダム自身が巨大化するだけで、特筆すべき点はなかったはずだが」
「ふむ、ロイヤルブラッドを用いることで、何か変化が起きたということでしょうか」
「可能性はあるでしょう。原作のベアトリーチェは生徒会長という立場で、ロイヤルブラッドを用いて崇高に至ろうとしていました。しかし、マダムは生徒会長としてではなく、校長としてアリウスを運営しています。姿かたちに原作との乖離が起きてもおかしくないでしょう」
何も言葉を発さず、うつむいたままのベアトリーチェ。次第に、異音と体の震えが止まると、突如として、赤い煙を放ち始めた。
「これは…」
「クックック。興味深い。以前に見せていただいたときには、煙を出すなどということはなかったはずですが」
「やはり、何か変化が見られたのでしょうね」
「そういうこった!!」
やがて煙が薄くなり、ベアトリーチェの姿が露になる。
スプリンクラーも煙を検知して水を出して回り始める。各々、原作で反応しそうなセリフを話し空気を作っているが、スプリンクラーのせいで台無しである。
「お待たせしました。想像の通り、私の力に変化が起きました」
そこには、辛うじて原型を残したベアトリーチェの姿があった。
肌は深い赤――血や炎を思わせる色合いで、光を受けるたびに鈍く艶めき、生きた象徴のような存在感を放っている。人のものに近い滑らかな輪郭を持ちながらも、その色調だけで彼女が人ならざる者であることを雄弁に語っていた。
背には一対の翼。羽根は大きく、重なり合い、静かにたたまれている。闇を切り裂くためではなく、天と地の境界に留まるための翼のように見える。動くことなくそこにあるだけで、周囲の空気が張り詰める。
頭上には輪が浮かぶ。金属でも光でもない、概念そのもののような輪。触れられぬはずなのに、確かにそこに存在し、彼女の神性を静かに証明している。揺れることも、回ることもなく、ただ完全な位置に収まっている。
陳腐な表現で言えば、女神のような姿となったベアトリーチェがいた。水滴によって、そこはかとなく妖艶な空気が漂っている。
「何故か、このような姿となりました」
スプリンクラーの回る音が響く中でベアトリーチェが呟く。しかし、想定外の事態すぎて、誰も発言ができていない。ゲマトリアとして活動していく際に心掛けているなりきり演技も崩れそうである。
「どういうこったぁ!!」
デカルコマニーが全員の代弁を行っていた。
いいから早くスプリンクラー止めろよ。
みんなも設定が正しいか確認してから投稿しよう!