憑依者しかいないゲマトリアがキヴォトスの破滅を回避しようとする話 作:シャンタン
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かつて自治区として機能していたその場所は、今や地図の上では存在していても、実際には"切り離された領域"のように静まり返っていた。崩れた外壁、弾痕の残るコンクリート、傾いた街灯。道路には割れたアスファルトの隙間から雑草が伸び、無人となった建物群の間を、乾いた風だけが行き来している。
看板は色褪せ、かつての標語や校章は判別も難しいほど剥がれ落ちていた。どこかで落ちた鉄板が、風に煽られて不規則に鳴る。
校舎は、まだ形を保っていた。だが窓ガラスの大半は砕け、カーテンは裂けた布のように外へはみ出している。まるで、ここから逃げ出そうとして途中で力尽きたかのように。
足を踏み入れれば、砂と埃が靴底にまとわりつく。人の気配はない。だが、不思議と"視線"のようなものだけが残っている。かつてここにいた誰かの記憶が、壁や床に染み付いて離れない。
――自治区としての機能は、もうどこにも残っていなかった。
しかし、その校舎の一室には、人影が存在した。
この場には不釣り合いな少女が、両手で少女を抱き締めながら座っていた。そして、頭のない異形が立った姿のまま対峙している。
「どうでしょう?悪い話ではないと思いますが。これから非公認地区として、発展させていくのでしょう?支援はいくらあっても良いと思われますが?」
「それはそうなのですが···フィリウスの君。貴女が来訪した理由を、未だに理解しきれていないのですが···」
「そういうこった」
何のことはない。ただのゴルコンダとデカルコマニーである。
そして、対峙する少女達は。
「ほら、汝さんも困ってるし、離してくれない?」
「どうして逃げようとするのですか?」
「いや······あのね?椅子が2人に2人分あるんだ。だったら一緒に座らなくて良くないかい?」
原作開始の2年前にて、フィリウス派ホストを担う、自称咎人の少女。心なしか瞳が暗く感じる。
そして、自他共に認める、フィリウス派ホストの"弱点"である、トリニティを退学した少女。心なしか顔が赤い。
「私の上に座るのに不満があると?昔は良く一緒に座っていたでしょう?」
「その······違くてね?不満がある訳じゃないんだ。ただ、汝さんが見てるから恥ずかしくてね?」
「ほう······私との触れ愛より、Mr達にどうみられるのかのほうが重要であると?」
「だから違くて······なんかニュアンスおかしくなかった?」
謎の地区の管理者となり、自分等が連れ去ることとなった者達が、元気に暮らせそうな場所ができたのは喜ばしい。
しかし、所在が分かったために、突撃してくるのは予想だにしていなかった。
ただ、上に座っている少女が、触れ合い自体に不満がないのはその通りなのだろう。ホストの少女が腕に回している力は弱く、いつでも抜け出せる力でしかない。
ともすれば、大事な宝物を壊さないようにしているようでもあった。
「妬けてしまいますね···貴女のために、ホストの席にまで座ったというのに······」
「えっ······なにそれ知らない」
「言ってませんでしたから。···それでも、全て無駄な時間でしたが······」
いつでも悔いは後からくる。
それでも、まだ次に活かすことができる。
今までの無駄なんかを捨て去ってしまって、この子の為に、残りの時間を費やそうか···そんな、誘惑を断ち切れない。
「無駄なんかじゃないよ。決して無駄なんかじゃない。何よりも、絶対に無為な時間じゃなかった」
1度立ち上がり、少女が真正面から座り直す。
対面で座った少女が、頬に手を置き、目と目を合わせる。
突如、対面で座られた少女は、どうすれば良いのか分からず、虚空に手を放っている。
向き合って座る2人は、逢瀬を重ねているように見えた。
顔を赤くしながら、互いに真剣な表情で見つめ合う。少女達にとって、ネットを介さない、久しぶりの語らいだった。
「君も知っての通り、僕は我が儘なんだ。そんな僕が、離れていった君を、黙って見ていた理由を知っているかい?」
「いえ···」
「そりゃそうだ。僕も言ってなかったからね。おあいこだ」
いたずらっぽく、少女は笑う。
親友と本心を語れるのはいつぶりだろうか。
いまでは遠い席に座っている、親友と。
惚けた顔で、少女は見つめる。
元々の一人称を聞いたのはいつぶりだろうか。
初等部に入ってから聞かなくなった、親友の一人称を。
「君に捨てられたと思ったから?···違うな。君がそんな人じゃないことは、誰よりも知っている」
「···」
「君の隣に立てないと思ったから?···そうかも知れないね。君も知っての通り、僕は不器用で面倒くさがりだからね」
「······」
「だけどね?そんなことは一切関係ないんだ。黙って見ていた理由は、ただの度し難い、感情の発露なんだよ」
「·········」
「僕の親友はこんなにも凄いんだぞ!!って皆に知ってもらいたい。そんな、幼稚な考えなんだよ」
頬から親友の手が離れていく。
放してしまった手で、離れていく手を止めたい。それを何とか抑え、ただ抱き締める。
生きていることを確かめるように、抱き締める。都合の良い夢を見ていないかと、存在を確かめる。
枯れたと思っていた物が、目からこぼれ落ちて止まらない。
「貴女は···貴女はまだ······私のことを、親友だと言ってくれるのですね」
「当たり前だろう?君が嫌だと言っても、僕は親友を止める気はないぞ」
抱き締められた少女も、背中に手を回す。
親友が流した物を見ないように、そっと手を回す。
唐突な百合に、動揺を隠せないゴルコンダ。正面?背後?のデカルコマニーの気配遮断が上手くなりすぎて、存在を感知できなくなってきた。
本当になぜ、自分達は呼ばれたのだろうか···
「では···なぜ?······なぜ、私を置いて行ったのですか?貴女と行けるのならば、ゲヘナでさえも受け入れたのに」
「決まっているだろう?僕は"弱点"と呼ばれても、君の"汚点"になる気はなかったからだよ。君に対しての人質になるくらいだったら、君の派閥の子達の提案通り、自主退学ぐらいするさ。
それに、ゲヘナを悪く言うもんじゃないよ?関わってみると、いかに偏見を持っていたか分かるからね!」
フィリウス派ホストを陥れるための都合の良い弱点。他の派閥からすれば、ただの丁度良い的であった。
自分等の派閥で隠蔽した罪を擦り付け、フィリウス派ホストの行動を制限する。そんな、普通のトリニティ仕草だった。
それを察知したフィリウス派の部下達は、"弱点"を切り捨てた。判断が出来ないであろうトップの代わりに、"弱点"が責任をとって自主退学という形に持っていく。そんな、普通のトリニティ仕草だった。
「それと、君の部下の子達を責めないでくれよ?あの子達が慕っていたのは、君であって僕じゃない。それに、退学後の手引きまでしようとしてくれてたんだ。まぁ、見栄を張って断って、めちゃくちゃ後悔したけどね!」
「責められるわけ無いでしょう···私の不始末をつけさせて、『罰は如何様にも』と言われて、罰せられるわけないでしょう。······手引きを断られたことについては、部下も困惑しておりました。『決断の早さから、用意があるのだろうと手を引いたのに···』と」
互いに嵌められそうになっていたというのに、互いに寛容であった。
もしくは、"利用される方が悪い"といった、トリニティ仕草が無意識下にあるのかもしれない。ゲヘナへの偏見のように。
そして、退学事件のことは、過去のこととして、互いに何とか消化できている。
ホストの少女からすれば、自分の不手際でもあるし、親友にトリニティがあっていないことを理解している。
親友と金輪際会えないとなれば、どうなるか分からなかっただろう。
しかし、親友は今も生きている。
そして、新たな場所で笑顔になれている。あの、自身を助けてくれた不器用な笑顔を浮かべられている。
今はそれだけで良かった。
"弱点"の少女からすれば、トリニティを抜け出すチャンスであった。そして、家と縁をきって迷惑をかけないようにもした。
親友には心配をさせるかもしれないが、1人でも生きていけるという、根拠の無い自信だけはあったのだ。
外を甘く見て行き倒れ、汝さんに助けられていなければ、冷たい骸になっていただろう。
しかし、今は笑って、生きたい姿で生きられている。
今はそれが良かった。
ゴルコンダからすれば、このキヴォトスの無情さを嘆きたくなる内容だった。少女を助けていない世界線を想像してしまう。
親友の為に派閥のトップにまでいったというのに、その立場故に親友が切り捨てられ、冷たい骸となったことを知る···余りにも救いがなかった。
今はないはずの胃が痛かった。
デカルコマニーからすれば、唐突な百合を観測してしまい、オーバーフローしそうな内容だった。互いに重い矢印を向けながら、互いが大事が故に、その矢印を誤った形でしか表現できない。幼馴染という関係性だけではすまない、そんな思慮を察していた。
今は壁と化すのに必死だった。
「それで、どうしてここに来たんだっけ?」
一区切りついたと判断した少女が、改めて問い掛ける。姿勢を戻そうとするが、背中に回っている手の力が強すぎて抜け出せない。
「そうでした···申し訳ありません。Mr.ゴルコンダにMr.デカルコマニー。勝手に盛り上がり、蚊帳の外としてしまい···」
本題を改めて投げ掛けられ、少女の顔に熱が集まっていく。抱き締めている少女がモゴモゴしているが、自ら来てくれたので、離すつもりなどない。
「いえ···お構い無く······」
「そういうこった!」
そう発言するしかなかった。馬に蹴られる気などさらさらなかった。
「今さらではありますが、本題に戻りましょう」
「えっ···このまま進めるの?抱き合ったままで?」
「親友の様子をみたいという事情と、1つの提案をしに参った次第です」
「おーい?聞こえてるかい?」
「うるさいですね。その口を塞いで欲しいんですか?今だと、何をするか分かりませんよ?」
手を口に持ってきて、バッテンを作る少女。どうやら、黙ることを受け入れたようだ。
「それで、提案していたメゼラ支援とは何でしょうか?」
「どういうこった?」
何とか流れを修正しにいくゴルコンダ。もはや手遅れな気もするが、早く2人にしてあげたいという思いも相まって、本人は真面目である。デカルコマニーも何とか切り替え、便乗する。
「はい。具体的には、私が持つ人脈をMr達にご紹介したり、資金援助などになります。Mr達の担当地区では、様々な自治区の文化を扱った場所にする予定なのでしょう?」
「ええ。そのようですね。なぜか、私の管理地区となった者達は、元々いた自治区が違う者が多いですから。その特色を活かそうとしているようです。
···もっとも、伝手があるわけではないので、難航しているようですが」
黒服が突如として立ち上げた、謎の非公認自治区メゼラ。実態は、黒服のユメ捜索へと協力した者達への返礼である。
ピックアップした3つの廃校と、その近隣の土地まで買い取った場所だ。小さな三角形を型どり、ブラックマーケットを小規模にしたような土地へと最終的にはなっている。
もう近隣には人も住んでおらず、企業も開発の見込みは無いと判断していた。どのくらい前に存在したのかすら忘れ去られた、廃自治区であった。
路線すらも繋がっておらず、荒廃した自治区という言葉がふさわしい、朽ちた場所であった。
それらを買い取り、少女達に開発を提案したのが、変な異形の大人達である。
あるいは、そんな廃自治区だからこそ、土地と関係ない大人でも買い取れたといえる。
そんな自治区の開発計画は、管理者によって異なっている。
黒服の管理地区に集まった、黒服組。
元ミレニアム生徒の技術を基盤とする予定であった。
装備開発から便利な日用品まで製造し、技術習得もできる技術系地区にしようかと考えている。
ゴルコンダとデカルコマニーの管理地区に集まった、汝さん組。
それぞれの自治区の文化を組み合わせ、混合文化を生み出す予定であった。
食事処から娯楽施設を建て、文化·芸術イベントを開催し、商業系地区にしようかと考えている。
マエストロの管理地区に集まった怪物組。
元ゲヘナの面々が大半を占めており、他の組に比べ荒事専門の者が多い。そして、"雷帝"に切り捨てられた、元風紀委員の生徒も多数いる。
その戦闘力を活かして、治安維持と傭兵稼業を行い、戦闘系地区にしようかと考えている。
そして、3つの区域を挟んだ場所に、生活に必要なものを整えた、でかい倉庫が建設予定である。
それぞれ、こんな感じかな?という曖昧な指標で決めた立ち位置であった。良い案があればそっちも検討しようという、雛型とすら呼べない構想だ。
当たり前である。土地を与えられて、すんなりと構想など思い付かない。むしろ、方向性が決まっているだけ十分だろう。
この構想は、それぞれの管理者が、求められた時だけ助言を行い、少女達が決めた方向性であった。
黒服の当初の案では、廃校の体育館を、でかい倉庫のモデルベースとする予定であった。つまり、文化祭などで行われる、出店の集合体のようなものだ。
しかし、体育館は少女達自身の作業拠点とし、少女達は、周辺の土地をガッツリ開発するつもりであった。こんなに期待されている!と感情で動き出している。
黒服の言葉によって、頭が少々ウェルダンとなってしまった者が多い。異形の大人達の資金リソースなども、ある程度なら予算として使って良いと言われ、経営計画まで立てている。
メゼラ自治区を、ガッツリ開発するつもりであった。
もはや止まらない暴走列車である。止めるべきはずの大人達が、経営計画のダメ出しなどの助言や、経験がある事柄へのアドバイスしかしないため、正真正銘止まらない。
そして、互いに協力を前提にしている。それぞれの担当地区ごとに、製造の要、商業の要、防衛の要という役割分担を予定している。また、これらの培った技術や経験を、他の管理地区にも流用するのに抵抗がない。ここに、ゲマトリアメンバーも手を貸すのだ。
少女達が望めば、屁理屈を捏ねながら手を貸す大人達が。
方向性とやる気で、列車だけを作ったようなものだ。過程が疎かで、レールのない列車である。
明らかに頓挫する。
つまり、現地点での自治区開発など、成功する余地の無い計画であった。当たり前であるが、成功するようなめぼしい土地であれば、廃校になどなっていない。現段階より、具体的な構想が必要となる。
スタートアップというには過剰な人員と、執念ともいえるやる気、資金提供に躊躇いの無い変な異形のスポンサーはいるが、それだけで経営というものは成り立たない。
何よりも必要な人脈という伝手がないため、自治区開発のスタートアップをきるのは、当分先となる予想であった。
これなら、現実的な段階に持っていく頃には、"先生"が来訪しているだろうと、ゲマトリアメンバーは判断していた。
現実的に廃自治区を、開発や発展するなど不可能なのだ。
そう、親友の為にホストにまで上り詰めた、怪物などいなければ······
「いかがでしょうか?汝さん組の子達とは少し話をさせていただきましたが、案自体は悪くないものも多いです。···キッチンカーレベルならですが。
経常利益に甘い点が多いです。そこは、スポンサーがMr達と私です。余計な横槍を入れられることは少ないでしょうし、どうとでもなります。
しかし、人を呼び込むという力が圧倒的に欠けております。なので、そこを私の伝手で補えば、多少は勝負となるでしょう」
「その、正気でしょうか?いえ、支援の意思を疑うわけではないのです。ただ、その過剰ともいえる支援は、明らかに貴女の立場を悪くします。正直、ここに来るだけでも、相当なマイナスなのでは?」
風向きが変わってきている。荒唐無稽だった話に、現実味を纏わせようとしている。
「ええ、トリニティのフィリウス派ホストとしては、変な団体への支援など、やるべきでは無い行いです。また、ここに来ることさえも、トリニティを売るという政略にされるでしょう。ですが、私の目的はそこではありません」
学園の経営に口を出すことも可能である怪物が、少女の幼馴染みという立場だけを重視して、介入しようとしている。
「ただ、この子の様な者が存在を赦される、甘い夢の様な場所。そんな場所に、夢を見ただけなのです。だから、この子のためならば、立場なんて要らないのですよ。それこそ私は、トリニティの"悪"にだってなってみせましょう」
少女が、抱き締めた少女の肩に頭を乗せる。ただそこにある幸せを享受するように抱き締めしめていた。
唯一の宝物のために、トリニティから捨てられるだろうという、覚悟を決めていた。
「「···」」
余りにも重たい言葉に、ゴルコンダとデカルコマニーは声が出なかった。
こちらから見えないが、抱き締められた少女は誇らしげにしている。親友のために退学を決める少女も、似たような者であった。
「これが、私に考えつく贖いなのです。トリニティを変えられずとも、取り零した者が生きていける環境を創ることで、私は自身の咎に向き合おうと思います」
「承知、致しました。私とデカルコマニーは、この管理区域に口出しをするつもりはありません。ですので、詳細は彼女達にお願いします」
「そういうこった」
気圧された。間違いなく、少女の雰囲気に飲み込まれていた。
ゴルコンダには、最低限のことを伝えるので精一杯であった。
「拝命致しました。といっても、私は初動の流れを作るだけですが。とりあえず、汝さん組の協力は得られました。成功させるには、彼女達の力こそ不可欠です」
「であれば、問題はないでしょう。彼女達の執念には驚かせられますから。それに、失敗したとしても、彼女達の人生にとって、無駄にも無為にもならないでしょうから」
「そういうこった!」
「ふふっ。私などよりも、Mr達の方が正気ではないのでは?普通は失敗しても良いなど考えませんよ?ましてや、こんな大掛かりなことをしているのですから」
こんな非公認自治区開発計画などという、イカれた話に関係した者は、全員正気ではないだろう。下手をしなくとも、連邦生徒会に睨まれるのだから。
「生憎と、お金などへの執着が減ったからでしょうね。自身の優先順位を考えたときに、彼女達が上にきただけですよ」
「そういうこった!!」
「ええ、ええ。Mr達が居るのならば、悪いことにはならないでしょうね。なんとなく、そう思います」
生命活動にお金を必要としない者達と、生命活動より優先すべき者がいる、ヤバい奴らの会話であった。
「えっと···真面目な話は終わった感じ?それなら、どんなことを計画してるのか、内容を聞いておきたいんだけど。僕だけ『親友に直接サプライズしてもらえ』って、なんにも聞けて無いんだよ?酷くない?」
「ええ、もちろんです。我慢できて偉かったですね」
静かにしなくても良いと、判断した少女が問いかける。
また、話の内容からも、仲間内での不和は無いように思える。
幼馴染みとはいえ、部外者ともいえるホストの少女が関わったにしては、受け入れられてそうな雰囲気である。
「実は、支援の初動の動きとして、モモフレンズの劇団による野外劇を手配予定です。少し、宣伝もしておきました」
モモフレンズ。それは原作にて登場する、モモグループが経営する、ファンシー?なキャラクターブランドのことである。誰でも知っているといった知名度は無いが、熱狂的とまでいえるファンも存在する。
一概に評価できないものこそが、モモフレンズである。
原作にも、モモフレンズのライブを参加するためだけに、テストをサボった存在もいる。
「え!!モモフレンズの劇をやるのかい?!いいないいな僕も見たい!!」
「ふふっ。貴方もモモフレンズが好きでしたからね。貴女にも、Mr達にも席を用意しております。楽しみにしておいてくださいね?」
どうやらサプライズとは、モモフレンズの劇団の野外劇のようだ。やはり、正気とは思えない。
「すみません。口を出すつもりがないと言った後で申し訳無いのですが、なぜモモフレンズの劇なのでしょうか?」
ゴルコンダも理解が及ばず、前言撤回して質問を行う。
自治区開発とモモフレンズが繋がらなさすぎるのだ。
「当然の疑問でしょう。理由は主に3つ。
1つ目は、場所を問わないで集客が多少見込める為です。モモフレンズは知名度こそ無いですが、一部に熱狂的なファンがいます。その一部をターゲット層とし、彼女達の接客経験を身に付けられるよう、イベントに関わってもらいます。もっとも、劇に参加するのではなく、設営や商品販売などですが。
百鬼夜行の元生徒達の、お祭りの屋台を参考にします。そうすれば、彼女達の考えた物で、多少の商品販売もできるでしょう」
1つ目の考えは、モモフレンズファンによる集客を狙ったものだった。
モモフレンズであれば、廃自治区といった不利を度外視しても、来客を見込めると怪物は判断した。
そして、モモグループに打診し、取り引きを成立させてきたのだ。
「なるほど···勝算は低そうですが、経験といった意味では、間違いなくプラスですね。2つ目の理由をお伺いしても?」
「もちろんです。2つ目は、この寂れた元自治区の雰囲気すら利用し、演劇を行えるのがモモフレンズだからです。モモフレンズはアニメこそ可愛らしいものが多いですが、映画等には独特な深い世界観を構築します。
つまり、廃自治区だからこそ使える、荒廃した世界観を演出します。観客の見る場所を綺麗に整備してしまえば、多少の不快感は軽減できます。そして、その不快感が許容内であれば、一種の演出に昇華できます。
視覚的な舞台を作成する手間を多少省くことで費用を抑え、演出は現場のものを多く利用します。これによって、このメゼラしかできない、荒廃された世界観での、モモフレンズの野外劇を行うのです」
2つ目の考えが、モモフレンズと荒廃した自治区のコラボレーションに期待してのものだった。
原作にて、内容の詳細が無さすぎるため真意は不明であるが、アニメ以外は深い内容であるらしい。
「凄い!凄いよ!!えっ!?ホントにそんなのが見れちゃうの?!絶対に行く!!!」
「このように、モモフレンズファンであれば、世界観の期待込みで来客が見込めます。あとは広告次第ですが、他で見たことのない試みでもあります。来場者の拡散が上手くいけば、モモフレンズファン以外の来客も見込めるかもしれませんね」
「この廃校という
舞台を作成して演出するのではなく、元からあった場所を舞台として、世界観演出の一部とする、野外劇を活かした考えであった。
言うだけであれば簡単であるが、スケールの大きい話である。
「はい。3つ目は、多様性のある世界観を許容できる作品が、モモフレンズだからです。この地区は、現段階では寂れて荒廃という言葉が似合っています。しかし、それぞれの管理地区ごとに、今後は特色が出てくると思います。
例えば、黒服組の皆さんの管理地区では、近未来観。怪物組の皆さんの管理地区では、傭兵などの武力が主体となって生きる裏社会観。せっかくなので、将来でるであろう特色を利用してしまおうかと。
本来であれば、これらの特色は様々な場所で見られるものです。近未来であれば、ミレニアム。裏社会であれば、ブラックマーケットなどでしょうか。しかし、これらは自治区同士の干渉問題であったり、治安の問題などで気軽に体験できるものではありません」
3つめの考えが、その野外劇による拡張性に期待してのものだった。最初は荒廃した世界観を押し出していくが、元々は別々の自治区にいたという、メゼラ地区の特色を活かしていくようだ。それぞれの場所の文化を融合させ、キメラのような世界観が体験できる野外劇。割と、話題性だけならありかもしれない。
モモフレンズがノイズと思えるのは、気のせいだろうか?
「つまり、黒服やマエストロの自治区でも、モモフレンズの劇を開催すると?」
「はい。ですが、そこで終わるつもりはありません。」
「どういうこった?」
流れが不穏な方向にいったことに気付いたデカルコマニー。
思わず問いかけてしまった。
「仮に自治区を経営するとなれば、秘匿事項や機密の問題で実現できませんが、学籍を持たない彼女達だからこそできる手段があります。まだ、汝さん組の皆さんにしか構想を話せていませんが···」
一拍ため、抱き締めた少女を吸う。
自然な所作で行われた、変態的な動作だった。
「黒服組のところでは、SFチックな世界で、ロボットなどが主体となった、近未来的な世界観のアトラクション。
汝さん組のところでは、荒廃した世界で、廃墟などを主体とした、荒廃的な世界観のアトラクション。
怪物組のところでは、傭兵が主体となった世界で、依頼などの義理人情を中心とする、裏社会的な世界観のアトラクション。
具体的にするには、より多くの意見が必要ですが、それぞれのテーマで商品を考えます。
これらに、モモフレンズという看板を絡めていきます」
「まさか···貴女のやろうとしていることは······」
「お察しの通りでしょう」
「モモフレンズのユートピアパークを復活させます」
やはり正気ではない。日頃のホストの業務による、ストレスが原因だろうか。
「モモフレンズの···ユートピアパークが······復活!」
しかし、約1名にはガッツリささっていた。元から正気ではないらしい。ねこ吸いされたことは、忘却してしまったようだ。
「これによって、テーマパーク付近の治安維持という名目ができ、来客者という同調圧力も使えます。つまり、自治区で騒ぎが起こるのは当たり前という環境を、テーマパークという場所に置き換え、多少は制限できます。ここはキヴォトスなので、どれくらい効果があるかは不明ですが···」
「話を遮って申し訳ありません。しかし、彼女達の願いである、弱者のための自治区という想いを度外視していませんか?それでは、自治区構想が抜けています。それだけは看過し難いのですが」
「そういうこった!」
話がぶっ飛んでしまったと感じたゴルコンダが、思わず話を止める。自治区開発の話をしていたはずなのに、いつの間にかテーマパークを開発しようとしている。余りにも情報が完結しなかった。
「ええ、ここで終わってしまえばその通りです。しかし、このメゼラという管理地域は、あくまでもMr達の所有地です。大規模な稼ぎ口がなければ、真に彼女達の土地といえる場所は創れないのですよ。
彼女達の理想を実現するには、彼女達の稼いだお金で、土地を手に入れる必要があります。
土地などの初期費用、維持費などを取り戻せたら、後はどのようにしても良いという、イカれた契約のおかげですね。彼女達自身が土地を買えれば、それ以降は彼女達が買った土地で、セーフティネットという側面を残した自治区を創れます」
ホストの少女は、名義という存在を重視していた。
長期的な目線で見た時、それぞれの管理地区が分断していては、今は良くても、対立すら起こってしまう可能性がある。
そうではなく、現在のメゼラは1つのテーマパークとしてしまい、弱者のための保護地区は新たに生み出そうというのだ。開発途上であれば、協力関係も破綻しずらいだろう。
しかし、自治区として固まってしまった今後の懸念を考え、連携を今のうちに強める必要があると考えたのだ。
トリニティを見てきたからこそ、無礼とならないように、言葉にこそしなかった配慮があった。
「そうでしたか。彼女達自身に許諾をとり、受け入れられてから進めるのなら、否はありません。ですが、そこまで上手くいくのでしょうか?確か、ユートピアパークは半年とたたずに、廃園したとのことでしたが」
ホストの少女の考えは全てよめずとも、配慮を感じ取ったゴルコンダ。構想の続きを促していく。
「ええ、その通りです。だからこそ、それぞれの世界観が重要になってきます。つまり、モモフレンズで勝負したユートピアパークではなく、世界観を重視した新ユートピアパークですね。
彼女達の実体験を基に、脚色をしていきます。万が一にも成功したら、他の自治区の文化が強いエリアを増やしていくこともでき、発展性も見込めます」
デカルコマニーは考え込んでいるのか、言葉少なになってしまった。
「新···ユートピアパーク···!なんて心踊る響き!」
反応が変わらず、ずっとトリップしている少女。先程までの雰囲気はどこにいったのであろうか。今はコアラになってしまった。
「様々な自治区にいた彼女達だからこそできる、 新たなテーマパークですか···モモグループの協力を得られるか不明ですが、構想は面白いですね」
「モモグループからは、既に協力の受諾を得ていますよ?」
「えっ?」
本日何度目であろうか。思わず思考が止まってしまう。
「モモグループを中心とした経営ではないことに、最初は難色を示されていました。1度は失敗もしていますしね。しかし、彼女達の境遇や理念を話した所、トップの方から是非にと」
なんと、既に許可の方まで取り付けていた。しかも、少女達を中心とした経営にも、理解を示されているようだ。フィリウス派のホストにまでなった政治力を、遺憾無く発揮していた。
誰がそこまでやれといったのであろうか。
「···」
思わず無言になってしまったゴルコンダ。収まったはずの胃痛が再びしてきた。今日は厄日であろうか。
「実際に、このメゼラで行う野外劇も、そのテーマパークの世界観を描写して、引き継がせることを視野にいれているそうです。劇で人が呼び込めるかで、テーマパーク実現への妥当性を判断する試金石とするそうです。
そのため、最寄り駅からここまでのチャーターバスを手配するなど、積極的な支援を行い、本気であることを示してくれました」
話が右から左に流れていくような気さえする。頭しかないのに、頭が理解を拒んでいる。野外劇までの移動手段まで、確立されてしまった。
「そして、上手くいけば、"劇の舞台を現実に"という広告を打ち出すようです。モモフレンズの野外劇の初動だけであれば、まだリスクヘッジは効きますからね」
「本当に、協力が得られると?そんな正気ではない提案が受け入れられたと?」
そして、開発計画を中断させるタイミングまで考えていた。
ゴルコンダはやっと話に追い付き、再度の確認を取ってしまう。この提案は、確実に目の前の少女が全て仕組んだのだと、妙な実感だけがある。
「曰く、『社会福祉に貢献するのは、企業の努めでもある。それにモモフレンズが関われるならば、成否に問わずやる意義があるだろう』とのことで。
資金の回収を気にしないスポンサーへの立候補までしてくださいました」
いつの間にか、狂気が拡散していた。
怪物が、不可能を実現段階にまで貶めてしまった。
「どうやら、正気ではない大人は、探せばいるようですよ?」
暴走した列車に、本気でレールを敷き始めた狂人どもがいる。
「いやはや、なかなか興味深い話が聞けましたね。デカルコマニー。モモフレンズという一部の熱狂的なファンを味方につけ、野外劇を開催。その劇自体が上手くいけば、テーマパーク化を行う。上手くいかなければ、モモグループ以外の劇団を呼び込み、ここでしか見れない劇という名目で人を集める」
「そういうこった!」
「上手くいく可能性の方が低そうな試みです。しかし、"あるいは"を感じさせてくれる提案でした。彼女達が受け入れないにせよ、発想の柔軟性にはつながるでしょう」
「そういうこった!!」
デカルコマニーからすれば、興味深いというか、理解を拒みたい話であった。
いや、大人が経営する自治区や学校というテクスチャが、このキヴォトスへどのように影響するのか判断つかない。
生徒の箱庭へどのように影響するのか判断つかないのだ。
そのため、大人名義で所有している、自治区経営よりはマシだろう。アリウス分校が例外なだけで、あれがいくつもあるなど考えたくはない。"先生"来訪までに、テクスチャに綻びが生じる可能性がある。
それに比べればマシだろう。
いや、本当にマシか?他の自治区の文化を取り込むって、大分怪しいことをしていないか?
原作だと、晄輪大祭などのイベントは、体育祭という側面を持った競争であり、自治区の文化を学ぶという側面は薄い。
ミレニアムEXPOなどの、他の学園を呼び込むイベントも存在するが、いつでも開催しているというわけではないし、学園行事という側面が強い。
であれば、他の自治区の文化を取り込み、気軽に立ち寄れない非日常の世界観を形成できれば、目を引くことはできるだろう。大人や生徒問わずにターゲット層にもでき、集客して多少の来客は見込めるかもしれない。
また、キヴォトス人であるが所以か、安全性に関する法律はガバガバで、非日常体験こそが求められる。テーマパークの開園経験のあるモモグループも手を貸してくれるのだ。
生徒主体の立案と行動力、大人視点の現実性が噛み合えば、上手くいくかもしれない。
しかし、従業員兼経営者になるであろう、彼女達の行動がよめない。先行きのない子達を保護できる場所を創るためなら、四半程度の割合なら、受け入れそうなのだ。
なにせ、万が一にも上手く行けば、セーフティーネットだけを考えた、保護区域すら創れるかもしれない。
夢と希望で、現実が霞む話だ。自分達の利益などを度外視して、突き進むかもしれない。
仮に始まってしまったら、どう繕ってもやりがい搾取ではないだろうか?
スタートアップ企業特有のブラックを感じてしまう。働いている者達は、目的などがあるため苦にしないが、端からみたら狂気にもみえるあの雰囲気だ。
結果だけ見れば、彼女達の願いを肥大化させた土地を用意し、過剰な構想を見せて現実味を失くしているだけでは?
最終的なゴール地点がずれていないけれど、合間合間に目標地点という巨大な壁を作って、ゴールを先延ばしにしているだけでは?
明らかに経営陣は、碌な人物に思われないだろう。間違ってはいないが、受け入れたくない。
しかし、彼女にはユートピアパークを復活させる気などないようにも思える。それが、彼女の計画自体のリスクヘッジから、多少は伺えるのだ。新ユートピアパーク計画など、荒唐無稽であるのだと、自覚をしているように思える。
何より、元々いた少女達の反発を、彼女が想定できないはずがない。部外者が横槍を入れるとどうなるか、ホストにまで至った彼女が想定できないはずないのだ。
どちらかといえば、モモフレンズの劇団を招き、野外劇を開催できる環境という実績作りが本命だろう。つまり、新ユートピアパーク計画というでかい提案を出し、本命であるモモフレンズの野外劇を通すつもりだろう。スタートアップとして、私達の管理地区には話を通して、成功したら他の管理地区でも開催する。彼女の話を聞く限りだと、ここまでなら実現できるかも、と思えてしまう。
ある程度の提案の通し方も、お手のものということだろうか。
特に、騙す気配がなく、計画の理念自体は寄り添っている。今後のアドバイザーという立ち位置すら、見据えているのかもしれない。
いずれにせよ、フィリウス派ホストの狂気が凄まじい。いろいろな言葉で惑わしてはいるが、あれは幼馴染みに尽くしているだけだろう。幼馴染みが同じ境遇の者達を大事にしているから、尊重をしているだけだ。
明らかに、モモフレンズ好きの彼女の為に、あの手この手を使っているようにしか見えない。偏執的なまでの感情で、彼女の為に様々なものを捧げようとしている。
いや、ちょっと待て。彼女の雰囲気で見落としていたが、そもそもこんな構想、いつから考えてついていたんだ?明らかにモモグループとの連携までが早すぎる。
あの少女が退学していなかったら、サプライズする予定だったとかないよな?いや、それにしては出てきていた案は、廃自治区なら使えるという部分も垣間見えた。
···彼女のホントはどこからどこまでだ。本気でユートピアパークを復活させようとでもいうのか?
···まぁいい。原作のモモフレンズの認知度から考えるに、テーマパーク化など気にしなくてもいいだろう。廃自治区を扱うというのはいい着眼点かもしれないが、出演に目新しい物は···物は······
黒服やマエストロ、余計なことしないよな?
いや、大丈夫だ。彼らは技術に誇りは持っている······既に一部には露呈しているのに?
神秘を用いた特殊演出や、敵役となる怪物······実験という名目の、言い訳を始めないよな?
···存在しないはずの頭から、頭痛がしてきた。多分、求められると、あいつらならやる。私達の管理地区の者が、支援要請をしないことを祈ろう。
「どういうこった??」
「どうしたのですか?デカルコマニー?」
「こういうこった」
「ふむ···やはり、意思疎通ができないのは不便ですね」
筆談などできないでしょうか?
···何か消された。そんな違和感を感じてしまうゴルコンダ。
しかし、しばらくすると気にしなくなってしまった。
思案に浮かぶようになってしまったか。まだ塗りつぶせるが、"先生"来訪まで持つだろうか…