万年最下位ヘボ重音フランスパンズ   作:カイルデービッド

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ミリオン達成おめでとうございます

(本編動画に忠実な準拠はしてないです)


vs2位デニシーズ

 春の夜、桜の香りと満月の光に狂う球場は今、その長閑な陽気を暑苦しいまでに過熱させていた。大音圧と、フィールドの端まで余す部分無く照らすLEDの光は、まるでこの場のみを夜から切り取ったよう。

 

 その光景を、フランスパンズの5番重音はネクストバッターズサークルから、只中に居ながら他人事らしく眺めていた。

 

 

 

(よくもまあ、圧倒的最下位球団のたかが一試合にそんな熱くなれるもんだな)

 

 今季のフランスパンズはシーズン前の有識者予想も満場一致の最下位、同じくドベだった昨季から全くの上がり目無しと見込まれる中で遂に迎えた開幕三連戦は、貫禄の3連敗。そして帰ってきたホーム初カードでも連敗発進をかまし、六戦目にしてチームには既に暗雲が立ち込めていた。

 

 対戦チームであるデニシーズは、そんなフランスパンズと対照的に近年では上位入りを安定させている強豪。原動力は何と言っても野手で、特に中軸の3番岩智、4番ホーマー、5番堂上の“100打点トリオ”はその筆頭である。主砲の名前がホーマーて、これもう尋マンガだろ。

 当然そんな重量打線に我らがフランスパンズの丸焦げ投手陣で耐え切れるはずも無く、エラーも絡み大量7失点。打線も沈黙したまま0-7の大差で試合は終盤、裏の攻撃へと差し掛かっていた。

 

 それでも、だが。見てみたまえ。

 ライトスタンドを埋め尽くす、一面の赤を。鳴り物を轟かせ声を張り上げる人々の姿を。

 

 液晶越しから手前勝手に文句を垂れるばかりの人間からは「お前らみたいなのが球団に胡座掻かせてんだよ」などという言葉があっても、この絶望的なチームを、この絶望的な展開で、それでも諦めず応援し続けてくれるファンを、どうして無下に出来ようか。

 

 そう。

 僕達には、諦めない理由があるんだ。

 

 熱狂の渦中の打席に在る、逞しく雄大な背中。

 

 ドミニカの大砲、デロスサントス。

 

 七回裏ランナー満塁、絶好機での千両役者の登場に、本拠地の盛り上がりは極限に達していた。

 

 マウンド上の投手は自ら招いたピンチの中、立ちはだかる最大の壁を前に憔悴し切っているのが遠目からも窺える。だが2アウトまでは来て点差もある、二カード目から無闇に投手も消費したくないのだろう。敵軍ベンチはこの場面でも続投を選択していた。

 舐められたものだな。

 

 やはりボールを先行させた相手ピッチャー。それでも何とかファール2つでストライクを稼ぎ、フルカウント。

 

 デロスサントスが構えに入る。

 

 投手の足が上がる。

 バットが鎌首を擡げる。

 

 サングラスの底の眼が、光った。

 

 インロー。

 僅かに甘く入ったムービングボールを、振り抜く。

 

 快音。歓声、そして悲鳴。

 

 大きく描かれた放物線は___バックスクリーンへと、消えた。

 

 満塁ホームラン。

 

「デローーース!」

 

 悠然とダイヤモンドを巡ってきたデロスサントスを出迎える。

 

「えいっ」

 

 上から。

 

「エイッ」

 

 下から。

 

『おぉーい!!』

 

 正面から、ハイタッチ。

 

「最ッ高、お前マジ最高!」

 

「続ク、頼ムマース!」

 

「任しとけえー!」

 

 軽快にベンチへ戻るデロスサントス、それに手を振り返す。

 

 4-7。

 まだ差はあるが、流れは完全に変わった。

 興奮冷めやらぬ舞台へ意気揚々と向かう矢先に、ふと、動きが見える。

 

 敵監督がベンチから飛び出し、主審とやり取りしている。

 その内実は程無く、場内アナウンスという形で明らかになる。

 

《デニシーズ、選手の交代をお知らせ致します__ピッチャー、沖田に代わりまして、瀬野口。ピッチャーは、瀬野口。背番号、13___》

 

 報せに合わせ切り替わる電光掲示板の表示に、驚愕と感嘆、微かな怒号が反応に入り交じる。

 

 瀬野口明。三年連続最優秀救援投手賞受賞選手。

 “八回の男”である彼を、ここで投入してくるか___!

 

 堂々とマウンドへ歩く彼の姿を、コーチとの確認の為下がったベンチ際から見た。

 

 全く、上等だ。

 同じように闊歩し、バッターボックスの傍へ。

 

 深く抉り込まれた土を均す。この足跡が、球場の熱意が、僕に力を与えてくれる。

 

 打席に入り、バットの先を一度、投手に向け__構える。

 

 ワインドアップからの、1球目。

 

 高めストレート、見逃してボール。

 

 2球目も同じコース、ボール。今日は球が高い、準備が間に合っていないのだろう。あらゆる風向きが、背を押している。

 

 3球目。

 鞭の如く撓る右腕から放たれた球は__僕の胴体へ。

 

「うっっへ」

 

 仰け反りかけて、止まった。

 ストライクコールが遅れて耳を突ん裂く。

 

 マジかよおい、あそこからゾーンいっぱいに入んの?

 

 落ち着け。

 決め球のはずの横変化をファーストストライクに使ったのは、やはり直球の制球が心許無いのだ。

 ならば次も、変化球。

 

「うえ゛っ」

 

 直球だった。反射的にバットは出たものの、打球はバックネットへ。ファール。

 

 重い感触が未だ手に残る。

 追い込まれた。

 

 一度打席から離れ、対する相手の出で立ちを改める。

 

 完全アウェーの雰囲気の真ん中で、憎らしい程平然と振る舞っている。経てきた場数と自力への信頼がそうさせるのだろう。

 

 炎が燃える。

 血が沸き立つ。

 

(本当に、舐めやがって)

 

 決意新たに戦場へ還る。

 遊び球も許さん。次の一球で、仕留める。

 

 焦らすように敵が大きく振り被り、後方へ身体が捻れる。

 

 腕を引き絞り、此方に踏み込んで___発射。

 

(__馬鹿め!!)

 

 横回転だ。心内で勝ち鬨が漏れる。

 

 ファーストストライクと同じ回転、そして軌道。

 僕じゃなくても見切ったさ、外角ギリギリのスライダー!

 

 確信と共に、バットは振るわれて。

 

 

 ぐにゃり、と。

 

 

(アレ?)

 

 そんな擬音を幻聴。

 脳裏に描いた球筋より、更に一段深く、逃げる。

 

 ストライク。バッター、アウト。

 

 ガッツポーズする捕手。一度グラブを叩いて去る投手。がっくり項垂れるチームメイト。えも言われぬ表情のデロスサントス。

 

 それから、球場を満たす溜め息が肩にのし掛かった。

 

 

 嗚呼。ドミニカの大砲デロスサントスが、起死回生の満塁弾を放ったというのに。

 僕は追い込まれ、外スラを空振る。

 

 

 

 その日重音フランスパンズは、怒濤の開幕6連敗を喫した。




デロスサントス
:4番バッター。グラスラを打つ

重音
:5番バッター。外スラを空振る

岩智晃広
:大卒ドラ1。燻ってたがアベレージフォルムに転身

ウィンストン=ホーマー
:最強打者。デロス共々他ファンに海外行きを祈られる

堂上=ジャンボ・直裕
:プリンスオブデニッシュ

沖田宗哉
:先発。六回が鬼門。凌いだのにベンチが欲掻いた

瀬野口明
:Death-thirteen。右だけど。スライダーは別称デーモンの斧
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