憑依者しかいないゲマトリアがキヴォトスの破滅を回避しようとする話   作:シャンタン

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-編集・追記-
羽沼マコトを浪人設定としています。感想にて指摘くださりありがとうございます。


マエストロって何で頭が二つあるんだろうね。人は真実と噓を話すっていうメタファーとかないかな。

赤黒い装飾の校舎、鋭い意匠の尖塔、悪魔を思わせる紋章。一見すると重厚で威圧的な建築だが、その周囲では生徒たちが好き放題に暴れ回っている。

 

遠くで爆発音が響く。グラウンドでは銃撃訓練が始まり、別の場所では誰かが勝手に作った屋台が並び、煙と匂いが漂っている。

 

「やはり、この自治区は修羅と呼ぶにふさわしいな」

 

校則は存在する。しかしそれが守られるかどうかは、完全に別の問題だ。

 

「キキキッ。なぁに、それがこの自治区の良さだろう?自由と混沌を愛し、明日より今日を全力で生きている…これこそがゲヘナだ」

 

彼女は前屈みに椅子へ腰掛け、手を組んでいた。ニヤリとした口元からは、常に何かを企んでいる人間のような雰囲気があった。

 

「はぁ、ものは言い様だな。子供にもある程度の責任はあるというのが持論なのだがな…

 まぁいい、外部の批判ほど醜いものはない。学生だからこそ赦されることが多々ある。有意義に時間を使いたまえ」

 

「大人とは縛られるものが多くて大変だなぁ?マエストロ。どうだ?このマコト様につく気はないか?今ならば勝ち馬にのれる。多少の煩わしさは解消してやるぞ?」

 

羽沼マコト。原作にて様々な策謀を用いては、サボり魔の部下に指摘され、なぜトップにいるのか分からないと考察がされている生徒である。原作にて18歳であり、留年説が囁かれてた。そんな羽沼マコトは、この世界線にて高校浪人をしている。敗因はゲヘナにも願書の提出が必要であった事だろう。

しかし、その風格は只者ではない。地につくほどの長い銀髪、鋭い目つきで、見た目は悪のカリスマ的な風格を備えている。

パッケージ詐欺かな?

 

 

「断る。見ていられずこの地へ手を貸したが、あれは一度限りだ。過干渉は主義に反する。なに、入学して早々、ゲヘナの一部を纏めてみせたのだ。私の力など不要だろう」

 

「キキキッ。言動が合っていないなぁ?その2つの頭は飾りではないらしい。貴様の二面性を良く表しているぞ」

 

「…」

 

「私が入学する前から関わっていたではないか?あの烏合の衆を集めていたのは貴様だ。私はそこに方向性を持たせたに過ぎん。

 ゲヘナは立ち上がるタイミングを探していた。それをただ誘導しただけ。これのどこに誇れることがある?」

 

沈黙が、部屋の空気を重く押し潰していた。

 

マエストロが身じろぎするたびに、木の擦れ音だけがかすかに聞こえる。張り詰めた糸のような緊張が、今にも音を立てて切れそうだった。

 

不意に、扉がわずかに軋んだ。マエストロの視線がそこへ向く。

 

「お待たせ。来るのが遅かったかしら?」

 

静かな威圧感をまとった少女だった。背丈は決して高くない。むしろ、どこか小柄で華奢にさえ見える。しかし、彼女の周囲には、言葉にし難い重圧が満ちていた。

空崎ヒナ。原作にて、風紀委員会の委員長を務めており、ゲヘナの問題児達の鎮圧とマコトからの無茶ぶりで、ゲヘナシロモップになっている生徒である。

現在は情報部にて務めており、その戦闘力から将来を期待されている。

 

 

「いや、時間には些か余裕がある。仔細ない」

 

「キキッ、このマコト様を待たせている時点で十分に問題だ。さっさと座れ、空崎ヒナ」

 

時間には間に合っている。しかし、相手のことが気に入らないようだ。一方的に敵視している。

 

「はぁ、相変わらずね。それで、何の理由があって集めたの?」

 

「キキキッ。簡単なことだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"雷帝"が失踪した」

 

 

"雷帝"。原作にて、『鉄拳政治を用いてゲヘナ学園を治めた暴君であり、天才策略家であり、発明家であると同時に政治家だった』と称され、原作開始の2年前、キヴォトスを混乱に陥れた人物である。

原作開始時には、"雷帝"の作成途中の発明品が、"雷帝の遺産"として残っており、その遺産を巡って争いが起きるほどであった。

 

「我々のクーデターの後に行方が分からなくなったらしい」

 

原作では、マコトから『あっさりと内部崩壊した』と伝えら()()()()

そう、このマエストロ、マコトに『過干渉は主義に反する』と言ったくせに、ガッツリ干渉している。おかげで原作開始2年前のキヴォトスに混乱は来なかったが、危険人物の行方が分からなくなってしまった。下手したら七囚人の脱獄よりマズイかもしれない。

 

「何か情報がないか、わざわざ聞きに出向いたのだ」

 

なぜ、こんなことをしてしまったのか。理由は実に簡単だ。過干渉をしないという主義の許容範囲を超えただけである。

 

マエストロは芸術家だ。作品に信念を込め、誇りを抱き、粗雑に扱われることを嫌う。しかし、"雷帝"の政治を見続けてしまった。

 

砕けた瓦礫と焦げた地面の上に、黒い制服の少女達。弱者は強者に搾取され、強者は暴君に搾取される。

修羅ではなく地獄でしかない、そんなゲヘナを見てしまったのだ。マエストロの価値観にとって醜悪な地獄絵図だった。信念が悲鳴をあげていた。

 

 

「随分耳が早いのね。私でさえ、さっき聞いたばかりなのに」

 

「キキキッ。マコト様の情報網が優秀なだけだ」

 

 

そんなゲヘナに耐え切れず、手助けした生徒達と共にクーデターを企てた。

最初は無謀にも言葉で訴えていたが、聞き入れられる訳がない。生き残れていることが不思議である。

クーデター準備の終盤には、最高戦力として廃遊園地からシロ·クロが出せないか、いろいろ試していた時期もある。もちろん無理だった。

廃遊園地の歓喜の残滓に、恐怖(テラー)で形作られたシロ·クロは、余程のことがない限り廃遊園地から出られない。

 

最終的には群衆扇動のための羽沼マコトと、最大戦力の空崎ヒナを加えて、何とか責任と功績を押し付けたのである。

悪魔(生徒)怪物(作品)の行進を見た、数少ない大人たちは怪物の行進(モンスターパレード)と恐れたという。

 

「少しでも情報が欲しい、ゲヘナをこれ以上荒らされては堪らない」

 

「そうね、私の方でも探ってみるわ」

 

原作にて、ヒナを一方的に敵視していたマコトは、そんなくだらないことをしている余裕がない。つまり、本日の羽沼マコトはシリアスモードである。

 

 

 

 

「水を差すようで悪いが、"雷帝"から接触を受けている。そして、貴殿らへの言伝てを頼まれた」

 

羽沼マコトの雰囲気が変わる。その瞳は鋭く、計算高い。まるでその裏にある意図を探っているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「首を洗って待っていろ…とのことだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何ィ!?」

 

 

シリアスモード終了のお知らせである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マエストロを含めた話し合いが終わった後、空崎ヒナはその場にとどまっていた。

 

「それで、何で私は呼ばれたのかしら?マコト」

 

「キキキッ。"雷帝"の情報共有はしたろうに。他に理由がいるか?」

 

そう、一見すると"雷帝"の情報収集のための会話である。

 

クーデターの算段を着け、実行は怪物と生徒に丸投げしたマエストロ。

"雷帝"に心折られた生徒を、その弁舌ひとつで動かして見せた羽沼マコト。

その圧倒的な力をもって、"雷帝"の戦力の約3割を壊滅させた空崎ヒナ。

 

クーデターの主犯格にふさわしい3人であった。

 

 

「えぇ、必要よ。それだけならマエストロだけで良いもの。私が呼ばれた理由は説明されていない」

 

「空崎ヒナ…お前はマエストロの目的は何だと思う?」

 

質問を無視して、静かにヒナへと問いかけるマコト。

 

「何って…本人が言ってたじゃない。雷帝の政治が見ていられなかったって」

 

「お前はそれでも本当に情報部か?あいつは芸術家だ。信念や主義を、命より価値があると思っている破綻者だ。仮にあの言葉が本当であった場合、奴自身の信念を曲げてまで見逃せないものがあった場合だけだろう」

 

マエストロ本人は芸術家を自称する。外部からはなぜ動くか分からない怪物を創る芸術家。

 

「…穴だらけの推測ね。でも、目的はあるでしょうね。でなければ、私を戦力として声をかけた理由の見当がつかないわ」

 

「キキキッ。貴様は入学時には十分に目立っていたぞ?雷帝の部下を入学して、一週間後には伸していたことはあまりにも有名だぞ?」

 

ヒナが驚愕して、頬を赤くする。推測は外れていた。割と暴の力を隠せていると思っていただけに、指摘に恥ずかしがっているようだ。圧倒的な暴を見て、頭を焼かれたハミ出し属がいるというのに…

 

「知らぬは本人ばかりだな。まあいい。私が疑問に思っている点は2つだ」

 

珍しく、マコトのシリアスモードが継続している。明日は多分雨が降る。

 

「1つ目は、廃園となっている遊園地へ、異常な回数赴いているという点だ。そして、時期を同じくして人がいないはずの遊園地で、マスコット人形が動き出したという噂が出始めていた」

 

「それはただの噂だったじゃない」

 

「あぁ、ただの噂だ。怪物の行進(モンスターパレード)以降に見られなくなったからな」

 

ただ、この時期のマエストロは廃遊園地の活動が主だっただけである。本人は見られていると思っていない。

 

「…」

 

「2つ目。どうやら、マエストロは雷帝と密会したことが何回かある」

 

「それは本当?!」

 

ただ、ゲヘナへの統治が見ていられず、苦言を呈しに行っていただけである。本人は成果を上げられず、意気消沈していた。

 

「さて、落第情報部の空崎ヒナ。改めて問おう。お前はマエストロの目的は何だと思う?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"雷帝"の発明品…?」

 

「もしくは、雷帝本人かもな」

 

語りが騙りとなって伝わり。

 

「空崎ヒナ。私はお前が嫌いだ」

 

「…?」

 

騙りは真実を覆い隠し。

 

「誰よりもゲヘナの素質がありながら、不自由で秩序だった貴様が嫌いだ」

 

「急に何を…」

 

「しかし、だがしかしだ。それでは怪物(マエストロ)に勝てる気がしない。このマコト様がだ」

 

マコトはマエストロを二面性のある男だと称した。建前を巧みに扱う男だと。

 

「だから、空崎ヒナ。お前のことをマコト様が利用してやる。そしてお前はこのマコト様を利用しろ」

 

故に、疑念が怪物を創り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はゲヘナを統治する」

 

 

その言葉に初めて、空崎ヒナは羽沼マコトに後退った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悲報。マエストロ、怪物(疑念)しか創れない。

怪異ではないだけマシかもしれない。

 




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